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単純性血管腫

Simple Hemangioma
最終更新日:2025-12-31

赤ちゃんの肌に突然現れた赤いあざ。「いちご状血管腫」と呼ばれるこの病気について、不安を感じているお父さん、お母さんは少なくありません。生まれた時は何もなかったのに、急に大きくなる様子を見て、「もっと大きくなるの?」「手術が必要なの?」と心配になるのは当然のことです。
この記事では、乳児血管腫の正体から、なぜできるのか、そして近年劇的に進歩した「きれいに治すための治療法」について、専門的な知見をわかりやすく解説します。

症例写真
単純性血管腫とは
単純性血管腫の治療
治療の費用・保険適応について
治療のダウンタイム・副作用
術後のホームケアと日常生活の注意点
QOLを支える「カモフラージュメイク」
成人の赤アザ治療への対応

単純性血管腫の症例写真

当院の患者様の治療経過です。

症例1

【治療内容】乳児血管腫の色素レーザー治療
【費用】0円(名古屋市助成による)
【リスク】赤み、水泡、色素沈着

単純性血管腫(ポートワイン母斑)とは?原因と特徴

単純性血管腫(Simple Hemangioma)は、生まれたときから存在する平らな赤いあざの一種であり、医学的には「ポートワイン母斑(Port-Wine Stain)」とも呼ばれる。皮膚の真皮層にある毛細血管が局所的に異常増殖・拡張し、その内部を流れる血液(赤血球)が透けて見えることで皮膚が赤く見える疾患である。

なぜ「赤あざ」ができるのか:病態生理

皮膚の浅い部分にある毛細血管は、通常であれば神経の支配を受けて収縮や拡張を調整している。しかし、単純性血管腫の部位では、この血管の神経支配が欠如あるいは未熟であるため、血管が常に開いたまま(拡張したまま)の状態になっていると考えられている。拡張した血管内には過剰な血液が滞留するため、外から見ると赤く見えるのである。

「いちご状血管腫」との決定的な違い

患者が最も混同しやすい疾患に「乳児血管腫(いちご状血管腫)」があるが、これらは全く異なる経過をたどるため、明確に区別する必要がある。

いちご状血管腫

生後数週間で現れ、急激に大きくなるが、5〜7歳頃までに自然に色が薄くなり、消退することが多い。

単純性血管腫

生まれたときから存在し、自然消退(自然に消えること)はしないのが最大の特徴である。むしろ、加齢とともに変化が生じるリスクがある。

経年変化のリスク:放置するとどうなるか

治療を行わずに放置した場合、以下のような変化が生じることがある。

  1. 色調の変化: 乳幼児期のピンク色から、成人になるにつれて濃い赤色、さらには紫色(ワインカラー)へと色が濃くなる。
  2. 肥厚(ひこう): 皮膚が厚くなり、ボコボコと隆起したり、結節(しこり)を形成したりすることがある。
  3. 軟部組織の肥大: 唇や頬などにアザがある場合、その部分の組織全体が肥大し、左右非対称になることがある。

このような変化を防ぐため、また心理的な負担(QOLの低下)を防ぐためにも、早期からの治療介入が世界的なスタンダードとなっている。

単純性血管腫の治療法:保険適用のレーザー治療

現代医学において、単純性血管腫の治療の第一選択(ゴールドスタンダード)は、「色素レーザー(ダイレーザー)」を用いたレーザー治療である。かつて行われていたドライアイス療法や単純切除手術に比べ、傷跡(瘢痕)を残すリスクが極めて低く、効果的に赤みを薄くすることが可能である。

治療のメカニズム:選択的光熱融解理論

レーザー治療がなぜ赤あざに効くのか、その鍵は「選択的光熱融解理論(Selective Photothermolysis)」にある。 使用されるレーザー(Vビームなど)は、血液中の赤血球に含まれる「酸化ヘモグロビン」という赤い色素に対して、最も吸収されやすい波長(595nmなど)を持っている。

選択的照射

レーザー光を皮膚に照射すると、正常な皮膚組織はダメージを受けず、赤い色素を持つ異常な血管の中の血液だけが光エネルギーを吸収する。

熱変換と破壊

吸収された光エネルギーは瞬時に熱エネルギーに変換され、血管の内壁を熱凝固させ、破壊する。

吸収と排出

破壊された血管の残骸は、時間の経過とともに体内のマクロファージ(貪食細胞)によって処理・吸収され、徐々に赤みが薄くなっていく。

使用される代表的な機器:Vビーム(V-beam)

日本国内で最も普及し、保険適用が認められているのがシネロン・キャンデラ社の「Vビーム(V-beam)」シリーズである。この機器には、治療効果を高めつつ副作用を抑えるための重要な機能が搭載されている。

ダイナミッククーリングデバイス(DCD)

レーザーが照射される直前(数ミリ秒前)に、冷却ガス(寒剤)を皮膚表面に吹き付けるシステム。これにより、表皮を熱傷(やけど)から守ると同時に、照射時の痛みを軽減する効果がある。

パルス幅の可変機能

血管の太さに応じて、レーザーを照射する時間(パルス幅)を調整できる。細い血管には短いパルス、太い血管には長いパルスを用いることで、効率的に血管を破壊できる。

治療の痛みと麻酔の必要性

レーザー照射時の痛みは、よく「輪ゴムで皮膚をパチンと弾かれたような痛み」と表現される。痛みの感じ方は個人差が大きく、照射部位によっても異なる(目や鼻の周りは痛みが強い傾向がある)。

成人の場合

我慢できる程度の痛みであることが多く、冷却装置もあるため、麻酔なしで行うことが一般的である。

小児・広範囲の場合

痛みに敏感な子供や、広範囲の照射を行う場合は、麻酔クリーム(リドカイン含有の外用麻酔)を塗布し、ラップで覆って30分〜1時間ほど置いてから照射を行う。これにより、痛みは大幅に軽減される。

【費用解説】単純性血管腫の治療費と保険適用

患者にとって最も切実な問題の一つが治療費である。単純性血管腫の治療は、日本国内において健康保険の適用対象となっている。ここでは、2024年(令和6年)以降の診療報酬点数に基づいた具体的な費用を解説する。

診療報酬点数の仕組み(2024年改定対応)

治療費は「色素レーザー照射療法」として算定され、照射する面積によって点数が決まる。

 照射面積  診療報酬点数  3割負担の金額(目安)
 10cm²未満  2,712点  約8,140円
 10cm²〜20cm²未満  3,212点  約9,640円
 20cm²〜30cm²未満  3,712点  約11,140円
 面積加算  10cm²ごとに+500点  +1,500円ずつ加算
上限 8,500点(約130cm²以上) 約25,500円(上限)
注:1点=10円で計算。上記は処置料のみであり、初診料、再診料、処方箋料などは別途必要となる。

年齢による加算と助成制度

乳幼児加算

3歳未満の乳幼児に対して治療を行う場合、**2,200点(3割負担で6,600円相当)**が加算される。

こども医療費助成制度(マル乳・マル子)

多くの自治体では、中学生(地域によっては高校生)までの医療費の自己負担分を助成する制度がある。この制度を利用すれば、窓口での支払いは無料、または1回500円程度で済むケースがほとんどである。単純性血管腫は治療期間が長くなるため、この制度の恩恵は非常に大きい。治療を検討する際は、住んでいる自治体の制度を確認することが重要である。

治療回数と期間の目安

単純性血管腫は1回の治療で完全に消えることは稀であり、複数回の照射が必要となる。

推奨回数

一般的には3〜6回以上の照射で効果を実感する場合が多いが、あざの濃さや深さによっては10回以上の治療が必要なこともある。

治療間隔(インターバル)

保険診療のルール上、同じ場所への照射は3ヶ月以上**の間隔を空ける必要がある。これは、破壊された血管が吸収され、皮膚の炎症が完全に治まるのを待つためでもある。

総治療期間

例えば5回の治療を行う場合、最低でも1年3ヶ月〜1年半の期間を要することになる。長期的な視点で治療計画を立てることが大切である。

自費診療(保険適用外)となるケース

以下のような場合は、保険が適用されず全額自己負担(自由診療)となる。

美容目的

単純性血管腫以外の、赤ら顔の改善など、病気とみなされない場合。

特殊な機器の使用

保険収載されていない型のレーザー(複数の波長を同時に出す複合機など)を使用する場合。費用はクリニックによって大きく異なる。

治療後の経過:ダウンタイムと副作用(リスク)

レーザー治療を受ける上で、「治療後にどうなるか」というダウンタイムの情報を正しく理解しておくことは、仕事や学校のスケジュール調整において極めて重要である。

術後の代表的な副作用:紫斑(内出血)

Vビーム治療の最大の特徴であり、避けて通れない副作用が**紫斑(しはん)**である。

  • メカニズム: 治療効果を十分に高めるために強い出力で照射を行うと、破壊された血管壁から赤血球が周囲の組織に漏れ出す。これが皮膚の下で広がり、濃い紫色(青あざのような色)に見える現象である。
  • ポジティブな捉え方: 患者にとっては驚くような見た目になるが、医学的には「血管が十分に破壊されたサイン(エンドポイント)」であり、紫斑が出るほどの出力で治療した方が、最終的な治療効果が高いというデータもある。

ダウンタイムのカレンダー(経過の目安)

治療後の経過を時系列で解説する。

 経過日数  状態・症状  対処・注意点
当日(直後) 照射部位が赤く腫れ、ジンジンとした熱感や痛みがある。 患部を保冷剤で冷やす。当日の入浴・運動・飲酒は禁止。
 1〜3日目  腫れ(浮腫)がピークになる。紫斑出た場合は最も濃く目立つ時期。  処方された軟膏を塗る。枕を高くして寝ると腫れが引きやすい。
 4〜7日目  腫れが引き始める。紫斑の色が濃い紫から、徐々に赤紫色、黄色へと変化してくる。  刺激を与えないように洗顔。メイクで隠すことも可能になるが、擦らないよう注意。
 7〜14日目  紫斑が黄色くなり、吸収されて消えていく。薄いかさぶたが取れることもある。  紫外線対策(遮光)を徹底する。
 2週間以降  紫斑はほぼ消失し、元の肌色に戻る。一時的に色素沈着(茶色み)が出ることがある。  継続的な保湿と遮光を行う。

その他の副作用・リスク

水疱(水ぶくれ)

稀に熱エネルギーが強すぎて火傷のような水ぶくれができることがある。この場合は潰さないように処置し、早めに医師の診察を受ける必要がある。跡が残るリスクがあるため慎重な対応が必要である。

炎症後色素沈着

レーザーの熱による炎症反応で、治療部位が日焼けしたように茶色くなることがある。日本人の肌質では起こりやすいが、通常は3〜6ヶ月かけて自然に薄くなる。摩擦や紫外線を避けることで予防できる。

色素脱失

非常に稀だが、皮膚の色が白く抜けてしまうことがある。

術後のホームケアと日常生活の注意点

治療の結果を左右するのは、レーザー照射そのものだけでなく、その後の自宅でのケア(アフターケア)がいかに適切に行われるかにかかっている。

1. 当日の禁止事項(血行促進の回避)

レーザー照射直後の血管はダメージを受けて脆くなっているため、血行が良くなる行為をすると、炎症が悪化したり、内出血が広がったり、痛みが強くなったりするリスクがある。

運動

激しいスポーツ、ジムでのトレーニング、ジョギングなどは当日は控える。

入浴

長風呂やサウナは避け、シャワー程度で済ませる。洗顔もぬるま湯で行う。

飲酒

アルコールは血管を拡張させる作用が強いため、当日は厳禁である。

2. スキンケア(洗顔・軟膏)

洗顔

照射当日から洗顔は可能だが、絶対に強く擦ってはいけない。洗顔料をよく泡立て、泡で包み込むように優しく洗うこと。タオルで拭く際も、押さえるようにして水分を吸い取る。

外用薬

医師から処方された炎症止めの軟膏(ステロイド軟膏など)を、指示された期間(通常3〜7日間)塗布する。これは炎症を抑え、色素沈着や傷跡のリスクを減らすために重要である。

### 3. 徹底的な紫外線対策(遮光) 治療中の皮膚はバリア機能が低下しており、紫外線に対して非常に無防備な状態になっている。紫外線を浴びると、治療部位が茶色く残る「色素沈着」が強く出たり、赤みの戻りが早まったりする可能性がある。

日焼け止め

外出時は必ずSPF30以上、PA++以上の日焼け止めを使用する。

物理的遮光

帽子、日傘、マスクなどを活用し、物理的に日光を遮る工夫をする。

期間

レーザー治療を受けている期間中(数ヶ月〜数年)は、季節を問わず常に遮光を意識する必要がある。

QOLを支える「カモフラージュメイク」の技術

治療に伴う紫斑(内出血)や、まだ治療しきれていない赤あざは、患者にとって大きな精神的ストレスとなる。特に顔面の病変は、社会生活を送る上で「隠したい」という切実なニーズがある。ここでは、一般的なファンデーションでは隠しきれないあざをカバーするための専門的なメイク方法を紹介する。

補色(反対色)を利用したカバー理論

赤い色を隠すために、単に肌色を厚塗りすると、厚ぼったくなり不自然に見えてしまう。そこで重要なのが「色の打ち消し合い」を利用することである。

  • 赤の補色は「緑」: 赤いあざに対しては、下地として「緑色(グリーン系)」や「黄色(イエロー系)」のコントロールカラーを使用する。これにより、赤みが茶色やグレーに近い色に中和され、その上から肌色のファンデーションを重ねることで、自然に隠すことができる。

推奨される製品:グラファとカバーマーク

医療機関でも推奨されている、カバー力の高い製品を使用することが望ましい。

グラファ(GRAFA):

特徴: 皮膚科や形成外科で取り扱われることが多い医療用メイクブランド。「カバーマーク」の技術をベースに、より低刺激でカバー力を高めた製品を展開している。

評判: 多くの患者が「一番カバー力がある」と評価しており、厚塗り感が出やすいものの、コンシーラーのように部分的に使用したり、パウダーで仕上げることで自然に見せることができる。

使用者の声: 「20年以上使用している」「マットな仕上がりだが隠れる」といった長期愛用者の声が多い。

カバーマーク(COVERMARK):

特徴: アザ隠し用ファンデーションのパイオニア的存在。「ベーシックフォーミュラ」などは汗や水に強く、崩れにくいのが特徴。デパートのカウンターで色合わせ(タッチアップ)をしてもらえるのもメリット。

メイクの開始時期

レーザー照射当日

患部へのメイクは避ける。ポイントメイク(眉毛、アイメイク、リップ)は可能である。

翌日以降

患部にジュクジュクした浸出液やかさぶたがなければ、あざ隠し用のメイクが可能である。ただし、クレンジングの際に擦りすぎないよう注意が必要である。

成人の赤アザ治療への対応

「子供の頃に治療しなかったから、もう手遅れではないか」と考える成人の患者も多いが、現代の治療ガイドラインでは、成人であっても治療の意義は十分にあるとされている。

成人の治療の特徴

成人の単純性血管腫は、血管が太くなり、皮膚も厚くなっているため、乳幼児に比べるとレーザーの効果が出にくい(回数がかかる)傾向がある。しかし、治療を続けることで、色を薄くし、ファンデーションで隠しやすくすることは十分に可能である。

結論:諦めずに専門医へ相談を

単純性血管腫は自然には治らないが、適切な治療とケアによって、目立たなくし、QOL(生活の質)を大きく向上させることができる疾患である。保険適用による経済的な負担軽減、優れたカバーメイクの存在、そして進化するレーザー治療。これらを組み合わせることで、赤あざとの付き合い方は大きく変わるはずである。まずはレーザー治療の専門医(皮膚科・形成外科)を受診し、自身の肌の状態に合った治療計画を相談することから始めてほしい。