エクロックゲルとは

エクロックゲルとは

エクロックゲルは、「原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)」と診断された方のための、医療用医薬品です 。これは、特に原因となる病気がないにもかかわらず、わきの下に日常生活に支障をきたすほどの多くの汗をかく状態を指します 。
このお薬は、日本で初めて原発性腋窩多汗症の治療薬として健康保険の適用が認められた塗り薬であり、多くの方がより身近に専門的な治療を受けられるようになりました 。これまで「汗っかき」「体質だから仕方ない」と諦めていた方も、医療機関で相談できる病気として治療の道が開かれています 。
有効成分は「ソフピロニウム臭化物」で、無色から少し黄色がかった透明なゲル状の製剤です 。
「原発性腋窩多汗症」のセルフチェック 以下の項目のうち、2つ以上が当てはまる場合、原発性腋窩多汗症の可能性があります。

  • 最初に症状が出たのが25歳以下である
  • 左右のわきに同じように汗をかく
  • 寝ている間は汗が止まっている
  • 1週間に1回以上、多汗の症状が出る
  • 家族にも同じような症状の人がいる
  • 汗のせいで日常生活に支障が出ている

このお薬の登場は、わき汗の悩みを「個人の悩み」から「医療で解決できる症状」へと変える、大きな一歩となりました。従来、治療の選択肢は市販の制汗剤や保険適用外で高価な薬剤、あるいは注射や手術といった侵襲的な方法に限られていました 。エクロックゲルのような保険適用の塗り薬は、治療へのハードルを大きく下げ、生活の質(QOL)の向上に貢献します。

エクロックゲルの仕組み

エクロックゲルがどのようにして汗を抑えるのか、その仕組みは非常に合理的です。
私たちの脳が「汗を出せ」という指令を出すと、その信号は神経を伝わって汗腺(汗をつくる器官)に届きます。このとき、神経の末端から「アセチルコリン」という化学物質が放出され、汗腺にある受け皿(受容体)に結合することで、汗が分泌されます 。
エクロックゲルの有効成分であるソフピロニウム臭化物は、このアセチルコリンが汗腺の「ムスカリンM3受容体」という特定の受け皿に結合するのをブロックする働きをします 。つまり、脳からの「汗を出せ」という指令のバトンが汗腺に渡らなくなるのです。その結果、汗腺は指令を受け取れず、過剰な汗の分泌が抑えられます 。
このお薬は、塗った部分にだけ効果を発揮するように設計されています。皮膚から吸収された有効成分は、もし血流に乗ったとしても速やかに分解され、全身への影響が最小限になるよう工夫されています 。この局所的な作用により、飲み薬で起こりがちな全身性の副作用のリスクを抑えながら、わきの汗を効果的に治療することが可能になっています。
効果を実感するまでの期間 エクロックゲルは対症療法薬であり、効果を持続させるためには継続的な使用が必要です 。効果の発現には個人差があり、早い方では数日で変化を感じることもありますが、一般的には約2週間 ほどで効果がはっきりしてきます。効果を正しく判断するためにも、まずは6週間 を目安に治療を続けることが推奨されています 。塗り始めてから4時間後が最も効果が高まるとされています 。
 

当院のワキ汗治療

当院では様々な治療法を患者様に合わせてご提案しています。

  ミラドライ 外科手術 ボトックス エクロックゲル
ラピフォートワイプ
持続時間 長期 長期 3~6カ月 1日
効果 ★★★ ★★★ ★★
傷痕 - あり - -
治療時間 1時間 1~2時間 15分 -
ダウンタイム 数日 2~3週間 - -
費用 220,000円 当院では未実施 29,800円/回 約3,000円/28日
(3割負担の場合)

エクロックゲルの治療効果

原発性腋窩多汗症患者281名を対象とした国内試験

患者

12歳以上の日本人281人

HDSS(自覚症状スコア)が3点以上(1~4点)

 スコア3︓発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある

 スコア4︓発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある

HDSM-Axスコア(重症度スコア)が2点以上(0~4点)

腋窩発汗量が両側50㎎以上

方法

薬剤使用グループと、使用しないグループでの比較試験(無作為化、基剤対照、二重盲検)。

1日1回就寝前に6週間腋窩に塗布し、2、4、6週間投与後に患者の自覚症状評価及びろ紙による発汗測定する。

結果

HDSS(自覚症状スコア)が2点以下に、60.3%が改善

。(対照群47.9%)

77.3%が発汗重量が半分以下になった。(対照群66.4%)

両腋窩の発汗重量が157.1㎎減少。(対照群128.1㎎減少)

HDSM-Axスコアがー1.41点(4点満点)に改善。(対照群ー0.93)

 

エクロックゲルの長期的な治療効果

原発性腋窩多汗症患者185名を対象とした国内長期投与試験

患者

先行する第Ⅲ相試験から移行した、12歳以上の日本人の原発性腋窩多汗症患者185例

切替群:第Ⅲ相試験(検証的試験)において、基剤群であった患者集団

継続群:第Ⅲ相試験(検証的試験)において、エクロック群であった患者集団

方法

非対照、非盲検での長期的な安全性・有効性を検討する試験デザイン

1日1回就寝前に52週間腋窩に塗布し、安全性・有効性を評価する。

結果

HDSS(自覚症状スコア)が2点以下割合が、移行後2週目で切替群67.0%、継続群71.4%、移行後6週目で切替群83.0%、継続群85.7%、移行後24週目で切替群87.2%、継続群83.5%、移行後52週目で切替群76.6%、継続群71.4%。

発汗重量が半分以下になった割合が、移行後52週目の両腋窩合計発汗重量のベースラインとの比が0.5以下の患者の割合は、切替群66.0%、継続群67.0%

 

エクロックゲルの安全性(副作用)

 原発性腋窩多汗症患者281名を対象とした国内試験

重篤な副作用

なし

頻度の高い副作用

上咽頭炎(14.2%)、適用部位皮膚炎(8.5%)、適用部位紅斑(5.7%)

抗コリン作用の副作用

口渇(1.4%)、便秘(0.7%)、散瞳(0.7%)

エクロックゲルの使い方

エクロックゲルを安全かつ効果的に使用するためには、正しい使い方を守ることが何よりも大切です。特に、副作用を防ぐための重要な注意点があります。

基本的な使い方

回数

1日1回、両わきに塗ります 。

タイミング

塗り忘れを防ぐため、毎日決まった時間(例:お風呂上がり、就寝前など)に塗る習慣をつけましょう。臨床試験では就寝前に塗布していました 。

準備

塗る前には、わきを清潔にし、タオルで水気を完全に拭き取ってください 。

【最重要】安全のための注意点

手で塗らない

絶対にゲルを直接手に出して塗らないでください。必ず専用のアプリケーター(塗り口)を使用してください 。もし誤ってゲルが手についた場合は、すぐに石鹸でよく洗い流してください 。

目に入れない

ゲルが目に入ると、瞳孔が開いて視界がぼやけるなどの副作用が起こる可能性があります。ゲルを扱った手で絶対に目をこすらないでください 。万が一目に入った場合は、すぐに大量の水で洗い流し、異常があれば眼科医の診察を受けてください 。

火気厳禁

ゲルにはアルコールが含まれており、燃えやすい性質があります。ストーブの近くや調理中など、火気の近くでの使用・保管は絶対に避けてください 。

塗った後は乾かす

ゲルを塗った後は、完全に乾くまで衣服や寝具が触れないように注意してください 。

ボトルの種類別の使い方
エクロックゲルには2種類のボトルがあります。お手元のボトルの種類を確認して、正しく使用してください。
アプリケーター付きボトル(ポンプタイプ)

  1. 初回のみ: 薬液が出るまで、ポンプを3〜4回空押しします。
  2. 付属のアプリケーター(塗布具)を水平に持ちます。
  3. ポンプをゆっくり1回押して、アプリケーターの上に薬液を1回分出します(片わき分)。
  4. アプリケーターを使って、薬液を片方のわき全体に均一に塗り広げます。
  5. もう片方のわきも同様に、ポンプを1回押して薬液を出し、塗り広げます。
  6. 使用後、アプリケーターに残った薬液をティッシュで拭き取るか水で洗い流し、キャップをしっかり閉めて保管します。

ツイストボトル(一体型タイプ)

  1. 初回のみ: 薬液が出るまで、ボトルの頭部を左右に3〜4回ゆっくり回します。
  2. 頭部をまず右(時計回り)に止まるまで回し、次に左(反時計回り)に止まるまで戻します。これで先端の吐出面に薬液が1回分(片わき分)出ます。
  3. ボトルの吐出面を直接わきにあて、薬液を片方のわき全体に均一に塗り広げます。
  4. もう片方のわきも同様に、ステップ2の操作で薬液を出し、塗り広げます。
  5. 使用後、吐出面に残った薬液をティッシュで丁寧に拭き取り、キャップをしっかり閉めて保管します。

エクロックゲルを使用できない方

エクロックゲルは、特定の持病をお持ちの方には使用できません(禁忌)。また、使用に際して注意が必要な方もいます。安全な治療のために、ご自身の健康状態について必ず医師に伝えてください。

使用してはいけない方(禁忌)

閉塞隅角緑内障の方

お薬の作用(抗コリン作用)により眼圧が上昇し、病気を悪化させる危険があるため使用できません 。

前立腺肥大による排尿障害がある方

お薬の作用により、さらに尿が出にくくなり、尿閉(尿が全く出なくなる状態)を引き起こす可能性があるため使用できません 。

エクロックゲルの成分にアレルギーの既往歴がある方

過去にこのお薬でアレルギー反応を起こしたことがある方は使用できません 。

使用に注意が必要な方(医師への相談が必要)

妊娠中・妊娠の可能性がある方

ヒトでの安全性は確立されていません。動物実験では、胎児へ成分が移行することが報告されています。治療上の有益性が危険性を上回ると医師が判断した場合にのみ使用されます 。

授乳中の方

ヒトの母乳へ成分が移行するかは不明ですが、動物実験では報告されています。医師と相談の上、授乳を続けるか、お薬の使用を優先するかを判断します 。

12歳未満の小児

12歳未満のお子さんに対する臨床試験は実施されておらず、安全性・有効性は確立していません 。

わきに傷や湿疹、皮膚炎がある方

傷口などからお薬が体内に吸収されやすくなり、副作用のリスクが高まる可能性があるため、その部位への使用は避けてください 。

これらの禁忌や注意点は、エクロックゲルが皮膚に塗るだけの薬であっても、全身に影響を及ぼす可能性があることを示しています。ご自身の健康状態を正確に医師に伝えることが、安全で効果的な治療の第一歩です。

エクロックゲルの費用

エクロックゲル(20g)の費用

1,455円(3割負担のとき)
485円(1割負担の時)
 

エクロックゲル1か月分(40g)の費用

2,911円(3割負担のとき)
970円(1割負担の時)