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アトピー性皮膚炎

ATOPIC DERMATITIS
最終更新日:2025-10-15
アトピー性皮膚炎は、皮膚の慢性的な炎症と強いかゆみを特徴とする疾患です。この病気は体質的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合って発症しますが、医学の進歩により、現在では適切な治療と日々のケアを通じて症状を良好にコントロールすることが可能です。本記事では、アトピー性皮膚炎の仕組み、最新の治療法、そして患者さん自身が生活の中で取り組める管理方法について、専門家の視点からわかりやすく解説します。

アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎の治療
日常生活での注意点
よくある質問

アトピー性皮膚炎とは

1-1. 定義:皮膚のバリアと炎症の慢性疾患

アトピー性皮膚炎は、皮膚が赤くブツブツになったり、乾燥して皮がむけたりする湿疹を、慢性的に繰り返す病気です 。
この病気の中心にあるのは、「かゆみの悪循環(Itch-Scratch Cycle)」です。アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は非常に敏感になっています。そのため、健康な皮膚では刺激と感じないようなわずかな接触や乾燥でも、強いかゆみを感じてしまいます 。
掻く行為は一時的にかゆみを和らげますが、皮膚の保護機能(バリア)をさらに破壊してしまいます。その結果、炎症が悪化し、より強いかゆみが生じるという悪循環に陥ってしまうのです 。この悪循環を断ち切ることが、アトピー性皮膚炎治療の第一目標となります。

1-2. 診断の基準:正確な鑑別診断の重要性

アトピー性皮膚炎の診断は、必ず皮膚科専門医が行います。湿疹の見た目だけでなく、症状が続く期間や、患者さんの体質など、様々な要素を総合的に判断します。
特に、以下の4つの主要な診断要素のうち、3つ以上が該当するかどうかが、診断の鍵となります 。
アトピー性皮膚炎の主な診断基準(四大項目)

 項目   内容
 1. かゆみ(そう痒)  強いかゆみを伴うこと
 2. 典型的な湿疹の形と分布  特定の部位(特に四肢の屈側など)に症状が現れること
 3. 慢性または繰り返す湿疹  症状がよくなったり悪くなったりを繰り返すこと(乳幼児で2ヶ月以上、その他で6ヶ月以上)
 4. アトピーの家族歴・既往歴  喘息、鼻炎、結膜炎などのアレルギー疾患を本人または家族が持っていること

湿疹を引き起こす病気は、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、疥癬など、多岐にわたります 。これらの病気はアトピー性皮膚炎と治療法が全く異なります。そのため、他の疾患を除外する「鑑別診断」を正確に行い、治療を始めることが、治癒に向けた最も確実なルートとなります。

アトピー性皮膚炎の症状

2-1. 症状の多様性

症状は、年齢や体の部位によって異なるパターンを示すことが知られています。一般的に、ひじの内側やひざの裏など、関節の曲がる部分(屈側)に強く出やすいのが特徴です 。
また、強いかゆみで皮膚を長期間にわたり掻き続けると、皮膚が分厚く硬くなる「苔癬化(たいせんか)」という状態になることがあります。

2-2. 重症度の判断と生活への影響

症状の程度は、皮膚炎がどれくらい広範囲に広がっているか、そして炎症の度合いに応じて分類されます 。
重症度を把握することは、単に病状を記録するだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)の低下度を評価し、どのレベルの治療(外用薬、内服薬、全身療法)を選択すべきかという治療戦略の決定に直結します 。
症状の重症度分類と日常生活への影響

 重症度  症状のイメージ 日常生活への影響
 軽症  赤みや乾燥が部分的、軽い湿疹 ほとんど支障なし
 中等症  広範囲に赤みや湿疹が広がる 強いかゆみがあり、睡眠の質や集中力に影響が出始める
 重症  皮膚がただれ、浸出液(汁)が出る部分が多い 非常に強いかゆみで掻き破りが多く、社会生活や外出に支障が出ることがある

中等症以上になると、強いかゆみによって夜間の睡眠が妨げられたり、日中の集中力が低下したりします。特に重症な場合、社会活動や学業に重大な支障をきたすことが確認されています 。このQOLの低下を防ぐためにも、積極的な治療が推奨されます。

2-3. 注意すべき合併症

重症のアトピー性皮膚炎、特に顔面に強い炎症が続いている場合は、皮膚以外の合併症にも注意が必要です。

眼症状:

顔面の重症例では、白内障や網膜剥離といった眼症状を合併するリスクが高まることが知られています 。そのため、顔の炎症に対する適切な治療は、視覚器の健康を守る上でも非常に重要です。

感染症:

皮膚のバリア機能が壊れているため、細菌やウイルスが容易に侵入し、伝染性の感染症を引き起こすことがあります 。代表的なものとして、黄色ブドウ球菌による「伝染性膿痂疹(とびひ)」や、ヘルペスウイルスによる「カポジ水痘様発疹症」などがあります 。感染症を伴う場合は、通常の炎症治療に加えて抗菌薬や抗ウイルス薬が必要になります 。

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎は、患者さんの「体質」という内側の要因と、「環境」という外側の要因が影響し合って発症・悪化します。

3-1. 内側の要因:皮膚バリアの弱さとアレルギー体質

  • 「天然の傘」の欠陥: アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は、外部からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぐ「皮膚バリア機能」が生まれつき弱くなっています 。このバリア機能は、例えるなら体を守る天然の傘ですが、それが壊れている状態です。
  • アレルギーの経路: バリアが低下すると、本来皮膚の奥まで入らないはずのダニ、花粉、ハウスダストなどのアレルゲンが容易に皮膚内部に侵入してしまいます 。
  • 免疫の過剰反応: 侵入したアレルゲンに対して、体内の免疫細胞が過剰に反応し、炎症を引き起こす物質(サイトカインなど)を放出します。これが炎症と強いかゆみの根本原因となります。
  • 遺伝的背景: 喘息やアレルギー性鼻炎といったアレルギー疾患を起こしやすい体質(アトピー素因)は遺伝的な要因も関わっており、症状の背景にある重要な要素です 。

乾燥肌

3-2. 外側の要因:悪化を引き起こす刺激

治療によって症状が落ち着いたとしても、日常生活における様々な要因が刺激となって再び炎症を引き起こします。

  • アレルゲン: ダニ、花粉、動物のフケ、特定の食物など、体質に合わないものが皮膚に接触したり、体内に取り込まれたりすることで、炎症を悪化させます 。
  • 物理的刺激・環境: 乾燥、汗、急激な温度変化、衣類による摩擦などが直接的な刺激となります 。
  • 非特異的因子: 掻破(掻くこと)自体が皮膚を傷つける最大の悪化因子です。また、精神的なストレス、睡眠不足、疲労といった生活習慣の乱れも、自律神経や免疫のバランスを崩し、症状を悪化させます 。

環境要因

アトピー性皮膚炎を長期的に管理するためには、薬による炎症抑制だけでなく、これらの悪化因子を特定し、生活の中から可能な限り排除すること が、薬物療法の効果を高める上で極めて重要です 。

アトピー性皮膚炎の治療方法

アトピー性皮膚炎の治療は、炎症を鎮める「薬物療法」と、皮膚の防御機能を回復・維持する「スキンケア」という二つの柱で成り立っています 。

4-1. 治療の三本柱と目標設定

治療の目標は、一時的に症状を抑えることではなく、症状のない安定した状態(寛解)を長期にわたり維持することです。この目標達成のため、以下の三本柱をバランスよく進めます 。

  1. 正しい診断と重症度の評価
  2. 原因・悪化因子の検索と対策
  3. スキンケア(異常な皮膚機能の補正)と薬物療法

4-2. 薬物療法(炎症を抑える外用薬)

アトピー性皮膚炎の炎症を鎮めるための中心的な治療薬です。

  • ステロイド外用薬: アトピー性皮膚炎治療の基本となる、強力な抗炎症作用を持つ薬剤です 。患者さんの皮膚炎の重症度や、皮膚の厚い部位(体幹)か薄い部位(顔、首)かに応じて、最も安全かつ効果的な強さの薬剤が選択されます 。
  • 非ステロイド系外用薬: タクロリムス軟膏(カルシニューリン阻害外用薬)は、ステロイド外用薬と並んで炎症を十分に鎮静させるための主要な薬剤です 。近年では、JAK阻害外用薬など、新しい作用機序を持つ外用薬も選択肢が増えています。
ステロイド

っとも中心となる基本的な治療です。

痒みが強い場合は、一時的に強めを使います。

稀に「血管拡張(あかみ)」や「皮膚が薄くなる」ことがあり、特に顔面で問題になります。顔面の維持期では、タクロリムスやコレクチムに切り替えます。

タクロリムス
プロトピック

ステロイドとは違う機序で治療をします。

炎症が強い時に使用すると刺激感が強いため、維持期に使用します。

JAK阻害薬
コレクチム) 

2020年に新しく出た、外用剤です。

2021年から、2歳以上の小児にも適応となりました。

4-3. 長期管理の鍵:プロアクティブ療法

ステロイド外用薬は基本の薬ですが、「副作用への不安」から、症状が改善するとすぐに塗布を止めてしまう患者さんが多くいます。しかし、これが炎症の再燃(ぶり返し)を引き起こす大きな原因となります 。
プロアクティブ(Proactive)療法は、この問題を解決するために非常に重要です 。
プロアクティブ療法の概念:
これは、皮膚の見た目が治まってきれいな状態になった後も、炎症が再燃しやすい場所に、定期的に(例:週に数回)抗炎症作用のある外用薬を塗り続ける維持療法です 。
この治療の最大の目的は、目に見えない「潜在的な炎症(サバイバル炎症)」を抑え込むことにあります。炎症が完全に鎮火していない状態で治療をやめてしまうと、すぐに再発してしまいますが、このプロアクティブ療法によって炎症の芽を摘み続けることで、皮膚を長期的に良い状態に保つことができます 。結果的に、強い薬を頻繁に使う必要がなくなり、総使用量の軽減にもつながる、現代の合理的な治療戦略です。

4-4. 全身療法:重症・難治性アトピーへの選択肢

外用薬や従来の治療では症状のコントロールが難しい中等症から重症の患者さんに対しては、内服薬や注射薬(全身療法)が検討されます 。

  • 内服薬: 主にかゆみを抑えるための抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)や、免疫を調整する薬剤が用いられます。
  • 生物学的製剤(注射薬): これはアトピー性皮膚炎の治療を大きく変えた最新の治療法です 。
    • 作用機序: 従来の治療薬が広範囲に作用するのに対し、生物学的製剤はアトピー性皮膚炎の炎症や強いかゆみを引き起こす特定の情報伝達物質(サイトカイン)のみをピンポイントでブロックします 。
    • 例: インターロイキン4と13(IL-4/13)の働きを抑えるデュピクセント(6ヶ月以上から適用)や、かゆみの原因物質であるIL-31を抑えるミチーガ(6歳以上から適用)などがあり、重症患者さんのQOL向上に大きな効果をもたらしています 。
シクロスポリン
(ネオーラル®) 

乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚炎疾患治療に広く使用されています。

治療効果は高いですが、腎機能障害を起こすことがあるため定期的な血液検査が必要です。また、高血圧になることがあるため、血圧測定も必要です。いずれも、早期発見して休薬すれば改善します。

ステロイド内服

一時的な症状緩和に用いることがあります。

効果は強いですが、副作用のため長期間連続内服することはありません。

抗アレルギー薬

かゆみを抑えるために、補助的に使用します。

長期間でも安全に使用できます。

デュピクセント

効果も安全性も非常に高い治療です。

値段が高価なのがネックになります。

当院で可能です。

JAK阻害薬
オルミエントリンヴォック) 

2020年に新しく出た、飲み薬です。

いずれも治療開始前に、胸部レントゲンを含めたい検査が必要です。

リンヴォックは12歳以上の小児にも使用することが出来ます。

基幹病院にご紹介いたします。

4-5. 光線療法:その他の選択肢

外用治療でコントロール出来ないときに、外用治療と併用します。
肝障害や腎障害のため内服治療が出来ないときなどでも使用できる安全性の高い治療です。

ナローバンドUVB

皮疹が広範囲の時に、良い適応です。当院で可能です。

エキシマライト

小範囲に強い308nmを照射する最新の光線治療です。

これまでの治療より効果が強く、従来の紫外線治療で無効だった場合でも効果が出ることがありあます。

病変部位のみに照射が出来るため、安全性にも優れています。当院で可能です。

アトピー性皮膚炎の予防方法(日常生活での管理)

予防とは、日々の生活の中で悪化因子を避け、皮膚のバリア機能を守り、体全体のバランスを整えることです。

5-1. スキンケアの徹底:清潔と保湿

スキンケアは、薬物療法の効果を発揮させるための「治療の土台」です 。保湿剤によるケアは、失われた皮膚のバリア機能を物理的に補い、回復・維持するために不可欠な治療の一環です 。

清潔の維持

入浴やシャワーで、汗、皮脂、皮膚に付着したアレルゲンや汚れを毎日洗い流し、皮膚を清潔に保ちます 。ただし、熱すぎるお湯や、肌を傷つけるゴシゴシ洗いは、バリアをさらに壊すため避けましょう。

効果的な保湿

保湿剤は、入浴後やシャワー後など、皮膚に水分が十分にある状態で塗るのが最も効果的です 。皮膚が潤っている状態を逃さず、すぐに保湿剤でフタをして、水分を閉じ込めるイメージです。このタイミングを逃さないことが、バリア機能の防御力を最大限に高める具体的な行動指導となります。

保湿剤の種類

ヘパリン類似物質含有製剤、白色ワセリン、尿素製剤など、様々なタイプがあります 。継続的な使用が重要なので、医師と相談し、「自分自身に使用感の良い」保湿剤を選ぶことが、治療継続の鍵です 。

5-2. 体質改善を目指す生活習慣

薬の効果を最大限に引き出し、再発しにくい体を作るには、免疫、自律神経、消化機能など、体全体のバランスを整えることが、根本的な体質改善に繋がります 。

睡眠の確保

皮膚の修復に必要な成長ホルモンは、夜間の深い睡眠中に多く分泌されます。夜10時から12時までの間に就寝するなど、規則正しい生活リズムを心がけ、十分な睡眠時間を確保することが重要です 。

食事のバランス

腸内環境を整えるために、発酵食品や食物繊維、皮膚の修復に必要なビタミンやミネラルを意識的に摂取しましょう 。自己判断で多くの食品を制限することは栄養不足を招くリスクがあるため、避けてください。

適度な運動とストレス管理

週に2〜3回、30分程度のウォーキングやストレッチなどの軽い運動は、血行を促進し、ストレス解消に役立ちます 。ただし、汗や摩擦は悪化因子となるため、運動後はすぐにシャワーを浴びて、速やかに保湿ケアを行う必要があります。

よくある質問

Q
掻いてしまうのは意志が弱いからですか?

A
いいえ、アトピー性皮膚炎のかゆみは炎症という病気が原因であり、意志の力で我慢できるものではありません。
かゆみが強くて掻いてしまう自分を責める必要はありません。かゆみを止める最善の方法は、治療薬を用いて炎症を根本から抑えることです。炎症が治まれば、かゆみも自然と軽減します。
 

Q
ステロイド外用薬は副作用が心配です。長期間使っても大丈夫ですか?

A
 医師の指示のもとで、塗る量や塗る期間を正しく守って使用すれば、安全性が確立されている薬剤です。多くの患者さんは副作用を恐れ、炎症が残っているのに塗布をやめてしまいがちです。しかし、治療が不十分なまま放置すると、症状が慢性化し、かえって強い炎症の治療に長期間追われることになります。プロアクティブ療法のように、皮膚の良い状態を維持するために計画的に塗布することは、長期的に見た場合に、結果として総使用量を減らすことに繋がります。
 

Q
新しい注射薬(生物学的製剤)は誰でも治療を受けられますか?

A
生物学的製剤は、主に中等症から重症のアトピー性皮膚炎で、外用薬や従来の治療薬だけでは十分な効果が得られない患者さんに対して適用されます 。製剤の種類によって、適用できる年齢(例:6ヶ月以上、6歳以上など)に制限が設けられています 。この治療法に関心がある場合は、専門の皮膚科医にご相談いただき、ご自身の症状が適応基準を満たしているか確認してください。
 

Q
アレルギー検査で陽性が出た食品は、すべて除去すべきですか?

A
検査で陽性反応が出たからといって、必ずしもその食品が現在のアトピー性皮膚炎の症状を引き起こしているわけではありません。特に成人では、食物が皮膚炎の主な原因となることは稀です。自己判断による過度な食物除去は、栄養バランスを崩し、かえって皮膚や体全体の健康状態を悪化させるリスクがあります。必ず専門医の指導のもとで、必要最低限の除去を行うことが原則です。
 
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長