乳房外パジェット病とは
乳房外パジェット病の原因
皮膚にある汗腺の「アポクリン腺」に由来するがんと考えられています。
はっきりした誘因はわかっていません。
乳房外パジェット病の症状
アポクリン腺の分布する外陰部や肛門周囲、脇の下に赤い斑点をみとめ、湿疹のように見えます。
皮膚の色が白く抜ける部位が混在することもあります。
痒みや、痛みなどは認めないことが多いです。
進行は遅いですが、外陰部に多く発見が遅れることが多いです。深く進行してリンパ節に転移すると、命にかかわることがあります。
乳房外パジェット病の頻度
日本人ではで皮膚がんで6番目に多く生じます。
男女比が2:1程度と男性に多く、加齢とともに増加します。
日本では、10万人当たり0.73人程度と報告されています。
乳房外パジェット病の症状
乳房外パジェット病の症状は、初期の段階では湿疹や水虫(たむし)と見分けるのが非常に難しいことがあります 。しかし、注意深く観察すると、いくつか特徴的なサインが見られます。
初期症状と見分け方
初期には、皮膚に境界が比較的はっきりした赤い斑点(紅斑)として現れるのが一般的です 。時には、茶色っぽく見えたり、逆に肌の色が抜けて白っぽく見えたりすることもあります(脱色素斑) 。
この病気を見分ける上で最も重要なポイントは、**「治りにくさ」**です。市販の塗り薬や、病院で湿疹・かぶれ・水虫の薬として処方された薬を数週間使っても、一向に良くならない、あるいは少し良くなってもすぐに再発するという特徴があります 。もし、外陰部や肛門周囲、わきの下にできた湿疹のようなものが2〜3週間以上治療しても改善しない場合は、乳房外パジェット病の可能性を考え、必ず皮膚科を受診してください 。
かゆみについては、伴うこともありますが、湿疹ほど強くないか、全く感じないことも珍しくありません 。痛みも初期の段階ではほとんどありません 。かゆみや痛みがないからといって、安心できるわけではないことを覚えておくことが大切です。
進行した場合の症状
治療されないまま時間が経つと、病変はゆっくりと、月単位、年単位で大きくなっていきます 。そして、皮膚の表面に次のような変化が現れます。
- びらん・ただれ: 表面がじゅくじゅくして、皮膚がめくれたように赤くただれる 。
- 痂皮(かさぶた): ただれた部分にかさぶたができる 。
- 結節・しこり: 病変の中に、硬いしこりや盛り上がりができる 。これは、がんが皮膚の深い層(真皮)にまで達したサインであり、転移のリスクが高まっていることを示します。しこりから出血することもあります 。
まれではありますが、非常に進行すると、がんが広範囲に広がり、まるで下着(パンツ)をはいているかのような形で皮膚に現れる「パンツ型浸潤」という状態になることがあります 。これは、がんがリンパの流れに乗って広がっていることを示す、深刻なサインです。
この病気にはもう一つ、治療を考える上で非常に重要な特徴があります。それは、目に見える病変の範囲が、実際にがん細胞が広がっている範囲のすべてではない、ということです 。がん細胞は、見た目には正常な皮膚にまで、まるで氷山の一角のように、目に見えない形で広がっていることがしばしばあります。この「見えない広がり」があるため、治療の際には、目に見える病変よりも一回りも二回りも広く切除する必要があるのです。この点を理解しておくことは、医師からの治療説明を受け、納得して手術に臨む上で助けとなります。
乳房外パジェット病の治療
乳房外パジェット病の治療は、がんの進行度や患者さんの全身の状態によって選択されますが、基本となるのは手術です。治療の大きな目標は、がんを完全に取り除いて根治を目指すことと、可能な限り排尿や排便、性機能といった生活に重要な機能(機能温存)を保つことの二つです 。
手術療法
がんを物理的に取り除く手術が、最も確実で標準的な治療法です 。 手術では、「広範囲局所切除術」という方法がとられます。これは、目に見える病変の縁から、さらに1〜2 cmほど離した正常に見える皮膚までを含めて、広く深く切除するものです 。なぜなら前述の通り、この病気は目に見えない範囲にまでがん細胞が広がっている可能性があるため、再発を防ぐには十分なマージン(安全域)をとって切除する必要があるからです。
切除した範囲が小さい場合は、そのまま皮膚を縫い合わせることができます。しかし、範囲が広い場合は、体の他の部分から皮膚を移植する「植皮術」や、周りの皮膚を移動させて傷を覆う「皮弁術」といった再建手術が必要になります 。
リンパ節への転移の確認
がんが皮膚の深い層まで進行している疑いがある場合、近くのリンパ節に転移している可能性を調べる必要があります 。そのために行われるのが「センチネルリンパ節生検」です 。これは、がん細胞が最初にたどり着く「見張り役」のリンパ節(センチネルリンパ節)を特定し、そこだけを摘出して転移の有無を調べる検査です。もしここに転移がなければ、他のリンパ節への転移の可能性は低いと判断できます。もし転移が見つかった場合は、周囲のリンパ節も切除する「リンパ節郭清」が必要になることがあります 。
放射線治療と薬物療法
手術が基本ですが、ご高齢であったり、他の病気を持っていたりして手術が難しい場合や、病変が非常に広範囲な場合には、放射線治療が選択されることがあります 。高エネルギーのX線を病変部に照射して、がん細胞を破壊する治療法です。手術後の再発予防のために行われることもあります。副作用としては、照射部位の皮膚が赤くなったり、ただれたりすることがあります 。
薬物療法(抗がん剤や免疫療法など)は、がんがリンパ節や他の臓器にまで転移してしまった、非常にまれな進行期の患者さんに用いられます 。全身に作用する治療法ですが、吐き気やだるさ、脱毛といった副作用を伴うことがあります 。
治療法のまとめ
以下に、主な治療法とその目的をまとめます。
| 目的 | 主な対象となる患者さん | ||
| 手術療法 | がんを物理的に完全に取り除く | ほとんどの患者さん。最も標準的で根治を目指す治療法。 | |
| 放射線治療 | 高エネルギーの放射線でがん細胞を破壊する | 手術が難しい高齢の方や、手術後の再発予防など。 | |
| 薬物療法 | 抗がん剤などで全身に広がったがんを攻撃する | リンパ節や他の臓器に転移した進行期の患者さん。 | |
日常生活で気をつけるポイント
治療後の生活は、回復への道のりそのものです。この道のりは、「傷を癒す時期」「変化に適応する時期」「再発を警戒し続ける時期」の3つの段階に分けて考えると、心構えがしやすくなります。
1. 傷を癒す時期(手術直後〜数週間)
手術後の最初の数週間は、まず傷をしっかりと治すことに専念します。医師や看護師の指示に従い、傷口を清潔に保つことが最も重要です 。 この時期は、体に負担をかけない生活を心がけましょう。重い物を持ったり、お腹に力が入るような動作(布団の上げ下ろしなど)は、傷口が開いたり、リンパ浮腫(むくみ)が悪化したりする原因になるため、退院後1ヶ月程度は避けるようにしてください 。まずは散歩などの軽い運動から始め、焦らずに少しずつ元の生活に戻していきましょう 。
2. 変化に適応する時期(傷が治った後)
手術の場所によっては、生活の中で少し工夫が必要になることがあります。特に外陰部の手術を受けた女性の場合、排尿時に尿が太ももにかかりやすくなることがあります。これは、トイレットペーパーを丸めて尿道口にそっと当てながら排尿することで、ある程度コントロールできます 。また、手術によって腟の一部が露出し、下着とこすれて痛みを感じることがあります。その際は、ワセリンなどを塗って皮膚を保護すると、刺激を和らげることができます 。 こうした変化は、慣れるまで不便に感じるかもしれませんが、工夫次第で快適に過ごすことができます。困ったことがあれば、一人で悩まずに医療スタッフに相談してください。
3. 警戒し続ける時期(生涯にわたるセルフケア)
治療が終わった後も、再発の可能性はゼロではありません。そのため、定期的な通院と、ご自身によるセルフチェックが非常に重要になります 。これを生涯の健康習慣として取り入れましょう。
セルフチェック方法
| 準備 | 手鏡を用意し、明るい場所で、外陰部や肛門の周りなど、手術した部位とその周辺がよく見えるようにします。 |
|---|---|
| 見ること | 手術の傷跡とその周りの皮膚をよく観察します 。 新しい赤み、茶色や白色のシミ、ただれなど、以前はなかった色の変化がないか確認します 。 皮膚がじゅくじゅくしたり、治りにくい傷ができていないか見ます 。 |
| 触ること: | 指の腹で、手術部位の周辺を優しくなでるように触ります。 皮膚の下に新しいしこりや硬い部分ができていないか、注意深く確認します 。 足の付け根(鼠径部)も触り、リンパ節が腫れていないかチェックします。 |
| 記録と相談 | 何か一つでも気になる変化を見つけたら、「気のせいだろう」と放置せず、すぐに次回の受診を待たずに主治医に連絡してください。早期に発見すれば、それだけ治療の負担も少なくて済みます。 |
この3つの段階を意識することで、治療後の長い道のりを、より前向きに、そして主体的に歩んでいくことができるはずです。
乳房外パジェット病の当院の役割
放っておくとリンパ節転移をし、命にかかわることがあります。
多くは外陰部に生じ、また恥ずかしさから受診が遅れることからも進行してから発見されることが少なくありません。
「陰部の治りにくい赤い斑点」には注意が必要です。
当院にご相談ください。
街のかかりつけ医として、
皮膚がんを啓蒙し、早期発見に努めています。
乳房外Paget病の治療はクリニックでは出来るものは限られてしまいます。
基本的には、基幹病院にご紹介させていただきます。
よくある質問
デリケートな部分の症状ですが、何科を受診すればよいですか?
乳房外パジェット病は皮膚がんの一種であり、皮膚の専門家である皮膚科医が診断と治療の第一歩を担当します。 デリケートな部位の診察に抵抗を感じるのは、当然のことです。しかし、医師や看護師は医療の専門家であり、毎日多くの患者さんの同様の悩みに向き合っています。プライバシーに配慮し、敬意をもって対応してくれます。診断の遅れが治療を難しくする最大の要因ですので、どうか勇気を出して受診してください 。
この病気は命に関わりますか? 予後はどうですか?
治療後に再発することはありますか?
特に、目に見えないがん細胞が手術で取り切れずに残ってしまった場合に起こり得ます。 このリスクを最小限にするために、手術では病変の周りの正常に見える皮膚も広く切除します。そして、治療後も定期的な通院とご自身でのセルフチェックを継続することが、万が一の再発を早期に発見し、迅速に対応するために不可欠です。
乳房外パジェット病は乳がんと関係がありますか?
名前が似ているため混同されがちですが、乳房外パジェット病は汗腺から発生する「皮膚がん」であり、乳房パジェット病は乳腺から発生する「乳がん」の一種です。二つは発生する場所も性質も異なる、全く別の病気です。
恥ずかしくて病院に行けません。どうすればよいですか?