やけど(熱傷)とは?皮膚が受けるダメージの仕組みと初期対応の重要性
日常生活の中で最も頻繁に遭遇する外傷の一つが「やけど」です。医学的な専門用語では「熱傷(ねっしょう)」と呼ばれており、熱や化学物質、放射線などが皮膚に触れることによって生じる組織の損傷を指します。やけどは初期の対応を誤ると、長期間の治療が必要になるだけでなく、一生消えない傷跡を残す恐れがあるため、正しい知識を持っておくことが不可欠です。
皮膚の構造とやけどが起こるメカニズム
人間の皮膚は、外側から順番に「表皮」「真皮」「皮下組織」という3つの層で構成されています。皮膚を構成する細胞やタンパク質は、熱に対して非常に脆い性質を持っています。一定以上の温度の熱が皮膚に加わると、細胞内のタンパク質が熱によって変性・破壊され、強い炎症反応が引き起こされます。これがやけどが発症する基本的なメカニズムです。
熱源の温度が高ければ高いほど、あるいは熱源に皮膚が触れている時間が長ければ長いほど、熱のエネルギーは皮膚の表面である表皮を突き抜け、その奥にある真皮や皮下組織、さらには筋肉や骨格にまで深く到達します。このダメージが及んだ「深さ」が、その後の治癒にかかる期間や、やけどの跡が残るかどうかを決定づける最大の要因となります。
なぜ「すぐに冷やす」ことが重要なのか?余熱の恐ろしさ
やけどを負った直後に最も重要となる行動は、一秒でも早く患部を冷却することです。熱源から皮膚を離した後であっても、皮膚の組織の内部には熱エネルギーが蓄積されたままになっています。この「余熱」を放置してしまうと、皮膚の表面にとどまっていたはずの熱がじわじわと深部へと浸透し続け、組織の損傷がさらに拡大してしまいます。
流水による速やかな冷却は、この熱の進行を物理的に食い止める最も有効な手段です。また、しっかりと冷却することによって患部の血管が収縮し、炎症を引き起こす物質の放出が抑えられるため、痛みを効果的に和らげ、後から生じる水ぶくれ(水疱)の拡大を最小限に抑える効果も期待できます。
日常に潜む危険をチェック!やけどの主な原因と種類
やけどを引き起こす原因は、熱湯や火そのものだけにとどまりません。原因となる物質や状況によって皮膚が受ける組織の損傷パターンは大きく異なるため、それぞれの特徴と危険性を正しく理解しておくことが重要です。
熱湯やアイロンなど「液体や固体に触れて起こる」一般的なやけど
家庭内で最も多く発生するケースが、高温の液体や固体に直接触れることで起こるやけどです。お茶やコーヒー、カップ麺の熱湯をこぼしてしまったり、加熱直後のフライパン、ヘアアイロン、ストーブの表面に誤って触れてしまったりする事故がこれに該当します。特に熱湯などの高温の液体は、衣服に染み込むことで皮膚に密着し続け、広範囲かつ深いやけどを引き起こす原因となりやすいという特徴を持っています。
料理中や火事など「炎の引火によって起こる」重症度の高いやけど
調理中にガスコンロの火が衣服に燃え移る現象(着衣着火)や、火災による炎への直接的な接触は、極めて重症度の高いやけどを引き起こします。炎によるやけどは一瞬にして皮膚の深くまで到達するため、後述する重度な「3度熱傷」になりやすいという特徴があります。
さらに注意が必要なのが「気道熱傷(きどうねっしょう)」という状態です。密閉された空間で高温の煙や有毒ガスを吸い込んでしまうと、顔面のやけどだけでなく、喉や気管支、肺などの呼吸器の内側の粘膜が深刻なやけどを負います。気道熱傷を起こすと、数時間後に喉の粘膜が急激に腫れ上がり、気道を塞いで呼吸ができなくなって窒息死する危険性が高まります。そのため、鼻毛が焦げていたり、黒色の痰が出たりする場合には、直ちに救急車を呼ぶ必要があります。
湯たんぽやカイロで「気づかずに起こる低温やけど」の恐怖
寒い季節を中心に急増しているのが「低温やけど」です。これは、44℃から50℃程度の「触れても心地よい、あるいは少し熱いと感じる程度の温度」の熱源に、長時間にわたって皮膚が触れ続けることで発生します。原因として多いのは、使い捨てカイロ、湯たんぽ、電気毛布、電気アンカ、ホットカーペットなどです。
低温やけどの最大の恐ろしさは、「自覚症状や強い痛みがないまま、皮膚の深部が壊死(えし)してしまう」という点にあります。高温によるやけどが瞬時に皮膚の表面からダメージを受けるのに対し、低温やけどは熱がゆっくりと深部に蓄積されていくため、見た目は軽い赤み程度であっても、皮膚の下の組織が深刻なダメージを受けていることが少なくありません。発見が遅れると治癒までに数ヶ月という長い期間を要し、最悪の場合は壊死した皮膚を取り除いて皮膚の移植手術を行わなければならないケースもあります。
特殊な化学物質や電気による化学熱傷と電撃熱傷
熱以外の原因によって引き起こされる特殊なやけども存在します。強酸や強アルカリなどの化学薬品(業務用の強力な洗剤や、車のバッテリー液など)が皮膚に触れることで起こる組織の損傷は「化学熱傷」と呼ばれます。化学薬品が皮膚に付着している間は化学反応によって組織が破壊され続けるため、最低でも20分以上、大量の流水で薬品を完全に洗い流し続ける必要があります。
また、落雷や高圧線への接触などによる「電撃熱傷」は、強大な電流が体内を通過する際に発生する高熱によって、内部の筋肉や神経、血管、さらには心臓に致命的なダメージを与えます。皮膚表面の傷が小さく見えても、体内への影響が甚大であるため、必ず専門医による緊急の診察を受けなければなりません。
やけどの症状と重症度を判定する3つの基準
やけどの重症度は、患者様が感じる痛みの強さだけで決まるわけではありません。「深さ」「面積」「発生した部位」という3つの要素を掛け合わせて総合的に判定されます。これらの基準をあらかじめ知っておくことで、医療機関を直ちに受診すべきかどうかの的確な判断が可能になります。
やけどの重症度は「深さ×面積×部位」の総合評価で決まる
やけどの診断において、医師はまず損傷が皮膚のどの層まで達しているか(深さ)を確認し、次に全身のどれくらいの割合にやけどが広がっているか(面積)を計算します。さらに、そのやけどが体のどの部分に生じているか(部位)を評価します。これら3つの要素の掛け合わせによって、自宅でのケアが可能か、通院治療が必要か、あるいは即座に入院や手術が必要な重症であるかが決定されます。
やけどの深さは「1度・2度・3度」の3段階に分類される
やけどの深さは、皮膚のどの層まで熱の損傷が及んでいるかによって、大きく1度から3度に分類されます。
| やけどの深さの分類 | 損傷が及ぶ皮膚の層 | 主な症状と見た目の特徴 | 痛みの強さと感覚 | 治癒までの期間と跡のリスク | |
| 1度熱傷(I度) | 表皮(表面のみ) | 日焼けのように皮膚が赤くなり、軽く腫れぼったくなる | ヒリヒリとした痛みがある | 数日〜1週間程度で治癒。跡は残らず自然に治る | |
| 2度熱傷(II度) ※浅達性 | 真皮の浅い層まで | 赤みとともに、内部に透明な液体が溜まった**水ぶくれ(水疱)**ができる | 強い痛みと灼熱感を生じる | 1〜2週間程度。適切な処置を行えば跡は残りにくい | |
| 2度熱傷(II度) ※深達性 | 真皮の深い層まで | 水ぶくれができ、皮膚の底が白っぽく変色して見える | 神経の損傷が始まり、浅達性よりも痛みがやや鈍くなる | 3〜4週間以上の期間を要する。傷跡(瘢痕)が残りやすい | |
| 3度熱傷(III度) | 皮下組織まで | 皮膚が羊皮紙のように白く乾燥したり、黒く焦げたりする | 知覚神経が完全に破壊されるため痛みを感じなくなる | 自然治癒は極めて困難。壊死組織の切除や皮膚移植などの外科手術が必須 | |
ここで最も注意すべき点は、「痛くないから軽症に違いない」という思い込みが命取りになるということです。3度熱傷のように深部まで完全に組織が破壊されたやけどは、痛みを感じ取るための知覚神経そのものが焼け焦げて機能しなくなるため、全く痛みを感じなくなります。皮膚が白っぽく変色し、触っても感覚がない場合は、極めて重症であると認識してください。
手のひらや「9の法則」を用いたやけどの面積の計算方法
やけどが全身のどれくらいの面積を占めているかも、生命の危険を判断する上で重要な基準となります。面積を素早く見積もるための国際的な基準として、「手掌法(しゅしょうほう)」と「9の法則」という計算方法が用いられます。
手掌法(しゅしょうほう)は、患者様自身の「片手の手のひら(指先まで含む全体の面積)」を、全身の体表面積の「約1%」とみなして計算する、非常に簡便な方法です。やけどの範囲が、患者様自身の手のひら何枚分に相当するかで面積を概算します。一般的に、ご自身の手のひらよりも広い範囲のやけどが生じた場合は、医療機関の受診が強く推奨されます。
もう一つ専門的に用いられるのが「9の法則(Rule of Nines)」です。これは大人の全身の体表面積をいくつかの区分に分け、それぞれを「9%」として計算する方法です。
| 身体の部位(9の法則) | 割り当てられる体表面積の割合(大人の場合) | |
| 頭部・顔面・頸部 | 9% | |
| 右上肢(右腕全体) | 9% | |
| 左上肢(左腕全体) | 9% | |
| 体幹前面(胸部・腹部) | 18%(9%×2) | |
| 体幹後面(背部・腰部) | 18%(9%×2) | |
| 右下肢(右脚全体) | 18%(9%×2) | |
| 左下肢(左脚全体) | 18%(9%×2) | |
| 陰部(会陰部) | 1% | |
※すべての部位を合計すると100%になります。子供の場合は頭部の割合が大きく、下肢の割合が小さい「5の法則」などが用いられます。
顔や手足の関節・陰部など「特殊な部位」におけるやけどのリスク
やけどの面積が小さくても、発生した「部位」によっては重症とみなされ、高度な医療介入が必要となります。 顔面のやけどは、前述した気道熱傷のリスクを伴うだけでなく、治癒後に目立つ傷跡が残ってしまうという整容的な障害の危険性があります。また、手足の指先や関節部分(手首、肘、膝など)のやけどは、皮膚が治癒する過程で引きつれ(瘢痕拘縮)を起こしやすく、指がスムーズに動かせなくなったり、関節が曲がらなくなったりする深刻な機能障害を残す恐れがあります。さらに、陰部や会陰部の周辺のやけどは、排泄物などによる細菌感染症を引き起こしやすいため、これら特殊な部位のやけどは中等症以上と分類され、入院治療や専門医の介入が必須とされています。
また、口の中をやけどしてしまった場合ですが、口腔内の粘膜は比較的細胞の修復が早く、軽度であれば特別な治療薬は必要ないことが多いです。まずはうがいをして感染を予防しながら様子を見ましょう。痛みが強い場合には、ケナログなどの市販の口内炎用の軟膏を利用することも一つの方法です。
やけどの対策・応急処置と絶対に避けるべきNG行動
やけどを負った直後の初期対応(応急手当)が、その後の治癒過程と跡の残り具合を決定づけます。正しい応急処置を迅速に行うことで、皮膚へのダメージを最小限に抑えることができます。
水道水で最低15分から30分!痛みが引くまで冷やす正しい手順
やけどの応急処置の基本中の基本は、とにかく早く、そして十分に患部を冷やすことです。
第一に、水道水などの清潔な流水で、すぐに患部を冷やし始めます。水の勢いが強すぎると傷ついた皮膚に刺激を与えたり、水ぶくれを破ったりする危険があるため、蛇口からの水流は優しく当てるようにしてください。 第二に、衣服を着た上から熱湯などをかぶってしまった場合、慌てて衣服を脱がそうとしてはいけません。無理に脱がそうとすると、ダメージを受けた皮膚が衣服と一緒にズルリと剥がれ落ちてしまい、一気に重症化してしまいます。必ず衣服を着たまま、その上から流水をかけて冷やしてください。 第三に、冷却する時間は、ヒリヒリとした痛みが引くまで「最低でも15分から30分」は継続してください。数分冷やして痛みが和らいだからといってすぐにやめてしまうと、深部に残った熱エネルギーが再び組織を破壊し始めてしまいます。 第四に、やけどの範囲が極めて広い場合の冷却には注意が必要です。全身を水で冷やし続けると、体温が急激に奪われて低体温症を引き起こす危険性があります。特に体温調節機能が未熟な乳幼児や高齢者の場合は、全体の冷却時間は10分程度にとどめ、清潔なシーツなどで患部を保護して保温しながら、速やかに救急車を手配してください。意識がはっきりしており、吐き気がない場合で、病院到着までに時間がかかるようであれば、少しずつ水分を補給させることも大切です。
やけどの水ぶくれ(水疱)は絶対につぶさない・破かない
2度熱傷まで進行すると、患部に水ぶくれ(水疱)が形成されます。この水ぶくれを見ると、つい針で刺して中の水を抜きたくなるかもしれませんが、絶対に自分で潰したり破いたりしてはいけません。
水ぶくれの表面の膜は、患部を外部の細菌や刺激から守る「天然の絆創膏(強固なバリア)」の役割を果たしています。さらに、水ぶくれの中に溜まっている透明な液体(滲出液)には、傷ついた細胞を修復し、皮膚の再生を強力に促すさまざまな成長因子や治癒成分が豊富に含まれています。水ぶくれを故意に破ってしまうと、激しい痛みを伴うだけでなく、そこから細菌が侵入して化膿(感染症)を引き起こし、結果として深い「やけど跡」が残る最大の原因となります。
もし水ぶくれができてしまった場合は、決して破かないように清潔なガーゼや洗濯済みのタオルなどで優しく覆って保護し、何も薬を塗らずにそのまま医療機関を受診してください。
氷での直接冷却や民間療法など避けるべきNG行動
やけどの応急処置において、良かれと思ってやってしまいがちですが、絶対にやってはいけないNG行動(避けるべき行動)がいくつか存在します。
氷や保冷剤を直接患部に当てることは、非常に危険です。早く冷やしたいからといって氷を直接皮膚に当てると、急激な温度低下によって血管が異常に収縮して血流が悪化し、組織の回復を大きく妨げるばかりか、最悪の場合は「凍傷」を引き起こし、ダメージを倍増させてしまいます。どうしても保冷剤を使用したい場合は、必ず清潔な厚手のタオルやハンカチで包み、直接肌に触れないように工夫してください。
また、古くから伝わる民間療法として、やけどにアロエの葉の果肉を貼ったり、味噌や食用油、醤油を塗ったりする方法が知られていますが、これらには医学的根拠は一切なく、絶対に避けるべきです。これらは患部に細菌を繁殖させ、深刻な感染症を引き起こす大きな原因となります。
さらに、受診前に自己判断で強い消毒液をかけたり、家庭の救急箱にある適当な軟膏を塗ったりすることも避けてください。消毒液は傷ついた組織の細胞まで破壊して強い刺激を与え、回復を遅らせます。また、軟膏や油分を塗ってしまうと、熱を皮膚の内部に閉じ込めてしまうだけでなく、後から診察する医師がやけどの深さを正確に診断する際の大きな妨げとなってしまいます。
病院へ行くべき「やけどの重症度」の目安と診療科の選び方
適切な応急処置を行った後、そのまま自宅で様子を見ても良いのか、それともすぐに医療機関へ行くべきかで迷う患者様は非常に多くいらっしゃいます。受診の判断基準を明確にしておくことが、症状の悪化を防ぐ鍵となります。
やけどの「重症度」を判定し、必要なら救急要請を
命に関わる可能性があり、ためらわずに直ちに119番通報を行って救急車を呼び、専門医の治療を受けるべき基準は以下の通りです。
| 救急車を呼ぶべき重症熱傷の基準 | 状態の詳細とリスク | |
| 広範囲の2度熱傷 | 成人の場合、体表面積の「30%以上」に水ぶくれができている状態。乳幼児の場合は「10〜15%以上」で重症となります。 | |
| 広範囲の3度熱傷 | 皮膚が白や黒に変色し、痛みがないやけどが、体表面積の「10%以上」ある場合。 | |
| 気道熱傷の疑い | 密閉空間での火災に巻き込まれた、顔面に炎を浴びた、鼻毛が焦げている、声がかすれる、黒い痰が出るなどの症状。急速に気道が腫れて窒息に至る危険性があります。 | |
| 特殊な対象者のやけど | 乳幼児や高齢者は、体力がなく皮膚が薄いため、範囲が狭いように見えても急速に状態が悪化し重症化するリスクがあります。 | |
| 化学薬品・電気によるやけど | 電撃熱傷や広範囲の化学熱傷は、体内臓器への影響や持続的な組織破壊が懸念されるため、直ちに救急搬送が必要です。 | |
これら重症の熱傷が疑われる場合は、冷やすことに時間をかけすぎず、清潔なシーツやタオルで体を包んで保護し、一刻も早く医療機関へ向かうことが最優先されます。
もし「救急車を呼ぶべきか」「今すぐ自力で病院を受診すべきか」の判断に強く迷った場合は、救急安心センター事業「#7119」に電話をかけることで、医師や看護師などの専門家から適切なアドバイスを受けることができます。広範囲のやけどは重篤な症状として扱われるため、専門家の指示に従ってください。
一方で、救急車を呼ぶほどではないものの、診療時間内に自力で医療機関を受診すべき目安となる症状もあります。 500円玉以上の大きさの水ぶくれができている場合や、顔、首、手足の指、関節部分、陰部などの特殊な部位をやけどした場合です。また、湯たんぽやカイロを使用していて皮膚が赤く硬くなったなどの「低温やけど」の疑いがある場合も、見た目以上に深部が損傷しているため早期の受診が必要です。さらに、1週間経っても症状が改善しない、あるいは膿(うみ)が出ている、悪臭がする、患部が熱を持っている、発熱があるなどの症状が現れた場合は、細菌感染(化膿)を起こしている明確なサインであるため、すぐに医師の診察を受けてください。
逆に、赤みと軽いヒリヒリした痛みがあるだけで、水ぶくれが全くできていない「1度熱傷」であり、なおかつ範囲も狭い場合には、自宅での適切なケアにより自然治癒を待つことも可能です。
やけどの治療は何科へ行くべき?皮膚科と形成外科の役割の違い
やけどで病院へ行く際、「皮膚科」と「形成外科」のどちらを受診すべきか迷うことが多いでしょう。どちらの科もやけどの治療を行いますが、得意とする領域や専門的な役割に違いがあります。
皮膚科は、皮膚の構造や疾患全般の専門家です。比較的範囲が狭く、浅いやけど(1度から浅い2度)の初期治療に非常に適しています。やけどによる過剰な炎症を抑えるためのステロイド軟膏の適切な処方や、細菌感染を防ぐための処置、一般的な水ぶくれの衛生的な管理などを得意としており、まずは身近なかかりつけの皮膚科医に相談するのがスムーズな流れです。
一方、形成外科は「傷跡を可能な限り目立たなく綺麗に治すこと」や、「皮膚の引きつれ(瘢痕拘縮)などの機能的な障害を外科的に修復すること」を専門とする診療科です。そのため、深いやけど(深い2度や3度)、顔や関節など跡や引きつれが問題になりやすい部位のやけど、組織が壊死してしまう低温やけど、または広範囲に及ぶやけどの場合には、形成外科の受診が強く推奨されます。細胞が死んでしまった壊死組織をメスで取り除く「デブリードマン」という処置や、自分の健康な皮膚を移植する「植皮手術」など、高度な外科的介入が必要な場合は形成外科が最適です。
どちらに行くべきか迷った場合は、まずは近くの皮膚科を受診し、そこでより専門的な外科処置が必要だと医師が判断すれば、適切な設備の整った形成外科を紹介してもらうという流れでも全く問題ありません。
やけどの跡を残さない!早くきれいに治すためのケアと市販薬
やけどの傷口が塞がった後も、「いかに跡(傷跡や色素沈着)を残さずに元のきれいな肌を取り戻すか」というアフターケアの戦いは続きます。正しいケアの手順と、適切な市販薬の選び方を解説します。
キズパワーパッドなどハイドロコロイド素材(湿潤療法)の正しい使い方
最近の家庭でのやけどや傷のケアにおいて主流となっているのが、「湿潤療法(モイストヒーリング)」という考え方です。キズパワーパッドなどに代表されるハイドロコロイド素材を用いた絆創膏は、傷口からにじみ出る体液(滲出液)をパッド内に保持し、かさぶたを作らずに患部を適度に湿った状態に保ちます。これにより、人間が本来持っている自然治癒力を最大限に高め、痛みを和らげながら早くきれいに治す効果が期待できます。
ただし、この非常に優れたハイドロコロイド絆創膏も万能ではなく、安全に使用するためには厳格な手順と注意点を守る必要があります。
- 出血の確認と止血: もし傷口から出血がある場合は、先に清潔なガーゼやタオルで傷を5〜10分ほど押さえて圧迫止血を行います。
- 水道水で念入りに洗浄する: 止血が確認できたら、水道水で患部をよく洗い流し、汚れや細菌を物理的に取り除きます。
- 傷の状態を確認する(適用条件の判断): ここが最も重要です。傷が「浅いこと」「清潔であること」「滲出液が多すぎないこと」を確認します。
使用してはいけないケース(禁忌): すでに細菌感染を起こしている(化膿している、膿が出ている、赤く熱を持っている)傷や、深いダメージを受けている低温やけど、あるいは**「すでに水ぶくれができている状態」**のやけどに対しては、絶対に使用してはいけません。このような状態で患部を密閉してしまうと、パッドの下で細菌が爆発的に増殖し、症状が劇的に悪化する危険性があります。少しでも自分のやけどの状態に不安がある場合は、自己判断での使用を控え、医療機関を受診してください。
やけどに効く市販薬(軟膏・クリーム)の選び方と使い分け
軽度なやけどであれば、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬を活用することも一つの有効な選択肢です。ただし、やけどの症状の段階(フェーズ)に合わせて、適切な成分が含まれた薬を選ぶことが重要です。
| やけどの症状とフェーズ | 適した市販薬の成分と特徴 | 具体的な市販薬の例 | |
| 初期の軽いやけど (水ぶくれがない赤みと軽い痛み) | 軽い殺菌・消毒作用があり、皮膚を保護する成分(クロルヘキシジングルコン酸塩など)。 | オロナインH軟膏など | |
| 炎症が強く赤みがある場合 (医師・薬剤師の指導のもと) | 炎症を強力に抑える薬効の弱いステロイド外用剤や、細菌感染を防ぐ抗生物質を含む軟膏。 | リンデロンVG軟膏と同等の市販薬、テラマイシン軟膏、クロマイP軟膏など | |
| 傷口が塞がった後の「やけど跡」 (赤み、乾燥、盛り上がりのケア) | 保湿し、血流を促進してターンオーバーを正常化する「ヘパリン類似物質」や、組織を修復する成分。 | アットノンEXシリーズ、各社HPクリームなど | |
特に、傷が完全に塞がり、ジュクジュクしていない状態になった後の「やけど跡」のケアには、アットノンEXなどに代表される市販薬が極めて有効です。これらの薬には主に以下の3つの有効成分が含まれています。
- ヘパリン類似物質: 高い保湿力を発揮しながら、患部の血流を促進して皮膚のターンオーバー(新陳代謝)を正常化し、蓄積されたメラニン色素の排出を助けます。
- グリチルリチン酸二カリウム: 抗炎症作用により、傷跡に残ったしつこい赤みを効果的に抑え込みます。
- アラントイン: 傷ついた皮膚の組織の修復をダイレクトに促します。 これらの成分の相乗効果により、硬く盛り上がってしまった傷跡(肥厚性瘢痕)を徐々に柔らかくし、目立たなくしていく効果が期待できます。
医療機関での専門的なやけど治療と色素沈着へのアプローチ
やけどが治った後に残る跡には、主に「炎症後色素沈着(赤黒いシミのような跡)」と「肥厚性瘢痕(赤く盛り上がった硬い跡)」の2つのタイプがあります。治癒後の新しい皮膚は極めてデリケートであり、紫外線(日光)を浴びると色素沈着がさらに悪化しやすくなるため、日焼け止めなどによる徹底した紫外線対策と高保湿ケアが不可欠です。
しかし、家庭でのセルフケアには限界があります。色素沈着が強く残ってしまった場合や、傷跡がひどく盛り上がって引きつれている場合は、専門医への相談が必要です。 医療機関では、やけどの急性期において、細胞が死んでしまった壊死組織を外科的に取り除いて新しい組織の再生を促す「デブリードマン」や、重症例に対する「植皮術(皮膚移植)」といった高度な治療が行われます。また、治癒後のアフターケアとして、盛り上がりを防ぐためのステロイド外用薬の処方や、専用テープによる患部の固定(圧迫療法)が行われます。
どうしても消えない色素沈着や傷跡に対しては、高濃度のビタミンA・Cの外用薬やハイドロキノン(美白剤)の処方、さらには形成外科や美容皮膚科におけるレーザー治療、あるいは瘢痕形成術(傷跡を一度きれいに切り取って、極めて細い糸で目立たないように縫い直す手術)などの高度な選択肢が用意されています。
家庭内でできる「やけどの予防策」と生活環境の見直し
やけどは、発生してから治療に苦労するよりも、「いかに未然に防ぐか」という予防の観点が最も重要です。大人であっても、日々のちょっとした不注意や環境の不備が大事故につながります。
キッチンやダイニングなど家庭内のやけど予防
家庭内のやけど事故は、火や熱湯を扱うキッチンとダイニングルームで多発します。 調理中の鍋やフライパンの取っ手は、必ず通路側や手前側から見えない奥に向けて配置する習慣をつけましょう。これにより、移動中に服の袖が取っ手に引っかかって熱湯や熱い油をかぶる事故を未然に防ぐことができます。また、ダイニングテーブルにテーブルクロスを使用している場合、端を引っ張って上に乗っている熱いスープやコーヒーをこぼしてしまう事故が多発しています。テーブルクロスは極力使用を避け、個別のランチョンマットに変更するなどの工夫が非常に効果的です。
低温やけどを防ぐ暖房器具の正しい使い方
寒い季節に欠かせない便利な防寒グッズですが、低温やけどのリスクを正しく理解し、安全な使用方法を徹底することが予防の最大の鍵となります。
湯たんぽを使用する際は、必ず専用のカバーに入れた上で、さらに厚手のタオルで包んで直接肌に触れないようにします。使い捨てカイロは、決して素肌に直接貼ってはいけません。必ず衣服の上から貼り、熱すぎると感じた場合はすぐに位置をずらすか、使用を中止して外してください。
電気毛布やホットカーペットを就寝時に使用する場合、最も安全なのは「布団に入る直前にスイッチを切る」ことです。つけたまま眠る場合は、必ずタイマーを短めに設定してください。朝までスイッチを入れたまま眠り込んでしまうと、長時間同じ部位に熱が加わり続け、深い低温やけどを引き起こします。 また、近年増えているのがノートパソコンによる低温やけどです。膝の上や腹部など素肌に近い状態で長時間ノートパソコンを置いて作業をすることも、機器の排熱が蓄積して低温やけどの原因となります。必ず机の上に置くか、厚手のクッションなどを間に挟んで直接熱が伝わらないようにしてください。
体温調節機能が低下している高齢者や、糖尿病による神経障害で手足の痛覚が鈍くなっている方は、低温やけどに気づきにくく特に重症化しやすいため、周囲の家族が見守りを行い、温度管理を徹底することが重要です。