ブイタマークリームとは

アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬といった、長く付き合っていく必要のある皮膚の症状にお悩みの方へ、新しい治療の選択肢として「ブイタマークリーム」が登場しました。このお薬は、これまで多くの治療で中心的な役割を果たしてきたステロイドを含まない、非ステロイド性の塗り薬です 。有効成分は「タピナロフ」と呼ばれ、これまでの塗り薬とは異なる新しいアプローチで皮膚の症状に働きかけます 。
多くの方がステロイド外用薬の長期使用による皮膚が薄くなるなどの副作用を心配されますが、ブイタマークリームはそのような心配がないため、治療の新たな選択肢として期待されています 。

皮膚の「司令塔」を活性化する、ユニークな作用

ブイタマークリームの製品画像
ブイタマークリームの最大の特徴は、そのユニークな作用メカニズムにあります。このお薬は、私たちの皮膚細胞の中にある「芳香族炭化水素受容体(AhR)」と呼ばれる部分を活性化させることで効果を発揮します 。
このAhRは、いわば皮膚の健康をコントロールする「司令塔」や「マスタースイッチ」のようなものです。普段から私たちの体内で様々な物質によって活性化され、皮膚のバランスを保つ役割を担っています。ブイタマークリームの有効成分タピナロフは、この司令塔に働きかけて、皮膚の炎症を鎮め、正常な状態に戻すための適切な指令を出させるように促します 。

「炎症を抑える」+「バリアを立て直す」の二つの働き

AhRが活性化されると、主に二つの重要な効果がもたらされます。これがブイタマークリームの治療効果の核となる部分です。

  1. 炎症を鎮める働き:アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬の赤み、腫れ、かゆみの原因となるのは、皮膚内部で過剰に作られる炎症性サイトカインという物質です。ブイタマークリームは、この炎症性サイトカイン(アトピー性皮膚炎に関わるIL-4やIL-13、乾癬に関わるIL-17など)の産生を抑える指令を出します 。さらに、皮膚が本来持つ抗酸化力を高め、炎症によるダメージから皮膚を守ります 。
  2. 皮膚のバリア機能を立て直す働き:多くの治療薬が炎症を抑えることに主眼を置くのに対し、ブイタマークリームは皮膚の「守る力」そのものを再構築する手助けをします。皮膚のバリア機能に不可欠なタンパク質(フィラグリンやインボルクリンなど)の産生を促すことで、皮膚の構造を強化し、外部からの刺激や乾燥から肌を守る力を高めます 。

これまでの治療が、主に炎症という「火事」を消すことに重点を置いていたとすれば、ブイタマークリームは火事を消すと同時に、焼け落ちた家の「壁」を再建するような働きをします。単に症状を抑えるだけでなく、皮膚そのものをより健康で刺激に強い状態へと導くことを目指す、新しい考え方の治療薬です。これにより、一時的な改善だけでなく、症状が再発しにくい安定した皮膚状態を長期的に維持できる可能性が期待されます。

ブイタマークリームの治療効果

アトピー性皮膚炎の患者さんへ

ブイタマークリームは、12歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さんに使用が認められています 。このお薬は、アトピー性皮膚炎の主な症状である湿疹(赤み、ブツブツ、カサカサ)、皮膚全体の炎症、そして日常生活や睡眠の質を著しく低下させるしつこいかゆみを軽減する効果が期待されます 。治療の目標は、皮膚が「きれい、または、ほとんどきれいな状態」になること、そしてかゆみに悩まされることのない穏やかな毎日を取り戻すことです。

尋常性乾癬の患者さんへ

成人の尋常性乾癬に対しても承認されています 。尋常性乾癬に特徴的な、皮膚が厚く盛り上がり、赤みを帯びてフケのような鱗屑(りんせつ)が剥がれ落ちる症状に対して、ブイタマークリームは効果を発揮します。乾癬の病態に深く関わる炎症性サイトカインであるIL-17の産生を抑えることで、これらの症状を改善し、より滑らかで正常な皮膚へと導きます 。

治療効果の持続性:お薬を塗らない期間への期待

ブイタマークリームの特に注目すべき点は、治療によって症状が改善した後、お薬の使用を中止しても、その良好な状態が一定期間続く可能性が示されていることです 。
これは、単にお薬を塗っている間だけ症状を抑え込むのではなく、皮膚の炎症状態そのものをリセットし、より安定した状態へと導くことで、再発までの期間を延長させる効果があるためと考えられます。慢性的な皮膚疾患を持つ患者さんにとって、毎日お薬を塗り続けるという負担は決して小さくありません。治療の目標が「日々の症状管理」から、「症状のない期間を長く維持すること」へと変わる可能性を秘めており、これは生活の質を大きく向上させることにつながります。このお薬は、症状のコントロールだけでなく、寛解(症状が落ち着いている状態)を目指すための強力なツールとなり得ます。

ブイタマークリームの臨床研究

承認の根拠となった臨床試験

新しいお薬が世に出るまでには、その有効性(効果)と安全性(副作用)を科学的に証明するための厳格な臨床試験(治験)が行われます。ブイタマークリームも、日本国内で多くの患者さんの協力のもと臨床試験が行われ、その結果に基づいて厚生労働省から承認されました 。

国内臨床試験からわかったこと

日本で行われた大規模な臨床試験では、アトピー性皮膚炎と尋常性乾癬の両方で、ブイタマークリームの有効性と安全性が確認されました。

  • アトピー性皮膚炎(ZBB4-1試験、ZBB4-2試験):試験に参加した多くの患者さんで、医師が評価する総合的な重症度が「消失またはほぼ消失」という目標を達成しました。また、湿疹の範囲や重症度を示すEASIスコアやかゆみの程度も、著しく改善することが示されました 。
  • 尋常性乾癬(ZBA4-1試験、ZBA4-2試験):同様に、多くの患者さんで皮膚症状が「消失またはほぼ消失」という目標を達成しました。乾癬の重症度を示すPASIスコアも大幅に改善し、高い治療効果が確認されました 。

国内の成人アトピー性皮膚炎216名の治療効果

対象

成人アトピー性皮膚炎患者(12歳以上)

病変の範囲が体表面積の5%~30%

IGAスコアが3(中等症)または4(重症)

EASIスコア(被髪頭部を除く)が10以上の患者

治療方法

成人のアトピー性皮膚炎患者に治験薬を1日1回、8週間塗布した。

評価方法

治験薬投与8週後におけるIGAの反応率により治療効果を評価した。

効果

<ブイタマー群>

20.24%の方で症状が消失またはほぼ消失し、IGAスコアが2段階以上改善した。

<プラセボ群>

2.24%の方しか症状の改善が見られなかった。

国内の成人尋常性乾癬158名の治療効果

対象

軽症~重症の成人尋常性乾癬患者

PGAスコアが2(軽症)~4(重症)

PASIスコアが5以上

病変%BSAが3~20%

治療方法

治験薬を1日1回、12週間塗布した。

評価方法

治験薬投与12週後におけるPGAの反応率により治療効果を評価した。

効果

<ブイタマー群>

20.06%の方で症状が消失またはほぼ消失し、PGAスコアが2段階以上改善した。

<プラセボ群>

2.50%の方しか症状の改善が見られなかった。

1年間の長期使用における有効性と安全性

慢性的な病気であるアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬の治療では、お薬を長期間使用することが多いため、長期的な安全性は非常に重要です。ブイタマークリームは、52週間(約1年間)にわたる長期投与試験も実施されています 。
この試験から得られた重要な結果は二つあります。一つは、治療効果が1年間にわたって維持されたこと。もう一つは、長期間使用しても新たな、あるいは予期せぬ重篤な安全性の問題は認められなかったことです 。
短期間の試験で確認された副作用(毛包炎、接触皮膚炎、頭痛など)の種類は、1年間の長期試験でも同様であり、その発生頻度も予測の範囲内でした 。これは、お薬の安全性のプロファイルが長期間にわたって一貫していることを示唆しています。医師が患者さんに対して、「このお薬の副作用については1年間のデータがあり、長期的に使っても新たな心配事は増えにくいと考えられます」と、しっかりとした根拠を持って説明できることは、安心して治療を続ける上で大きな意味を持ちます。

国内の成人アトピー性皮膚炎291名の長期使用による効果と安全性

対象

成人アトピー性皮膚炎患者(12歳以上)

病変の範囲が体表面積の5%~30%

IGAスコアが2(軽症)または4(重症)

EASIスコア(被髪頭部を除く)が5以上の患者

治療方法

成人のアトピー性皮膚炎患者に治験薬を1日1回、52週間塗布した。

評価方法

治験薬投与52週後におけるIGA反応率と副作用を評価した。

効果

<ブイタマー群>

41.3%の方で症状が消失またはほぼ消失し、IGAスコアが2段階以上改善した。

安全性

重篤な副作用は見られなかった。

適用部位毛包炎17.9%(52/291例),適用部位ざ瘡16.2%(47/291例),頭痛13.7%(40/291例),アトピー性皮膚炎8.2%(24/291例),ざ瘡7.2%(21/291例)及び接触皮膚炎5.5%(16/291例)をみとめた。

ブイタマークリームの副作用

ブイタマークリームの 安全性について

ステロイド外用薬の長期使用に伴う血管拡張や、皮膚が薄くなることがありません。
タクロリムス軟膏のような使い始めに伴う、ヒリヒリ感もありません。 
 

ブイタマークリームの副作用について

適用部位毛包炎15.6%(31/199例),頭痛11.1%(22/199例),適用部位ざ瘡8.5%(17/199例),毛包炎及びざ瘡がそれぞれ4.0%(8/199例)、アトピー性皮膚炎3.0%(6/199例)であった。

ブイタマークリームの使い方

1日1回の簡単な使用法

ブイタマークリームは、1日1回、症状のある部分に塗布します 。毎日決まった時間に塗ることで、塗り忘れを防ぎ、安定した効果が期待できます。

適量を守るための目安:「フィンガーチップユニット(FTU)」

塗り薬は、量が少なすぎると十分な効果が得られず、多すぎても副作用のリスクが高まることがあります。そこで目安となるのが「フィンガーチップユニット(FTU)」という単位です。

  • 1FTUとは?:チューブの口径が5mmの場合、大人の人差し指の先端から第一関節までクリームを絞り出した量です 。
  • 1FTUの重さは?:約0.5gに相当します 。
  • 1FTUで塗れる面積は?:大人の手のひら2枚分の面積に塗るのが適切な量です 。

正しい塗り方のステップ

  1. 塗る前には、手をきれいに洗い、水気を拭き取ってください。塗る部分の皮膚も清潔で乾いた状態にしておきましょう。
  2. FTUを目安に、適切な量のクリームを指先に出します。
  3. 症状のある部分に、薄く均一にクリームを置くように広げます。
  4. 注意点:ゴシゴシと強くすり込まないでください。やさしくのばすだけで十分です。塗った後に少し白く残ることがありますが、時間とともになじんでいきます 。
  5. 塗り終わったら、手をよく洗ってください(ただし、手のひらを治療している場合を除く)。

使用する上での大切な注意点

  • 目や口、鼻の中などの粘膜には塗らないでください 。
  • 万が一、目に入ってしまった場合は、すぐに水かぬるま湯で十分に洗い流してください 。
  • 傷口、潰瘍、じゅくじゅくして皮膚がめくれている部分(びらん)への使用は避けてください 。

ブイタマークリームを使用できない方

絶対に使用してはいけない方

ブイタマークリームを絶対に使用してはいけないのは、過去にこのお薬の有効成分(タピナロフ)や、その他の配合成分に対してアレルギー反応(過敏症)を起こしたことがある方です 。

使用前に医師との相談が特に必要な方

以下に該当する方は、使用が禁止されているわけではありませんが、治療上のメリットとリスクを慎重に判断する必要があるため、必ず事前に医師に相談してください。

妊娠中・授乳中の方

妊娠中・授乳中の女性を対象とした臨床試験は行われていません。動物実験では、人間が使用する量よりもはるかに多い量を投与した場合に胎児への影響が報告されています 。そのため、医師が治療によるメリットがリスクを上回ると判断した場合にのみ使用されます 。また、動物実験では母乳へ成分が移行することが確認されています 。

お子様

承認されている年齢が疾患によって異なります。

アトピー性皮膚炎:12歳以上の小児および成人が対象です 。12歳未満のお子様に対する有効性と安全性はまだ確立されていません。

尋常性乾癬:成人のみが対象です。お子様に対する臨床試験は行われていません 。

皮膚に感染症がある方

細菌、ウイルス(ヘルペスなど)、真菌(水虫など)による感染症がある場合は、まずその治療を優先します。感染が起きている部位への塗布は避けてください 。

ブイタマークリームの費用

治療を継続する上で、お薬の費用は重要な要素です。ここでは、モイゼルト軟膏の公定価格(薬価)と、患者さんが実際に窓口で支払う費用の目安について説明します。

公定価格(薬価)について

日本において医療用医薬品の価格は国によって定められており、これを「薬価」と呼びます。2025年現在のブイタマークリームの薬価は以下の通りです。

  • ブイタマークリーム1%: 1gあたり300.8円

患者さんの自己負担額の目安(3割負担の場合)

実際に患者さんが支払う金額は、この薬価に、ご自身の健康保険の自己負担割合(多くの方は3割)を掛けた金額になります。一般的に処方される10gチューブ1本あたりの自己負担額の目安は以下の通りです。

   15gチューブ1本あたりの薬価  患者さんの自己負担額の目安(3割負担の場合)
 ブイタマークリーム1% 4,512円  約1,350円

注意: 上記は薬剤費のみの概算です。実際の支払い額には、診察料や処方料、調剤薬局での技術料などが加わりますので、多少前後します。

よくある質問

Q
 クリームを塗り忘れた場合はどうすればよいですか?

A
気づいた時点ですぐに1回分を塗ってください。ただし、次の通常塗る時間が近い場合は、忘れた分は塗らずに、次の時間に1回分を塗ってください。一度に2回分を塗ることは絶対にしないでください 。
 

Q
 顔や首など、皮膚の薄い部分にも使えますか?

A
はい、使用できます。ブイタマークリームは非ステロイド性のため、ステロイド薬の長期使用で懸念される皮膚が薄くなるような副作用の心配がありません。そのため、顔や首などのデリケートな部分にも使いやすいお薬です。ただし、他の部位と同様に、塗った部分に刺激感が出ることがありますので、必ず医師の指示に従って使用してください 。
 

Q
効果が出るまでどれくらいかかりますか?

A
個人差はありますが、多くの場合、数週間で症状の改善が見られ始めます。大切なのは、毎日継続して使用することです。治療の目安として、アトピー性皮膚炎では8週間 尋常性乾癬では12週間 使用しても改善が見られない場合は、治療方針を見直すために医師と相談することが推奨されています 。
 

Q
長期間使っても安全ですか?皮膚が薄くなるような心配はありませんか?

A
ブイタマークリームは、最長1年間(52週間)の臨床試験で安全性が確認されており、長期使用によって新たな重篤な副作用が増えることは報告されていません。また、このお薬はステロイドではない ため、ステロイドの長期使用で問題となる皮膚萎縮(皮膚が薄くなること)の副作用はありません 。
 

Q
 保湿剤など、他のスキンケア製品と一緒に使ってもよいですか?

A
必ず医師に相談してください。
ブイタマークリーム自体に皮膚のバリア機能を改善する働きがあるため、人によっては保湿剤の使用頻度や量を減らせる可能性があります 。もし保湿剤を併用する場合は、ブイタマークリームを塗る前か後か、どのくらい時間を空けるかなど、最適な使い方について医師や薬剤師の指示に従ってください。
 

Q
クリームはどんな使用感ですか?ベタつきますか?

A
ブイタマークリームは白色のクリーム剤です。
一般的に、においはほとんどなく、ベタつきも少ないとされています。伸びが良く、塗り心地が良いように設計されています 。
 

Q
数週間使っても全く良くならない場合はどうすればよいですか?

A
上記の通り、一定期間使用しても効果が見られない場合は、治療が適切かどうかを評価する必要があります。医師の指示通りに、アトピー性皮膚炎で8週間、尋常性乾癬で12週間使用しても明らかな改善が見られない場合は、再度受診して、今後の治療について医師と相談してください 。