多汗症とは
汗をかくこと自体は、体温を調節するために不可欠な、ごく自然な体の働きです。しかし、その汗が体温調節に必要な量をはるかに超えて、日常生活に支障をきたすほど多く出てしまう状態があります。これが「多汗症」と呼ばれる医学的な病気です 。
「汗っかき」とは違う、医学的な病気です
多汗症は、単に「汗っかきな体質」という言葉で片付けられるものではありません。医学的には「病的な発汗」と位置づけられ、体の機能が正常に働いていない状態を指します 。一部の専門家は、これを「汗の失禁」と表現することもあります。これは、自分の意思とは関係なく汗が過剰に出てしまう状態が、他の体の機能不全と同じように、治療の対象となるべき医学的な問題であることを明確に示しています 。
多汗症の根本的な問題は、汗を出す「汗腺」そのものではなく、汗腺に「汗を出せ」という指令を送る交感神経の働きにあります。何らかの理由でこの神経信号が過剰になり、汗腺が過剰に反応してしまうことで、暑くもないのに、あるいはリラックスしているはずの状況でも、大量の汗をかいてしまうのです 。
この状態を「体質だから仕方ない」「緊張しやすい性格のせいだ」と個人の問題として捉え、長年一人で悩み続けている方が少なくありません。しかし、多汗症は精神的な問題ではなく、身体的な機能異常による「病気」であり、適切な診断と治療によって症状を改善できる可能性があることを知ることが、悩みを解決するための第一歩となります 。
多汗症の種類:あなたの汗はどのタイプ?
多汗症は、その原因と汗をかく場所によって、いくつかの種類に分類されます。ご自身の症状がどれに当てはまるかを知ることは、適切な治療法を見つける上で非常に重要です。
原因による分類
原発性多汗症 | 特に原因となる病気や服用している薬がないにもかかわらず、過剰な発汗が起こるタイプです。これが多汗症の中で最も一般的なもので、多くの場合、交感神経系の機能異常が原因と考えられています 。幼少期や思春期に発症することが多く、特定の部位にのみ症状が現れる「局所性」であることがほとんどです 。 |
---|---|
続発性多汗症 | 他の病気(例えば、甲状腺機能亢進症や糖尿病など)や、服用している薬の副作用が原因で発汗が過剰になるタイプです 。この場合、汗は体の一部だけでなく、全身にかくことが多いのが特徴です。続発性多汗症では、原因となっている病気の治療が最優先されます。そのため、多汗症を疑った際には、まず医療機関を受診し、背景に他の病気が隠れていないかを確認することが極めて重要です 。 |
汗をかく場所による分類
局所的多汗症 | 手のひら、足の裏、ワキ、顔・頭部など、体の特定の部分にだけ多量の汗をかくタイプです 。原発性多汗症のほとんどがこの局所性にあたります。 |
---|---|
全身性多汗症 | その名の通り、全身から多量の汗をかくタイプです 。こちらは続発性多汗症であることが多いとされています 。 |
もしかして多汗症?セルフチェック
ご自身の症状が原発性局所多汗症にあたるかどうか、以下の国際的な診断基準を使ってセルフチェックしてみましょう。これは、医師が診断する際にも用いられるものです。
「特に原因がないのに6ヶ月以上、過剰な汗に悩んでいる」という状態に加えて、以下の6つの項目のうち2つ以上当てはまる場合、原発性局所多汗症の可能性が高いと考えられます。
医療機関を受診する際の目安にしてください 。
両側性かつ左右対称性に多汗がみられる
多汗によって日常生活に支障が生じている
週1回以上の頻度で多汗エピソードがみられる
25歳未満で発症した
家族歴がある
睡眠時は局所性の発汗がみられない
この中でも特に「睡眠中は発汗が止まっている」という項目は重要です。原発性多汗症は、脳が活動している日中に交感神経が興奮することで起こるため、脳の活動が低下する睡眠中には汗が止まるのが特徴です 。もし夜間、寝ている間にも汗をかく(盗汗)場合は、感染症や内分泌系の病気など、続発性多汗症の可能性も考えられるため、必ず医師に相談してください 。
Hyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS)による重症度判定
3点および4点が、重症多汗症と判定されます。
発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
多汗症の症状
多汗症がもたらす影響は、単に「汗が多い」という身体的な現象にとどまりません。その症状は日常生活のあらゆる側面に深く浸透し、学業や仕事、対人関係、そして心の健康にまで深刻な影響を及ぼすことがあります。
日常生活にあふれる、汗による困りごと
多汗症を抱える人々が日々直面する困難は、非常に具体的で切実です。
学業・仕事への影響 | 学生であれば、テスト用紙やノートが手汗で濡れてしまい、破れたり文字がにじんだりすることがあります 。社会人であれば、パソコンのキーボードやマウス、スマートフォンが汗でべたつき、故障の原因になることもあります 。重要な書類を扱う際に、汗で汚してしまわないかと常に気を張っていなければなりません。 |
---|---|
対人関係への影響 | 初対面の人との握手をためらったり、恋人と手をつなぐことに抵抗を感じたりすることは、多汗症の方にとって共通の悩みです 。これにより、人との接触を避けるようになり、社交的な場が苦痛になるなど、対人関係に消極的になってしまうことがあります 。 |
衣服や持ち物への影響 | ワキの多汗症では、衣服にできる大きな汗ジミが気になり、着られる服の色や素材が限られてしまいます 。一日に何度も着替えが必要になることも珍しくありません 。また、常にハンカチやタオルが手放せず、持ち物が増えてしまうという不便さもあります 。 |
症状があらわれる部位と、それぞれの特徴
汗をかく部位によって、悩みの質は大きく異なります。
手のひら・足の裏(掌蹠多汗症) | 症状が特に生活に与える影響が大きい部位です。重症の場合、手のひらから汗が滴り落ちることもあります 。汗による気化熱と、交感神経の過緊張による血管収縮が相まって、手足が常に冷たく、紫色を帯びて見えることもあります 。また、皮膚が常に湿っているため、あせもや湿疹、皮むけが起こりやすくなります。さらに、皮膚のバリア機能が低下し、水虫(足白癬)などの真菌感染症や、いぼ(尋常性疣贅)などのウイルス感染症にかかりやすくなるという二次的な問題も生じます 。 |
---|---|
ワキ(腋窩多汗症) | 衣服にできる汗ジミが最も大きな悩みとなります 。特に色の濃い服やグレーのシャツなどは汗が目立ちやすく、腕を上げる動作をためらう原因になります 。ワキの汗自体は無臭ですが、過剰な湿気によって皮膚の常在菌が繁殖しやすくなり、それがワキガ(腋臭症)と呼ばれる特有のにおいの原因となることもあります 。このタイプの多汗症は、第二次性徴を迎える思春期に自覚することが多いとされています 。 |
顔・頭部(頭部・顔面多汗症) | 顔や髪から汗が流れ落ちるため、他人の目に最も触れやすい部位です。そのため、周囲の人から「体調が悪いのではないか」「ひどく緊張しているのではないか」などと誤解されやすく、大きな精神的苦痛を伴います 。女性の場合はメイクが崩れ、男女問わず髪型を維持することが困難になるなど、身だしなみに関する悩みも深刻です 。 |
見過ごせない心への影響
多汗症の最も重い負担は、身体的な不快感よりもむしろ精神的な側面にあると言えます。汗をかくことへの不安や恐怖が常に付きまとい、「また汗をかいたらどうしよう」と考えること自体が新たなストレスとなって、さらに発汗を促すという悪循環に陥りがちです 。
このような状態が続くと、生活の質(QOL: Quality of Life)が著しく低下します 。人前に出ることを避け、社会的に孤立してしまったり、中には不安障害やうつ病といった精神的な疾患を併発してしまったりするケースも少なくありません 。特に、症状が幼少期から始まる場合、人格形成にも影響を与え、自己肯定感の低い、内向的な性格になってしまうことも指摘されています 。
多汗症の治療は、単に汗を止めるだけでなく、こうした二次的、三次的に広がる心の問題を解放し、その人らしい生活を取り戻すためにも非常に重要な意味を持つのです。
多汗症の原因
なぜ、必要以上に汗をかいてしまうのでしょうか。多汗症の原因を理解するためには、まず汗が出る基本的な仕組みを知ることが役立ちます。
汗はどうして出るの?基本的な仕組み
私たちの体には、体温を一定に保つための優れた冷却システムが備わっています。その主役が、皮膚の表面近くに全身に分布する「エクリン汗腺」という小さな器官です 。
汗を出す指令は、私たちの意思とは関係なく体の機能を調整している「自律神経」の一部である「交感神経」から送られます。交感神経の末端から「アセチルコリン」という神経伝達物質が放出されると、それがエクリン汗腺を刺激し、汗が分泌されるのです 。
汗が出るきっかけは、主に3つのタイプに分けられます 。
温熱性発汗 | 暑い時や運動した時に体温を下げるための汗。主に全身から出ます。 |
---|---|
精神性発汗 | 「手に汗握る」「冷や汗をかく」といった言葉の通り、緊張や不安、驚きなどの精神的なストレスによってかく汗。手のひら、足の裏、ワキなど局所的に出ます。 |
味覚性発汗 | 辛いものや酸っぱいものを食べた時に、顔や頭にかく汗。 |
多汗症、特に原発性局所多汗症では、この「精神性発汗」に関わる神経回路が過敏になっている状態と考えられています 。
原因がはっきりしない「原発性多汗症」
原発性多汗症は、汗をかくこと自体が問題となる病気です。その直接的な原因は、交感神経から送られる指令が誤って、あるいは過剰になっていることにあります。つまり、体温を下げる必要がない状況でも、神経が「汗を出せ」という過剰な信号を送り続けてしまうのです 。
なぜこのような神経の機能異常が起こるのか、その根本的なメカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、診断基準の一つに「家族歴」が含まれていることからもわかるように、遺伝的な要因が強く関与していると考えられています 。実際に、多汗症患者の家族にも同じ症状が見られるケースは非常に多く報告されており、特定の遺伝子が関係している可能性について研究が進められています 。
他の病気が隠れている「続発性多汗症」
一方、続発性多汗症は、体のどこかに潜む別の問題が「過剰な汗」というサインを発している状態です。この場合、汗はあくまで症状の一つに過ぎません。そのため、医療機関で原因を特定し、その根本的な治療を行うことが不可欠です。
続発性多汗症の原因として考えられる主な病気や状態には、以下のようなものがあります。
内分泌・代謝系の病気 | 甲状腺の働きが活発になりすぎる甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、血糖値が異常に下がる低血糖、更年期障害によるホットフラッシュなどが代表的です 。 |
---|---|
神経系の病気 | 脳梗塞やパーキンソン病、あるいは脊髄の損傷などによって、自律神経のコントロールが乱れることがあります 。 |
感染症 | 結核などの慢性的な感染症では、特に夜間の寝汗(盗汗)が特徴的な症状として現れることがあります 。 |
悪性腫瘍(がん) | 悪性リンパ腫や白血病といった血液のがんでも、原因不明の発熱や寝汗が見られることがあります 。 |
薬の副作用 | 服用している薬が原因であることも少なくありません。一部の抗うつ薬や痛み止め、ホルモン剤など、多汗を副作用として持つ薬は数多く存在します 。 |
このように、多汗症の背景には様々な可能性が考えられます。だからこそ、自己判断で「ただの汗っかき」と決めつけず、専門医による正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩となるのです。医師は問診や診察、必要に応じて血液検査などを行い、原発性なのか続発性なのかを慎重に見極め、一人ひとりに合った治療方針を立てていきます。
多汗症の治療方法
多汗症は、適切な治療によって症状を大幅に改善させることが可能な病気です。治療法には、塗り薬から手術まで様々な選択肢があり、症状の部位、重症度、そして患者さん自身のライフスタイルに合わせて、最適な方法を医師と相談しながら決めていくことになります。
治療の全体像:あなたに合った方法を見つけるために
多汗症の治療は、一般的に「治療の階層」という考え方に基づき、体への負担が少なく、リスクの低い方法から段階的に試していくのが基本です 。
まず、日常生活への支障の度合いを評価する「HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)」という指標がよく用いられます。これは、患者さん自身の感覚で4段階に分類するもので、スコア3(ほとんど我慢できず、頻繁に支障がある)やスコア4(我慢できず、常に支障がある)が重症と判断され、より積極的な治療が検討されます 。
治療の第一歩は、多くの場合、塗り薬(外用薬)から始まります。それで効果が不十分な場合に、注射やイオントフォレーシスといった処置、飲み薬(内服薬)が検討されます。そして、これらの治療法を試してもなお、生活に深刻な支障が残る最重症のケースにおいて、最終的な選択肢として手術が考慮されます。
このアプローチは、治療効果と副作用のリスクのバランスを慎重に考慮したものであり、患者さんが安心して治療を進めていくための重要な指針となります。
多汗症の主な治療法比較表
以下に、代表的な治療法の特徴を一覧にまとめました。ご自身の状況と照らし合わせ、医師と相談する際の参考にしてください。
治療法 | 主な対象部位 | 作用の仕組み | 保険適用 | 主な特徴と注意点 | |
塗り薬(抗コリン薬) | ワキ、手のひら | 汗を出す神経伝達物質(アセチルコリン)の働きをブロックする 。 | あり | 近年登場した新しい第一選択薬。副作用が少なく使いやすい。エクロックゲル®(ワキ)、ラピフォート®ワイプ(ワキ)、アポハイド®ローション(手のひら)などがある 。 | |
塗り薬(塩化アルミニウム) | ワキ、手、足、顔 | 汗の出口(汗管)にフタをして物理的に汗を塞ぐ 。 | なし(自費診療) | 古くからある効果的な治療法。皮膚への刺激(かぶれ、かゆみ)が出やすいことが欠点 。 | |
飲み薬(抗コリン薬) | 全身 | 塗り薬と同様、アセチルコリンの働きを全身でブロックする 。 | あり | 全身の汗に効果が期待できるが、口の渇き、便秘、目のかすみなどの全身性の副作用が出やすい 。 | |
イオントフォレーシス | 手のひら、足の裏 | 水道水に浸した手足に微弱な電流を流し、イオンの力で汗の出口を塞ぐ 。 | あり | 安全性が高く効果も期待できるが、効果維持のために定期的な通院(週に数回から開始)が必要 。 | |
ボツリヌス毒素注射 | ワキ、手、足、顔 | 汗を出す神経からの指令伝達を注射で一時的にブロックする 。 | ワキのみあり(重症の場合) | 効果は高いが、持続期間は4~9ヶ月程度。ワキ以外は自費診療で高額。注射時の痛みを伴う 。 | |
マイクロ波治療(ミラドライ) | ワキ | マイクロ波で汗腺を熱破壊し、機能を失わせる 。 | なし(自費診療) | 半永久的な効果が期待できる。皮膚を切らないが、治療後の腫れや痛みが数週間続くことがある 。 | |
交感神経遮断術(ETS) | 手のひら | 胸腔鏡を使い、原因となる交感神経を物理的に切断する 。 | あり | 最も確実な効果があるが、他の部位の汗が激増する「代償性発汗」という重い副作用のリスクが非常に高い。最終手段 。 |
脇の多汗症・ワキ汗の治療

塩化アルミニウム外用
第1選択治療の一つです。当院で可能です
エクロックゲル
第1選択治療の一つです。当院で可能です(保険診療)
ボツリヌス・トキシン注射
第1選択治療が無効なときに用います。当院で可能です
手術
重症例実施されていましたが、最近はマイクロ波を用いた治療も広まっています。基幹病院へ紹介します。
ミラドライ
厚生労働省に唯一承認されているきらない根治治療です。
安心で効果が高い治療です。当院で可能です。
手の多汗症・手汗の治療

塩化アルミニウム外用
第1選択治療であり、イオントフォレーシス治療と交互に繰り返すことも有効です。当院で可能です
イオントフォレーシス
第1選択治療であり、塩化アルミニウム外用と交互に繰り返すことも有効です。当院で可能です(保険診療)
ボツリヌス・トキシン注射
4-9カ月程度効果が持続するので、春にする方が増えます。当院で可能です
手術
他の治療抵抗性で、本人希望が強い場合。
副作用:代償性発汗が生じます。別の部分の汗の量が増えます。
期間病院へ紹介します
足の多汗症の治療

塩化アルミニウム外用
第1選択治療であり、イオントフォレーシス治療と交互に繰り返すことも有効です。当院で可能です
イオントフォレーシス
第1選択治療であり、塩化アルミニウム外用と交互に繰り返すことも有効です。当院で可能です(保険診療)
ボツリヌス・トキシン注射
当院で可能です
顔の多汗症治療
内服治療

抗コリン薬(プロバンサイン)が多汗症治療に唯一保険適応があります。当院で可能です(保険診療)
塩化アルミニウム外用
当院で可能です
ボツリヌス・トキシン注射
当院で可能です
手術
他の治療抵抗性で、本人希望が強い場合。
副作用:代償性発汗が生じます。別の部分の汗の量が増えます。
期間病院へ紹介します
よくある質問

皮膚科は多汗症の診断と治療の専門であり、塗り薬やイオントフォレーシス、ボツリヌス毒素注射といった治療法の多くをカバーしています 。
ただし、汗の症状に加えて、動悸、体重減少、手の震えといった他の全身症状がある場合は、甲状腺の病気など、他の病気が原因である「続発性多汗症」の可能性も考えられます。その場合は、皮膚科医の判断で、内科 や内分泌内科 などへの紹介が必要になることもあります 。
また、最終的な治療法として手術(ETS)を検討する段階になった場合は、胸部外科 や呼吸器外科 といった専門の診療科を受診することになります 。

原発性局所多汗症の根本的な原因はまだ完全には解明されていませんが、家族内で同じ症状を持つ人がいるケースが非常に多いことが報告されています 。ある調査では、患者さんの35%~65%に家族歴が見られたというデータもあります 。
実際に、「家族にも同じ症状の人がいること(家族歴)」は、原発性局所多汗症の正式な診断基準の一つにもなっています 。ただし、どのような遺伝形式なのか、どの遺伝子が関わっているのかといった詳細については、現在も研究が続けられています。

親御さんが「ハンカチを頻繁に使っている」「衣服がいつも湿っている」といったサインに気づいたら、ぜひ一度、皮膚科に連れて行ってあげてください 。近年では、9歳以上の子どもから保険適用で使える塗り薬(ラピフォート®ワイプなど)も登場しており、安全に始められる治療の選択肢が増えています 。早期に適切な治療やケアを始めることが、お子さんの悩みを軽減し、学校生活を前向きに送るための大きな助けとなります 。

これは、手術によって汗が止まった部位(例えば手のひら)の代わりに、今までそれほど汗をかかなかった他の部位(主に背中、胸、お腹、太ももなど、ワキより下の部分)から、異常なほど大量の汗が出るようになる現象です 。これは、単に「行き場を失った汗が別の場所から出ている」という単純なものではなく、神経を切断したことによる体の複雑な反応と考えられています 。
代償性発汗の程度には個人差がありますが、人によっては元の多汗症の悩み以上に生活に支障をきたすこともあり、一度発症すると元に戻すことは非常に困難です。このリスクがあるため、ETSは他の全ての治療法を試しても効果がなかった重症の患者さんに対してのみ、最終手段として慎重に検討されるのです 。

保険適用になることが多い治療 | 塗り薬:ワキ用の「エクロックゲル®」「ラピフォート®ワイプ」、手のひら用の「アポハイド®ローション」 。 飲み薬:「プロ・バンサイン®」などの抗コリン薬 。 イオントフォレーシス:手のひら、足の裏が対象 。 手術:重症の場合のETSなど 。 |
---|---|
条件付きで保険適用になる治療 | ボツリヌス毒素注射:重度の原発性腋窩(ワキ)多汗症と診断された場合にのみ保険適用となります。手のひら、足の裏、顔など、ワキ以外の部位への注射は保険適用外(自費診療)です 。 ※当院ではボツリヌストキシン注射の保険治療は実施していません(自費のみ実施しています) |
保険適用にならない治療(自費診療) | 塩化アルミニウム製剤の塗り薬 。 マイクロ波治療(ミラドライ®など) 。 ワキ以外の部位へのボツリヌス毒素注射 |
治療を受ける前には、その治療が保険適用となるのか、費用はどのくらいかかるのかを、必ず医療機関に確認するようにしてください。