【皮膚科医監修】コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)とは?ステロイドとの違いを徹底解説
コレクチム軟膏は、アトピー性皮膚炎の辛い症状を改善するために開発された新しいタイプの塗り薬です。まずは、このお薬がどのようなメカニズムで働き、従来の治療薬とどのように異なるのかについて詳しく見ていきましょう。
日本で誕生した世界初の外用JAK阻害薬としての画期的なメカニズム
コレクチム軟膏は、日本国内で研究・開発され、世界で初めて承認された「外用JAK(ヤック)阻害薬」という新しい分類のお薬です。アトピー性皮膚炎の患者様の皮膚では、免疫細胞が異常に活性化し、「サイトカイン」と呼ばれる炎症を引き起こすタンパク質が過剰に放出されています。このサイトカインが皮膚の細胞の表面にある受容体に結合すると、細胞の中にある「JAK」という酵素を介して、炎症やかゆみの指令が細胞の核へと伝えられます。この一連の情報の伝達経路を「JAK-STAT(ヤック・スタット)経路」と呼びます。
コレクチム軟膏に含まれる有効成分であるデルゴシチニブは、この細胞内のJAKという酵素の働きを直接的にブロックする役割を果たします。指令の伝達経路を根元から遮断することで、サイトカインが細胞に結合しても炎症やかゆみのスイッチが入らないようにするのです。従来の治療薬が炎症の「結果」に対処していた側面があるのに対し、コレクチム軟膏は炎症が起きる「原因となるシグナル伝達」そのものを抑え込むという点で、非常に画期的なアプローチを採用しています。
従来のステロイド外用薬やプロトピック軟膏との違いとそれぞれの役割
アトピー性皮膚炎の塗り薬として最も代表的なものは、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏(商品名:プロトピック軟膏など)です。これらのお薬とコレクチム軟膏は、それぞれ異なる長所と短所を持っており、患者様の皮膚の状態に合わせて使い分けられます。
ステロイド外用薬は、非常に強力で即効性のある抗炎症作用を持っています。赤く腫れ上がり、ジュクジュクとした強い炎症を素早く鎮めるためには、現在でもステロイド外用薬が第一選択となります。しかし、長期間使い続けると、皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)、毛細血管が浮き出て赤ら顔になる(毛細血管拡張)、といった特有の副作用が現れるリスクがあります。
一方、プロトピック軟膏は、ステロイドのような皮膚を薄くする副作用がないため、顔や首など皮膚の薄い部位にも安全に長期間使用できるという大きな利点があります。しかし、塗り始めの数日間に、強いヒリヒリ感や熱感、かゆみといった刺激症状が出やすいという特徴があり、この刺激感が原因で使用を断念してしまう患者様も少なくありません。
コレクチム軟膏は、非ステロイド薬であるため長期間使用しても皮膚が薄くなる心配がありません。さらに、プロトピック軟膏で見られるような特有の強い刺激感も少ないため、非常に使い勝手の良いお薬として評価されています。以下の表は、これら三種類の代表的な外用薬の特徴を比較したものです。
| コレクチム軟膏 | ステロイド外用薬 | プロトピック軟膏 | ||
| 薬の種類 | JAK阻害薬 | ステロイド | カルシニューリン阻害薬 | |
| 働き方 | 細胞内の「炎症スイッチ」をピンポイントでOFFにする | 炎症を全体的に強力に抑える | 別の種類の免疫信号をブロックする | |
| 主な長所 | 副作用が少なく長期使用しやすい、かゆみに早く効く傾向がある | 炎症を抑える効果が最も強い | ステロイドの副作用がない | |
| 主な注意点 | ニキビのようなものができることがある | 長期使用で皮膚が薄くなるなどの副作用リスク | 塗り始めにヒリヒリとした刺激感が出やすい | |
| 顔への使用 | 使いやすい | 弱いランクのものに限られる | 刺激感に注意すれば可能 | |
小児用の0.25%と成人用の0.5%における濃度の違いと安全な使い分け
コレクチム軟膏には、有効成分の濃度が異なる「0.5%」と「0.25%」の二つの規格が用意されています 。一般的に、成人(大人の患者様)には、十分な効果を得るために高い濃度である0.5%製剤が処方されます 。一方で、小児(子どもの患者様)の場合は、皮膚が大人よりも薄く、薬の成分が体内へ吸収されやすいため、安全性を最優先して低濃度である0.25%製剤から治療を開始することが推奨されています 。
小児の治療において0.25%製剤を使用しても十分な改善が見られない場合は、医師の慎重な判断のもとで0.5%製剤に切り替えられることもあります。このように、患者様の年齢や体重、症状の重症度に応じて最適な濃度を細かく調整できる点が、コレクチム軟膏の優れた特徴の一つです。自己判断でご家族のお薬を使い回したり、濃度を勝手に変更したりすることは予期せぬ副作用を招く恐れがあるため、必ず処方されたご本人が医師の指示通りに使用することが大切です。
コレクチム軟膏で期待できる効果とアトピー性皮膚炎の根本的な改善
コレクチム軟膏を使用することで、患者様の皮膚にはどのような良い変化がもたらされるのでしょうか。単に見た目の赤みを抑えるだけでなく、アトピー性皮膚炎という病気そのものとの付き合い方を劇的に変える可能性を秘めています。
皮膚の炎症と厄介な「かゆみ」を同時に素早く抑える優れた作用
アトピー性皮膚炎の患者様を日々悩ませている最大の症状が、夜も眠れなくなるほどの強い「かゆみ」です。かゆみを我慢できずに皮膚を掻きむしってしまうと、皮膚の表面にあるバリア機能が破壊されます。バリアが壊れた皮膚からは水分が逃げ出してさらに乾燥が進み、同時に外部からのダニやほこり、細菌などの刺激物質が侵入しやすくなります。これが新たなアレルギー反応と炎症を引き起こし、さらに強いかゆみを生み出すという「かゆみと掻きむしりの悪循環(イッチ・スクラッチ・サイクル)」に陥ってしまいます。
コレクチム軟膏の特筆すべき効果は、炎症を引き起こすシグナルだけでなく、直接的にかゆみを感じさせる「IL-31」と呼ばれる特定のかゆみ誘発物質(サイトカイン)のシグナル伝達もブロックできる点にあります。このため、薬を塗り始めてから比較的早い段階でかゆみが和らぐことを実感される患者様が多くいらっしゃいます。かゆみが治まることで無意識に皮膚を掻いてしまう行動が減少し、皮膚が自分自身の力で傷を修復し、本来の健康なバリア機能を取り戻すための環境が整うのです。
症状が落ち着いた後のプロアクティブ療法(維持療法)による再発予防
アトピー性皮膚炎の治療において近年最も重要視されているのが、「プロアクティブ療法」という考え方です。かつては、症状が悪化した時だけ薬を塗り、良くなったら塗るのをやめるという「リアクティブ療法(もぐらたたきのような治療)」が主流でした。しかしこの方法では、皮膚の表面が綺麗に見えても、皮膚の下にはまだ見えない炎症の火種が残っているため、すぐにまた症状がぶり返してしまいます。
プロアクティブ療法とは、目に見える症状が良くなった後も、保湿剤による日々のスキンケアを土台としながら、コレクチム軟膏などの抗炎症薬を「週に2回」「週末だけ」といったように間隔をあけて定期的に塗り続ける治療法です。これにより、皮膚の下に潜む見えない炎症を完全に抑え込み、長期間にわたって再発を防ぐことができます。コレクチム軟膏はステロイドのような皮膚萎縮の副作用がないため、このプロアクティブ療法として長期間安全に使用し続けるのに非常に適したお薬と言えます。
長期的な使用を通じた患者様の生活の質(QOL)向上の可能性
アトピー性皮膚炎は、単なる皮膚の病気にとどまらず、患者様の生活の質(QOL)を大きく低下させます。強いかゆみによる睡眠不足は、日中の集中力低下や疲労感をもたらし、学業や仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。また、顔や首などの目立つ部位の赤みや湿疹は、対人関係における精神的なストレスやコンプレックスの原因となることも少なくありません。
コレクチム軟膏による治療を継続し、プロアクティブ療法によって「症状が全くない、あるいはあっても軽微で日常生活に支障がない状態」を維持できるようになると、患者様の生活は一変します。夜はぐっすりと眠れるようになり、日中は活動的に過ごすことができるようになります。好きな服を着て外出を楽しめるようになるなど、精神的な負担が軽減されることの意義は計り知れません。コレクチム軟膏は、患者様が本来の自分らしい生活を取り戻すための強力なサポート役となります。
コレクチム軟膏の正しい使い方・塗り方と保湿剤との順番
どんなに素晴らしい効果を持つお薬でも、正しい使い方をしなければ本来の力を発揮することができません。特に、塗布する量やタイミング、そして日々のスキンケアに欠かせない保湿剤との組み合わせ方については、多くの患者様からご質問をいただきます。
1日あたりの使用回数と1回の塗布量の上限(5gまで)に関する重要ルール
コレクチム軟膏は、通常1日に1回から2回、湿疹のある患部に適量を塗布します 。ここで非常に重要なのが、1回に塗布する量には明確な上限が定められているということです 。具体的には、1回の使用量は「5gまで」とされています 。コレクチム軟膏は通常5g入りのチューブで処方されるため、これは「1回の塗布で最大1本まで」という意味になります 。
この上限が設けられている理由は、安全性の確保です。塗り薬であっても、皮膚から吸収された成分は微量ながら血液中に入り、全身を巡ります。一度に大量の薬を広範囲に塗りすぎると、血液中の薬の濃度が高くなりすぎ、思わぬ副作用を引き起こすリスクが高まるためです。
適切な塗布量を測るための目安として、世界的に推奨されている「フィンガーチップ・ユニット(FTU)」という単位があります。大人の人差し指の先端から第一関節まで、チューブから薬を一直線に絞り出した量が「1 FTU」であり、重さにすると約0.5gとなります。この1 FTUの量で、大人の手のひら約2枚分の面積に塗るのが適量です。皮膚にすり込むのではなく、皮膚の上に薄い膜を作るように優しく広げて塗ることが効果的です。
保湿剤とコレクチム軟膏はどっちが先?塗る順番の基本原則と例外
アトピー性皮膚炎の治療では、乾燥を防ぎバリア機能を高めるための保湿剤(ヘパリン類似物質や白色ワセリンなど)と、炎症を抑えるためのコレクチム軟膏が同時に処方されるのが一般的です。この際、「保湿剤と軟膏、どちらを先に塗るべきか」という疑問は、非常に多くの患者様が抱える悩みの種です。
結論から申し上げますと、基本的には「保湿剤を先に広い範囲に塗り、その後からコレクチム軟膏などの治療薬を湿疹のある部分(患部)だけに重ね塗りする」という順番が推奨されています 。保湿剤を塗る最適なタイミングは、入浴後、タオルで軽く水分を拭き取った直後です 。この時、皮膚にはまだ水分が多く含まれているため、すぐに保湿剤で蓋をすることで、水分の蒸発を効果的に防ぎ、乾燥から皮膚を守ることができます 。
では、なぜ保湿剤を先に塗るべきなのでしょうか。その最大の理由は、治療薬の副作用を防ぐためです 。もし先にコレクチム軟膏を特定の患部に塗り、その上から全身用の保湿剤をゴシゴシと塗り広げてしまうと、せっかく患部だけに乗せた軟膏の成分が、健康な皮膚(本来は薬を塗る必要のない正常な部分)にまで引き延ばされてしまいます 。健康な皮膚に強い薬効成分が長期間触れ続けることは、予期せぬ副作用の原因となる可能性があるため、面積の広い保湿剤から先に塗ることが基本とされています 。同じ患部にステロイドなどの外用薬と保湿剤を重ねて塗ること自体は医学的に問題ありません 。
副作用を防ぐための「重ね塗り」のコツと面積に応じた柔軟な対応
保湿剤を先に塗るのが基本原則ですが、皮膚科の診療現場では患者様の症状や塗布する部位の面積に応じて、あえて順番を変えるよう指導する例外的なケースも存在します 。
例えば、札幌市のある皮膚科診療室の指導例を参考にすると、湿疹の面積が比較的少ない場合は、原則通り「先に軟膏を患部に塗り、その上に保湿剤を重ねる」という指導が行われることがあります 。一方で、手荒れのような手の湿疹がひどい場合などは、治療薬の成分をしっかりと皮膚に浸透させたいという目的から、「先にコレクチム軟膏などの治療薬をしっかりと塗り込み、その上から保護する目的で保湿剤を塗る」という順番が推奨されることもあります 。
また、人間の心理的な側面を考慮した指導が行われることもあります 。一般的な原則に従って保湿剤を全身に塗った後、さらに鏡を見ながら湿疹の部分を探して軟膏を塗るという作業は、毎日のこととなると非常に手間に感じられることがあります 。保湿剤を塗っただけで満足してしまい、肝心の治療薬を塗るのを面倒がって忘れてしまうようであれば本末転倒です 。そのため、もしどちらでも良いという状況であれば、塗り忘れを防ぐという実用的な観点から「先に治すべき場所に軟膏を塗り、その後で全体の保湿を行う方が理にかなっている」と考える医師もいます 。
このように、軟膏やクリームの種類、症状の程度、患部の場所によって最適な塗る順番が異なる場合があります 。インターネット上の情報はあくまで一般的な原則であるため、かかりつけの医師や薬剤師から特別な順序の指示があった場合には、その指示に従って正しく使用していただくことが最も重要です 。
コレクチム軟膏使用時に知っておきたい副作用とリスク管理
コレクチム軟膏は、ステロイド外用薬の欠点であった皮膚萎縮などを克服した安全性の高いお薬ですが、全く副作用が存在しないわけではありません。新しいメカニズムの薬だからこそ、どのような副作用が起こり得るのかを事前に知っておくことで、万が一の事態にも冷静に対処することができます。
塗り始めのヒリヒリ感やニキビ(ざ瘡)が発生するメカニズムと対処法
コレクチム軟膏を使用し始めた直後、数パーセントの患者様において、薬を塗った部分に軽いヒリヒリ感、熱感、赤み、あるいは一時的なかゆみの増強を感じることがあります。プロトピック軟膏ほどの強い刺激ではありませんが、バリア機能が著しく低下している皮膚に薬を塗布することで生じる反応です。多くの場合、これらの刺激感は数日から一週間程度で皮膚の炎症が鎮まるにつれて自然に消えていきます。しかし、痛みが強すぎて我慢できない場合や、数週間経っても刺激感が続く場合は、無理をして使い続けずに医師にご相談ください。
また、比較的よく見られる副作用として、コレクチム軟膏を塗っている部位にニキビ(ざ瘡)ができやすくなることが挙げられます。これは、コレクチム軟膏が皮膚の局所的な免疫反応を抑える働きを持つため、毛穴の奥に常在しているアクネ菌(ニキビの原因菌)が一時的に増殖しやすい環境になってしまうことが原因と考えられています。特に顔や胸、背中など、もともと皮脂の分泌が多い部位に発生しやすい傾向があります。ニキビができたからといってすぐに薬を中止する必要はありませんが、医師に相談することで、ニキビ用の抗菌薬を併用したり、塗る頻度を調整したりといった適切な対策を立てることができます。
毛嚢炎やカポジ水痘様発疹症など皮膚の感染症リスクに対する注意点
コレクチム軟膏の最大の作用は「過剰な免疫を抑えること」です。これは炎症を鎮めるという良い効果をもたらす一方で、皮膚の表面において細菌やウイルスを退治するための正常な免疫防御力も局所的に低下させてしまうことを意味します。その結果、健康な皮膚であれば跳ね返せるような細菌やウイルスに感染しやすくなるというリスクが伴います。
細菌感染の代表例が「毛嚢炎(もうのうえん)」です。毛穴の奥で細菌が繁殖し、赤く腫れたり膿を持ったりする症状です。さらに注意が必要なのが、ウイルスによる感染症です。アトピー性皮膚炎の患者様はもともとウイルスに対する抵抗力が弱い傾向がありますが、特に「カポジ水痘様発疹症」には警戒が必要です。これは単純ヘルペスウイルスが原因で起こる感染症で、顔や首などを中心に、痛みを伴う小さな水ぶくれが急速に広がり、発熱やリンパ節の腫れを伴うこともあります。このような強い感染症のサインが現れた場合は、コレクチム軟膏の使用を直ちに中止し、速やかに皮膚科を受診して抗ウイルス薬などによる治療を優先しなければなりません。
副作用の初期症状を見逃さないためのセルフチェックと医師への相談基準
副作用を重症化させないためには、日々のセルフチェックが欠かせません。薬を塗る際に、ご自身の皮膚の状態をよく観察する習慣をつけてください。 以下のような症状が見られた場合は、次の診察日を待たずに早めに医療機関へご連絡ください。
- 薬を塗っているのに、今までとは違う種類の赤いブツブツや水ぶくれが急激に増えてきた。
- 塗布した部分がジュクジュクと化膿して黄色い汁が出たり、強い痛みや熱を持ったりしている。
- 全身の倦怠感や発熱、リンパ節の腫れなど、皮膚以外の症状が現れた。
これらの症状は、コレクチム軟膏が効いていないのではなく、感染症などの別の問題が発生しているサインである可能性が高いです。自己判断で薬の量を増やしたり、放置したりすることは大変危険です。
コレクチム軟膏を使用できない方(禁忌)と慎重な判断が必要なケース
コレクチム軟膏は多くのアトピー性皮膚炎患者様にとって有益な治療薬ですが、すべての方が安全に使用できるわけではありません。患者様の体質や現在の皮膚の状態によっては、使用が禁止されている(禁忌)、あるいは極めて慎重な判断が求められるケースが存在します。
過去に薬の成分でアレルギーや過敏症を起こした経験がある方のリスク
過去にコレクチム軟膏、あるいはその有効成分である「デルゴシチニブ」を含む医薬品を使用して、発疹、強いかゆみ、息苦しさ、顔や唇の腫れといったアレルギー反応(過敏症)を起こしたことがある患者様は、再度このお薬を使用することは絶対にできません。これは、再び体内に成分が入ることで、「アナフィラキシー」と呼ばれる命に関わる重篤なアレルギー反応を引き起こす危険性が高いためです。初めて受診する医療機関では、必ず過去のお薬によるアレルギー歴を正確に医師や薬剤師に伝えることが重要です。
重度の細菌感染やウイルス感染、深い潰瘍がある皮膚への使用制限
前述の通り、コレクチム軟膏は局所の免疫を抑制する働きがあります。そのため、患部にすでに明らかな細菌感染(とびひのように化膿している状態)や、ウイルス感染(ヘルペスや水イボなどが多発している状態)、真菌感染(水虫やカンジダなど)が起きている場合、原則としてその部位にコレクチム軟膏を塗ることはできません 。免疫が抑えられることで、原因となっている病原菌が爆発的に増殖し、感染症が一気に重症化してしまう恐れがあるためです。
また、掻きむしりすぎて皮膚が深くえぐれてしまっている「深い潰瘍」の状態や、重度の熱傷(やけど)、凍傷の部位にも使用は推奨されません。このようなダメージを受けた皮膚では、薬の成分が過剰に血液中に吸収されてしまうリスクや、皮膚組織の正常な再生プロセスが阻害されて治癒が遅れてしまうリスクがあるためです。
妊娠中の方や授乳中の女性に対する安全性と医師による処方の考え方
妊娠中の方、あるいは妊娠している可能性のある女性に対するコレクチム軟膏の安全性は、現時点では明確に確立されていません 。動物実験の段階において、極めて大量の薬を投与した場合に、胎児の発育に影響を及ぼす可能性が完全に否定できないという結果が報告されているためです。したがって、妊娠中の患者様に対しては、医師が「治療を行うことの有益性が、胎児への潜在的な危険性を明らかに上回る」と判断した場合にのみ、必要最小限の量と期間に絞って処方されるという、慎重な対応がとられます 。
また、授乳中の女性につきましても同様の注意が必要です。薬の成分が母乳中に移行し、乳児の体内に入る可能性が否定できないためです 。そのため、コレクチム軟膏を使用して治療を行う期間中は授乳を避けるよう指導されるか、あるいは授乳を優先するためにコレクチム軟膏の使用を見合わせ、別の安全性が確立されている治療薬を選択するか、主治医とよく相談して決定することが求められます 。
コレクチム軟膏の薬価・費用目安と医療費助成の活用法
新しいお薬を処方される際、多くの患者様が気にされるのが「継続にかかる費用の問題」です。アトピー性皮膚炎の治療は数ヶ月から数年に及ぶ長丁場となることが多いため、経済的な負担についても事前に把握しておくことが安心につながります。
保険適用における0.5%および0.25%の最新薬価(2024-2025年基準)
コレクチム軟膏は、厚生労働省に承認されたお薬であり、アトピー性皮膚炎の診断がついていれば健康保険が適用されます。現在、コレクチム軟膏は1本あたり5g入りのチューブとして調剤薬局で交付されます 。成分の濃度によって薬価(国が定めた薬の価格)がわずかに異なります。
以下の表は、最新の薬価基準(2024年〜2025年基準)に基づく、コレクチ
| 規格・容量 | 1本(5g)あたりの薬価 | 1本(5g)あたりの価格(3割負担時) | ||
| コレクチム軟膏 0.5%(主に成人用) | 5gチューブ | 715.0円 | 214.5円 | |
| コレクチム軟膏 0.25%(主に小児用) | 5gチューブ | 688.0円 | 206.4円 | |
実際の通院にかかる自己負担額のシミュレーションと長期的なコストパフォーマンス
上記の薬価をもとに、一般的な成人(健康保険で3割負担)の患者様が、月にどの程度の薬代を負担することになるのかをシミュレーションしてみましょう。
例えば、広範囲に湿疹があり、1日に約2gの軟膏を使用すると仮定します。1ヶ月(30日)で約60g、つまり5gチューブが12本必要になります。 コレクチム軟膏0.5%を12本処方された場合、薬そのものの総額は 715円 × 12本 = 8,580円 となります。 3割負担の場合、窓口で支払うお薬代の負担額は 約2,574円 となります。 (※実際には、これに医療機関での再診料や処方箋料、薬局での調剤基本料や服薬管理指導料などが別途加算されます。)
古くから使われているステロイド外用薬(その多くは安価なジェネリック医薬品が存在します)と比較すると、コレクチム軟膏は新薬であるため、やや薬価が高く設定されています。しかし、費用対効果(コストパフォーマンス)という視点を持つことも重要です。安価な薬で一時しのぎを繰り返して何度も悪化と通院を繰り返したり、副作用の治療に別途費用がかかったりするリスクを考えれば、コレクチム軟膏を用いたプロアクティブ療法によって皮膚の良い状態を長期間安定して維持することは、結果的に通院頻度を減らし、仕事や学業に集中できる時間を取り戻すという意味で、非常に価値のある投資と言えるでしょう。
小児アトピー治療における子ども医療費助成制度の適用と経済的負担の軽減
小児のアトピー性皮膚炎治療においてコレクチム軟膏0.25%や0.5%を使用する場合、経済的な負担を大幅に軽減できる制度があります。それが、各自治体が実施している「子ども医療費助成制度(乳幼児医療費助成制度など)」です。
日本国内の多くの市区町村では、中学生や高校生までの子どもを対象に、医療費の自己負担分を公費で助成する制度を設けています。この制度を利用することで、コレクチム軟膏を含む処方薬代や診察代が、窓口で完全に無料になるか、あるいは1回数百円程度の定額負担で済むことがほとんどです。アトピー性皮膚炎の治療は長期戦となるため、子どもの成長に伴って皮膚のバリア機能が完成するまでの間、家計の負担を気にすることなく、最善の治療薬であるコレクチム軟膏をたっぷりと適切な量で使用し続けることができるのは、ご家族にとって非常に大きなメリットです。制度の対象年齢や所得制限の有無は自治体によって異なりますので、詳しくはお住まいの市区町村の担当窓口やホームページでご確認いただくことをお勧めいたします。
よくある質問
コレクチム軟膏はステロイドですか?
コレクチム軟膏は「JAK阻害薬」という全く新しい分類のお薬です。ステロイドとは作用の仕方が異なり、ステロイドの長期使用で懸念されるような皮膚が薄くなる副作用はありません 。
プロトピック軟膏®との違いは何ですか?
コレクチム軟膏はJAK阻害薬、プロトピック軟膏はカルシニューリン阻害薬です。患者さんにとっての大きな違いは、コレクチム軟膏はプロトピック軟膏でよく見られる塗り始めのヒリヒリとした刺激感が少ない傾向にある点です 。
どのくらいで効果が出ますか?
顔に塗っても大丈夫ですか?
コレクチム軟膏は非ステロイド性であるため、顔や首などの皮膚の薄いデリケートな部分にも使用しやすいお薬です。ただし、目や鼻、口の周りの粘膜には入らないように注意してください 。
赤ちゃんにも使えますか?
0.25%のコレクチム軟膏は、生後6ヶ月以上の乳児から使用が認められています。幼いお子さんを対象とした臨床試験も行われており、医師の指導のもとで正しく使用すれば、安全な選択肢と考えられています 。
長期間使っても安全ですか?
最長1年間の臨床試験で、長期使用における安全性が確認されています。症状が落ち着いた後も、再燃を防ぐ目的で継続的に使用されることが多いお薬です 。
症状が良くなったら、すぐに塗るのをやめてもいいですか?
監修医師: うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格: 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴:
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年 うらた皮膚科