根本原因から改善する「ニキビの漢方薬」治療とは

ニキビ治療における漢方薬の最大の特徴は、皮膚の表面に現れた赤みや腫れといった症状だけを局所的に治療するのではなく、ニキビができやすい「体質そのもの」を内側から見直し、根本的な改善へと導くアプローチをとる点にあります
現代の皮膚科診療において、ニキビ治療の中心として最も重視されているのは、毛穴の詰まりを改善するアダパレンや、抗菌・ピーリング作用を持つ過酸化ベンゾイル(BPO)、そして各種の抗菌薬を用いた保険適用の標準治療です 。これらの西洋医学的な塗り薬や飲み薬は、アクネ菌の増殖や毛穴の閉塞といったニキビの直接的な原因に対して非常に強力で迅速な効果を発揮します。しかし、塗り薬による治療を熱心に行っても「生理前になると必ず顎周りにニキビを繰り返す」「仕事のストレスや疲労がたまると肌荒れが悪化する」「極度の冷え性や便秘があり、それに伴ってニキビが増える」といった、全身の不調と連動して発生する厄介な大人ニキビに対しては、外側からのケアだけでは根本的な解決に至らないケースが少なくありません。
そこで、西洋医学の治療を補完し、内側からの土台作りとして導入されるのが漢方薬です。日本皮膚科学会が発行するニキビの治療ガイドラインにおいても、漢方薬は治療の補助的な役割を持つとして、他の標準治療が無効である場合などに推奨度C1として位置づけられています 。漢方薬は、ホルモンバランスの乱れ、血流の滞り、胃腸の働きの低下といった体内のアンバランスを整えることで、ニキビという炎症が起こりにくい健康な肌環境の土台(いわゆる「肌質」)を構築することを目指す治療法なのです。

大人ニキビや肌荒れに対する漢方薬の効果と体質改善アプローチ

東洋医学(漢方医学)の考え方では、ニキビは単なる皮膚の病気ではなく、体の中を巡る「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスが崩れた結果として、皮膚の表面に現れたSOSのサインであると捉えられています。ニキビの漢方薬治療では、患者様一人ひとりの体質を見極め、主に以下の2つの状態に対するアプローチが優れた効果を発揮します。
第一に、体内にこもった「熱」を鎮めるアプローチです。赤く大きく腫れて炎症を起こしやすいニキビや、顔がほてりやすい方に多く見られるのが、体内に余分な熱がこもっている「熱証(ねつしょう)」と呼ばれる状態です 。ストレスの蓄積、過剰な皮脂分泌、または脂っこい食事や甘いものの摂りすぎなどによって体内に生じた過剰な熱は、性質として上半身、特に顔や頭部にのぼりやすく、これが毛穴の強い炎症(赤ニキビや黄ニキビ)を引き起こす原因となります。漢方薬には、この余分な熱を優しく冷まして全身に逃がし、局所の炎症を鎮める作用を持つものが多く存在します 。これにより、ニキビの赤みや腫れを早期に軽減させると同時に、新たな炎症の発生を予防する効果が期待できます。
第二に、「血」の巡りを改善し、老廃物の排出を促すアプローチです。20代以降の女性に多い大人ニキビの背景に頻繁に見られるのが、血行不良です。ホルモンバランスの乱れ、生理前に悪化するフェイスラインのニキビ、肌の全体的なくすみや目の下のクマなどは、漢方で「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血液の滞りが深く関与していると考えられています 。血液がスムーズに流れないと、肌の細胞に十分な栄養や酸素が届かず、ターンオーバー(肌の生まれ変わり)が遅れてしまいます。同時に、本来排出されるべき古い角質や老廃物が蓄積しやすくなり、毛穴の詰まりやニキビの悪化を招きます。漢方薬によって血の巡りを良くし、全身の血行を促進することで、肌の代謝が正常化され、老廃物のスムーズな排出が助けられます 。これは単にニキビを治すだけでなく、肌全体のトーンアップや、健康的な血色を取り戻すことにもつながります。

ニキビ治療に用いられる代表的な漢方薬の種類と特徴

皮膚科におけるニキビ治療では、患者様の症状や体質(漢方では「証(しょう)」と呼びます)に合わせて、複数の漢方薬の中から最も適したものが処方されます。以下に、ニキビ治療において頻繁に用いられる代表的な漢方薬とその特徴を整理してご紹介します。

当院のオススメ 

十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)

皮膚科学会ガイドラインで推奨度C1。

皮膚の効能:化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹など

適応証(体質)は、中間証(体力中くらい)となります。

抗炎症作用、抗酸化作用、皮脂分泌抑制作用などがあると考えられている。

炎症性を改善する作用から、炎症性ニキビによって生じるニキビ跡が生じにくくなるという論文報告があります。

荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)

皮膚科学会ガイドラインで推奨度C1。

皮膚の効能:にきび。

適応証(体質)は、中間証~やや虚証(体力中くらい)、熱証(炎症)。

慢性的に炎症を期待しているニキビに用います。

柴苓湯(サイレイトウ)

体の免疫反応を調整し、炎症をやわらげる働きをします。

大きな赤ニキビや、ニキビ跡を生じる難治性ニキビに対して、標準治療の補助治療として良好な報告が複数ある。

その他、ニキビに使われるもの

清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)

皮膚科学会ガイドラインで推奨度C1。

皮膚の効能:炎症を起こしているニキビ

適応証(体質)は、熱証(赤ら顔・のぼせ)、実証(体力充実)。

黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

皮膚科学会ガイドラインで推奨度C2。

皮膚の効能:皮膚のかゆみ

適応証(体質)は、実証(体力充実)、熱証(暑がり)、気上衝(のぼせ・イライラ・緊張・不安)。

温清飲(ウンセイイン)

皮膚科学会ガイドラインで推奨度C2。

皮膚の効能:湿疹・皮膚炎

適応証(体質)は、中間証~やや虚証(体力中くらい)、熱証(のぼせ)、燥証(乾燥)

温経湯(ウンケイトウ)

皮膚科学会ガイドラインで推奨度C2。

皮膚の効能:湿疹・皮膚炎、乾燥など

適応証(体質)は、虚証(虚弱)、寒証(冷え)、燥証(乾燥)、血虚(血流不足・貧血症状)。

桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)

皮膚科学会ガイドラインで推奨度C2。

皮膚の効能:しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきび

適応証(体質)は、中間証(体力中くらい)、血流の停滞(鬱血、腫れ)

皮膚科専門医が推奨するニキビ向け漢方薬の正しい服用方法と注意点

漢方薬の服用方法

漢方薬の優れた効果を最大限に引き出し、安全に治療を継続するためには、正しい服用方法を守ることが極めて重要です。
通常、クリニックで処方される医療用漢方薬(エキス顆粒)は、「食前(食事の約30分〜1時間前)」または「食間(食事と食事の間、食後約2時間経った空腹時)」に服用することが推奨されています。これは、胃の中に食べ物がない空腹時に服用することで、複数の生薬の有効成分が胃酸や食物の影響を過度に受けず、腸管から速やかに、かつ効率的に体内に吸収されるためです。

漢方薬の服用方法の注意点

服用する際は、冷たい水でそのまま飲み込むよりも、少量の白湯(温かいお湯)に溶かしてゆっくりと飲むか、粉薬を口に含んでから温かい白湯で服用する方が、成分の吸収が良くなり、胃腸への負担も軽減されます。特に、冷えや瘀血(血行不良)が原因となっている大人ニキビの治療においては、体を内側から温めること自体が治療の一環となるため、温かい状態での服用がより効果的です。
もし服用を忘れてしまった場合は、気がついた時点で1回分を服用してください。ただし、次の服用時間がすでに近い場合は忘れた分を飛ばし、次回の分から通常通りに服用を再開してください。飲み忘れたからといって、2回分を一度にまとめて服用することは、成分の血中濃度が急激に上昇し、思わぬ副作用のリスクを高めるため絶対におやめください。
また、漢方薬は頭痛薬や解熱剤などの西洋薬のように、飲んで数時間で劇的な変化が現れるものではありません。炎症を抑えるタイプの漢方薬は比較的早く数日で効果を感じることもありますが、体質改善を目的とするものの場合は、効果が現れるまでに最低でも2週間から1ヶ月、体質がしっかりと安定するまでには数ヶ月単位での根気強い服用が必要となります。自己判断で途中でやめてしまわず、医師の指示に従って継続することが、ニキビを繰り返さない健やかな肌を手に入れるための最大の鍵となります。

ニキビ治療における漢方薬の副作用と服用時のリスク管理

漢方薬は自然界に存在する植物の根や葉、鉱物などの「生薬」を組み合わせて作られているため、化学合成された西洋薬と比較して副作用が少なく、体への負担が軽いと一般的に認識されています。しかし、「漢方薬には副作用が全くない」というイメージは誤りであり、医療用医薬品である以上、ご自身の体質に合わない場合や誤った服用方法をした場合には副作用が生じるリスクが存在します。
一般的な副作用として比較的多く報告されるのは、胃腸の不調です。もともと胃腸が弱く食が細い方が、強力に体の熱を冷ます漢方薬(清上防風湯など)を服用した場合、胃のむかつき、不快感、食欲の低下、吐き気、軟便、下痢などを引き起こすことがあります。また、生薬の成分に対するアレルギー反応として、まれに発疹、発赤、かゆみといった皮膚症状が現れるケースも存在します。
さらに、ニキビ治療に用いられる多くの漢方薬(十味敗毒湯や加味逍遙散など)に含まれる「甘草(カンゾウ)」という生薬には特別な注意が必要です。甘草を大量に、あるいは長期間にわたって過剰に摂取すると、「偽アルドステロン症」と呼ばれる副作用を引き起こす可能性があります。これは、体内に塩分と水分が過剰に溜まり、逆にカリウムが失われてしまうことで、手足のむくみ、血圧の上昇、筋力の低下、手足のしびれなどが生じる状態です。内科など他の医療機関から処方されている漢方薬や、ドラッグストアで購入した市販の風邪薬・胃腸薬などにも甘草が含まれていることが非常に多いため、成分の重複摂取を避けるためのリスク管理が不可欠です。当院を受診される際は、現在服用中のお薬やサプリメントをすべて医師にお伝えください。

体質や既往歴によりニキビの漢方薬が使用・処方できない方の特徴

漢方薬は、その方の体力、体格、病気の進行度合いなどの総合的な体質(証)を判断して処方される、いわばオーダーメイドの治療薬です。そのため、同じ「ニキビ」という悩みであっても、誰にでも同じ薬が処方できるわけではありません。以下のような特徴や既往歴を持つ方には、特定の漢方薬の使用が制限される、あるいは処方できない場合があります。

著しく体力が低下し、胃腸が極度に虚弱な方

熱を冷ます作用や、滞った血を強く巡らせる作用を持つ漢方薬は、胃腸に負担をかけることがあります。普段から少し食べると胃がもたれたり、慢性的に下痢を繰り返したりする方には、清上防風湯などの処方を慎重に行う必要があり、まずは胃腸の働きを整える別の漢方薬が優先されることがあります。

重篤な心疾患、腎疾患、肝機能障害がある方

生薬の成分を体内で代謝し、体外へ排泄する機能が低下している場合、予期せぬ副作用が生じるリスクがあります。特に腎機能に影響を及ぼす疾患がある方は、偽アルドステロン症のリスクが高まるため、厳密な医師のモニタリングが不可欠です。

妊娠中または授乳中の女性

桂枝茯苓丸などに含まれる血の巡りを良くする生薬は、骨盤内の血流を強力に促進する作用を持つため、妊娠中の服用には特別な注意が必要です。流産や早産のリスクを避けるため、自己判断での服用は絶対に避け、必ず産婦人科医および皮膚科専門医にご相談ください。

よくある質問

Q
塗り薬(アダパレンやBPO)と漢方薬は一緒に使っても大丈夫ですか?

A
はい、併用可能です。むしろ、日本皮膚科学会のガイドラインでも、漢方薬は標準的な外用治療を補助するものとして位置づけられています 。塗り薬で皮膚の表面から毛穴の詰まりやアクネ菌に直接対処しつつ、漢方薬で体の内側から炎症を抑えたり血行を良くしたりする「内外のダブルアプローチ」を行うことで、より効果的でスピーディーなニキビ治療が期待できます。
 

Q
漢方薬を飲み始めてから、逆にニキビが増えたり肌荒れした気がするのですが?

A
漢方薬の服用初期に、一時的に症状が変化することがごく稀にあります。その漢方薬が現在の体質に合っていないか、あるいはストレスや生理周期など別の原因でニキビが悪化している可能性が高いと考えられます。自己判断で我慢して服用を続けず、早めに処方医にご相談ください。薬の変更を含めて対応いたします。
 

Q
ドラッグストアで売っている市販の漢方薬と、皮膚科で処方される漢方薬の違いは何ですか?

A
市販の漢方薬(一般用漢方製剤)と皮膚科で処方される医療用漢方製剤は、基本的に同じ生薬の組み合わせで作られていますが、1日あたりの有効成分の「配合量」が異なります。市販薬は、不特定多数の方が医師の診察なしに安全に服用できるように、成分量がやや少なめ(医療用の50%〜80%程度)に設定されていることが一般的です。皮膚科では、医師が専門的な知識に基づいて患者様の体質を正確に見極め、十分な有効成分量を持つ医療用医薬品を処方するため、より的確で高い効果が期待できます。
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長