アポハイドローションとは
アポハイドローションとは
アポハイドローション20%は、「原発性手掌多汗症」の治療のために開発された、日本で初めて保険適用が認められた外用薬(塗り薬)です 。原発性手掌多汗症とは、他の病気が原因ではなく、手のひらに日常生活に支障をきたすほどの過剰な汗をかく状態を指します 。書類を扱うと湿ってしまったり、物を持つと滑ってしまったり、人と手をつなぐことにためらいを感じたりといった、多くの患者さんが抱える悩みに応えるための新しい治療選択肢です 。
このお薬の有効成分は「オキシブチニン塩酸塩」です 。私たちの体では、神経からの指令を伝えるために様々な化学物質が使われています。汗を出す際には、「アセチルコリン」という神経伝達物質が汗腺(エクリン汗腺)にある「ムスカリン受容体」という鍵穴に結合することで、「汗を出せ」という指令が伝わります 。手掌多汗症の患者さんの場合、この指令系統が過剰に働いている状態です。
アポハイドローションは、この指令系統に直接作用します。有効成分であるオキシブチニン塩酸塩が、汗腺のムスカリン受容体(鍵穴)をブロックすることで、アセチルコリン(鍵)が結合できなくなり、汗を出す指令そのものを遮断します 。これにより、手のひらの過剰な発汗が抑制されるのです。この作用は「抗コリン作用」と呼ばれます 。
このお薬の大きな特徴は、塗り薬であるという点です。これまで多汗症の治療に用いられてきた抗コリン薬の多くは飲み薬でしたが、全身に作用するため口の渇きや便秘などの副作用が課題となることがありました 。アポハイドローションは、悩みの原因である手のひらに直接塗ることで、効果を局所的に集中させ、全身への影響を抑えることを目指して設計されています。これは、治療の有効性と安全性のバランスを考えた、新しいアプローチと言えます。
当院の手汗治療
当院では様々な治療法を患者様に合わせてご提案しています。
| イオントフォレーシス | アポハイドローション | 塩化アルミニウム ローション |
塩化アルミニウム 軟膏の密閉治療 |
ボトックス注射 | |
| 治療効果 | 〇 | 〇 | △ | ◎ | ◎ |
| 頻度 | 週1~2回 | 毎日 | 最初は毎日使用する 効果が出てきたら週2~3回 |
3~6カ月毎 | |
| 長所 | 保険適応 名古屋市内の高校生以下は無料 |
- | 効果が強い | ||
| 短所 | 通院回数が多い | 効果が弱い | 痛みが強い | ||
| 保険適応 | あり | あり | なし | なし | なし |
アポハイドローションの効果
原発性手掌多汗症患者を対象とした国内試験
| 患者 | HDSSが2点以上(症状により日常生活に支障がある) 腋窩発汗量が両側50㎎以上 |
|---|---|
| 方法 | 薬剤使用グループと、使用しないグループでの比較試験(無作為化、基剤対照、二重盲検)。 28日間投与した際の有効性、安全性の評価 |
| 結果 | 両手の発汗重量が半分以下に改善した割合、52.8%が改善(対照群24 .3%) |
原発性手掌多汗症患者を対象とした国内長期投与試験
| 患者 | 12~69歳の原発性手掌多汗症患者 |
|---|---|
| 方法 | 52週間投与した際の有効性、安全性の評価 |
| 結果 | 両手の発汗重量が半分以下に改善した割合、72.6%が改善 |
アポハイドローションの安全性
原発性手掌多汗症患者を対象とした国内試験
アポハイドローションの重篤な副作用
なし
アポハイドローションの頻度の多い副作用
副作用発現頻度は12.5%(18/144例)
主な副作用は適用部位皮膚炎4.2%(6/144例)、口渇3.5%(5/144例)、適用部位そう痒感2.1%(3/144例)等であった。
原発性手掌多汗症患者を対象とした国内長期投与試験
アポハイドローションの重篤な副作用
なし
アポハイドローションの頻度の多い副作用
副作用発現頻度は36.0%(45/125例)。
主な副作用は適用部位皮膚炎8.8%(11/125例)、適用部位湿疹6.4%(8/125例)、口渇3.2%(4/125例)、皮脂欠乏症3.2%(4/125例)等であった。
アポハイドローションの使い方
アポハイドローションは、その効果を最大限に引き出し、かつ安全に使用するために、正しい使い方を守ることが非常に重要です。基本的なルールは「1日1回、就寝直前」に塗布することです 。このタイミングには、安全性に関わる明確な理由があります。
夜の塗布手順
- 手の準備: まず、石鹸などで手を洗い、タオルで水分を完全に拭き取ります。お薬は乾いた清潔な肌に塗る必要があります 。
- お薬を出す: 初めて使用する際は、ティッシュペーパーなどの上でポンプを3~4回空押しして、ローションが出ることを確認します 。その後、片方の手のひらに、ポンプを最後までしっかりと5回押した量を出します。これが両手1回分の目安量です 。
- 均一に塗る: 出したローションを、もう片方の手を使って、両方の手のひら全体に均一に塗り広げます 。
- 乾燥させる: 塗布後は、お薬が自然に乾くまで、寝具などに触れないようにします。速乾性があるため、通常はすぐに乾きます 。
- 就寝: お薬を塗ったままの状態で就寝します 。
- 翌朝の洗浄: 起床後、流水で手をよく洗い流します 。その後、日中にお薬を再度塗る必要はありません。
塗布後から起床後までの重要な注意点
就寝前に塗布するのには、副作用のリスクを最小限に抑える目的があります。お薬が乾いた後も、有効成分は手のひらに残っています。以下の点を必ず守ってください。
| 絶対に目や口、顔を触らない | 有効成分が目に入ると、強い刺激や目のかすみ、まぶしさなどの副作用を引き起こす可能性があります。これは最も重要な注意点です 。 |
|---|---|
| 塗布後の活動を避ける | お薬を塗った後は、歯磨き、シャワー、コンタクトレンズの着脱など、手が濡れたり顔に触れたりする可能性のある活動はすべて済ませてからにしてください。お薬の塗布は、就寝前の最後の行動とします 。 |
| 手袋で密閉しない | ゴムやビニール製など、通気性のない手袋で手を覆わないでください。お薬の吸収が過剰になり、副作用のリスクが高まる可能性があります 。 |
| 手のひら以外には使用しない | このお薬は手のひら専用に開発されたものです。足の裏や脇、顔など、他の部位には絶対に使用しないでください 。 |
| 傷や湿疹のある部分を避ける | 切り傷や湿疹、皮膚炎などがある部分に塗ると、成分が体内に吸収されやすくなり、副作用のリスクが高まります。その部分は避けて塗布してください 。 |
アポハイドローションを使用できない方
アポハイドローションの抗コリン作用は、特定の持病を持つ方にとっては症状を悪化させる危険性があります。そのため、以下に該当する方はこのお薬を使用することができません。安全な治療のために、必ず医師に自身の健康状態を正確に伝えてください。
絶対に使用してはいけない方(禁忌)
以下の病気や状態に当てはまる場合、アポハイドローションは使用できません。
- 閉塞隅角緑内障の方: 抗コリン作用により眼圧が上昇し、病状を悪化させる危険性があります 。
- 前立腺肥大などによる排尿障害がある方: 膀胱の収縮が抑制され、さらに尿が出にくくなる可能性があります 。
- 重篤な心疾患がある方: 心拍数が増加し、心臓に負担をかけるおそれがあります 。
- 腸閉塞や麻痺性イレウスの方: 腸の動きが抑制され、症状が悪化する可能性があります 。
- 重症筋無力症の方: 筋力の低下を助長し、症状を悪化させるおそれがあります 。
- 本剤の成分にアレルギー(過敏症)の既往歴がある方 。
使用に注意が必要な方(慎重投与)
以下に該当する方は、使用前に必ず医師に相談してください。治療の可否や、使用中の慎重な経過観察が必要となります。
- 排尿障害のない前立腺肥大症の方
- 甲状腺機能亢進症、不整脈、うっ血性心不全のある方
- 潰瘍性大腸炎の方
- パーキンソン症状、脳血管障害、認知症や認知機能障害のある方
- 重い腎臓や肝臓の機能障害がある方
- 高齢の方(一般的に副作用が出やすいため)
特定の状況にある方
- 妊娠中・授乳中の方: 妊娠中の安全性は確立されておらず、使用は推奨されません。また、有効成分が母乳に移行する可能性が動物実験で報告されているため、授乳中の方は医師と治療の有益性と授乳の継続について十分に相談する必要があります 。
- 12歳未満の小児: 12歳未満の小児を対象とした臨床試験は実施されておらず、安全性と有効性は確立していません 。
これらの注意点は、全てお薬の「抗コリン作用」という基本的な働きに関連しています。この作用が汗腺だけでなく、目、膀胱、消化管、心臓など全身に影響を及ぼす可能性があるため、関連する持病を持つ方にはリスクが生じるのです。この仕組みを理解することが、安全な使用につながります。
アポハイドローションの費用
アポハイドローション1本(1週間分)の費用
| 3割負担のとき | 707円 |
|---|---|
| 1割負担の時 | 235円 |
アポハイドローション1か月分の費用
| 3割負担のとき | 2,829円(28日分) |
|---|---|
| 1割負担の時 | 943円(28日分) |