水虫とは:その正体と誤解

水虫の正体:皮膚に住み着くカビ「白癬菌」

水虫は、その名前に「虫」という漢字が使われていますが、虫が原因の病気ではありません。その正体は、「白癬菌(はくせんきん)」というカビ(真菌)の一種です 。この白癬菌が、皮膚の一番外側にある「角質層(かくしつそう)」に感染し、そこで繁殖することで発症します 。
白癬菌は、私たちの皮膚や髪の毛、爪の主成分であるケラチンというタンパク質を栄養源にして生きています 。そして、カビの仲間であるため、暖かく湿った環境を非常に好みます。具体的には、気温15℃以上、湿度70%以上の環境で活発に増殖します 。この性質のため、水虫は汗をかきやすく蒸れやすい梅雨から夏にかけて症状が悪化し、空気が乾燥する冬には症状が落ち着く傾向があります 。

足だけではない水虫:体や頭、爪にも広がる感染症

「水虫」というと一般的に足の感染症(足白癬:あしはくせん)を指しますが、原因となる白癬菌は体のどこにでも感染する可能性があります 。感染した場所によって、以下のように呼び名が変わります。

体部白癬

ぜにたむし 腕や脚、胴体などに感染したもので、かゆみを伴う円形や輪っか状の赤い発疹として現れることが多いです 。

股部白癬

いんきんたむし 太ももの付け根(股部)に感染したもので、強いかゆみを伴います 。

頭部白癬

しらくも 頭皮に感染し、フケやかさぶた、円形の脱毛などがみられます。柔道やレスリングなどの格闘技選手の間や、犬や猫などのペットから感染することもあります 。

手白癬

手水虫 手のひらや指に感染したものです。多くの場合、自分の足の水虫を触ることで感染が広がります 。

ここで非常に重要なのは、これらの「たむし」や「しらくも」は、水虫とは別の病気ではないということです。すべて同じ白癬菌が原因であり、多くの場合、治療されずに放置された足の水虫が感染源となって、体の他の部位へと広がっていきます 。つまり、股のかゆみ(いんきんたむし)を一生懸命治療しても、その根本原因である足の水虫を治さなければ、再発を繰り返す可能性が高いのです。水虫の治療は、症状が出ている部分だけでなく、感染の「大元」を断つという視点が不可欠です。

日本における水虫:多くの人が悩む身近な病気

水虫は非常にありふれた病気で、日本では5人に1人、60歳以上では2人に1人がかかっているとも言われています 。かつては成人男性に多い病気というイメージがありましたが、近年では男女差は縮まってきています 。特に女性の場合、ファッション性の高いブーツやパンプス、通気性の悪いストッキングなどを長時間着用する機会が増えたことが一因と考えられています。これらの履物は靴の中を高温多湿な状態にし、白癬菌にとって絶好の繁殖環境を作り出してしまうのです 。

水虫の症状:タイプ別の見分け方と注意点

水虫の症状は一つではなく、いくつかのタイプに分かれます。そして、多くの人が抱いている「水虫はかゆいもの」というイメージは、実は大きな誤解を含んでいます。かゆみのない水虫こそ、治療が遅れ、家族への感染源となりやすい危険なタイプなのです。

足に現れる3つの基本タイプ

足の水虫は、主に以下の3つのタイプに分類されます 。

趾間型

足の指の間にできる、最も一般的なタイプの水虫です 。特に、薬指と小指の間によく見られます 。

ジクジク型(湿潤型): 皮膚が白くふやけて、皮がむけ、ジクジクと湿った状態になります。皮をむくと赤くただれることもあります 。

カサカサ型(乾燥型): 指の間が乾燥してカサカサになり、皮がむけたり、ひび割れ(亀裂)が生じたりします 。 強いかゆみを伴うことが多いですが、かゆみが全くない場合もあります 。

小水疱型

足の裏(特に土踏まず)や足の側面、指の付け根などに、赤みを帯びた小さな水ぶくれ(水疱)がたくさんできるタイプです 。新しい水ぶくれができる時に、激しいかゆみを伴うことが特徴です 。水ぶくれが破れると液体が出て、その後乾燥して皮がポロポロとむけていきます 。

角質増殖型

かかとを中心に、足の裏全体の皮膚が厚く、硬くなるタイプです。表面はカサカサ、ザラザラして、白い粉をふいたように見えたり、ひび割れを起こして痛みを伴ったりすることもあります 。 このタイプの最大の問題点は、かゆみがほとんどないことです 。そのため、単なる乾燥肌やかかとの荒れだと思い込み、水虫だと気づかずに放置している人が非常に多いのです 。しかし、これは水虫が慢性化し重症化した状態であり、厚くなった角質から常に白癬菌がばらまかれるため、家族内で最も強力な感染源となります 。市販の塗り薬では治りにくく、専門的な治療が必要になることが多いタイプです 。

見過ごされやすい「爪水虫(爪白癬)」

足の水虫を長年放置していると、白癬菌が爪にまで侵入し、「爪水虫(爪白癬:つめはくせん)」を発症することがあります 。 症状としては、爪が白や黄色、黒っぽく濁って変色したり、分厚くなったり、もろくなってボロボロと崩れたりします 。 爪水虫も角質増殖型と同様に、痛みやかゆみといった自覚症状が全くありません 。そのため、多くの人が気づかないまま生活しており、これが「静かなる感染源(サイレント・スプレッダー)」となってしまいます。治療されていない爪からは常に白癬菌が供給され、自分の足に水虫を再発させたり(自家感染)、家族にうつしたりする原因となるのです 。
 
【表1】水虫のタイプ別症状比較表

   主な場所  見た目の特徴 かゆみ ポイント
 趾間型  足の指の間(特に薬指と小指の間)  ・白くふやけてジクジクする ・カサカサして皮がむける 強いことが多いが、ない場合もある 最も一般的なタイプ。夏に悪化しやすい。
 小水疱型  足の裏(土踏まず)、足の側面  ・赤みを帯びた小さな水ぶくれ ・水ぶくれが破れて皮がむける 強いことが多い 新しい水ぶくれができる時にかゆみが強くなる。
 角質増殖型  かかと、足の裏全体  ・皮膚が厚く、硬く、カサカサになる ・ひび割れを伴うことがある ほとんどない 乾燥肌と間違えやすい。家族への主要な感染源。
 爪白癬  足の爪(特に親指)  ・爪が白や黄色に濁る ・爪が分厚くなる、もろくなる 全くない 自覚症状がなく気づきにくい。治療しない限り菌をまき散らし続ける。

水虫と間違えやすい他の皮膚疾患

足の皮がむけたり、水ぶくれができたり、かゆかったりする症状は、必ずしも水虫が原因とは限りません。以下のような、水虫とよく似た症状を示す別の皮膚病もあります 。

異汗性湿疹(かんぽう)

手のひらや足の裏に小さな水ぶくれができ、強いかゆみを伴います。汗が原因の一つとされています 。

接触皮膚炎(かぶれ)

特定の物質(化学繊維、薬剤、金属など)が皮膚に触れることで起こる炎症です 。

掌蹠膿疱症

手のひらや足の裏に、膿を含んだ小さな水ぶくれ(膿疱)が繰り返しできます 。

これらの病気に水虫薬を使っても効果がないばかりか、かえって症状を悪化させてしまうこともあります。自己判断はせず、まずは皮膚科で正確な診断を受けることが非常に重要です 。
 

水虫の原因:どこから来て、なぜうつるのか

水虫は感染症ですが、白癬菌が皮膚に付着したからといって、すぐに感染が成立するわけではありません。感染には「菌の付着」と、その後の「増殖に適した環境」という二つの条件が揃う必要があります。

感染のメカニズム:白癬菌の侵入と増殖

水虫の感染は、水虫にかかっている人から剥がれ落ちた皮膚の垢(あか)や角質の断片を介して起こります 。この小さな皮膚片の中に、白癬菌が生きたまま潜んでいるのです 。
重要なのは、この菌が健康な皮膚に付着しても、すぐに皮膚の内部に侵入するわけではないという点です。通常、白癬菌が角質層に侵入して感染を成立させるまでには、約24時間以上かかると言われています 。つまり、菌が足についても、24時間以内に洗い流せば感染を防ぐことができるのです。
ただし、注意点もあります。足に小さな傷や擦り傷があると、そこから菌が侵入しやすくなり、感染成立までの時間が約12時間に短縮されることがあります 。軽石や硬いナイロンタオルで足をゴシゴシ洗う習慣は、皮膚に目に見えない傷を作る可能性があり、かえって感染リスクを高めてしまうため避けるべきです 。
そして、菌が皮膚に付着したまま靴や靴下を履き続けると、内部が高温多湿(気温15℃以上、湿度70%以上)という白癬菌が好む環境になり、菌が一気に増殖して水虫を発症します 。
このメカニズムを理解すると、水虫予防の考え方が変わります。温泉やジムの床にいるかもしれない菌を過度に恐れるのではなく、「菌はどこにでもいるもの」と捉え、「付着した菌を24時間以内に洗い流し、増殖させない環境を自分で作る」という proactive な対策が有効であることがわかります。恐れるのではなく、管理することが重要なのです。

主な感染経路

白癬菌は、感染者の足から剥がれ落ちた皮膚片が存在する場所であれば、どこにでも潜んでいます。

家庭内感染

最も多い感染経路です。家族に水虫の人がいると、素足で共有する場所や物を介して感染が広がります。

特に危険な場所・物:バスマット(足ふきマット)、スリッパ、カーペット、畳など 。特にバスマットは湿気を含みやすく、家族が次々と使うため、白癬菌の温床となりやすいです 。

公共の場での感染

不特定多数の人が裸足で利用する場所は、感染のリスクが高まります。

  銭湯、温泉、プール、スポーツジムの更衣室やシャワールームなど 。

ペットからの感染

犬や猫などのペットが白癬菌に感染している場合、接触することで人にうつることがあります。この場合、足よりも頭(しらくも)や体(ぜにたむし)に症状が出ることが多いです 。

治療方法:自己判断せず、正しく治し切るために

水虫は感染症であり、自然に治ることはありません 。白癬菌を殺すための適切な治療が必要です。しかし、治療の成否は、薬の選択だけでなく、「正しい使い方を最後まで続けられるか」にかかっています。

治療の基本原則:自然治癒はしない

まず大前提として、水虫は放置しても治りません。かゆみなどの症状が冬場に和らぐことはありますが、菌が完全にいなくなったわけではなく、角質層の奥で潜んでいるだけです 。暖かく湿った季節になれば、再び活動を再開し、症状がぶり返します。完治には、抗真菌薬(白癬菌を殺す薬)による積極的な治療が必須です。

市販薬(OTC医薬品)によるセルフケア

ドラッグストアなどで購入できる市販薬は、軽症の足水虫の治療に有効です 。

  • 市販薬で対応できる水虫: 症状が比較的軽い「趾間型」や「小水疱型」は、市販薬で治療できる可能性があります 。最近の市販薬は、医療用から転用された優れた抗真菌成分を含んでおり、かゆみ止め成分などが配合されているものもあります 。
  • 市販薬では治せない水虫:
  • 爪水虫(爪白癬): 日本国内で、爪水虫に効果が認められている市販薬は存在しません(2025年3月時点)。爪水虫の治療には、医師の処方が必要な飲み薬や特殊な塗り薬が不可欠です。
  • 角質増殖型: かかとがガサガサになるこのタイプは、皮膚が厚く硬いため市販の塗り薬の成分が浸透しにくく、完治は非常に困難です 。多くの場合、医療機関での専門的な治療が必要となります。

皮膚科での専門的な治療

水虫が疑われる場合、最も確実なのは皮膚科を受診することです。

  • 正確な診断の重要性: 皮膚科では、患部の皮膚や爪を少量採取し、顕微鏡で白癬菌がいるかどうかを直接確認します(顕微鏡検査)。これにより、水虫なのか、それとも似た別の病気なのかを確実に診断できます。**注意点として、受診前に市販薬を一度でも塗ってしまうと、菌が見つけにくくなり、正しい診断ができなくなることがあります。**初めての症状であれば、薬を塗らずに受診しましょう 。
  • 処方される専門薬:
  • 塗り薬(外用薬): 市販薬よりも有効成分の濃度が高い薬や、医療機関でしか処方できない種類の薬があります 。
  • 飲み薬(内服薬): 爪水虫や、塗り薬だけでは治りにくい角質増殖型に対して処方されます。体の内側から菌を攻撃するため効果が高いですが、医師の管理下で正しく使用する必要があります 。

薬の正しい使い方:完治への最短ルート

水虫治療がうまくいかない最大の理由は、薬の使い方が間違っていることです。特に、症状が消えたからといって自己判断で治療をやめてしまう「中途半端な治療」が再発を招きます 。以下の3つのルールを守ることが、完治への最短ルートです。

  • ルール1:広く塗る 白癬菌は、症状が出ている範囲よりも広く潜んでいます 。薬を塗る際は、患部だけでなく、足の裏全体、すべての指の間、足の側面、アキレス腱の周りまで、広範囲に塗りましょう 。
  • ルール2:根気よく続ける 薬を使い始めると、かゆみなどの自覚症状は数日で軽快することが多いです。しかし、これは菌が弱っただけで、まだ角質層の奥深くには生き残っています。ここで薬をやめてしまうと、生き残った菌が再び増殖し、必ず再発します。症状が完全になくなったように見えても、皮膚が新しく生まれ変わるまでの最低1〜2ヶ月間は、毎日根気よく薬を塗り続ける必要があります 。これは、目に見えない菌の「根」を完全に絶つための非常に重要な期間です。
  • ルール3:清潔な足に塗る 薬を塗る最適なタイミングは、入浴後です。皮膚が清潔で、角質が柔らかくなっているため、薬の成分が浸透しやすくなります 。塗る前には、タオルで水分をよく拭き取り、特に指の間をしっかり乾燥させることが大切です。

 
【表2】治療法の選択肢と特徴

   対象となる水虫  主な特徴  入手方法
 市販の塗り薬  軽症の趾間型、小水疱型 ・手軽に購入できる ・かゆみ止めなど複合成分を含むものもある  ドラッグストア
 処方される塗り薬  全ての足白癬(趾間型、小水疱型、角質増殖型)、爪白癬(専用薬)  ・市販薬より効果が高い場合がある ・爪専用の薬もある  医療機関(要処方箋)
 処方される飲み薬  爪白癬、重症の角質増殖型  ・体の内側から作用し効果が高い ・医師による管理が必要

水虫の予防方法

水虫は一度治っても、白癬菌に再度接触すれば何度でも感染します 。治療と並行して、菌に感染しにくい環境を整える予防策を習慣にすることが、再発防止と家族への感染拡大を防ぐ鍵となります。

日々のフットケア

正しく洗う

毎日、石鹸をよく泡立てて、足、特に指の間を一本一本丁寧に洗いましょう。ただし、ナイロンタオルなどでゴシゴシ擦るのは禁物です。皮膚に細かい傷がつくと、そこから菌が侵入しやすくなります 。

しっかり乾かす

洗った後は、清潔なタオルで水分を完全に拭き取ります。これが予防において最も重要なステップの一つです。特に湿気が残りやすい指の間は、念入りに乾かしてください 。

環境整備

靴の管理:

同じ靴を毎日履くのは避け、2〜3足をローテーションさせて、靴を完全に乾燥させる時間を作りましょう。

通気性の良い素材の靴を選び、靴の中を清潔に保ちましょう。

家庭環境:

床やカーペットをこまめに掃除し、菌の温床となる皮膚の垢を取り除きましょう。

部屋の風通しを良くし、湿気がこもらないようにすることも大切です 。

スリッパ、バスマット、爪切りなどの共用は避けましょう。家族に水虫の人がいる場合は、バスマットは個人専用のものを用意するのが理想的です 。

公共の場での心がけ

  • スポーツジムの更衣室やロッカールーム、温泉の脱衣所など、不特定多数の人が裸足で歩く場所では、できるだけ素足で歩くのを避け、自分用のサンダルなどを履きましょう 。
  • そうした場所を利用した後は、帰宅後なるべく早く足を洗い、清潔にすることが感染リスクを下げます 。

米国皮膚科学会による水虫の6つの予防方法(※3)

  1. プールやジムのロッカー、ホテルの室内を裸足で過ごさない。
  2. 足を乾燥した状態に保つ。
  3. 毎日石鹸で洗って、乾かす。
  4. 通気性の良い靴下。
  5. 乾いた靴。(毎日履き替えるのが効果的)
  6. 水虫の人と、タオルや寝具、靴を共有しない。

よくある質問

A
いいえ、必ずしもそうではありません。
実際、かゆみを伴う水虫は一部で、全体の10%程度という報告もあります 。特にかかとが硬くなる「角質増殖型」や「爪水虫」は、かゆみがほとんどないのが特徴です 。かゆみだけで水虫かどうかを判断するのは危険な誤解です。
 
 
A
絶対にやめないでください。
これが水虫が再発する最大の原因です 。見た目がきれいになっても、皮膚の奥にはまだ白癬菌が生き残っています。完治のためには、症状が消えてから最低でも1〜2ヶ月は根気よく治療を続ける必要があります 。
 
 
A
その必要はありません。
白癬菌は通常の洗濯と乾燥の過程で洗い流されるため、洗濯物を一緒に洗ってもうつることはありません 。ただし、湿った状態で共有する可能性のあるバスマットやタオルは、感染リスクが高いため共有を避けるべきです 。
 
 
A
一度軽く触れた程度で感染する可能性は低いです。前述の通り、白癬菌が感染するには、皮膚に長時間付着し、さらに高温多湿の環境が必要です 。触れてしまった後は、石鹸で手をよく洗えば問題ありません 。
 
 
A
以下のような場合は、自己判断せずに皮膚科を受診してください。
  • 爪が白く濁ったり厚くなったりしている(爪水虫が疑われる)。
  • かかと全体がガサガサになっている(角質増殖型が疑われる)。
  • 初めて症状が出て、本当に水虫かどうかわからない 。
  • 市販薬を2週間使っても症状が改善しない 。
  • 患部が化膿していたり、炎症がひどかったりする 。
  • 足以外の場所(頭、顔、体、股など)に症状がある 。

 
 

A
はい、うつります。
大人に比べて一日中靴を履いている時間が短いなど、感染が成立しにくい環境にあるため発症例は少ないですが、水虫は年齢に関係なく誰にでも感染する可能性があります 。
 
 
A
直ちに使用を中止し、皮膚科を受診してください 。
その症状は水虫ではない別の皮膚病の可能性や、市販薬では対応できないタイプの水虫である可能性があります。間違った治療を続けると、症状を悪化させる恐れがあります。