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乳児血管腫(イチゴ状血管腫)

Infantile hemangioma
最終更新日:2026-3-7

赤ちゃんの肌に突然現れた赤いあざ。「いちご状血管腫」と呼ばれるこの病気について、不安を感じているお父さん、お母さんは少なくありません。生まれた時は何もなかったのに、急に大きくなる様子を見て、「もっと大きくなるの?」「手術が必要なの?」と心配になるのは当然のことです。
この記事では、乳児血管腫の正体から、なぜできるのか、そして近年劇的に進歩した「きれいに治すための治療法」について、専門的な知見をわかりやすく解説します。

症例写真
乳児血管腫とは
乳児血管腫の症状
乳児血管腫の治療
日常生活でのポイント
よくある質問

乳児血管腫の症例写真

当院の患者様の治療経過です。

症例1


治療前

治療後

【治療内容】乳児血管腫の色素レーザー治療
【費用】0円(名古屋市助成による)
【リスク】赤み、水泡、色素沈着

症例2


治療前

治療後

【治療内容】乳児血管腫の色素レーザー治療
【費用】0円(名古屋市助成による)
【リスク】赤み、水泡、色素沈着

乳児血管腫(いちご状血管腫)とは?いつまで続く?

「赤あざ」の正体と良性腫瘍である安心感

乳児血管腫(Infantile Hemangioma)は、一般的に「いちご状血管腫」として知られる、乳児期に最も頻繁に見られる良性の皮膚腫瘍です。その発生頻度は高く、1歳児の約5〜10%に見られると報告されています。
「腫瘍」という言葉を聞くとドキッとしてしまうかもしれませんが、これは「がん(悪性腫瘍)」とは全く異なります。乳児血管腫は、血管の内側にある細胞(血管内皮細胞)が一時的に過剰に増えることで、血液がたくさん集まって赤く盛り上がった状態です。命に関わることは極めて稀であり、適切な管理を行えば、多くの場合はきれいに治癒に向かいます。

自然経過の3段階:増殖期・停止期・退縮期

この病気の最大の特徴は、**「急激に大きくなり、その後ゆっくりと小さくなる」**という独特のライフサイクルを持っていることです。

増殖期(生後2週間〜9ヶ月頃)

多くの赤ちゃんでは、生まれた直後にはあざは見当たりません。生後2週間頃からポツッとした赤い点や湿疹のようなものが現れ、そこから急速に大きくなり始めます。特に生後5週から7週の間が最も成長スピードが速い時期です。この時期の親御さんは「昨日より大きくなっている」と感じて不安になりやすいですが、これは病気の典型的な経過です。

停止期(1歳頃)

生後9ヶ月から1歳頃になると、あざの成長が止まり、大きさが変わらない時期(プラトー期)に入ります。赤みのピークもこの頃です。

退縮期(1歳〜数年かけて)

1歳を過ぎると、今度は年単位でゆっくりと赤みが引き始め、腫瘍全体が柔らかく、平らになっていきます。これを「自然退縮」と呼びます。

「いつ消えるの?」という疑問へのデータ 過去の研究では、自然に消える割合について以下のようなデータが示されています。

  • 5歳までに約50%が退縮
  • 7歳までに約70%が退縮
  • 9歳までに約90%以上が退縮

しかし、ここで重要な注意点があります。「消える」というのは「赤みがなくなる」ことを指す場合が多く、完全に元の肌に戻ることを保証するものではありません。あざが大きかった場合、赤みが消えた後も、皮膚のたるみ(シワ)、脂肪の塊、細い血管の拡張といった「あと(瘢痕)」が残るケースが報告されています。そのため、近年では「自然に消えるのをただ待つ」のではなく、「あとを残さないために早期に治療する」という考え方が主流になりつつあります。

乳児血管腫(いちご状血管腫)の症状と病型分類

一言で「いちご状血管腫」と言っても、その現れ方は深さや広がりによって様々です。

表面の変化と深さによる違い

医師は視診や触診を通して、血管腫が皮膚のどの深さにあるかを判断します。

表在型(局面型)

最も一般的なタイプで、皮膚の表面近くで血管が増殖します。鮮やかな赤色(いちご色)をしており、境界がはっきりとしています。表面がボコボコと盛り上がっているのが特徴です。

深在型(皮下型)

皮膚の深い部分(皮下脂肪層など)で血管が増殖するタイプです。表面は赤くならず、青白く見えたり、単なる皮膚の盛り上がり(腫瘤)として見えたりすることがあります。診断が難しく、生後3ヶ月頃まで気づかれないこともあります。

混合型

表在型と深在型の両方の特徴を併せ持つタイプです。赤いあざの下に、さらに大きな青白いしこりが触れるような状態です。

合併症のリスク(潰瘍・機能障害)

多くの血管腫は見た目の問題にとどまりますが、できた場所や大きさによっては、赤ちゃんの健康や生活に影響を与えることがあります。

1.潰瘍(かいよう)化

血管腫の表面がただれて、傷(潰瘍)になってしまうことがあります。これは非常に痛みを伴い、感染症のリスクを高めるだけでなく、治った後に目立つ傷跡を残す原因となります。特に、おむつで擦れやすいお尻や股、首のしわ、脇の下などにできた血管腫は潰瘍になりやすいため、注意深いケアが必要です。

2.機能障害

: まぶた周辺にできると、腫れによって目が開きにくくなり、視力の発達を妨げて弱視になるリスクがあります。

気道: 鼻や口の周り、あるいは喉の奥にできると、呼吸を妨げたり、喘鳴(ゼーゼーする呼吸音)の原因になったりすることがあります。

: 耳をふさいでしまうと、聴力に影響が出ることがあります。

3.分節型血管腫

顔の半分や手足全体など、広い範囲に地図状に広がるタイプ(分節型)は、皮膚だけでなく、内臓や脳の血管にも異常を伴うことがあります(PHACE症候群など)。このような場合は、MRIや超音波検査による詳しい全身の検査が必要となります。

## 乳児血管腫(いちご状血管腫)の原因は?ママのせい?
「妊娠中に食べたものが悪かったの?」「薬を飲んだから?」「転んでお腹を打ったから?」 診察室で、ご自身を責めるような質問をされるお母さんは少なくありません。しかし、はっきりとお伝えしたいのは、乳児血管腫の原因は、お母さんの妊娠中の行動や食事とは関係がないということです。

医学的な発生メカニズムとリスク因子

乳児血管腫の正確な原因は、現代医学でも完全には解明されていませんが、いくつかの有力な説があります。

低酸素説

胎盤の一部で酸素が不足した状態(低酸素)になると、血管を新しく作るための指令(血管増殖因子)が過剰に出され、それが赤ちゃんの血管細胞を刺激して異常増殖を引き起こすという説です。

胎盤細胞の迷入説

妊娠中に胎盤の細胞が剥がれ落ち、赤ちゃんの血液循環に入り込んで皮膚に定着し、そこで増殖するという説です。

また、統計的な調査から、以下のような赤ちゃんに発生しやすい傾向(リスク因子)があることがわかっています。

低出生体重児

小さく生まれた赤ちゃんほどリスクが高く、出生体重が500g減るごとにリスクが40%上がるとの報告があります。

早産児

予定日より早く生まれた赤ちゃん。

女児

男の子に比べて、女の子は約3倍〜5倍も発生頻度が高いことが知られています。

多胎妊娠

双子や三つ子の場合。

高齢出産

お母さんの年齢が高い場合。

これらはあくまで「傾向」であり、これらに当てはまるからといって必ず血管腫ができるわけではありませんし、逆に全く当てはまらない赤ちゃんにもできます。重要なのは、**「誰のせいでもない」**と理解し、これからどう治していくかに目を向けることです。

最新の治療方法:薬物療法からレーザーまで

一昔前までは「放っておけば消えるから様子を見ましょう」と言われることが多かった乳児血管腫ですが、現在では**「早期に治療介入することで、きれいに治す」**ことが標準的になりつつあります。特に2008年にβ遮断薬(プロプラノロール)の効果が発見されて以来、治療の選択肢は劇的に広がりました。

治療方針の決定プロセス(治療適応)

すべての血管腫に治療が必要なわけではありません。医師は、以下のポイント(ベネフィットとリスク)を天秤にかけて治療方針を決定します。

治療推奨

顔などの目立つ場所にある、急激に大きくなっている、眼や呼吸に影響がある、潰瘍ができている、将来的に大きな跡が残りそうだと予測される場合。

経過観察

服の下など目立たない場所にあり、小さくて平らで、成長が緩やかな場合。

1. レーザー治療

色素レーザー(パルスダイレーザー:Vbeamなど)を用いた治療です。

特徴

血液中の赤い色素(ヘモグロビン)に反応する特殊な光を当て、熱で異常な血管を破壊します。正常な皮膚へのダメージを最小限に抑えながら、赤みを薄くすることができます。

適応

表面が平らで赤いタイプ(表在型)や、潰瘍ができている場合に特に有効です。盛り上がりが大きい場合や深いタイプには、レーザーの光が奥まで届かないため、効果が限定的なことがあります。

痛み

輪ゴムでパチンと弾かれたような痛みがあります。範囲が狭ければ麻酔テープやクリームを使用しますが、広範囲の場合や目の周りなどは全身麻酔で行うこともあります。

最新の知見

内服薬(ヘマンジオル)とレーザーを併用することで、それぞれ単独で行うよりも早く、きれいに治るという研究結果も報告されています。

2. 内服療法(ヘマンジオルシロップ®)

現在、乳児血管腫治療の第一選択薬(ゴールドスタンダード)となっているのが、β遮断薬であるプロプラノロール塩酸塩(商品名:ヘマンジオルシロップ)です。

仕組み

この薬は元々、心臓の病気や高血圧の薬として使われていました。血管を収縮させ、血管を作る因子の働きをブロックし、さらに血管細胞の寿命を縮めることで、血管腫を小さくし、色を薄くする効果があります。

効果

増殖期(生後5ヶ月頃まで)に開始すると最も効果が高いですが、1歳を過ぎてからでも効果は期待できます。多くのケースで、飲み始めて数日から数週間で赤みが薄くなり、柔らかくなるのが実感できます。

治療の流れ

導入: 副作用のチェックのため、初回は入院または日帰りの院内待機下で投与を開始します。心拍数、血圧、血糖値などを慎重にモニタリングします。

維持: 問題がなければ自宅での内服に切り替えます。1日2回、スポイトでシロップを飲ませます。体重の増加に合わせて、定期的に薬の量を調整します。

終了: 一般的には1歳を過ぎて血管腫の増殖が止まり、十分に小さくなるまで続けます。急にやめると再発することがあるため、医師の指示に従って徐々に減らしていくことが重要です。

【重要】副作用と注意点 ヘマンジオルは安全性の高い薬ですが、β遮断薬特有の副作用に注意が必要です。

低血糖

最も注意すべき副作用です。空腹時に服用すると血糖値が下がりすぎることがあります。これを防ぐため、**「必ず授乳や食事の直後(食後30分以内)に飲ませる」**というルールを徹底してください。体調が悪くてミルクが飲めない時や、嘔吐してしまった時は、その回の服用をスキップする必要があります。

徐脈・低血圧

心拍数がゆっくりになったり、血圧が下がったりすることがあります。

喘鳴(ぜんめい)

気管支を狭くする作用があるため、風邪をひいてゼーゼーしている時や、喘息の気がある時は服用を中止し、医師に相談してください。

3. 手術・経過観察の使い分け

手術(外科的切除)

薬やレーザーの効果がなく、眼や呼吸に深刻な影響がある場合や、自然退縮後に残った皮膚のたるみや脂肪の塊を整える場合に行われます。整容的な手術は、血管腫が小さくなりきった3〜4歳以降、あるいは就学前に行うのが一般的です。

経過観察

目立たない場所の小さな血管腫で、急激な増大がない場合は、定期的に写真を撮りながら経過を見守ります。

日常生活で気をつけるポイント

血管腫があるからといって、過度に神経質になる必要はありませんが、いくつかのポイントに気をつけることでトラブルを防ぐことができます。

患部のケアと出血時の止血方法

血管腫の表面は非常にデリケートで、少しの刺激で傷つきやすくなっています。

摩擦を防ぐ

爪を短く切って引っ掻き傷を防ぎましょう。おむつのギャザーや衣服のゴムが患部に直接当たらないよう、サイズを調整したり、柔らかいガーゼを当てたりして保護してください。

清潔を保つ

汗や汚れがついたままにしておくと、ただれの原因になります。優しく洗って清潔を保ちましょう。

出血した場合

もし傷ついて血が出てしまっても、慌てないでください。血管腫からの出血は勢いよく見えることがありますが、清潔なガーゼやタオルで患部を5分〜10分間、上からしっかりと圧迫し続ければ、ほとんどの場合は止まります。この時、何度もガーゼをめくって血が止まったか確認すると、せっかく固まりかけた血(かさぶた)が剥がれて再出血してしまうので、時間を決めてじっと押さえ続けるのがコツです。圧迫しても血が止まらない場合は、医療機関を受診してください。

予防接種と内服のスケジュール

予防接種

ヘマンジオルを服用していても、基本的には通常通り予防接種を受けることができます。同時接種も問題ありません。ただし、注射は血管腫のある場所を避けて打つ必要があります。

体調不良時

予防接種の副反応で発熱したり、食欲が落ちたりすることがあります。そのような時は低血糖のリスクを避けるため、ヘマンジオルの内服を一時的にお休み(休薬)したほうが良い場合があります。事前に主治医に「熱が出たら薬はどうすればいいか」を確認しておくと安心です。

紫外線と日光浴

「日光に当ててはいけない」という特別な制限はありませんが、紫外線は皮膚にダメージを与えるため、通常の赤ちゃんと同じように過度な日焼けは避けてください。外出時は帽子やベビーカーの日除けを活用しましょう。

よくある質問

Q
生まれた時はなかったのに、急に大きくなって心配です。もっと大きくなりますか?

A
乳児血管腫は、生後2週間〜1ヶ月頃に出現し、生後5ヶ月〜7ヶ月頃まで急速に大きくなるのが特徴です。この時期を「増殖期」と呼びます。親御さんとしては不安な時期ですが、多くの場合は1歳頃に成長のピークを迎え、そこからは徐々に縮小に向かいます。ただし、予想以上に大きくなる場合や、機能に影響が出る場合は治療が必要ですので、急激な変化を感じたら早めに専門医を受診してください。
 

Q
治療を始めるのに適した時期はいつですか?

A
**「できるだけ早く」**が原則です。特に血管腫が勢いよく大きくなる生後1ヶ月〜3ヶ月の間に治療(特にヘマンジオル内服)を開始すると、増大を最小限に抑え、その後の治りも良くなることがわかっています。しかし、生後半年や1歳を過ぎてから治療を始めても遅すぎるということはありません。気になった時点で相談することが大切です。
 

Q
治療しなくても自然に消えると言われました。それでも治療したほうがいいですか?

A
確かに多くの血管腫は自然に小さくなりますが、「完全に元通りの皮膚に戻る」とは限りません。無治療の場合、約半数以上のお子さんに、皮膚のたるみ、シワ、質感の変化などの「あと」が残ると報告されています。 「あとを残したくない」「早く治してあげたい」と考えるなら、自然経過に任せるよりも積極的な治療をお勧めします。特に顔や首、手足など露出する部位の場合は、治療のメリットが大きいと言えます。
 

Q
ヘマンジオル(飲み薬)の治療期間はどれくらいですか?

A
一般的には、血管腫の増殖が終わる1歳すぎ〜1歳半頃 まで内服を続けることが多いです。見た目がきれいになったからといって自己判断で急にやめると、リバウンド(再増大)することがあるため、医師の指示に従って少しずつ薬の量を減らしながら終了に向かいます。
 

Q
どのような病院に行けばいいですか?

A
乳児血管腫の治療、特にヘマンジオルの内服療法やレーザー治療は、専門的な知識と設備が必要です。「小児科」「皮膚科」「形成外科」の中でも、**「血管腫・血管奇形の専門外来」**がある病院や、小児のレーザー治療に慣れているクリニックを選ぶことをお勧めします。まずは近くの小児科で相談し、必要であれば専門病院への紹介状を書いてもらうのがスムーズです。
 

Q
レーザー治療の跡は残りませんか?

A
レーザー照射直後は、丸い紫色の斑点(紫斑)ができたり、軽いやけどのような状態になったりしますが、これらは通常1〜2週間程度で消失します。レーザー治療自体が原因で永久的な傷跡が残ることは稀ですが、治療後に患部を掻きむしったりすると跡になる可能性があるため、軟膏やガーゼでのケアが大切です。
 

Q
頭に血管腫があります。髪の毛は生えてきますか?

A
血管腫がある部分の毛根は、腫瘍に圧迫されて一時的に休止状態になることがありますが、腫瘍が退縮すれば再び生えてくることが多いです。しかし、血管腫が大きくなって潰瘍ができたり、深い傷になったりすると、毛根がダメージを受けてその部分だけ髪が生えてこない(脱毛斑)ことがあります。これも、早期治療をお勧めする理由の一つです。
 
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長