ワイキャンスの水いぼ治療とは

新しいアプローチで水いぼに挑む

ワイキャンスは、お子さんによく見られるウイルス性の皮膚感染症、「伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)」、通称「水いぼ」の治療のために開発されたお薬です 。これまでの痛みを伴う物理的な除去とは異なり、水いぼに直接塗るだけの新しい治療法です。
このお薬の有効成分は「カンタリジン」といいます 。カンタリジンは、ツチハンミョウという甲虫類が分泌する液体に含まれる天然由来の成分で、古くから皮膚の治療に利用されてきました 。

作用の仕組み:水ぶくれを作ってウイルスを排出

ワイキャンスの最も大きな特徴は、そのユニークな作用の仕組みにあります。お薬を水いぼに塗ると、その部分の皮膚細胞の結びつきを緩め、意図的に小さな「水疱(すいほう)」、つまり水ぶくれを形成します 。
この水ぶくれが、水いぼのウイルスに感染した皮膚の組織を、下の健康な皮膚から優しく持ち上げる役割を果たします。そして、数日後に水ぶくれが乾いてかさぶたになり、自然に剥がれ落ちる際に、ウイルスに感染した組織も一緒に取り除かれるのです 。これにより、下から新しい健康な皮膚が再生してきます。
つまり、治療後に見られる水ぶくれや赤みは、副作用というよりも、お薬が正常に働いてウイルスを体外へ排出しようとしている「効いている証拠」と考えることができます。この作用の仕組みを理解することが、ワイキャンス治療を安心して進めるための第一歩となります。
この治療は、2歳以上のお子さんから大人までが対象となります 。

ワイキャンスの水いぼ治療 治療効果

ワイキャンスは、2025年9月に日本の厚生労働省から製造販売承認を取得した、画期的な新薬です 。特筆すべきは、これまで決定的な治療薬がなかった伝染性軟属腫に対して、日本で初めて有効性が認められ、健康保険が適用される塗り薬であるという点です 。
これは、水いぼ治療が、これまでの対症療法的な処置から、科学的根拠(エビデンス)に基づいた医薬品による治療へと大きく前進したことを意味します。これまで一部の医療機関で自費診療として行われていた治療法とは異なり、すべてのお子さんが公的な医療保険を使って、科学的に有効性が証明された治療を受けられるようになったのです。
治療の最終的な目標は、すべての水いぼが完全に消失することです。治療は通常、3週間に1回のペースで医療機関にて行われ、水いぼの状態を見ながら継続していきます 。

ワイキャンスの水いぼ治療の臨床研究

ワイキャンスの有効性は、個人の経験談だけでなく、信頼性の高い科学的なデータによって裏付けられています。その効果と安全性を検証するために、大規模な臨床研究(新しいお薬が本当に効くのか、安全なのかを調べる試験)が海外で実施されました。
この研究は、水いぼに悩む891人のお子さんを対象に行われ、その結果は世界的に権威のある医学雑誌『JAMA Dermatology』にも掲載されています 。
研究では、お子さんたちを2つのグループに分け、一方にはワイキャンスを、もう一方には有効成分の入っていない偽薬(プラセボ)を塗布し、その効果を比較しました。これは、お薬そのものの効果を正確に測るための最も信頼性の高い方法です 。
その結果、治療開始から12週間後にすべての水いぼが完全に消失したお子さんの割合は、ワイキャンスを使用したグループで32.4%だったのに対し、偽薬のグループでは19.7%でした 。この差は「統計学的にも有意」と判断され、偶然によるものではなく、ワイキャンスが明確な治療効果を持つことが科学的に証明されたのです 。
この結果は、ワイキャンスがすべてのお子さんに100%の効果を保証するものではないことも示しています。しかし、これまで有効な医薬品がなかった中で、これだけ明確な効果が示されたことは、水いぼ治療における大きな進歩です。なお、お薬を8回使用しても効果が見られない場合には、医師が他の治療法への切り替えを検討することになります 。

ワイキャンスの副作用

お薬を使用する上で、保護者の皆様が最も心配されるのが副作用だと思います。ワイキャンスの主な反応は、前述の通り「お薬が効いている証拠」でもありますが、どのような症状がどのくらいの頻度で起こるのかを正しく知っておくことが大切です。
ワイキャンスの作用は、意図的に水ぶくれ(局所皮膚反応)を起こすことにあるため、塗った場所の赤み、かゆみ、痛み、水ぶくれといった反応は、治療の過程で起こりうることとして想定されています 。
臨床研究で報告された主な副作用を、分かりやすく表にまとめました。

  10%以上 1~10%未満 1%未満
皮膚及び皮下組織障害 適用部位小水疱(95.7%)、適用部位痂皮(90.2%)、適用部位紅斑(87.9%)、適用部位そう痒感(70.3%)、適用部位びらん(62.5%)、適用部位変色(55.9%)、適用部位皮膚剥脱(35.5%) 適用部位乾燥、適用部位瘢痕、適用部位潰瘍、適用部位湿疹、接触皮膚炎 適用部位丘疹、水疱性皮膚炎、痂皮、皮膚色素過剰、紅斑
傷害、中毒及び処置合併症 適用部位疼痛(79.7%)、適用部位浮腫(22.7%) 適用部位腫脹  
感染症及び寄生虫症     化膿、膿痂疹、皮膚感染、細菌感染、膿痂疹性湿疹
その他     発熱、性器水疱

ワイキャンスの使い方

ワイキャンスの治療は、「医療機関での処置」と「ご自宅でのケア」の2つのステップで進められます。安全かつ効果的に治療を行うため、それぞれの役割を正しく理解しておくことが重要です。

ステップ1:医療機関にて(医師・看護師による塗布)

ワイキャンスは、その効果の高さから専門的な取り扱いが必要なお薬です。そのため、ご自宅で保護者の方が塗ることはできず、必ず医療機関で医師または看護師が塗布します 。これは、お薬を安全・正確に使用するための重要なルールです。

  1. 医師や看護師は、手袋や保護メガネを着用し、安全に配慮しながら準備をします 。
  2. 専用のアプリケータ(塗布具)を使い、一つ一つの水いぼを覆うように、ごく薄く薬液を塗っていきます。この際、周りの健康な皮膚にはみださないよう、慎重に処置が行われます 。
  3. 塗布後、薬液が完全に乾くまで約5分から10分ほど待ち、衣服などが触れないようにします 。

ステップ2:ご自宅で(保護者の方によるケア)

医療機関での塗布後、ここからは保護者の方の役割となります。

  1. 16時間〜24時間、薬液を塗ったままにします 。
  2. この時間内は、以下の点に厳重に注意してください 。
  • 塗布した部分に触ったり、舐めたり、噛んだりしないように、お子さんによく言い聞かせてください。
  • 保湿クリームやローションなど、他の塗り薬を一切塗らないでください。
  1. 16時間〜24時間が経過したら、石鹸を使って水またはぬるま湯で、薬液を優しく、しかし完全に洗い流します

この一連の流れを1回の治療とし、次の治療は原則として3週間後に行われます 。

ワイキャンスを使用できない方

ワイキャンスは多くのお子さんに使用できるお薬ですが、安全のため、以下に該当する方は使用できない、あるいは特に慎重な判断が必要となります。

このお薬を使用できない方

  • 過去にワイキャンスに含まれる成分(カンタリジンなど)に対して、アレルギー反応(過敏症)を起こしたことがある方 。

使用前に医師への相談が特に必要な方

治療を開始する前に、必ず医師や薬剤師に伝えてください。

  • 妊婦、または妊娠している可能性のある方 。
  • 授乳中の方 。

使用してはいけない体の部位

ワイキャンスは皮膚専用のお薬であり、以下の部位には絶対に使用できません 。

  • 眼、眼の周り
  • 口の中や鼻の中などの粘膜

このように、禁忌事項が比較的少ないこともワイキャンスの特徴の一つであり、アレルギー歴などの問題がなければ、2歳以上の水いぼを持つお子さんの多くにとって治療の選択肢となり得ます。

ワイキャンスの費用

2025年9月に製造販売承認を取得しています。
まもなく、保険診療で発売されます。
日本では、多くのお子さんがお住まいの市区町村が発行する「子ども医療費受給者証(医療証)」をお持ちです。この制度により、保険診療における自己負担額が助成されます。
例えば、名古屋市では小児に対しては助成により無料で使用できる予定です。