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脂漏性皮膚炎

SEBORRHEIC DERMATITIS
最終更新日:2025-10-10

なかなか治らないフケやかゆみ、顔の赤みやカサつき。「ただの乾燥肌かな?」「シャンプーが合わないだけ?」そう思っていたその症状、もしかしたら「脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)」かもしれません。多くの方が悩んでいるにもかかわらず、正しい情報が少なく、一人で抱え込んでしまうことも少なくない皮膚の病気です。
この記事は、脂漏性皮膚炎に悩むあなたのための総合ガイドです。この病気が一体何なのか、なぜ起こるのか、そして皮膚科ではどのような治療が行われ、日常生活で何に気をつければ良いのかを、専門的な知見に基づき、できる限りわかりやすく解説します。

フケ症の原因
脂漏性皮膚炎とは
脂漏性皮膚炎の症状
脂漏性皮膚炎の原因
脂漏性皮膚炎の治療
日常生活で気をつけるポイント
よくある質問

フケ症の原因

頭のフケの原因とは

頭の皮膚に炎症をおこしていると、皮膚の代謝(皮膚のターンオーバー)が促進します。
皮膚の代謝が促進されると、「あかみ」「かゆみ」「白い粉状の皮膚片がポロポロ落ちる」状態になります。
例えば、日焼けの後の皮めくれも、皮膚の炎症に伴う代謝の亢進によって生じています。
頭のフケも、皮膚の炎症に伴い皮膚の代謝が促進されて生じます。
 
頭の皮膚炎では、頻度が多く、慢性的に持続するものとして「脂漏性皮膚炎」があります。

フケ症をおこす皮膚疾患

頭部にフケ症を生じるものとして、

  • 脂漏性皮膚炎
  • 尋常性乾癬
  • 真菌症(カンジダ、白癬)
  • アトピー性皮膚炎
  • 接触皮膚炎

などがあります。
いずれの場合も、フケだけにとどまらず、皮膚の赤みや痒みが起こりやすいです。
皮膚の赤みや痒みが目立たず、フケのみの症状の場合は、脂漏性皮膚炎の初期段階であることが多いです。

脂漏性皮膚炎とは

単なるフケ症や肌荒れではない、皮膚の病気です

脂漏性皮膚炎とは、一言でいえば「皮脂の分泌が盛んな場所(脂漏部位)にできる湿疹」のことです 。頭皮や髪の生え際、眉毛、鼻のわき、耳の後ろ、胸、わきの下など、皮脂腺が多く集まっている場所に、赤みやカサつき、フケのような皮膚のはがれが起こります 。
「脂漏性湿疹」とも呼ばれ、皮膚科では非常に多くみられる、ありふれた皮膚疾患の一つです 。しかし、症状がフケ症や乾燥肌、アトピー性皮膚炎など他の皮膚トラブルと似ているため、自己判断で放置してしまったり、間違ったケアで悪化させてしまったりするケースも少なくありません 。脂漏性皮膚炎は、適切な治療とセルフケアによって症状をコントロールできる病気です。

「乳児型」と「成人型」—2つのタイプとその違い

脂漏性皮膚炎は、発症する年齢によって大きく2つのタイプに分けられます。それが「乳児型」と「成人型」です 。この2つは、原因や経過が大きく異なるため、区別して理解することが重要です。
乳児型脂漏性皮膚炎 生後数週間から3ヶ月頃の赤ちゃんに見られるタイプです 。頭に黄色っぽく、脂っぽいかさぶた(乳痂:にゅうか)が厚く付着したり、顔やおむつで蒸れる部分が赤くなったりするのが特徴です 。これは、お母さんのお腹の中にいた時にもらったホルモンの影響で、赤ちゃんの皮脂分泌が一時的に活発になるために起こります 。多くの場合、成長とともに皮脂の分泌が落ち着き、正しいスキンケアを続けることで自然に治っていく一過性のものです 。
成人型脂漏性皮膚炎 思春期以降に発症し、特に30代から50代の男性に多く見られるタイプです 。乳児型とは異なり、一度発症すると良くなったり悪くなったりを繰り返し、慢性的な経過をたどることがほとんどです 。自然に治ることは稀で、放置すると症状が長引いたり、範囲が広がったりすることがあります 。そのため、皮膚科での適切な治療と、根気強いセルフケアを続けることが、症状を良い状態で維持するための鍵となります。

脂漏性皮膚炎の症状

見た目でわかるサイン:赤みとフケ

脂漏性皮膚炎の最も代表的な症状は、皮膚の「赤み(紅斑)」と、うろこ状に皮膚がはがれる「フケ(落屑)」です 。
フケの見た目には個人差があり、大きく分けて2つのタイプが見られます。一つは、皮脂と混じって黄色味を帯びた、ベタベタと湿り気のあるフケです。もう一つは、乾燥してカサカサした、白っぽい粉のようなフケです 。どちらのタイプのフケが見られるかは、その人の皮脂の量や肌の状態によって異なります。
かゆみの程度も人それぞれです。ほとんどかゆみを感じない軽症の場合もあれば、日常生活に支障が出るほどのかゆみを伴う場合もあります 。特に、香辛料の効いた辛いものなどを食べた後に、かゆみが強くなることもあります 。症状がひどくなると、はがれた皮膚や浸出液が固まって、厚いかさぶたのようになってしまうこともあります 。
こうした症状の出方には波があり、良くなったり悪くなったりを繰り返すのが成人型脂漏性皮膚炎の大きな特徴です 。軽症の場合、「ただのフケ症だろう」「乾燥しているだけだ」と思い込み、医療機関を受診しない方も少なくありませんが、慢性化しやすいため、気になる症状があれば一度皮膚科医に相談することが大切です 。

症状が出やすい場所:「皮脂の地図」でチェック

脂漏性皮膚炎は、その名の通り「脂」が「漏れる」ように分泌の多い「脂漏部位」に好発します 。症状が出やすい代表的な場所は以下の通りです。

頭皮・髪の生え際

最もよく見られる場所です。洗ってもすぐに出てくる大量のフケや、髪の生え際に沿った赤みが特徴的な症状です 。

特に皮脂の多い「Tゾーン」が中心です。眉毛の間、眉毛そのもの、鼻の両脇(ほうれい線に沿った部分)、おでこ、あごなどに赤みやカサつきが出やすくなります 。

耳の中や、特に耳の後ろのくぼんだ部分は、洗い残しや皮脂がたまりやすく、症状が出やすい場所の一つです 。

顔や頭皮ほど頻度は高くありませんが、胸の中央(胸骨部)や、わきの下、足の付け根(鼠径部)など、皮膚がこすれて蒸れやすい部分にも症状が現れることがあります 。

これらの場所に、赤みとフケが繰り返し現れる場合は、脂漏性皮膚炎の可能性が考えられます。

脂漏性皮膚炎の原因

脂漏性皮膚炎がなぜ起こるのか、その原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。その中でも、中心的な役割を果たしているのが「マラセチア菌」というカビ(真菌)の一種です 。

主犯格は皮膚の常在菌「マラセチア菌」の異常増殖

私たちの皮膚には、多種多様な細菌やカビが常に存在しており、これらをまとめて「皮膚常在菌」と呼びます。「マラセチア菌」もその一員で、健康な人の皮膚にもごく普通に存在する、普段は無害なカビです 。
これを私たちの皮膚という「庭」に例えるなら、マラセチア菌は庭に生えているごくありふれた植物のようなものです。通常は他の菌とバランスを取りながら、おとなしく共存しています。しかし、何らかの理由でこのマラセチア菌だけが異常に増殖してしまうと、庭の生態系が崩れ、雑草がはびこるように問題を引き起こし始めます。これが、脂漏性皮膚炎の始まりです。

皮脂がエサになる悪循環のメカニズム

では、なぜマラセチア菌が増えすぎてしまうのでしょうか。その最大の理由は、マラセチア菌の「大好物」が皮脂だからです 。皮脂の分泌が過剰になると、それをエサにしてマラセチア菌が急激に増殖します 。
さらに問題なのは、マラセチア菌が皮脂を分解する過程で、「遊離脂肪酸」という物質を作り出すことです 。この遊離脂肪酸が皮膚にとって強い刺激となり、炎症反応を引き起こします。つまり、赤みやかゆみ、皮膚のはがれといった症状は、この炎症反応の結果なのです 。
このメカニズムは、以下のような悪循環を生み出します。

皮脂の過剰分泌(燃料)

ホルモンバランスの乱れや生活習慣などにより、皮脂が過剰に分泌されます。

マラセチア菌の増殖(工場)

豊富なエサ(皮脂)を得て、マラセチア菌が異常に増殖します。

刺激物質の産生と炎症(症状)

増殖したマラセチア菌が皮脂を分解し、刺激性の遊離脂肪酸を産生。これが皮膚の炎症を引き起こし、赤みやフケといった症状が現れます。

このシンプルな3ステップの連鎖を理解することが、なぜ治療で「菌を抑える薬」と「炎症を抑える薬」の両方が使われるのかを理解する助けになります。

症状を悪化させる「火に油を注ぐ」要因たち

マラセチア菌と皮脂の関係が根本にありますが、それ以外にも症状を悪化させたり、再発の引き金になったりする要因がいくつか知られています。

  • ホルモンバランスの乱れ
    • 皮脂の分泌を促進する男性ホルモン(アンドロゲン)の影響は大きく、思春期以降に発症し、男性に多い理由の一つとされています 。女性でも、生理周期や更年期などでホルモンバランスが変動する時期に、症状が悪化することがあります 。
  • ストレスや睡眠不足
    • 過度なストレスや睡眠不足は、自律神経やホルモンバランスを乱し、皮脂の分泌を増加させます 。また、体の免疫力を低下させ、皮膚のバリア機能を弱めるため、炎症が起こりやすくなります 。
  • 食生活の乱れ
    • 脂っこい食事や糖分の多い食事は、皮脂の分泌を増やす可能性があります 。一方で、皮脂の分泌をコントロールする働きのあるビタミンB群(特にB2、B6)が不足することも、症状の悪化につながると指摘されています 。
  • 不適切なスキンケア
    • 洗浄力の強すぎるシャンプーや洗顔料でゴシゴシ洗うと、肌を守るバリア機能が壊れてしまいます。逆に、洗顔や洗髪が不十分で皮脂汚れがたまると、マラセチア菌の温床となります 。
  • 環境の変化
    • 紫外線は皮膚への刺激となり、炎症を悪化させることがあります 。また、主に秋から冬にかけての乾燥する季節に、症状が悪化する傾向も見られます 。

これらの要因は、いわば「火に油を注ぐ」ようなもの。根本原因であるマラセチア菌と皮脂のバランスを整えることと並行して、これらの悪化要因を生活から取り除いていくことが、症状の改善と再発予防に不可欠です。

治療方法

脂漏性皮膚炎の治療は、皮膚科での薬物治療が基本となります。自己判断で市販薬を使い続けるよりも、専門医の診断のもとで、症状に合った適切な治療を受けることが、改善への一番の近道です。

皮膚科での治療:2つの塗り薬が主役

皮膚科では、脂漏性皮膚炎の「原因(マラセチア菌)」と「結果(炎症)」の両方にアプローチする治療を行います。主に使われるのは、2種類の塗り薬です。

  • 抗真菌薬(塗り薬)
    • 症状の根本原因であるマラセチア菌の増殖を抑える薬です 。ケトコナゾールという成分を含む塗り薬(ニゾラール®など)が代表的で、炎症が治まった後の再発予防にも使われる、治療の土台となる薬です 。
  • ステロイド薬(塗り薬)
    • 赤み、かゆみ、フケといったつらい「炎症」を迅速に鎮める薬です 。いわば「消防士」のような役割で、症状が強い時に頼りになります。顔などのデリケートな部分には、作用の弱いマイルドなステロイド薬が処方されるのが一般的です。

治療の進め方としては、まず症状が強い時期にステロイド薬と抗真菌薬を併用して、速やかに炎症を抑え込みます 。そして、赤みやかゆみが落ち着いてきたら、ステロイド薬の使用を徐々に減らし、最終的には抗真菌薬のみで良い状態を維持していく、という方法がよく取られます。
その他、皮脂の分泌を整える目的でビタミンB2やB6の飲み薬が処方されたり、かゆみが非常に強い場合には抗ヒスタミン薬の飲み薬が使われたりすることもあります 。

市販薬と処方薬の大きな違い

ドラッグストアでも皮膚炎の薬は購入できますが、脂漏性皮膚炎の治療においては、処方薬と市販薬には決定的な違いがあります。
市販されている薬は、安全性を考慮して、比較的マイルドな成分や配合量に限定されています 。市販のステロイド薬で一時的に赤みを抑えることはできても、脂漏性皮膚炎の根本原因にアプローチする上で最も効果的とされる抗真菌成分(ケトコナゾールなど)は、現在の日本では医師の処方がなければ手に入れることができません 。
そのため、市販薬だけで治そうとすると、炎症を抑えてはぶり返すといういたちごっこに陥りがちです 。根本的な改善を目指すには、マラセチア菌にしっかり効く処方薬が必要です。症状が長引いている場合や、フケや赤みが気になる場合は、遠回りせずに皮膚科を受診することを強くお勧めします。

薬の塗り方・使い方:効果を最大限に引き出すコツ

処方された薬の効果をしっかり引き出すためには、正しく使うことが非常に重要です。

頭皮への塗り方

頭皮には、軟膏やクリームよりも、サラッとしていて塗りやすいローションタイプの薬が適しています 。薬を塗る際は、髪の毛に付けるのではなく、髪をかき分けて、薬の先端が頭皮に直接触れるように塗布します 。指の腹でやさしくなじませましょう。

基本的な塗り方の注意点

塗る前と後には、必ず手を洗いましょう。

チューブや容器の口を直接患部につけると、雑菌が入り込んでしまう恐れがあります。一度清潔な指に薬を取ってから塗りましょう 。

薬をすり込むようにゴシゴシ塗るのは、刺激になるため絶対にやめましょう。皮膚の上にやさしく置くように、薄く伸ばすのがポイントです 。

自己判断で中断しない

症状が少し良くなったからといって、自己判断で急に薬をやめてしまうと、症状がぶり返す(リバウンドする)ことがあります 。医師の指示通りに、決められた回数と期間をきちんと守り、症状が改善したら徐々に薬を減らしていくことが大切です。

日常生活で気をつけるポイント

脂漏性皮膚炎は、薬による治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことが非常に重要です。ここでは、症状の改善と再発予防のために、日常生活で心がけたいポイントを具体的に解説します。

やさしく正しい洗浄ケア

余分な皮脂や汚れをきちんと洗い流し、皮膚を清潔に保つことは、マラセチア菌の増殖を防ぐための基本です。ただし、「清潔」と「洗いすぎによる刺激」は紙一重。ゴシゴシ洗いは禁物です。

洗顔のポイント:

洗顔は1日2回、熱すぎないぬるま湯で行いましょう 。

洗顔料は低刺激性のものを選び、しっかりと泡立てます。指が直接肌に触れないよう、たっぷりの泡で顔を包み込むようにやさしく洗うのがコツです 。

すすぎは、洗顔料が残らないように十分に行います。シャワーを直接顔に当てるのは刺激が強いので避けましょう 。

洗顔後は、清潔なタオルでこすらずに、やさしく押さえるように水分を拭き取ります。その後、すぐに低刺激性の保湿剤でしっかり保湿しましょう。肌の乾燥はかえって皮脂の過剰分泌を招くため、保湿は非常に重要です 。

洗髪のポイント:

洗髪は毎日、または1日おきに行い、頭皮の皮脂がたまらないようにしましょう 。

フケを取ろうとして、爪を立ててゴシゴシ洗うのは絶対にやめてください。頭皮を傷つけ、炎症を悪化させます。指の腹を使って、頭皮をマッサージするようにやさしく洗いましょう 。

シャンプーやリンスのすすぎ残しは、頭皮への刺激になります。時間をかけて丁寧に、しっかりとすすぎましょう 。

洗髪後は、濡れたまま放置せず、ドライヤーで頭皮からきちんと乾かします。湿った環境は雑菌の温床になり、マラセチア菌が増えやすくなります 。

生活習慣のトータルマネジメント

健康的な肌は、健康的な生活習慣から作られます。スキンケアや食事と合わせて、以下の点にも注意しましょう。

睡眠とストレス管理

質の良い睡眠を十分にとり、規則正しい生活を心がけましょう 。ストレスは皮脂分泌を増やし、免疫力を低下させる大きな要因です。適度な運動や趣味の時間など、自分に合った方法でストレスを上手に発散させることが大切です 。

紫外線対策

紫外線は皮膚への刺激となり、炎症を悪化させる可能性があります。日差しの強い季節は、帽子や日傘を活用して肌を守りましょう 。

ヘアケア製品の選び方

ワックスやヘアクリームなどの油分の多い整髪料は、毛穴を詰まらせ、症状を悪化させる原因になることがあります。使用する場合は、頭皮につかないように毛先だけにとどめましょう 。シャンプーは、市販の抗真菌成分が配合されたもの(例:コラージュフルフルなど)を、普段のケアに取り入れるのも一つの方法です 。

よくある質問

Q
洗髪の注意はありますか。

A
入浴時は皮脂や剥がれた角質(フケ)を丁寧に洗って清潔にしましょう。
洗うときには患部を強くこすらないようにして、低刺激性のシャンプーを使いましょう。
抗真菌薬含有シャンプーも効果的です。
 

Q
お勧めのシャンプーはありますか。

A
薬局でフケ用シャンプーを探すと2種類おいてあることが多いです。
抗真菌薬配合+抗菌成分(オクトピロックスなど)配合
抗菌成分(オクトピロックスなど)のみ配合
前者が値段も高いですが、フケ用目的でしたら前者の抗真菌成分配合を選ぶようにしましょう。
持田ヘルスケアのコラージュフルフルシリーズはおすすめしています。
 

Q
食生活で注意することはありますか。

A
ビタミン欠病で症状を悪化させますので、特にビタミンB群を多くとりましょう。
皮脂の分泌を促進する、当分の多い菓子類やアルコールなどは控えましょう。
また、便秘は皮膚症状を悪化させることがありますので、食物繊維を多くとるようにしましょう。
 
 

Q
ストレスも原因になりますか。

A
睡眠不足や過労、ストレスも悪化させる原因になることがあります。
規則正しい生活を心がけましょう。