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ボツリヌス・トキシン注射(多汗症)

BOTULINUS TOXIN 
最終更新日:2026-04-19
 多汗症のボツリヌストキシン注射(ボトックス)治療に関する患者様向けの詳しいガイドです。汗を止めるメカニズムや効果の持続期間、術後の入浴・運動制限といった注意点のほか、重症度に基づく保険適用の基準、実際の費用相場まで網羅しています。代償性発汗などの副作用や禁忌についても専門的な視点でわかりやすく説明。安全性とリスクを正しく理解し、ご自身に合った治療法を見つけるための参考としてご活用ください。

ボツリヌス・トキシン注射とは
多汗症のボツリヌストキシン注射で期待できる効果と持続期間
多汗症のボツリヌストキシン注射の正しい使い方とダウンタイム中の注意点
知っておきたい副作用とリスク・代償性発汗について
多汗症のボツリヌストキシン注射を使用できない方と禁忌事項
費用
よくある質問

多汗症のボツリヌストキシン注射とは?仕組みと対象部位を解説

日常生活において、気温の上昇や激しい運動といった一般的な要因に関わらず、衣服に染みができたり、人目が気になったりするほど過剰な量の汗をかいてしまう状態を多汗症と呼びます。この多汗症に対する非常に有効かつ手軽な治療法として、多くの医療機関で標準的に導入されているのが「ボツリヌストキシン注射」です。患者様の間では「ボトックス治療」という名称でも広く知れ渡っています。

過剰な発汗を引き起こす多汗症の種類と原因

多汗症は、その原因によって大きく二つの種類に分類されます。一つは、甲状腺疾患や神経系の異常、あるいは感染症など、別の病気が原因となって引き起こされる「続発性(二次性)多汗症」です。そしてもう一つは、原因となる明らかな病気や異常が存在しないにもかかわらず、交感神経の働きが過敏になることで多量の汗をかいてしまう「原発性多汗症」です。ボツリヌストキシン注射の主な治療対象となるのは、この原発性多汗症でお悩みの患者様です。
さらに原発性多汗症は、汗をかきやすい特定の部位によって細かく分類されます。代表的な症状として、わきの下に過剰な汗をかく「原発性腋窩(えきか)多汗症」、手のひらに水滴ができるほど汗をかく「手掌(しゅしょう)多汗症」、足の裏に汗をかく「足底(そくてい)多汗症」、顔や頭部から大量の汗が流れ落ちる「顔面多汗症」などが挙げられます。ボツリヌストキシン注射は、これらの局所的な多汗症に対して直接的かつ効果的にアプローチすることが可能な治療法として、高い評価を得ています。

ボツリヌストキシン注射が汗腺の働きを止める医学的なメカニズム

ボツリヌストキシンとは、自然界に存在するボツリヌス菌という細菌が産生する天然のタンパク質を精製した有効成分のことです。ボツリヌス菌そのものを体内に注射するわけではなく、毒性を完全に取り除き、医療用として安全に精製された薬剤を使用するため、感染症を引き起こす心配は一切ありません。
人間が汗をかく際、体内では自律神経の一つである交感神経の末端から「アセチルコリン」という神経伝達物質が放出されます。このアセチルコリンが、皮膚の真皮層にある汗の出口「エクリン汗腺」の受容体に結合することで、脳からの「汗を出せ」という命令が伝わり、発汗が促されます。多汗症の患者様は、この交感神経からの指令が過剰になっている状態にあります。
ボツリヌストキシン製剤を多汗症の部位の浅い皮膚層に細かく注射すると、神経の末端に作用し、アセチルコリンの放出を強力にブロックします。その結果、エクリン汗腺に対して発汗の命令が届かなくなり、過剰な汗の分泌がピタリと抑えられるという医学的なメカニズムが働きます。表情ジワの改善などに用いられる美容目的のボトックス注射は、筋肉の過剰な収縮を抑える働きを利用していますが、多汗症治療においては筋肉ではなく、皮膚の浅い層にある汗腺の働きをターゲットにしている点が大きな特徴です。

保険適用となる部位と自由診療となる部位の違い

多汗症のボツリヌストキシン治療を検討する上で重要なのが、症状が出ている部位によって健康保険が適用されるかどうかが異なるという点です。日本の現在の医療制度(2024年以降時点)においては、ボツリヌストキシン注射が保険適用の対象となるのは「原発性腋窩多汗症(わきの多汗症)」のみに限定されています。
一方で、手のひら(手掌多汗症)や足の裏(足底多汗症)、顔面多汗症といった、わき以外の部位に対する治療については、残念ながら現時点では保険適用の対象外となっており、全額自己負担の自由診療となります。しかし、自由診療であっても治療自体は問題なく受けることが可能であり、保険診療の厳しい基準にとらわれず、患者様のご希望や症状の程度に合わせて柔軟に治療を進められるというメリットがあります。部位ごとの費用の違いについては、後の項目で詳しく解説いたします。

当院のワキ汗治療

当院では様々な治療法を患者様に合わせてご提案しています。

  ミラドライ 外科手術 ボツリヌス・トキシン注射 エクロックゲル
ラピフォートワイプ
持続時間 長期 長期 4~7カ月 1日
効果 ★★★ ★★★ ★★
傷痕 - あり - -
治療時間 1時間 1~2時間 15分 -
ダウンタイム 数日 2~3週間 - -
費用 275,000円 当院では未実施 29,800円/回 約3,000円/28日
(3割負担の場合)

当院の手汗治療

当院では様々な治療法を患者様に合わせてご提案しています。

  イオントフォレーシス アポハイドローション 塩化アルミニウム
ローション
塩化アルミニウム
軟膏の密閉治療
ボツリヌス・トキシン注射
治療効果
頻度 週1~2回 毎日 最初は毎日使用する
効果が出てきたら週2~3回
 4~7カ月毎
長所 保険適応
名古屋市内の高校生以下は無料
効果が強い
短所 通院回数が多い   効果が弱い   痛みが強い
保険適応 あり あり なし なし なし

多汗症のボツリヌストキシン注射で期待できる効果と持続期間

ボツリヌストキシン注射は、メスを使用する外科手術と比べて身体への負担が極めて少ない「切らない治療」でありながら、非常に高い発汗抑制効果をもたらすことが実証されています。多汗症治療の初期段階、あるいは塗り薬などで効果が不十分だった場合の次の選択肢として、多くの患者様に選ばれています。

効果が現れるまでの日数とピークに達する時期

ボツリヌストキシン注射の効果は、施術を受けた直後からすぐに汗が止まるというわけではありません。薬剤が神経の末端に取り込まれ、アセチルコリンの放出をブロックするまでには少し時間がかかります。個人差はありますが、一般的には注射を行ってから2日から7日程度経過したあたりから、徐々に汗の量が減ってきたことを実感し始めます。
その後、薬剤の効果が患部全体にしっかりと定着し、発汗抑制効果が最大化(ピーク)に達するまでには、施術から約2週間前後の期間を要するとされています。このメカニズムを理解していないと、施術後数日で「効果がなかったのではないか」と不安に感じてしまう患者様もいらっしゃいます。効果が安定するまでには約2週間のタイムラグがあるため、夏場の本格的な暑さや、人前に出る重要なイベントに向けて汗を抑えたい場合は、希望する時期の約2週間から1ヶ月前を目安に施術のスケジュールを組むことをお勧めいたします。また、発汗量が減少することで、脇の下の蒸れが原因となって発生するニオイ(ワキガの症状)の軽減効果も同時に期待でき、冬場の暖房によるのぼせや厚着による蒸れ対策としても非常に有効です。

治療効果の持続期間に影響を与える要因

ボツリヌストキシンの効果は半永久的に続くものではありません。時間が経過するにつれて、神経と汗腺の接合部で新しい神経末端が徐々に再生し、神経伝達が回復してくるためです。
脇の多汗症に対する効果の持続期間は、一般的に4ヶ月から9ヶ月程度であり、平均して約6ヶ月間持続するとされています。また、患者様の体質や使用する製剤によっては、6ヶ月から最大12ヶ月ほど効果が持続するケースも報告されています。持続期間の長さには、個人の代謝速度(薬剤が体内で分解されるスピード)、過去の施術回数、注入された薬剤の量や正確な部位、そして対象となる部位の発汗の強さなど、さまざまな要因が複合的に影響します。個人差はあるものの、一度の注射でワンシーズン(春先から秋口までの約半年間)の脇汗を快適にコントロールできるため、日常生活の質(QOL)は劇的に向上します。

定期的な治療継続がもたらす長期的なメリット

効果を維持し、常に快適な状態を保つためには、効果が切れ始める半年から1年ごとのタイミングで定期的な再注射(メンテナンス)を行うことが推奨されます。
定期的に施術を繰り返すことには、単に汗を抑える以上の長期的なメリットがあります。複数回にわたってボツリヌストキシン注射を継続している患者様の中には、効果の持続期間が初回よりも徐々に延びてきたり、一回の施術に必要な薬剤の注入量が減少したりするケースが臨床現場から報告されています。これは、継続的に汗腺の働きを休ませることで、過剰な発汗サイクル自体が落ち着いてくるためと考えられています。半年に1回程度の通院で状態が安定するようになれば、多汗症による日々の精神的なストレスや、こまめな着替え、制汗剤の塗り直しといった物理的な負担から長期的に解放されることにつながります。

多汗症のボツリヌストキシン注射の正しい使い方とダウンタイム中の注意点

ボツリヌストキシン注射は、施術自体が短時間で終了し、身体への負担が少ないため、ダウンタイム(施術後から通常の生活に戻るまでの回復期間)が非常に短い治療法です。しかし、薬剤の特性を正しく理解し、施術後の数日間に適切なケアを行うことが、効果を最大限に引き出し、予期せぬ副作用を防ぐ上で極めて重要となります。

施術当日から1週間程度の入浴・サウナ・運動の制限

施術後の過ごし方において最も重要な注意点は、身体を過度に温める行為を避けることです。ボツリヌストキシンはタンパク質を主成分としているため、「熱に非常に弱い」というデリケートな性質を持っています。注射した薬剤が患部の神経にしっかりと定着する前に高温環境にさらされると、タンパク質が変性してしまい、期待される発汗抑制効果が十分に得られなくなったり、持続期間が極端に短くなってしまう恐れがあります。
このため、施術当日から約1週間程度は、必要以上に体温が上昇するような活動はお控えいただくのが安全です。具体的には、サウナ、温泉、長時間の入浴(長風呂)、ホットヨガなどの利用は避けてください。施術当日の入浴については、湯船には浸からず、ぬるめのシャワー程度で軽く済ませることを強く推奨いたします。薬剤の効果が完全に定着した約2週間後以降であれば、身体を温めても効果が減少するなどの悪影響はないとされています。

患部のマッサージや過度な飲酒による薬剤拡散のリスク

体温の上昇を防ぐことに加えて、注射部位の血流を急激に増加させたり、物理的な圧力を加えたりすることも避ける必要があります。これらの行為は、注射部位における内出血のリスクを高めるだけでなく、薬剤が本来のターゲットではない周囲の筋肉などに拡散してしまう危険性を伴います。

 控えるべき行動  目安となる期間 制限が必要となる医学的理由
 激しい運動  施術当日〜数日間 ジムでのトレーニングやランニングなどの強度の高い運動は血流を促進し、内出血のリスクを高めます。また、体温上昇によってボトックス成分が変性するのを防ぐため、翌日以降から徐々に通常の運動に戻すのが安全です。
 過度な飲酒  施術当日〜翌日 アルコールには血管を拡張させ血流を増加させる作用があります。施術当日に飲酒すると、注射部位の腫れや痛みが増幅したり、内出血が広範囲に広がったり、薬剤が周囲に拡散するリスクが高まるため控えてください。
 マッサージ  施術後約1週間 注入部位を強く揉んだり押したりすると、薬剤が周囲の組織へ予期せず拡散してしまいます。顔の治療の場合、口がゆがむ、まぶたが重くなるといった表情筋への影響が出る恐れがあるため厳禁です。
脇の治療であれば、顔面ほどのシビアな影響は出にくいものの、患部を強くこすったり揉んだりすることは同様に避けてください。制汗剤の使用についても、施術当日は注射の針穴が開いており感染のリスクがあるため控え、翌日以降に患部の状態が落ち着いてから使用を再開してください。

日常生活への影響とダウンタイムの短さというメリット

上記のようないくつかの生活上の制限事項はありますが、ボツリヌストキシン注射はメスを使用する外科手術のように患部を縫合したり、長期間の固定が必要になったりすることはありません。ダウンタイムは極めて短く、日常生活やお仕事への影響を最小限に抑えられるのが最大のメリットです。
施術後、クリニックを出てすぐにお帰りいただくことができ、デスクワークや軽い家事などの日常的な活動であれば、当日からでも問題なく再開できます。患部を清潔に保ち、過度な刺激や熱を避けるという基本ルールさえ守っていただければ、非常に手軽かつ快適に多汗症の治療を進めることが可能です。これまで「仕事が忙しくて手術のための休みが取れない」と悩んでいた患者様にとって、非常に喜ばれている治療法となっています。

知っておきたい副作用とリスク・代償性発汗について

ボツリヌストキシン注射は、世界中で数千万件以上の施術実績があり、適切な医療機関で医師の管理下に行われれば安全性が非常に高い治療として確立されています。しかしながら、医薬品を用いた医療行為である以上、副作用やリスクが完全にゼロというわけではありません。治療のメリットだけでなく、起こり得る症状についても事前に正しく理解しておくことが不可欠です。

注射部位の一時的な腫れ・赤み・内出血の経過

最も多く見られる一般的な副作用は、注射の針を刺した局所に起こる一時的な物理的反応です。数十箇所の細かい注射を行うため、施術直後から数日間にわたって、注射部位が腫れたり、赤みが出たり、内出血(青あざのような状態)が生じたりすることがあります。また、薬剤が組織内に入ったことによる軽い違和感や、施術後の鈍い痛みを感じる患者様もいらっしゃいます。
これらの症状は、ごく一般的な反応であり、通常は数日から1週間、長くても1ヶ月以内には自然に吸収されて消失していきます。特に内出血は、時間経過とともに紫色から黄色へと変化し、最終的には完全に消えて跡が残ることはありません。ごく稀に、薬剤に対するアレルギー反応やかゆみ、あるいは頭痛が生じるケースも報告されていますが、発生頻度は極めて低いとされています。

手や顔の治療に伴う一時的な筋力低下や表情の変化

多汗症の治療では、本来は皮膚の浅い層にある汗腺をターゲットに薬剤を注入しますが、皮膚のすぐ下には筋肉が存在している部位も多くあります。そのため、注入した薬剤の一部が周囲の筋肉に作用してしまい、治療部位に応じた一時的な「筋力の低下」や「動かしにくさ」を引き起こすリスクがあります。
例えば、手掌(手のひら)多汗症の改善を目的として手に注射を行った場合、指先の細かい作業(タイピングや裁縫など)が少ししづらくなったり、ペットボトルのキャップを開けるなど、手に強い力を入れる動作が一時的に難しくなったりする可能性があります。また、顔面多汗症の治療として額などに注射した場合には、おでこの筋肉(前頭筋)の動きが抑えられることで、まぶたが重く感じたり、目が開けづらくなったり、一時的に表情が不自然に感じられることがあります。これらの筋肉に対する予期せぬ影響は、時間の経過とともに薬剤の効果が弱まるにつれて解消し、多くの場合1ヶ月以内には元の状態に戻ります。

別の部位の汗が増える「代償性発汗」の可能性と対策

多汗症治療特有のリスクとして、患者様が必ず知っておくべき現象が「代償性発汗(だいしょうせいはっかん)」です。これは、ボトックス注射によって治療部位(例えば脇や手)の発汗が強力に抑制された結果、体温調節のバランスを保つために、その代わりに背中、胸、お腹、太ももなど、本来あまり汗をかいていなかった別の部位からの発汗量が増加してしまう現象を指します。
代償性発汗は、多汗症の根本治療である手術療法(胸腔鏡下交感神経切除術)を行った患者様において、非常に高い確率で、かつ重度に発生しやすい合併症として広く知られています。ボツリヌストキシン注射においても、手術ほど重度ではありませんが、軽度から中等度の代償性発汗が起こることがあります。発生する頻度や増加する汗の量には大きな個人差があり、施術部位によっても異なります。 しかし、ボツリヌストキシン注射による代償性発汗の最大の救いは、薬剤の効果が数ヶ月で切れるとともに、増加していた別の部位の汗も元の状態に戻っていくという点です。手術のように一生涯にわたって代償性発汗に悩まされるというリスクが極めて低いため、比較的安全に多汗症をコントロールできる手段と言えます。

多汗症のボツリヌストキシン注射を使用できない方と禁忌事項

ボツリヌストキシン注射は幅広い患者様に適用できる治療ですが、現在の健康状態や服用しているお薬、過去の病歴によっては、治療を受けることができない(禁忌とされる)、あるいは慎重な判断が求められる場合があります。安全を確保するため、事前の問診で医師にご自身の状態を正確に申告していただくことが大切です。

妊娠中・授乳中の方への安全面を考慮した使用制限

妊娠中の方、あるいは妊娠している可能性がある方、そして授乳中の女性は、ボツリヌストキシン注射を受けることができません。これは、ボツリヌストキシン製剤が胎児の発育や、母乳を通じて乳児に与える影響について、安全性を証明する医学的なデータが確立されていないためです。母体と赤ちゃんの健康を最優先とし、世界的な医療ガイドラインにおいても禁忌として扱われています。
また、治療後においても、薬剤が体外に完全に排出されるまでの安全期間を考慮し、女性の場合は治療後2回の月経を経るまで、男性の場合は治療後3ヶ月間程度は避妊をすることが一般的に推奨されています。ご家族計画がある方は、施術のタイミングについて医師とよく相談してください。

神経筋接合部疾患やアレルギーをお持ちの方へのリスク

ボツリヌストキシンは神経伝達物質の放出を抑制する働きがあるため、もともと筋肉を動かす神経の働きに異常がある疾患をお持ちの方は、症状を急激に悪化させる危険性があるため治療を受けることができません。具体的に禁忌となるのは、重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの「神経筋接合部疾患」と診断されている患者様です。
加えて、過去にボツリヌストキシン製剤を使用してアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を起こしたことがある方や、注射予定の部位の皮膚に明らかな炎症、感染症、湿疹などの皮膚疾患が生じている方も、状態が悪化する恐れがあるため施術を控える必要があります。

筋弛緩剤などの併用注意薬と短期間での反復治療の回避

現在他の病気で通院治療中であり、特定のお薬を内服している場合も注意が必要です。とくに、筋肉の緊張を和らげる作用のある「筋弛緩剤」や、一部の抗生物質(アミノグリコシド系など)を使用している場合、ボトックスの作用が強く出すぎたり、副作用のリスクが高まったりする恐れがあるため、おすすめできないケースがあります。受診の際には、必ずお薬手帳を持参し、服用中のすべての薬の情報を医師に開示してください。
また、他院を含めて短期間(通常は3ヶ月以内)のうちに複数回のボツリヌストキシン注射を受けている場合も、治療を見送る場合があります。短期間に過剰な量の薬剤を体内に取り込むと、体内で抗体が産生されてしまい、将来的にボトックス治療が全く効かなくなってしまう(耐性がつく)リスクがあるためです。適切な治療間隔を守ることが、長期的な治療の成功につながります。

多汗症のボツリヌストキシン注射の費用相場と保険適用の条件

多汗症のボツリヌストキシン治療を検討される際、多くの患者様が懸念されるのが「治療費用」と「保険適用の有無」です。日本の医療制度では、治療する部位や症状の重さによって、健康保険が適用されて自己負担が軽減される場合(保険診療)と、全額自己負担となる場合(自由診療)が厳格に定められています。

※当院では保険適応のボツリヌストキシン注射治療を実施していません。

原発性腋窩多汗症における重症度(HDSS)と保険適用の厳格な基準

かつて多汗症のボトックス治療はすべて全額自己負担の自由診療でしたが、2012年に「原発性腋窩多汗症(わきの多汗症)」に限り、一定の条件を満たす重症患者様に対して健康保険が適用されるようになり、治療のハードルが大きく下がりました。しかし、単に「脇汗が多い」というだけでは保険適用とはなりません。以下の厳格な基準をすべて満たし、医師から正式に診断を受ける必要があります。

一次治療が効果不十分であること

塩化アルミニウム外用薬(汗腺を塞ぐ塗り薬)などの初期治療を一定期間行ったにもかかわらず、十分な効果が得られなかったこと。

HDSS(多汗症疾患重症度スケール)が「スコア3以上」であること

患者様自身の自覚症状に基づき、日常生活への支障度を4段階で評価する基準です。

スコア1:発汗は全く気にならず、日常生活に支障がない。

スコア2:発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある。

スコア3:発汗はほぼ常に我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある。(保険適用対象)

スコア4:発汗は全く我慢できず、日常生活に常に支障がある。(保険適用対象)

追加診断基準(以下のうち2つ以上に該当すること)

左右両方の脇で同じように(対称性に)汗が出る。

汗のせいで着る服が制限される、人と会うのを避けるなど日常生活に支障がある。

週に1回以上、大量に汗をかくエピソードがある。

25歳になる前から症状があった。

家族や親族にも同じような多汗症状の人がいる。

寝ているとき(睡眠中)はピタリと汗が止まる。

これらの基準を診察時に医師が確認し、重症であると判定された場合にのみ、保険診療としての治療がスタートします。

保険適用時(3割負担)の具体的な費用シミュレーションと総額

上記の基準を満たして保険適用となった場合、治療費用は国が定める診療報酬制度に基づいて全国一律で算定されます。保険診療では、厚生労働省の承認を受けた特定のボツリヌストキシン製剤(例:片脇50単位、両脇で計100単位を使用)のみが使用されます。
具体的な費用の内訳としては、ボツリヌストキシン注射の技術料と薬剤料を合わせて「61,446円」に設定されています。
年齢や加入保険別の自己負担額の目安(技術料+薬剤料のみ)

 保険負担割合  費用の目安  対象となる方の例
 3割負担 18,434円  一般的な会社員やそのご家族
 2割負担 12,290円  70歳以上で一般所得の方
 1割負担・無料 0~6,145円  小学校入学前のお子様など(医療費助成適用の場合)

ただし、実際のクリニックでのお支払い総額はこれだけではありません。初診時の診察料に加え、各種の加算点数、後日の再診料(約1,000円〜2,000円程度)などが別途かかります。したがって、3割負担の患者様が初めて保険適用でボトックス治療を受ける場合、初回治療の総額費用として「約22,000円程度」を見込んでおくのが現実的です
また、他の保険治療が無効である場合に適応になる治療です。 そのため、事前に他の治療薬の処方歴や受診歴も必要になります。いきなり初診で、保険適応のボトックス注射が受けられるわけではありません。
なお、年間の医療費の自己負担額が10万円を超える場合は確定申告により「医療費控除」を受けられるほか、同一月に他の医療費が重なり規定の額を超えた場合には「高額療養費制度」の対象となり、後から払い戻しを受けられる可能性があります。

手のひらや足の裏など自由診療を選択する場合の費用と製剤の違い

前述の通り、保険適用は「わき」のみに限られているため、手のひら(手掌多汗症)や足の裏(足底多汗症)、顔面多汗症といった部位の治療を希望される方は、全額自己負担の「自由診療」となります。また、わきであってもHDSSスコアが1〜2の軽症・中等症の患者様は自由診療を選択することになります。
自由診療の最大のメリットは、厳しい保険基準を満たさなくても、患者様のお悩みやご希望に合わせてスピーディーに治療を開始できる点です。さらに、使用する製剤についても、保険診療用の高価な承認薬に縛られることなく、医師の判断のもと、安全性が確立されたより安価な他のボツリヌス毒素製剤(ジェネリックにあたる製剤など)を選択することが可能です。
そのため、部位や使用する薬剤の種類、注入量によっては、自由診療のほうが保険適用の3割負担額(6万円台)よりも安く設定されているクリニックも多数存在します。一般的な自由診療での両脇ボトックス注射の費用相場は、1回あたり約25,000円〜40,000円程度です。手のひらや足の裏など面積が広く多量の薬剤を必要とする部位の場合は、これよりも費用が高くなる傾向があります。ご自身の予算やライフスタイルに合わせて、最適なプランを医師と相談して決定してください。

ボツリヌス・トキシン注射の料金

全て、税込みです。
※当院では保険適応のボツリヌストキシン注射治療を実施していません。

初診料

3,300円

再診料

1,100円

 処置料

29,700円(両脇)

44,000円(両手・両足)

33,000円(額)

麻酔料

2,200円

よくある質問

A
ボツリヌストキシン注射は、極細の医療用注射針を用いて、治療部位の皮膚の浅い部分に数十箇所にわたって細かく薬剤を注入していきます。そのため、針を刺す際の「チクッ」とした痛みや、薬剤が組織内に入る際の押されるような鈍い痛みを感じることがあります。痛みの感じ方には個人差があり、脇の下であれば我慢できる程度という方が多いですが、特に手のひらや足の裏は神経が密集しており皮膚も厚いため、脇に比べて強い痛みを感じやすい部位です。
痛みに不安がある方のために、多くのクリニックでは痛みを軽減するための麻酔オプションを用意しています。代表的なものとして、注射の数十分前に治療部位に塗布して皮膚表面の感覚を鈍らせる「クリーム麻酔(表面麻酔・2,200円)」が使用できます。痛みが心配な方は、ご予約時や診察時に遠慮なく医師やスタッフにご相談ください。
 
A
多汗症で保険が適用される初期治療としては、ボトックス注射以外に「外用薬(塗り薬)」と「内服薬(飲み薬)」があります。 外用薬(塩化アルミニウム液など)は、汗の出口である汗腺を物理的に塞ぐことで汗を抑える手軽な治療法です。しかし、効果を持続させるためには毎晩の継続的な塗布が必要であり、皮膚への刺激が強いため、かゆみやかぶれを起こして継続できなくなる患者様も少なくありません。 抗コリン薬などの飲み薬は、全身の汗を抑える効果がありますが、汗腺だけでなく唾液腺や涙腺の働きも抑えてしまうため、口の渇き(ドライマウス)や便秘、眼のかすみといった全身的な副作用が出やすいというデメリットがあります。
これらに対してボツリヌストキシン注射は、気になる「局所のみ」にダイレクトに作用するため全身的な副作用の心配が少なく、一度の注射で約半年にわたって効果が持続するため、毎日の面倒なケアから解放される点が最大のメリットです。
 
A
ボトックス注射は効果が一時的ではあるものの、リスクや身体への負担が少なく、すぐに始められるという大きなメリットがあります。一方、ミラドライは初期費用が高額になりますが、アグレッシブな外科手術と同等の半永久的な治療効果を持ちながら、手術特有のリスクを回避できるという点で非常に優れた選択肢です。数年間にわたってボトックスを打ち続ける生涯コストと、ミラドライの一括費用を比較検討し、ご自身のライフスタイルや症状の重さに最も合った治療法を選択することが推奨されます。
多汗症による日々のストレスやコンプレックスは、適切な治療を行うことで劇的に改善することができます。一人で悩みを抱え込まず、まずは多汗症治療を専門とするクリニックに相談し、重症度の評価と最適な治療プランの提案を受けてみてはいかがでしょうか。

※ボツリヌス・トキシン注射治療について

未承認医薬品等
この治療で使用されるボツリヌス・トキシンは、医薬品医療機器等法上の承認を得ていない未承認薬です。
入手経度等
当院で使用しているボツリヌス・トキシンは、韓国のメディトックス社により製造されたイノトックス(INNOTOX)を当院で個人輸入しております。
個人輸入された医薬品等の使用リスクに関する情報は下記URLをご確認ください。
https://www.yakubutsu.mhlw.go.jp/individualimport/purchase/
国内の承認医薬品の有無
重度の原発性腋窩多汗症などに対して、グラクソスミスクラインのボトックスが国内で承認されています。
しわ治療に対して、アラガン社のボトックスビスタが国内で承認されています。
諸外国における安全性などに係る情報
イノトックス(INNOTOX)は、韓国のKFDA(韓国食品医薬品安全庁)で承認されております。 米国のFDAでの承認に向けての申請を行っています。

≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長