最終更新日:2026-5-12

「治りにくい顔のできもの」「痛みはないが出血を繰り返す」などの症状は、皮膚がんの一種である基底細胞がんのサインかもしれません。日本人患者の8割以上に見られる黒い腫瘍の特徴をはじめ、良性のほくろやシミとの見分け方を専門医が詳しく解説します。原因となる紫外線への対策や痛みのない検査方法、最新ガイドラインに基づく手術などの治療法まで網羅しています。

 専門医が解説!基底細胞がん(皮膚がん)とはどのような病気ですか?
 初期症状を見逃さないために!基底細胞がんの症状と特徴
 なぜ皮膚がんになるの?基底細胞がんを引き起こす主な原因
 ほくろ・シミとの違いは?基底細胞がんの鑑別診断と検査方法
 2025年最新ガイドライン対応!基底細胞がんの治療方法
日常生活から始める!基底細胞がんの効果的な予防方法
 当院の役割

専門医が解説!基底細胞がん(皮膚がん)とはどのような病気ですか?

基底細胞がん
ふと鏡を見たときに、「いつの間にか顔に黒いほくろのようなものができている」「ニキビだと思っていたできものが、数ヶ月経ってもなかなか治らない」と不安に感じたことはありませんか。それはもしかすると、「基底細胞がん(きていさいぼうがん)」と呼ばれる皮膚がんの一種かもしれません。

がんという言葉を聞くと、多くの方は強い不安を抱かれることと思います。しかし、皮膚がんのなかでもこの病気は、適切な時期に正しい治療を行えば、しっかりと完治を目指すことができる病気です。ここではまず、基底細胞がんとはそもそもどのような病気なのか、その基本的な知識からわかりやすく解説していきます。

皮膚がんの中で最も発生頻度が高い「基底細胞がん」の基本

人間の皮膚は、外側から順番に「表皮(ひょうひ)」「真皮(しんぴ)」「皮下組織(ひかそしき)」という3つの層が重なってできています。一番外側にある表皮の一番深い部分には「基底層(きていそう)」と呼ばれる層があり、ここで新しい皮膚の細胞が絶えず生み出され、古くなった細胞が垢となって剥がれ落ちていくというターンオーバーを繰り返しています。
基底細胞がんとは、この表皮の基底層にある細胞、あるいは毛穴を構成している毛包(もうほう)の細胞が、何らかの理由で悪性化(がん化)して異常に増殖を始めてしまう病気です 。
皮膚がんにはいくつかの種類がありますが、基底細胞がんはその中でも最も発生頻度が高い(患者数が多い)がんです。後ほど詳しく解説しますが、長年にわたって紫外線を浴び続けたことが主な原因となるため、太陽の光を浴びやすい部位に発生しやすいという特徴を持っています。具体的には、患者さんの約80%が顔面から頭部にかけて発生しており、とくに鼻の周り、まぶたの近く、頬、上唇などの顔の中央部分によく見られます 。

日本人(東アジア人)と欧米人の決定的な違いとは

基底細胞がんは世界中で見られる病気ですが、実は「人種によって見た目や特徴が大きく異なる」という非常に重要な事実があります。この違いは、患者様ご自身が病気に気づくきっかけや、医師の診断・治療方針に大きな影響を与えます。
欧米の白人の方々に発生する基底細胞がんは、多くの場合、メラニン色素を持たないため「肌色」や「赤みを帯びた色」をしています。また、周囲の正常な皮膚との境界線がぼやけて分かりにくく、どこまでが「がん」なのかを肉眼で判断するのが非常に難しいという特徴があります 。
一方で、日本皮膚科学会および日本皮膚悪性腫瘍学会の報告によれば、日本人を含む東アジア人の基底細胞がんは、全体の実に88.3%がメラニン色素を豊富に含んだ「色素沈着型」であることが明らかになっています 。つまり、日本人の基底細胞がんのほとんどは「真っ黒」または「濃い茶色」をしているのです。

   日本人(東アジア人)の基底細胞がん  欧米人(白人)の基底細胞がん
 主な色調  黒色・濃い褐色(色素沈着型が88.3%)  肌色・赤色(非色素性)
 見た目の印象  ほくろ、シミ、黒いかさぶたのように見える  湿疹、虫刺され、赤いできもののように見える
 境界線の明瞭さ  黒いため、正常な皮膚との境界が比較的わかりやすい   肌に馴染んでしまい、境界が不鮮明でわかりにくい

この「黒い」という特徴は、専門医が特殊な拡大鏡(ダーモスコピー)を使って診断する際には、境界を正確に把握しやすいという大きなメリットになります 。しかしその反面、一般の患者様から見ると「ただの黒いほくろができただけ」「少し盛り上がったシミだ」と勘違いされやすく、皮膚がんだと気づかずに放置してしまう原因にもなっています。

発症しやすい年齢層(高齢化の影響)と注意すべき生活背景

基底細胞がんは、主に60代以上の高齢者の方に多く見られる病気です 。これは、がんの原因となる紫外線ダメージが、何十年という長い年月をかけて皮膚の細胞に蓄積していくためです。子供の頃から浴びてきた紫外線のトータル量がある一定のラインを超え、さらに加齢によって細胞の修復能力や免疫力が低下してくる60代以降に、がんとして表面化してくるのです。
しかし、近年では地球環境の変化による紫外線量の増加や、屋外でのレジャー活動の多様化などにより、40代や50代といった比較的若い世代で発症するケースも決して珍しくなくなってきました 。過去に屋外でのスポーツを長年続けていた方、農業や漁業、建設業など外での作業が多いご職業の方、あるいは日焼けサロンを頻繁に利用していた方などは、年齢にかかわらず注意が必要です。

初期症状を見逃さないために!基底細胞がんの症状と特徴

皮膚がんは、胃がんや肺がんのような内臓のがんと違い、患者様ご自身が「目で見て触って気づくことができる」という非常に有利な特徴があります 。しかし、初期の段階では痛みや痒みといった自覚症状がほとんどないため、見た目のわずかな変化を見逃さないことが早期発見の最大の鍵となります。
ここでは、基底細胞がんが時間とともにどのように変化していくのか、その典型的な症状の進行について順を追って解説します。

ごく初期のサイン:光沢のある真珠状の隆起と黒い結節

基底細胞がんの最も初期に見られるサインは、顔や頭などにポツンとできる、数ミリ程度の小さな黒色または黒褐色の盛り上がり(結節)です。
通常のほくろとの決定的な違いは、その「表面の質感」にあります。基底細胞がんの表面はツルツルとしており、光を当てるとテカテカと光を反射するような独特の艶があります。医学的にはこれを「光沢のある真珠状の隆起」と表現します 。
患者様の多くは、この初期段階では「新しいほくろができた」「黒っぽいニキビができた」「小さな血豆ができた」と認識されます 。しかし、通常のニキビや血豆であれば1〜2週間もすれば自然に治りますが、基底細胞がんの場合は数ヶ月待っても消えることはありません。それどころか、非常にゆっくりとしたペースではありますが、確実に少しずつ大きくなっていきます。また、少し大きくなると、ツルツルとした腫瘍の表面に、細い赤糸のような「拡張した毛細血管」がうっすらと透けて見えるようになるのも大きな特徴です 。

進行に伴う見た目の変化:中心のへこみと繰り返す出血

腫瘍が数ミリから1センチ程度の大きさに成長してくると、基底細胞がん特有の形への変化が現れ始めます。
がん細胞が増殖していく過程で、外周部分(ふち)は黒く盛り上がった堤防のような形を保ちますが、腫瘍の中心部分は栄養が行き渡らなくなり、組織が崩れてへこんできます(中心陥凹) 。さらに進行すると、この中心のへこんだ部分の皮膚が破れて傷口がむき出しになる「潰瘍化(かいようか)」という状態になります。
この段階になると、患者様が最も頻繁に経験する症状が「繰り返す出血とかさぶた」です 。腫瘍の組織は非常に脆くなっているため、洗顔のときに手が軽く触れたり、タオルで顔を拭いたり、寝ている間に枕でこすれたりする程度のわずかな刺激で、簡単に出血してしまいます。
ここで非常に重要なポイントは、「出血しているのに、痛みは全くない」ということです 。患者様は痛みがないため、「ただの治りにくい傷だ」「傷が治りかけてかさぶたになり、また剥がれて出血しているだけだ」と思い込んでしまいがちです。しかし、「同じ場所から、痛みもないのに、数ヶ月にわたって出血やかさぶたを繰り返している」という症状は、基底細胞がんを強く疑うべき極めて重要なサインなのです 。

放置するとどうなる?局所への強い浸潤と組織破壊の恐れ

もし、このような症状を「痛くないから大丈夫」と放置し続けると、どうなってしまうのでしょうか。
基底細胞がんは、リンパ節や血液に乗って肺や肝臓などの他の内臓に転移することはごく稀(0.1%未満)であると言われています 。そのため、「命にすぐに関わる危険性は低いがん」と説明されることがよくあります。
しかし、決して甘く見てはいけません。基底細胞がんは「局所への浸潤性(しんじゅんせい)」が非常に強いという恐ろしい側面を持っています 。これはどういうことかと言うと、他の場所に飛び火(転移)はしない代わりに、発生したその場所で根を張るように深く進行し、周囲の正常な組織を次々と破壊していくということです 。
特に顔面に発生した場合、皮膚の下の脂肪層が薄いため、がんはすぐに筋肉や軟骨、さらには骨にまで到達してしまいます 。放置すればするほど腫瘍は広範囲に深くまで広がり、最悪の場合は鼻が欠損したり、まぶたが破壊されて目が閉じられなくなったりするなど、外見や機能に深刻で取り返しのつかないダメージを与えることになります。内臓への転移が少ないとはいえ、顔の形を大きく変えてしまうリスクがあるため、小さいうちに発見し、確実に取り除くことが絶対に必要なのです。

なぜ皮膚がんになるの?基底細胞がんを引き起こす主な原因

皮膚の細胞がなぜがん化してしまうのか、その背景には日々の生活環境や体質など、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。原因を正しく理解することは、今後の再発予防やご家族の予防にも繋がります。

最大のリスク要因は長年にわたる「紫外線」のダメージ蓄積

基底細胞がんが発生する最も大きな原因は、太陽光に含まれる「紫外線(UV)」による長年のダメージです 。紫外線には、地表に届くものとして「UVA(紫外線A波)」と「UVB(紫外線B波)」の2種類があります。このうち、特に細胞の遺伝子(DNA)に直接的な傷をつける力が強いのが「UVB」です。
人間の体には本来、紫外線によって傷ついたDNAを見つけ出し、自動的に修復する素晴らしい機能が備わっています。私たちが日焼けをして肌が赤くなったり皮がむけたりしても、数週間経てば元のきれいな肌に戻るのは、この修復機能が働いているためです。
しかし、長年にわたって無防備に大量の紫外線を浴び続けていると、次第にこのDNAの修復作業にエラーが生じるようになります。修復しきれなかった傷(遺伝子の変異)が細胞内に少しずつ蓄積していき、やがて細胞が異常なスピードで無限に増殖し始める「がん細胞」へと姿を変えてしまうのです。
つまり、基底細胞がんは「昨日海でひどく日焼けをしたから、今日がんになった」というものではありません。子供の頃の泥んこ遊び、学生時代の屋外での部活動、日焼け対策を怠ったまま出かけたレジャーや日々の買い物など、何十年という長い年月をかけて蓄積された「紫外線の貯金」が満期を迎えた結果として発症するものなのです。そのため、顔や頭部など、一生を通じて常に太陽の光にさらされている部位に集中的に発生します 。

加齢による免疫力の低下と細胞の変異

紫外線の蓄積に加えて、もう一つの大きな要因となるのが「加齢」です 。
私たちの体の中では、健康な人であっても毎日数千個のがん細胞の芽が生まれていると言われています。しかし、通常は体内の免疫細胞(白血球など)がパトロールを行い、異常な細胞を見つけ次第攻撃して排除しているため、がんとして発症することはありません。
ところが、年齢を重ねるにつれて、この免疫システムの働きは徐々に弱まっていきます。若い頃であれば免疫細胞がすぐに見つけて退治してくれていた異常な皮膚細胞が、高齢になると免疫の監視の目をすり抜けやすくなります。その結果、紫外線によるDNAの変異と、加齢による免疫力の低下という二つの条件が重なり、基底細胞がんが増殖し始めてしまうのです。これが、高齢者に基底細胞がんが多い最大の理由です。

外傷、やけどの跡、放射線などのその他の誘引因子

紫外線や加齢以外にも、以下のような特定の条件が基底細胞がんの発生リスクを高める(誘因となる)ことが報告されています 。

過去の重いやけど(熱傷)や外傷の跡

過去に深い傷ややけどを負い、それが引きつれた痕(瘢痕:はんこん)として残っている場所は、細胞の再生サイクルが通常とは異なるため、何十年も経ってからその部位からがんが発生することがあります。

放射線の被曝

過去に別の病気の治療などで、その部位に大量の放射線を浴びた経験がある場合、その部位の皮膚がんリスクが上昇することが知られています。

肌のタイプ(スキンタイプ)

生まれつき色白で、日光を浴びると肌が赤くヒリヒリするだけで、あまり黒く日焼けしないタイプの方は注意が必要です。肌を黒くするメラニン色素には紫外線をブロックするバリア機能があるため、メラニンが作られにくい色白の方は、紫外線によるDNAダメージをダイレクトに受けやすい体質と言えます。

ほくろ・シミとの違いは?基底細胞がんの鑑別診断と検査方法

患者様がご自身の皮膚に異常を感じて来院された際、皮膚科専門医が最も慎重に行うのが「鑑別診断(かんべつしんだん)」です。これは、そのできものが無害な「ほくろ」なのか、治療が必要な「基底細胞がん」なのか、あるいは極めて危険な「悪性黒色腫(メラノーマ)」なのかを正確に見極める作業です。

ご自宅でできるセルフチェック:メラノーマを見分ける「ABCDEルール」

まずは、患者様ご自身がご自宅の鏡の前でできるセルフチェックの方法をご紹介します。特に、非常に進行が早く命に関わる悪性黒色腫(メラノーマ)を見分けるための世界共通の指標として、「ABCDEルール」というものがあります 。シミやほくろを観察する際、以下のポイントに当てはまるものがないか確認してみてください。

  チェック項目  基準の名称(意味)  欧米人(白人)の基底細胞がん
A  Asymmetry(左右非対称)  ほくろを真ん中で半分に折ったと想像したとき、左右が非対称でいびつな形をしている 。良性のほくろは比較的丸く整っています。
B  Border(境界不明瞭)  周囲の正常な肌との境界線がギザギザしている、色がにじみ出ている、またはぼやけてはっきりしない 。
C  Color(色の不均一)  一つのほくろの中に、真っ黒、茶色、こげ茶、灰色など複数の色が混在し、まだら模様になっている 。
D Diameter(直径の大きさ) 一般的に直径が6ミリ(鉛筆の消しゴムの大きさ程度)以上ある大きなものは注意が必要です。
E Evolution(変化) 最も重要なポイントです。ここ数ヶ月の短期間で、急激に大きくなった、色や形が変わった、盛り上がってきた、出血したなどの明確な変化が見られる 。

基底細胞がんは、丸みを帯びて比較的境界がはっきりしており、黒一色に近いことが多いのに対し、メラノーマは「いびつで境界が不明瞭、色がまだらで急激に大きくなる」という特徴があります 。また、単なる加齢によるシミ(老人性色素斑)は、数ヶ月で急激に大きくなったり、盛り上がって出血したりすることは絶対にありません 。
もし「だんだん大きくなるシミやほくろのような点がある」「痛みはないのに出血やかさぶたを繰り返している」といった症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で放置せず、すぐに皮膚科を受診してください 。

日光角化症や有棘細胞がんとの違い

基底細胞がん以外にも、顔にできる皮膚がんやその前段階の病気があります。
一つは「日光角化症(にっこうかくかしょう)」です。これは皮膚がんの「前がん病変(がんになる一歩手前の状態)」と呼ばれており、やはり紫外線のダメージが原因で生じます。基底細胞がんが黒く光沢があるのに対し、日光角化症は「やや赤みを帯びており、表面がカサカサとしたフケやかさぶたのようなものが張り付いている」のが特徴です 。高齢者のシミの中に混ざって発生することが多く、「シミにカサカサした部分がある」という場合は注意が必要です 。
もう一つは「有棘細胞がん(ゆうきょくさいぼうがん)」です。これも紫外線の影響などで発生する皮膚がんですが、見た目は皮膚から硬く盛り上がった「しこり」になり、表面が角質化してガサガサとしているため、一般の方には「大きなイボ」のように見え、イボと間違われることがよくあります 。

皮膚科専門医による痛みのない検査「ダーモスコピー」の重要性

皮膚科の診察室では、医師が肉眼で観察するだけでなく、「ダーモスコピー」という特殊な拡大鏡を用いた検査を必ず行います。これは、現代の皮膚がん診断において必要不可欠な極めて重要な検査です。
ダーモスコピーは、皮膚の表面に特殊な光を当てて乱反射を防ぎ、表皮の深い部分や真皮の浅い部分にある色素の分布状況や、細い血管の走行を数十倍に拡大して鮮明に観察することができる医療機器です。
この検査を行うと、良性のほくろであれば規則正しい均一な網目模様が見えます。一方、基底細胞がんの場合は、専門用語になりますが「木の葉状の構造(Leaf-like areas)」「車輪状の構造(Spoke-wheel areas)」「青灰色の卵円形網の目構造」、そして表面を這うような「樹枝状の毛細血管拡張」といった、がん特有のサイン(パターン)がはっきりと浮かび上がります 。
ダーモスコピー検査は、レンズを皮膚に軽く押し当てるだけですので、痛みや出血は全くありません。時間も数分で終わります。しかし、この検査によって、経験豊富な専門医であれば、メスを入れる前にかなりの高い精度で「これは基底細胞がんの可能性が高い」と診断を下すことが可能なのです。

確定診断のための病理組織検査(皮膚生検)の流れ

ダーモスコピー検査で「基底細胞がんなどの悪性腫瘍の疑いが強い」と判断された場合、最終的な確定診断を下すために「病理組織検査(皮膚生検)」と呼ばれる検査を行います。
これは、病変部位に局所麻酔(歯医者さんで使うような部分的な麻酔)の注射をし、皮膚を数ミリ程度の小さな筒状の器具(トレパン)やメスで切り取って、それを顕微鏡で細胞レベルまで詳しく調べる検査です。切り取った傷口は、1〜2針縫合してガーゼを当てて帰宅していただきます。
採取された組織は病理専門医によって詳しく解析され、本当にがん細胞が含まれているか、もしがんならばどのタイプの皮膚がんなのか、どのくらい深くまで入り込んでいるかが1〜2週間ほどで明らかになります。この生検の結果をもって初めて、「基底細胞がん」という確定診断となり、具体的な治療方針が決定されます。

2025年最新ガイドライン対応!基底細胞がんの治療方法

基底細胞がんの治療目標は、「がん細胞を顔の奥底から一つ残らず完全に取り除くこと」と、顔面などの目立つ部位であることが多いため「治療後の傷跡を極力目立たせず、美しい外見(整容性)を保つこと」の2つを同時に達成することです。
医療は日々進歩しており、2025年には日本皮膚科学会と日本皮膚悪性腫瘍学会から、最新の「基底細胞癌診療ガイドライン2025」が発表されました 。この最新のガイドラインに基づき、現在行われている標準的な治療法について詳しく解説します。

標準治療としての外科的切除手術(縮小マージン切除の最新見解)

現在、日本において基底細胞がんの第一選択(最も優先されるべき標準治療)とされているのは、腫瘍をメスで切り取る「外科的切除手術」です 。
がんの手術において非常に重要なのが「サージカルマージン(切除マージン)」という考え方です。がんは、肉眼で見えている黒い部分のさらに外側や深部へと、顕微鏡レベルで目に見えない根を伸ばしていることがあります。そのため、再発を防ぐには、目に見える腫瘍の境界線から、数ミリ離した正常な皮膚を含めて「余裕を持って広く切り取る」必要があります。この「余裕を持たせる幅」のことをマージンと呼びます。
ここで、前述した日本人(東アジア人)特有の「腫瘍が黒い」という特徴が大きな意味を持ってきます。白人に多い境界線がぼやけた基底細胞がんでは、どこまでがんが広がっているか分かりにくいため、再発を防ぐために広めのマージンを取ることが国際的に推奨されてきました。しかし、日本人に多い色素沈着型(黒色の腫瘍)は、ダーモスコピーを用いることで境界線が極めてくっきりと明瞭に確認できます 。
この特性を踏まえ、最新の2025年版ガイドラインでは、第一の臨床的疑問(CQ1)として「色素沈着型BCCに対する縮小マージン切除」が取り上げられています 。これは、日本人の黒い基底細胞がんにおいては、従来よりも狭いマージン(切除幅を数ミリ縮小した設定)で切除しても、十分にがんを取り切ることができ、再発率も上がらない可能性が高いという見解です 。顔の手術において「切除範囲を数ミリ小さくできる」ということは、術後の傷跡を小さくし、顔の変形を最小限に抑える上で非常に画期的で患者様の負担を減らす方針と言えます。
がんを切除した後の皮膚の欠損部分(穴があいた部分)は、そのまま縫い合わせる「単純縫縮」、耳の裏や首など別の場所から皮膚をもらってきて貼り付ける「植皮術(しょくひじゅつ)」、あるいは周囲の余っている皮膚をパズルのようにずらして覆う「皮弁形成術(ひべんけいせいじゅつ)」など、形成外科的な高度な技術を用いて、機能と見た目を美しく再建します。

顔面の皮膚がんに特化した「モース手術(Mohs手術)」の現在地

鼻の先や目のキワなど、「1ミリでも正常な皮膚を残したい、でもがんは絶対に取り切りたい」という特殊でシビアな部位に対して、世界的なゴールドスタンダード(標準治療)とされているのが「モース手術(Mohs micrographic surgery)」と呼ばれる特殊な手術法です 。
1936年にFrederic Mohs医師によって開発されたこの手法は、腫瘍を一層ずつ薄く削り取るように切除し、その場ですぐに切除した組織のすべての断面(底面と側面の100%)を顕微鏡で検査します 。もし一部にがん細胞が残っていれば、その方向だけを地図のように特定し、がんが残っている部分だけをピンポイントで追加切除します。がん細胞が完全に消えるまでこのプロセスを繰り返すという、非常に手間と技術を要する手術です。
モース手術は、通常の広範囲切除の治癒率(約90%)を大きく上回り、「5年治癒率99%」という極めて高い根治性を誇りながら、正常な皮膚の切除を極限まで少なくできる理想的な治療法です 。
しかし残念ながら、現在の日本の健康保険制度では、このモース手術の特殊な検査工程が保険適用として認められていません。また、2024年の専門誌に掲載された論文(Suzuki et al.)でも指摘されている通り、日本国内においてモース手術を実施できる専門の施設や人員は極めて限られており、患者様がこの手術を受けるには大きな障壁が存在するのが現状です 。現在の日本においては、先述の「適切なマージンでの切除と、術後の精緻な病理検査」を組み合わせることで、モース手術に限りなく近い治療成績を目指すのが一般的なアプローチとなっています。

手術が難しい場合や再発時の「放射線治療」の役割

基本的には手術で切り取るのが一番ですが、ご高齢で心臓や肺に重い持病があり全身麻酔や長時間の局所麻酔に耐えられない場合や、顔の重要な器官(まぶたや鼻孔のすぐ近くなど)で切除すると著しい機能障害が残ってしまう場合、あるいは手術後にどうしても再発を繰り返してしまう場合には、「放射線治療」が重要な選択肢となります。
最新のガイドラインでも、再発した基底細胞がんに対する放射線療法の位置づけ(CQ2)が明記されています 。放射線治療は、腫瘍に直接X線や電子線などの放射線を複数回に分けて照射し、がん細胞のDNAを破壊して死滅させる方法です。
メスを入れないため体への負担が少なく、手術のような傷跡が残らないというメリットがあり、適切な線量を用いることで約90%の高い局所制御率(がんの進行を抑える確率)が得られると報告されています 。ただし、照射した部位の皮膚が年月を経て硬くなったり、白っぽく抜けたりする副作用があるほか、何十年も経ってから放射線が原因で別の皮膚がんを誘発するリスク(放射線発癌)がゼロではないため、若い患者様には推奨されず、主に高齢の患者様などに慎重に適応が検討されます。

初期病変に対する塗り薬(局所免疫応答調節薬)を用いた治療

腫瘍がまだ皮膚のごくごく浅い部分(表皮内)にのみ留まっており、厚みがない極めて初期の段階(表在型基底細胞がんなど)に対しては、メスを使わずに「塗り薬」で治療を行う場合があります。
ガイドラインのCQ3で推奨されているのが、「局所免疫応答調節薬(イミキモドクリームなど)」による外用療法です 。この薬にはがん細胞を直接殺す成分は入っていませんが、患部に塗ることで、その場所の免疫細胞を強制的に活性化させます。そして、患者様自身の強力な免疫力によってがん細胞を攻撃させ、排除させるという画期的な仕組みです。
治療中は、薬を塗った部分に強い赤みやただれ、かさぶたといった激しい炎症反応が起こりますが、これは薬が効いてがん細胞を攻撃している証拠です。炎症が治まった後は、傷跡を残さずにきれいな皮膚が再生されることが期待できるため、手術を避けたい部位の初期病変に対して有効な選択肢となります。

進行がんに対する最新の「全身療法(分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬)」

ごく稀なケースではありますが、基底細胞がんを長年放置して広範囲に深く進行し、もはや外科的手術や放射線では対応できなくなった場合(局所進行がん)、あるいはリンパ節や他臓器に転移してしまった場合に対しては、薬の点滴や内服による「全身療法」が行われます。
この分野は近年、劇的な進歩を遂げています。ガイドラインのCQ4でも取り上げられている通り、これまで治療が困難だった進行がんに対して、がん細胞が増殖するための特定のシグナル(命令)をピンポイントで遮断する「ヘッジホッグ伝達経路阻害薬(ビスモデギブなど)」や、がん細胞が免疫からの攻撃を逃れるバリアを解除し、自己の免疫細胞にがんを攻撃させる「免疫チェックポイント阻害薬」といった最新の薬剤が日本でも導入され始めています 。
これにより、進行した基底細胞がんの患者様に対しても、病状の進行を遅らせ、生活の質(QOL)を維持しながら治療を継続することが可能な時代となりつつあります。

日常生活から始める!基底細胞がんの効果的な予防方法

基底細胞がんは、日々のちょっとした心がけと生活習慣の見直しによって、発症するリスクを大幅に減らすことができるがんの一つです。また、一度治療を終えられた患者様にとっても、別の場所に新たな皮膚がんを作らないため(再発・多発予防)に、予防策の徹底は極めて重要です。

季節を問わない徹底した紫外線(UV)対策と日焼け止めの選び方

予防の第一歩であり、最大の防御策は、がんの原因となる「紫外線ダメージの蓄積」をこれ以上増やさないことです 。
「夏場や海に行くときだけ日焼け止めを塗ればいい」と思っていませんか? 紫外線は、春や秋はもちろん、冬場でも地表に降り注いでいます。また、曇りの日でも晴天時の60〜80%の紫外線が届いており、窓ガラスを通過して室内や車の中にも入り込んできます。
そのため、外出時は季節や天候を問わず、日常的に日焼け止めを塗る習慣をつけてください。

日常の買い物や散歩

SPF20〜30、PA++ 程度の日焼け止めで十分です。

長時間の屋外での作業やレジャー

SPF50、PA++++ の強力なものを選んでください。

日焼け止めは、汗で流れたり服でこすれたりして効果が薄れていくため、**「2〜3時間おきにこまめに塗り直す」**ことが、効果を持続させる最大のポイントです。顔だけでなく、首の後ろや耳、手の甲など、露出している部分への塗り忘れにご注意ください。

衣服や帽子、サングラスを活用した物理的な遮光の工夫

日焼け止めの塗布に加えて、物理的に紫外線をブロックする工夫も大切です。

帽子の着用

つばの広い帽子(つばの長さが7cm以上あるものが理想的です)を被ることで、顔や首に当たる紫外線を大幅にカットできます。

サングラスの活用

目から入る紫外線も悪影響を及ぼします。色が濃いレンズよりも、「UVカット率99%以上」と明記されたものを選ぶことが重要です。

衣服の工夫

外出時はできるだけ長袖、長ズボンを着用し、UVカット加工が施された衣服やアームカバー、日傘を積極的に活用しましょう。

時間帯の配慮

1日のうち、午前10時から午後2時までの4時間は、紫外線量が1日全体の半分以上を占めるピークの時間帯です。この時間帯の不要不急の外出や屋外での農作業などを避けるだけでも、生涯に浴びる紫外線の量を劇的に減らすことができます。

紫外線対策は、高齢になってから始めるのでは遅くありませんが、最も効果的なのは子供の頃からの予防です。ぜひ、ご家族やお孫様世代とも一緒に、日々のUVケアに取り組んでください。

早期発見の要となる「定期的な皮膚のセルフチェック」の習慣化

紫外線対策と並んで重要なのが、ご自身の皮膚の状態に常に関心を持ち、月に1回程度、全身の皮膚を観察する「セルフチェック」の習慣をつけることです。
入浴の前後や着替えの際に、明るい部屋の鏡の前で、顔面、頭皮、首回り、手の甲など、日光を浴びやすい部位を中心に、前述の「ABCDEルール」を思い出しながらチェックしてください 。
「新しくできたシミやほくろが、だんだん大きくなっていないか?」 「治りにくいニキビのようなできものはないか?」 「痛みはないのに、いつも出血やかさぶたを繰り返している場所はないか?」
背中や頭皮など、ご自身では見えにくい場所は、手鏡を使うか、ご家族に見てもらうようにしましょう。皮膚がんは、自分自身の目で見て早期発見が可能な数少ないがんです。この利点を最大限に活かすことが、ご自身の外見と健康を守るための最も効果的な手段となります

基底細胞がんの当院の役割

転移することは稀ですが、放っておくと局所破壊を続けて増大を続けます。
多くは顔の目立つところに出来ますので、小さなうちに治療してしまうことが、整容面からも大切です。
「大人になったからできた、増大傾向がある、鼻周囲のほくろみたいなできもの」には注意が必要です。
当院に何でもご相談ください。

街のかかりつけ医として、
皮膚がんを啓蒙し、早期発見に努めています。
基底細胞がんの治療はクリニックで治療可能なものもあります。
大きなもの、危険な病理組織タイプ、危険な部位などでは、基幹病院にご紹介させていただきます。

≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長