プロバンサインとは
一目でわかるプロバンサイン
プロバンサイン(一般名:プロパンテリン臭化物)は、「抗コリン薬」という種類に分類される医薬品です 。この薬は、体内の特定の神経伝達物質の働きを抑えることで、汗の分泌、胃酸の過剰な分泌、消化管の筋肉のけいれんなどを抑制する作用を持ちます 。体の特定の機能を調整する「ボリュームダイヤル」のように働き、過剰な活動を穏やかにするイメージです。
日本においては1953年から医療現場で使用されており、70年以上にわたる長い歴史を持つ薬です 。これほど長期間にわたって標準的な治療薬として使われ続けているという事実は、その有効性と安全性に関する知見が豊富に蓄積されていることを意味します。新しい薬のように未知の長期的なリスクに対する懸念が少なく、多くの医師と患者さんにとって信頼性の高い選択肢となっています。
プロバンサインが使われる主な病気
プロバンサインは、主に以下の症状や疾患の治療に用いられます。
多汗症 | 全身や、手のひら・足の裏・顔などの局所的な発汗を抑える目的で使用されます。特筆すべきは、プロバンサインが日本で多汗症に対して保険適用が認められている唯一の内服薬(飲み薬)である点です 。 |
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消化器系の病気 | 胃・十二指腸潰瘍、胃酸過多症、胃炎、過敏性腸症候群(IBS)などに見られる、消化管の過剰な運動や分泌、それに伴う痛みを和らげるために処方されます 。 |
その他の適応 | 夜尿症(おねしょ)の治療に用いられることもあります 。 |
プロバンサインの推奨度とは
プロバンサインの日本皮膚科学会による部位別の推奨度
- ワキの多汗症(推奨度C1~C2)
- 手足の多汗症(推奨度C1)
- 頭・顔の多汗症(推奨度B~C1)
塗り薬、イオントフォレーシス、ボトックス治療が無効の時に行う治療。
頭部顔面の多汗症では、有効な治療選択肢が少ないため最初から行うことがある。
プロバンサインの アメリカの多汗症センターの推奨度
- 他の治療が無効なときに試みる。
手足の多汗症は、塗り薬、イオントフォレーシスが推奨。
ワキの多汗症は、塗り薬、ボツリヌストキシン注射が推奨。
いずれの治療も無効の時、抗コリン薬内服治療は試みるべき治療である。
プロバンサインの治療効果
作用の仕組み:体の「指令」をブロックする
私たちの体は、神経から筋肉や分泌腺へ「アセチルコリン」という神経伝達物質を送ることで、様々な機能を調節しています 。例えば、脳からの「汗を出せ」という指令は、このアセチルコリンを介して汗腺に伝えられます。
プロバンサインは、このアセチルコリンが指令を伝えるための「受け皿(ムスカリン受容体)」に先回りして結合し、アセチルコリンの働きをブロックします 。これを例えるなら、アセチルコリンが「鍵」で、汗腺の受容体が「鍵穴」だとすると、プロバンサインはその鍵穴を一時的に塞いでしまうようなものです。これにより、「汗を出せ」という指令が伝わらなくなり、結果として汗の分泌が抑制されます 。同様の仕組みで、胃酸の分泌を抑えたり、消化管の異常な動きを鎮めたりします 。
この薬の作用は全身に及ぶため、塗り薬では対応が難しい顔や頭部、あるいは全身の多汗症に対して有効な治療法となります 。しかし、この全身への作用は、治療効果の源泉であると同時に、副作用の原因ともなり得ます。汗腺だけでなく、唾液腺や目の筋肉、消化管など、アセチルコリンが関わる他の多くの器官にも影響が及ぶため、口の渇きや目のかすみといった副作用が現れることがあります。これは薬が正常に作用している証拠とも言え、治療効果と副作用が同じメカニズムから生じる「表裏一体」の関係にあることを理解することが重要です。
多汗症への具体的な効果
プロバンサインは、多汗症に対して以下のような具体的な効果が期待できます。
全身的な発汗抑制 | 内服薬であるため、成分が血流に乗って全身に行き渡り、手のひらや足の裏、脇、顔、頭部など、体の広範囲にわたる発汗を抑えることが可能です 。 |
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状況に応じた使用 | プレゼンテーションや会議、面接など、特定の状況下での精神的な緊張によって引き起こされる発汗をコントロールするのに特に有効です 。 |
速やかな効果発現 | 空腹時に服用した場合、約1時間で血中濃度がピークに達し、効果が現れ始めます 。この即効性により、汗をかきたくない状況に合わせて計画的に服用することができます 。 |
プロバンサインを使用できない方
使用できない方
閉塞性隅角緑内障の方
閉塞性隅角緑内障の方は、抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状が悪化する可能性がある。
前立腺肥大による排尿障害がある方
抗コリン作用により、交感神経が優位になり、膀胱括約筋収縮・排尿筋弛緩のため、排尿障害が悪化する可能性がある。
重篤な心疾患がある方
交感神経が優位になることで、心臓の心収縮力増加、心拍数増加、刺激伝達速度促進など心臓の活動性を高める。
不整脈などの重篤な心疾患がある患者は、その症状が悪化する可能性がある。
麻痺性腸閉塞があるかた。
腸管の運動機能を抑制するため、胃潰瘍や腸炎の治療としても使われる。
腸閉塞があると、その症状が悪化する可能性がある。
使用に注意が必要な方
前立腺肥大の患者
前立腺肥大患者では排尿障害をきたしていない場合でも、抗コリン剤の投与により排尿障害を引き起こすことがある。
甲状腺機能亢進症、うっ血性心不全、不整脈のある患者
交感神経が優位にたち、心拍数が増加する可能性がある。
潰瘍性大腸炎のある患者
腸管運動抑により、中毒性巨大結腸を誘発する場合がある。
開放隅角緑内障の患者
抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させることがある。
高温環境にある患者
高温環境下では、発汗に伴う体温の放散が体温調節に重要な役割を演じている。
発汗は副交感神経の興奮により促進される。
抗コリン作用で発汗抑制されることが、重篤な場合は熱射病へ進展する可能性がある。
高齢者
高齢者は、抗コリン作用による眼の調節障害、口渇、便秘、排尿障害等があらわれやすい。
プロバンサインの副作用
プロバンサインの重大な副作用
- 該当資料無し
プロバンサインの副作用
頻度の高いものとして、
- 口の渇き(37.3%)
- 便秘(16.8%)
- 排尿障害(16.5%)
- 眼調節障害(8.6%)

プロバンサインの飲み合わせの注意
プロバンサインと同時に使用できない薬剤
無し
プロバンサインと同時に使用を注意する薬剤(やめた方が良い)
三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチン)
本剤の作用が増強する可能性があるので用量を調節するなど注意する。
フェノチアジン系薬剤(プロクロルペラジン、クロルプロマジン、ジエチルペラジンなど)
本剤の作用が増強する可能性があるので用量を調節するなど注意する。
モノアミン酸化酵素阻害剤
本剤の作用が増強する可能性があるので用量を調節するなど注意する。
ジゴキシン、メチルジゴキシン
ジゴキシン、メチルジゴキシンの作用が増強する可能性があるので、慎重に使用する。
プロバンサインの使い方
基本的な飲み方
通常、成人には1回1錠(プロパンテリン臭化物として15mg)を1日3〜4回服用します。ただし、これはあくまで標準的な用法であり、実際の服用量や回数は、年齢、症状の重さ、副作用の出方などを考慮して、医師が個別に調整します 。必ず医師の指示に従ってください。
万が一飲み忘れた場合は、気づいた時点ですぐに1回分を服用してください。ただし、次の服用時間が近い場合は、忘れた分は飲まずに、次の服用時間から通常のスケジュールに戻してください。決して2回分を一度に飲んではいけません 。
効果を最大限に引き出すためのコツ
プロバンサインの使い方は、症状の出方によって工夫することができます。
定期服用 | 常に症状に悩まされている場合は、毎日決まった時間に服用することで、血中濃度を一定に保ち、持続的な効果を得ることができます。 |
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頓服(とんぷく) | 特定の状況でのみ発汗が問題となる場合、「頓服」として必要な時だけ服用する方法が非常に有効です 。例えば、大事な会議や発表の約1時間前に服用することで、その時間帯の発汗をピンポイントで抑えることができます 。この使い方は、薬の総量を減らし、副作用を最小限に抑えることができるという利点があります。さらに、「いざという時には薬がある」という安心感が、発汗の原因となる精神的な不安そのものを軽減する助けにもなります。 |
効果をより早く、強く実感するためには、空腹時に服用することが推奨されます 。
プロバンサインの費用
プロバンサインの費用
3割負担のとき | 1錠2.52円(3円) |
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1割負担の時 | 1錠0.84円(1円) |
プロバンサイン1か月分の費用
3割負担のとき | 71円(1日3錠、28日分) |
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1割負担の時 | 24円(1日3錠、28日分) |