手湿疹(手荒れ)とは?皮膚科専門医が教える基礎知識
手湿疹(てしっしん)とは、手のひらや手の甲、指先などに生じる炎症を伴う湿疹の総称であり、一般的には「手荒れ」という言葉で広く認知されている非常にありふれた皮膚疾患です。初期段階では軽度の乾燥やカサつきから始まりますが、進行すると強いかゆみ、赤み、水ぶくれ(水疱)、さらには痛みを伴うひび割れ(亀裂)を引き起こし、日常生活に大きな支障をきたすようになります。女性や日常的に水仕事を行う方、アトピー性皮膚炎の既往がある方に多く見られる傾向があります。
手湿疹が起こる仕組みと「手荒れ」が重症化する理由
手湿疹の発症には、皮膚の「バリア機能」の低下が深く関わっています。人間の皮膚は、表面にある角質層とそこを覆う皮脂膜によって、外部の物理的・化学的な刺激から守られ、同時に体内の水分の蒸発を防いでいます。しかし、手のひらには皮脂を分泌する皮脂腺がほとんど存在せず、もともと乾燥しやすいという解剖学的な特徴を持っています。
日常生活における頻繁な手洗いやアルコール消毒、水仕事、紙幣や段ボールなどを扱うことによる摩擦は、この脆弱な皮脂膜と角質層のバリア機能を容易に破壊します。バリア機能が低下した無防備な状態の皮膚に、洗剤や化学物質などの外部刺激が侵入することで、皮膚内部の免疫細胞が過剰に反応して炎症を引き起こします。単なる乾燥としての「手荒れ」を放置することで皮膚の炎症が本格化し、医学的な治療を要する「手湿疹」へと重症化していくケースが後を絶ちません。
なぜ手湿疹は慢性化しやすく治りにくいのか?
手湿疹が治りにくい最大の理由は、手が日常生活において最も頻繁に使用される部位であり、原因となる物質や物理的な刺激を完全に遮断することが極めて困難であるためです。日本皮膚科学会の手湿疹診療ガイドラインにおいても、手湿疹は原因を確定し、その原因との接触を断つことができれば根治できる疾患であると明記されています。しかし、美容師、理容師、医療従事者、調理師といった職業の方や、日常的に家事を行う主婦にとって、水や洗剤などの原因物質を完全に避けることは現実的ではありません。
さらに、炎症に伴う強いかゆみによって患部を無意識に掻きむしってしまうことで、皮膚組織がさらに破壊され、外的刺激がより深く侵入するという「かゆみと炎症の悪循環」に陥ることも慢性化の大きな要因です。適切なタイミングで皮膚科専門医による介入が行われない場合、症状が数ヶ月から数年にわたって長期化し、皮膚が防御反応として厚く硬くなる苔癬化(たいせんか)を引き起こすこともあります。
手湿疹の主な症状と種類:かゆみ・赤み・水ぶくれ・ひび割れ
手湿疹と一口に言っても、現れる症状や経過には多様なパターンが存在します。症状の進行度合いや、皮膚表面に現れる特徴的な形(表現型)を正確に把握することは、適切な治療方針を決定する上で非常に重要です。
進行度別に見る手湿疹の症状の段階(初期~慢性期)
手湿疹の症状は、時間経過と蓄積されるダメージによって段階的に悪化していく傾向があります。皮膚科の診察では、患者様の症状が現在どの段階にあるかを見極め、適切な強さの治療薬を選択します。
初期の第1段階(軽症)では、皮膚の部分的な乾燥、カサつき、わずかな赤みがみられ、洗剤などがしみる感覚を覚えることがあります。この段階であれば徹底した保湿ケアで改善が見込めます。しかし、第2段階(炎症期・中等症)に進むと、皮膚の炎症が本格化し、はっきりとした赤みや強いかゆみが出現します。さらに悪化した第3段階(重症)では、皮膚が物理的な力に耐えられなくなり、深いひび割れ(亀裂)が生じます。指の関節を曲げるたびに強い痛みが生じるため、日常生活に多大な影響を及ぼします。最終的な第4段階(慢性期)に至ると、慢性的な炎症に対する皮膚の防御反応として角質層が異常に厚く硬くなる角化や苔癬化が起こり、指紋が消失してゴワゴワとした手触りへと変化してしまいます。
症状の現れ方で分類される手湿疹のタイプ
手湿疹は、その見た目の特徴、発症しやすい部位、悪化しやすい季節などによって、いくつかの主要なパターンに分類されます。
| 主な症状と特徴 | 悪化しやすい条件・なりやすい層 | |
| 進行性指掌角皮症 | 利き手の親指や人差し指などの指先や指の腹から乾燥が始まり、ガサガサになります。進行すると指紋が消失し、ひび割れを伴うのが特徴です。 | 物理的に指先を酷使する方や、頻繁に水に触れる方に多くみられます。 |
| 角化型手湿疹 | 手のひらの皮膚が全体的に硬く分厚くなり(角化)、ボロボロと皮が剥がれ落ちたり、深い亀裂が生じたりします。赤みや水ぶくれは伴いません。 | 明確な原因が不明な場合が多く、中高年の男性に多く発症する傾向があります。 |
| 再発性水疱型(汗疱型)手湿疹 | 手のひらや手足の指の側面に、2~5mm程度の小さな水ぶくれ(小水疱)が多数発生し、非常に強いかゆみを伴います。症状は左右対称に現れやすいです。 | 汗の影響が関与していると考えられており、夏季に悪化しやすい傾向があります。 |
| 乾燥・亀裂型手湿疹 | 手のひらや指全体が慢性的に乾燥し、深いひび割れ(亀裂)が主体となるタイプです。水ぶくれは伴わず、皮膚バリア機能の低下が原因とされます。 | 空気が乾燥し、皮脂の分泌が減少する冬季に悪化することが多いです。 |
| 貨幣状型手湿疹 | 手の甲などに、硬貨(コイン)ほどの大きさの円形の湿疹ができ、強いかゆみを伴うのが特徴です。 | 強い刺激物への接触やアレルギー、アトピー素因などが複雑に絡んで発症します。 |
手湿疹(手荒れ)が治らない・繰り返す主な原因
手湿疹の発症には、外部からの物理的・化学的な刺激、特定の物質に対するアレルギー、そして患者様自身の体質など、多様な要因が複雑に絡み合っています。皮膚科における診断では、発症までの時間、症状の出る部位(利き手か、手の甲か、手首まで及ぶか)、患者様の職業や日常生活の状況を詳細に問診し、原因を特定していきます。
水仕事や洗剤・アルコール消毒による「刺激性接触皮膚炎」
手湿疹全体の約7割を占めるとされる最も頻度が高い原因が「刺激性接触皮膚炎」です。これは特定の物質に対するアレルギー反応ではなく、物理的・化学的な刺激が皮膚の許容量を超えてダメージを与えることで、誰にでも起こり得る皮膚炎です。
日常的に使用する石鹸、シャンプー、台所用洗剤などが主な原因物質となります。また、感染症対策として定着した頻繁な手洗いや高濃度のアルコール消毒が、皮膚の皮脂膜を強制的に奪い去り、バリア機能を著しく低下させる大きな要因となっています。職業柄、これらの刺激に日常的に晒される理容師、美容師(頻繁な手洗い、濡れた状態とドライヤーによる乾燥の繰り返し)、看護師、調理師などは、特に発症リスクが高いと言えます。
金属アレルギーや特定の物質による「アレルギー性接触皮膚炎」
原因となる特定の物質(アレルゲン)に皮膚が接触することで、免疫系が過剰に反応し、強いかゆみや水ぶくれを伴う炎症を引き起こすのが「アレルギー性接触皮膚炎」です。刺激性接触皮膚炎とは異なり、原因物質に接触した部位に限定して症状が出やすく、ごく少量の接触でも激しい症状が現れるという特徴があります。
| 代表的なアレルギー原因物質 | 日常生活における主な接触源と症状の特徴 |
| 金属(ニッケル、クロム等) | 革製品(なめし剤としてのクロム)、塗料、硬貨、ハサミなどに触れることで発症します。アトピー性皮膚炎を有していると発症頻度が高まります。 |
| 樹脂(レジン) | エポキシ樹脂やアクリル樹脂などが原因となります。手に触れるだけでなく、微細な粉末として空気中を浮遊するため顔面にも皮膚炎を引き起こすことがあります。 |
| ゴム・ラテックス | 手袋や長靴に含まれるゴムの「加硫促進剤」が原因となります。ラテックスはI型(即時型)アレルギーを引き起こすこともあります。 |
| 美容化学物質 | 染毛剤(ヘアカラー)やパーマ液など。手から前腕にかけて強いかゆみを伴う難治性の接触皮膚炎を生じることが多いです。 |
| タンパク質抗原 | 肉、魚、野菜、果物などの食品。接触直後に即時型アレルギーとして蕁麻疹やかゆみを生じる「蛋白質接触皮膚炎」を引き起こします。 |
皮膚科でこれらのアレルギーを特定する際には、パッチテストやプリックテストと呼ばれる皮膚テストが実施されます 。パッチテストでは、アレルゲンの変質を防ぐために冷暗所で保管された試薬を使用し、強い反応を示す物質同士は隣接させない(Excited-skin syndromeを回避するため)といった厳密な管理のもと行われます 。また、タンパク質抗原の特定には、水溶性抗原に高い感度を示すプリックテストが前腕の屈側を用いて実施されます 。
アトピー素因やストレスなどの「内的要因・バリア機能低下」
外部からの刺激だけでなく、患者様自身の内的要因も手湿疹の発症と重症化に深く関与しています。アトピー性皮膚炎の既往がある方や、気管支喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症)などのアトピー疾患の合併がある方は、遺伝的に皮膚のバリア機能(特に角質層の水分保持能力)が弱い傾向にあります。そのため、わずかな刺激でも手湿疹(アトピー型手湿疹)を発症しやすく、さらに刺激性皮膚炎を同時に併発しやすいという特徴があります。
アトピー型手湿疹の臨床的な特徴として、手のひらよりも手の甲(手背)の炎症が強く出やすく、皮膚が割れるような症状がみられることが挙げられます。また、過度な精神的ストレスや睡眠不足、疲労なども自律神経や免疫機能のバランスを崩し、皮膚のターンオーバーを乱すことで手湿疹を悪化させる誘因となることが指摘されています。
手湿疹と似ている病気(鑑別診断):手白癬や掌蹠膿疱症との違い
手湿疹だと思って市販のハンドクリームや薬を塗り続けても全く治らない場合、実は全く異なる皮膚疾患である可能性が考えられます。自己判断での誤ったケアは症状の著しい悪化を招くため、以下の疾患との鑑別診断が不可欠です。思い当たる節がある場合は、速やかに皮膚科を受診して診断を見直すことが重要です。
片手だけに症状が出やすい「手白癬(手の水虫)」の特徴と見分け方
「手白癬(てはくせん)」とは、足の水虫と同じ原因菌である白癬菌(カビの一種)が手の皮膚に感染して増殖することで起こる疾患です。手湿疹と見た目が非常に似ており、手のひら全体の皮膚が厚く硬くなって粉をふいたように皮がむける「角化型」や、水ぶくれができる「小水疱型」があります。
| 手湿疹(主婦湿疹・手荒れ) | 手白癬(手の水虫) | |
| 発症しやすい部位 | 両手に左右対称に現れることが多い | 多くは片方の手だけに症状が現れる |
| 境界線の見え方 | 症状のある部位と健康な皮膚の境目が不明瞭 | 病変部と健康な皮膚の境目が比較的はっきりしている |
| かゆみの強さ | 強いかゆみを伴うことが多い | 弱いか、全ったくかゆみがないことが多い |
| 主な原因・感染経路 | 水仕事、洗剤、アレルギーなど | 自身の足の水虫を触ることによる手への感染移行 |
手白癬の最大の特徴は、白癬菌に触れやすい利き手など、片方の手だけに症状が集中しやすい点です 。手白癬に対して湿疹用の市販薬(ステロイド剤)を誤って塗布すると、ステロイドが持つ局所的な免疫抑制作用によってカビの栄養となり、白癬菌が爆発的に増殖して症状が取り返しのつかないほど悪化する危険性があります 。診断には、皮膚科で皮がむけている部分や水疱の一部を採取し、顕微鏡で白癬菌の有無を直接確認する真菌検査が必須となります 。
膿を持った水ぶくれを繰り返す「掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)」
「掌蹠膿疱症」は、手のひら(掌)や足の裏(蹠)に、膿(うみ)をもった小さな水ぶくれ(膿疱)が繰り返し多数発生する難治性の疾患です。汗疱や手湿疹における水ぶくれが透明であるのに対し、掌蹠膿疱症では初期から白く濁ったり、黄色っぽい膿を持っているのが最大の特徴です。
これらの膿疱は数日で乾燥して茶色く硬くなり、かさぶた(鱗屑)となってボロボロと剥がれ落ちるサイクルを数年からそれ以上の長期間にわたって繰り返します。また、皮膚症状だけでなく、鎖骨や胸骨などの関節部に激しい痛みを伴う関節炎(掌蹠膿疱症性骨関節炎)を合併することがあるのも特筆すべき点です。
掌蹠膿疱症の明確な原因は完全には解明されていませんが、以下の3つの因子が密接に関与しているとされています。
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喫煙習慣: 患者様の約8割が喫煙者であるというデータがあり、タバコが症状の悪化や治療への抵抗性に強く関与していると考えられています。
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金属アレルギー: 口腔内の歯科用金属(銀歯やパラジウムなど)が唾液でイオン化して体内に吸収され、全身性の金属アレルギー反応として手のひらに症状を引き起こすケースが報告されています。
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病巣感染症: 扁桃炎、虫歯、歯周病、副鼻腔炎(蓄膿症)など、体内の別の場所に存在する慢性的な細菌感染(病巣)が免疫異常を引き起こし、発症の引き金になることが知られています。
その他の似ている皮膚疾患(疥癬、乾癬など)と自己判断の危険性
日本皮膚科学会のガイドラインでは、手湿疹との鑑別を要する疾患として「疥癬(かいせん)」や「乾癬(かんせん)」も挙げられています。疥癬はヒゼンダニというダニの寄生によって起こる感染症で、指の間や手首に丘疹や「疥癬トンネル」と呼ばれる線状の皮疹がみられ、夜間に激しいかゆみを生じます。乾癬は厚い銀白色の鱗屑(フケのようなもの)を伴う紅斑が現れ、爪に点状のくぼみや剥離、黄濁肥厚など多彩な変化を伴うことがあります。
このように、手や足に現れる皮膚症状の背後には多様な疾患が隠れています。適切な治療法と思ってケアを続けても期待される効果が得られない場合は、速やかに皮膚科専門医による拡大鏡(ダーモスコピー)を用いた観察や、各種アレルギーテストなどの詳細な検査を受けることが推奨されます。
治らない手湿疹に対する皮膚科での効果的な治療法・薬の種類
皮膚科クリニックにおける手湿疹の治療は、日本皮膚科学会の「手湿疹診療ガイドライン」に準拠し、症状の重症度や進行段階に応じた段階的なアプローチ(ステップアップ・ステップダウン療法)が基本となります。
治療の基本となる「ステロイド外用薬」と「保湿剤」の正しい使い方
手湿疹治療の根幹をなすのが、皮膚の炎症を強力に鎮める「ステロイド外用薬(塗り薬)」と、低下したバリア機能を補う「保湿剤」の併用です。
手のひらは身体の他の部位と比較して角質層が非常に厚く、薬の成分が深部まで浸透しにくいという解剖学的な特徴があります。そのため、中等症以上の手湿疹や激しいかゆみ・赤みを伴う場合には、ミディアム(中等度)からストロング(強力)、重症例ではベリーストロング(非常に強力)といった、比較的ランクの高いステロイド外用薬が選択されることが一般的です。
治療において最も重要なのは、医師の指示通りに適切な量を塗布することです。外用薬の適量を示す指標として「FTU(フィンガーチップユニット)」が用いられます。大人の人差し指の先端から第一関節までチューブから押し出した量(約0.5g)を1 FTUとし、これが大人の手のひら2枚分の面積に塗る適量となります。ステロイドと保湿剤を併用する際は、まず保湿剤を患部を含む広範囲にたっぷりと塗り広げ、その後、炎症が起きている患部にのみステロイド外用薬を塗布する手順が推奨されます。これにより、不要な正常な皮膚へのステロイドの拡散を防ぎつつ、保湿効果を高めることができます。
| 長所・特徴 | 短所・注意点 | |
| ヘパリン類似物質 | 保湿効果が高く、血行促進作用があります。べたつきが少なく塗りやすいのが特徴です。 | 種類によってはわずかなにおいを感じることがあります。 |
| ワセリン | コストが安く、皮膚表面に油膜を作って外部刺激をブロックします。刺激感が少ないです。 | 特有のべたつきがあるため、作業前には不向きな場合があります。 |
| 尿素配合剤 | 角質を柔らかくする作用があり、角化型の手湿疹に有効です。 | ひび割れや炎症がある部位に塗ると強い刺激感や痛みを生じるため注意が必要です。 |
かゆみを抑える「抗ヒスタミン薬」や非ステロイド外用薬
ステロイド外用薬だけでは激しいかゆみがコントロールできない場合や、夜間に無意識に掻きむしって睡眠障害を来しているような重症例では、かゆみの原因物質の働きを抑える「抗ヒスタミン薬」や「抗アレルギー薬」の内服(飲み薬)が補助的に処方されます。ただし、抗ヒスタミン薬の成分が脳内へ移行すると、覚醒や学習機能に作用するヒスタミンの働きが抑えられ、眠気や集中力の低下(インペアード・パフォーマンス)を引き起こす可能性があります。自動車の運転や精密作業を行う方は、脳に移行しにくい第2世代抗ヒスタミン薬について医師に相談することが重要です。
また、炎症が落ち着いてきた維持期や、長期間のステロイド使用による副作用を回避する目的で、ステロイドを含まない外用薬への切り替えが検討されることもあります。
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タクロリムス軟膏: 過剰な免疫反応を抑える薬です。強い炎症がある部位に使用するとヒリヒリとした強い刺激感が出ることがあるため、主に症状が軽快した後の維持期に使用されます。
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JAK阻害外用薬(デルゴシチニブ軟膏/コレクチム軟膏): 比較的新しい機序の非ステロイド性外用薬であり、細胞内の炎症シグナル伝達をブロックすることで炎症やかゆみを抑えます。
難治性の手湿疹に効果が期待できる「紫外線療法(ナローバンドUVB・エキシマライト)」
ステロイド外用薬などを適切に数週間から数ヶ月使用しても十分な効果が得られない難治性の手湿疹や、再発を繰り返す慢性的なケースにおいて、非常に有効な治療選択肢となるのが「光線療法(紫外線療法)」です。
太陽光に含まれる紫外線のうち、皮膚の過剰な免疫反応や炎症をピンポイントで抑える特定の波長のみを人工的に抽出して照射する治療法です。紫外線を照射することで、皮膚に炎症を引き起こしているT細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導し、炎症を引き起こすサイトカイン(IL-6など)を減少させ、逆に炎症を抑えるサイトカイン(IL-10など)を増加させるという強力な免疫調整作用を発揮します。
| 紫外線治療器の種類 | 特徴と適応症状 |
| ナローバンドUVB療法 | 治療に有効な波長(311±2nm)の紫外線を照射します。手だけでなく、腕など比較的広い範囲に症状が広がっている場合に適応されます。 |
| エキシマライト療法 | さらに効果が高いとされる波長(308nm)の紫外線を、ナローバンドUVBのおよそ40倍の輝度で照射できる最新装置です。手湿疹のような限局した病変にピンポイントで強力に照射できます。 |
紫外線療法は、ステロイド外用薬の使用量を減らすことができる点や、治療効果が長く持続し再発予防につながる点が大きなメリットです。通常、週に1~2回のペースで通院して治療を行います。保険適用での治療が可能であり、3割負担の場合、1回の治療費は約1,020円~1,240円程度となります。ただし、照射による発赤、ほてり、色素沈着などの副作用リスクがあるため、医師による綿密な照射量の調整が必要です。
手湿疹の再発を防ぐ正しい予防方法と日常のハンドケア
皮膚科での適切な治療により症状が改善しても、皮膚のバリア機能が本来の健康な状態に完全に回復するまでには時間を要します。また、原因となる生活環境や作業環境が改善されなければ、高確率で再発を繰り返してしまいます。手湿疹治療の最終目標は「再発しない強い手肌を維持すること」であり、日常的な予防ケアが治療そのものと同等に重要です。
手洗い後の徹底した保湿とバリア機能の保護
水や石鹸による手洗いは、汚れだけでなく皮膚を守る皮脂膜をも洗い流してしまいます。そのため、手洗い後は清潔なタオルでゴシゴシと擦るのではなく、優しく押さえるように水分を拭き取り、その直後(皮膚にわずかな水分が残っている状態)に保湿剤をたっぷりと塗布することが最も効果的です。保湿剤の使用回数に制限はないため、手洗いや水仕事の都度、確実に塗る習慣がバリア機能の回復を強力に後押しします。
また、就寝前に保湿剤やステロイド外用薬をやや多めに塗布し、その上から通気性の良い「綿(コットン)手袋」を着用して寝る夜間のケアも推奨されます。これにより、就寝中の無意識の掻きむしりを物理的に防ぐとともに、薬効成分の皮膚への吸収率を高める効果(密封効果)が期待できます。
水仕事や作業時の適切な手袋の活用(綿手袋とゴム手袋の併用)
水仕事や洗剤を扱う際、直接手で触れないようにゴム手袋を使用することは予防の基本ですが、ゴム手袋を素手に直接着用すると、手袋内部で発汗して蒸れてしまい、その汗に含まれる塩分や老廃物が皮膚への強い刺激となって手湿疹を悪化させることがあります。さらに、ゴム手袋自体の成分がアレルギー反応を引き起こすリスクもゼロではありません。
これを防ぐため、水仕事の際は「内側に吸水性の高い綿手袋を着用し、その上からゴム手袋を重ねて装着する」という二重構造での作業が強く推奨されます。作業時間が長引き、内側の綿手袋が汗で湿ってきた場合は、こまめに清潔なものに交換することで、蒸れによる肌トラブルを回避できます。
日常生活における刺激物質の回避とライフスタイルの改善
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洗浄剤の見直し: 消毒液や洗浄力の強すぎる合成洗剤、香料入りのハンドソープの使用を控え、低刺激性のアミノ酸系洗浄剤やシンプルな固形石鹸への変更を検討します。
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水温の調整: 高温のお湯は皮脂を強力に溶かし出してしまいます。手洗いや食器洗いの際は、体温よりもやや低い「ぬるま湯」を使用することが望ましいです。
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物理的刺激の低減: 職業柄、紙幣や段ボール、衣類などを頻繁に扱う方は、手の油分が奪われやすく摩擦によるダメージを受けやすいため、作業可能な範囲で手袋や指サックを活用して直接の接触を避けます。
よくある質問
ハンドクリームはあくまで皮膚の乾燥を防ぎ、 バリア機能を補助する「予防・保護」の役割にとどまります。 赤み、 かゆみ、 水ぶくれ、 ひび割れなどの症状が出現している状態は、 すでに皮膚の内部で免疫反応による強い炎症が起きているサインです。 この炎症を鎮火させるには、 医師の処方による適切な強さのステロイド外用薬等を用いた医学的な治療が不可欠です。
市販薬のステロイド軟膏などは応急処置として一時的な効果が期待できる場合もありますが、自己判断での使用は薬の強さが症状に合致していない場合や、前述の「手白癬(水虫)」であった場合に症状を著しく悪化させるリスクを伴います 。1~2週間市販薬を使用しても改善の兆しがない場合や、症状が悪化する場合は、速やかに使用を中止し、皮膚科専門医の診療を受けるようにしてください。
妊娠中はホルモンバランスの変化に伴い、皮膚が過敏になりやすく手湿疹が悪化することがあります。日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも「妊婦にはパッチテストを実施しない」などの慎重な対応が定められていますが、治療を我慢して強いかゆみによる過度なストレスを抱えることは母体にとっても望ましくありません 。
妊娠中の治療としては、徹底した保湿ケア(保湿剤は制限なく使用可能)や綿手袋の着用といった物理的なスキンケアが基本となります。炎症が強い場合には、短期間に限り、弱~中等度のステロイド外用薬を局所的に使用することは一般的に安全とされています 。一方で、強いランクのステロイド外用薬の広範囲・長期間の使用や、一部の抗ヒスタミン内服薬、妊娠初期におけるタクロリムス軟膏(外用カルシニューリン阻害薬)の使用は慎重な判断が必要です 。自己判断で治療を中断せず、妊娠中・授乳中であることを担当医に告げた上で、最も安全な治療プランをご相談ください。
お口の中にある銀歯(パラジウム合金やアマルガムなど)は、常に唾液にさらされることで微量の金属成分が溶け出し(イオン化)、体内に長期間蓄積されていきます。その蓄積量が個人の許容量を超えると、自己の免疫機能が有毒なものとして認識し、金属に直接触れていない手のひらや足の裏に、膿をもった水ぶくれやかぶれなどの症状を引き起こします 。
皮膚科において金属アレルギーが疑われる場合は、背中などにアレルゲンを貼付する「パッチテスト」を実施し、原因物質を特定します 。検査の結果、歯科金属が陽性と判定された場合は、歯科医院と連携して原因となっている金属を除去し、セラミックやジルコニアといった金属を含まない素材(メタルフリー)に置き換える治療を行います。効果には個人差がありますが、数ヶ月から1年以上の経過を経て症状の劇的な改善が見込めることがあります 。治らない手の症状に心当たりがある場合は、皮膚科と歯科の双方からのアプローチが有効です。
参考文献
監修医師: うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格: 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴:
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長