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毛細血管拡張症

TELANGIECTASIA
最終更新日:2025-10-23
毛細血管拡張症は、皮膚の血管が拡張し赤く見える状態です。原因は遺伝、紫外線、寒暖差など様々。自然に治ることはなく、主な治療法は皮膚科でのレーザー治療です。この記事では症状の見分け方から、保険適用の条件、効果的なスキンケアまで、専門家の知見を基に分かりやすく解説します。

毛細血管拡張症とは
毛細血管拡張症の症状
毛細血管拡張症の原因
毛細血管拡張症の治療
日常生活でのポイント
よくある質問

毛細血管拡張症とは?「赤ら顔」との違いも解説

鏡を見るたびに気になる頬や小鼻の赤み、あるいは足に浮き出たクモの巣のような血管。もしかしたらそれは「毛細血管拡張症」かもしれません。
毛細血管拡張症とは、皮膚の表面近くにある非常に細い血管(毛細血管)が、何らかの理由で拡張してしまった状態を指します 。本来、健康な毛細血管は弾力性があり、血流が増えれば拡張し、通常に戻れば収縮します。しかし、この症状では血管が伸びてしまったゴムのように元に戻る能力を失い、常に拡張したままになってしまいます 。その結果、血液が滞り、皮膚の上から赤や紫の線、あるいは網目模様として透けて見えてしまうのです 。
ここで最も重要な点は、一度拡張してしまった血管は、自然に元の状態に戻ることはないということです 。一時的なほてりや赤みとは異なり、放置しても消えることはありません。市販のクリームやセルフケアだけで血管そのものを収縮させることは極めて困難であり、見た目を改善するためには医療機関での専門的な治療が必要となります 。
この症状は、一般的に「赤ら顔」と呼ばれる状態の主な原因の一つです。しかし、「赤ら顔」は顔が赤く見える状態全般を指す広い言葉であり、一時的な感情の変化によるほてりや、ニキビ跡の炎症、アレルギーなども含まれます 。一方で、毛細血管拡張症は、皮膚をよく見ると線状や網目状の血管がはっきりと確認できるという特徴を持つ、明確な医学的診断名です 。したがって、この症状へのアプローチは、単なる肌トラブルのケアではなく、拡張してしまった血管自体への対処、つまり「治療」と、今後の悪化を防ぐ「管理」という長期的な視点が不可欠になります。

毛細血管拡張症の症状|顔・鼻・足など部位別にチェック

毛細血管拡張症は、現れる場所や血管の広がり方によっていくつかのタイプに分類されます。ご自身の症状がどれに近いか確認することで、医師との相談もスムーズになります。また、症状が現れる部位は、その背景にある原因を探る重要な手がかりとなります。

血管の見た目による分類

症状は主に4つのパターンに分けられますが、これらが混在することもあります 。

単純型

赤色や赤紫色の血管が、盛り上がりのない一本の線のように見える状態です 。

樹枝状型

血管が木の枝のように枝分かれして広がって見えます 。

クモ状型(クモ状血管腫)

中心の赤い点を核として、そこからクモの足のように放射状に細い血管が伸びる特徴的な見た目をしています。このタイプは、妊娠などによるホルモンバランスの変化や、肝機能の低下と関連して現れることがあります 。

丘疹型

皮膚が少し盛り上がり、その上に拡張した血管が見える状態です 。

症状が現れやすい部位

症状の現れる場所によって、考えられる原因や背景が異なります。医師に相談する際は、どの部位の症状が最も気になるかを伝えることが診断の助けになります。

顔(頬・額)

顔は皮膚が他の部位に比べて薄く、常に紫外線や外気にさらされているため、症状が非常に現れやすい部位です 。特に頬は、全体的にぼんやりと赤く見える「赤ら顔」の状態として認識されることが多く、よく見ると細い糸ミミズのような血管が確認できます 。慢性的な紫外線ダメージが主な原因の一つと考えられています 。

鼻・小鼻

小鼻の周りに赤紫色の血管が波打つように浮き出て見えるのは、非常によく見られる症状です 。「酒さ(しゅさ)」という慢性的な皮膚疾患の初期症状として現れることも少なくありません 。メイクでも隠しにくく、悩んでいる方が多い部位です。

足(太もも・ふくらはぎ)

足に現れる場合は、その見た目から「クモの巣状静脈瘤」とも呼ばれます 。赤や青紫色の細い血管が、クモの巣のように網目状に広がるのが特徴です。通常は痛みを伴いませんが、人によっては長時間立ち続けた後などに、ピリピリとした軽い痛みやジンジンする違和感を覚えることもあります 。これは顔の症状とは少し異なり、遺伝的要因、ホルモンの影響、あるいは長時間の立ち仕事などによる静脈への圧力が関係していると考えられています 。

毛細血管拡張症の主な原因は?遺伝や生活習慣、病気の可能性

毛細血管拡張症がなぜ起こるのか、その原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。原因を理解することは、適切な治療法の選択と、症状の悪化を防ぐためのセルフケアに繋がります。

① 内的・体質的要因

ご自身の努力では変えられない、生まれ持った要素が関係している場合があります。

遺伝・体質

生まれつき皮膚が薄い方や色白の方は、皮膚の下の血管が透けて見えやすいため、症状が目立ちやすい傾向にあります 。また、血管の弾力性が弱いといった体質が遺伝することもあります 。

加齢

年齢を重ねると、皮膚のハリを支えるコラーゲンやエラスチンが減少し、皮膚が薄くなります。これにより血管壁を支える力が弱まり、血管が拡張しやすくなります 。

女性ホルモン

毛細血管拡張症は女性に多く見られますが、これは女性ホルモンの影響が一因と考えられています 。特に妊娠中や更年期、あるいは経口避妊薬(ピル)の服用など、ホルモンバランスが大きく変動する時期に血管壁が影響を受け、症状が現れたり悪化したりすることがあります 。

② 外的・環境的要因

日々の生活環境が、知らず知らずのうちに血管にダメージを与えている可能性があります。

紫外線

長年にわたって紫外線を浴び続けることは、最大の外的要因の一つです 。紫外線は皮膚のコラーゲンを破壊し、皮膚の弾力を失わせます。その結果、血管壁がもろくなり、恒久的な拡張を引き起こしてしまうのです 。

寒暖差

寒い屋外から暖かい室内へ移動した時などに顔がほてるのは、血管が急激に拡張するためです。こうした急激な温度変化による血管の収縮と拡張が頻繁に繰り返されると、血管の弾力性が失われ、拡張したまま戻らなくなることがあります 。

物理的な刺激

洗顔時にゴシゴシと強くこする、刺激の強いスクラブやピーリングを頻繁に行うといった物理的な摩擦は、デリケートな毛細血管を傷つけ、拡張の原因となり得ます 。

③ 生活習慣・嗜好品

普段の何気ない習慣が、症状の引き金になっていることもあります。

  • アルコールや香辛料: アルコールや唐辛子などの香辛料を摂取すると、一時的に血行が促進され血管が拡張します 。これを習慣的に繰り返すことで、血管の拡張が常態化してしまうことがあります 。

④ 二次的な原因

他の病気や薬の副作用として症状が現れることもあります。

皮膚疾患

特に「酒さ(しゅさ)」は、顔の赤みやほてり、ニキビのようなブツブツと共に毛細血管拡張を伴う代表的な慢性炎症性疾患です 。

薬剤の副作用

アトピー性皮膚炎などの治療でステロイド外用薬を長期間使用した場合、副作用として皮膚が薄くなり、血管が拡張することがあります 。また、保湿剤として知られるヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)も、血行促進作用があるため、長期にわたる過度の使用が赤みを助長する可能性が指摘されています 。

基礎疾患

まれに、肝硬変などの肝機能障害や、膠原病といった全身性の病気の一症状として毛細血管拡張が現れることがあります 。

皮膚科での治療方法|レーザー・光治療(IPL)の効果と費用

前述の通り、一度拡張してしまった毛細血管をセルフケアで元に戻すことはできません。見た目を改善するための最も確実で効果的な方法は、皮膚科や美容皮膚科で専門的な治療を受けることです 。ここでは、代表的な治療法であるレーザー治療と光治療(IPL)について、その仕組みや効果、費用の目安を解説します。

レーザー治療:赤みの原因をピンポイントで狙う

レーザー治療は、毛細血管拡張症治療の第一選択(ゴールドスタンダード)とされています。

仕組み

 レーザーは、特定の色素にだけ吸収される特殊な光です。毛細血管拡張症の治療では、血液中の赤い色素「ヘモグロビン」に選択的に吸収される波長のレーザー光を照射します 。レーザー光を吸収した血管は、その熱エネルギーによって内側から破壊・凝固され、閉塞します。血流がなくなった血管は徐々に体内に吸収され、目立たなくなるという仕組みです 。周囲の正常な皮膚組織にはダメージを与えずに、問題の血管だけを狙い撃ちできるのが大きな特長です。

代表的なレーザー機器:

Vビーム(色素レーザー): 毛細血管拡張症の治療で最も広く使用されている代表的なレーザーです 。ヘモグロビンへの吸収率が非常に高い595nmの波長を持ち、効果的に血管を破壊します 。多くの機種には、レーザー照射直前に冷却ガスを噴射して皮膚表面を保護する機能(DCD)が搭載されており、痛みや熱によるダメージを最小限に抑える工夫がされています 。

YAGレーザー: Vビームよりも皮膚のやや深い層まで届くレーザーで、少し太めの血管や、Vビームでは反応しにくい血管の治療に用いられることがあります 。

光治療(IPL):顔全体のぼんやりした赤みに

IPL(Intense Pulsed Light)は、レーザーとは少し異なる光を用いたマイルドな治療法です。

仕組み

レーザーが単一の波長の光であるのに対し、IPLは幅広い波長を含む光をカメラのフラッシュのように照射します 。この光が赤み(ヘモグロビン)やシミ(メラニン)など、複数の色に穏やかに作用するため、顔全体のぼんやりとした赤みを改善しながら、シミやくすみ、肌のハリといった複合的な肌悩みに同時にアプローチできるのが特徴です 。

その他の治療法

硬化療法

主に足のクモの巣状静脈瘤に対して行われる治療法です。血管内に硬化剤という薬剤を注射し、血管を内側から固めて閉塞させます 。

外用薬・内服薬

これらの薬剤は、拡張した血管そのものを消す効果はありません 。しかし、背景に「酒さ」がある場合、その炎症を抑える目的でメトロニダゾールやアゼライン酸といった塗り薬、あるいは抗生物質の飲み薬などが処方されることがあります 。これらはあくまで根本にある疾患の治療であり、血管治療の補助的な役割を担います。

治療法比較表

どの治療法が最適かは、症状の程度や範囲、肌質、予算、そしてどのくらいの期間で改善したいかによって異なります。以下の表は、それぞれの治療法の特徴をまとめたものです。医師と相談する際の参考にしてください。

悪化させない!日常生活で気をつけるポイント【スキンケア・食事・紫外線対策】

レーザーなどの治療で一度症状が改善しても、日々の生活習慣が原因で再発したり、新たな血管が目立つようになったりすることがあります 。治療効果を長持ちさせ、これ以上症状を悪化させないためには、日々のセルフケアが非常に重要です。ここでのケアは、できてしまった血管を「治す」ためではなく、肌を外部の刺激から「守る鎧」をまとい、症状の悪化を防ぐための「守りのケア」と捉えましょう 。

スキンケア:肌を守る基本

洗顔はやさしく、ぬるま湯で

ゴシゴシ洗いは厳禁です。洗顔料はよく泡立て、肌の上で泡を転がすようにして、指が直接肌に触れないように洗いましょう 。熱いお湯や冷たい水は血管を刺激して赤みを増悪させるため、32℃程度の人肌くらいのぬるま湯ですすぐのが鉄則です 。タオルで水分を拭き取る際も、押さえるように優しく行いましょう。

保湿でバリア機能を高める

乾燥してバリア機能が低下した肌は、外部刺激に非常に敏感になります 。洗顔後はすぐに、保湿力の高い化粧水や乳液で水分と油分を補いましょう。肌のバリア機能をサポートする「セラミド」や、水分を抱え込む「ヒアルロン酸」などが配合された、低刺激性の製品がおすすめです 。アルコールが多く含まれる収れん化粧水などは、血管を拡張させる可能性があるため避けましょう 。

保湿剤に関する注意

医療機関で処方される保湿剤「ヒルドイド」やそのジェネリック製品は、血行促進作用があります。この作用が、人によっては毛細血管拡張症の赤みをかえって目立たせてしまう可能性があるため、自己判断での使用は避け、必ず医師に相談してください 。

紫外線対策:365日、欠かさずに

紫外線対策は、毛細血管拡張症の悪化予防において最も重要な習慣です 。紫外線は血管壁を脆くする最大の外的要因であり、季節や天候に関わらず毎日対策を行う必要があります 。肌への刺激が少ない敏感肌用の日焼け止めを選び、外出時には帽子や日傘も活用しましょう 。

食事と生活習慣

食事

過度なアルコール摂取や、唐辛子を多用した激辛料理など、血管を強く拡張させる刺激物は控えめにしましょう 。血管の健康をサポートするビタミンCやビタミンEを多く含む野菜や果物を意識して摂ることも有効です 。

入浴・運動

長時間の熱いお風呂やサウナは、血管を過剰に拡張させるため避けましょう 。入浴はぬるめのお湯で済ませるのが理想です。激しい運動で顔が真っ赤になる状態も、血管には負担となります。適度な運動を心がけましょう 。

メイクの工夫で赤みをカバー

治療と並行して、メイクで赤みを上手にカバーすることも可能です。ファンデーションを塗る前に、**グリーン系またはイエロー系のコントロールカラー(化粧下地)**を赤みが気になる部分にだけ薄く塗ることで、赤みを打ち消し、色ムラを整えることができます 。顔全体に塗ると不自然な印象になるため、ポイント使いがコツです 。

よくある質問

Q
自分で治す方法はありますか?市販薬は効きますか?

A
残念ながら、自力で治すことはできません 。
一度伸びきってしまった血管は、市販の塗り薬やスキンケアで元に戻すことは不可能です 。日常生活でのセルフケアは、あくまで症状の悪化を防ぎ、治療後の良好な状態を維持するための「予防」や「管理」が目的です 。根本的な改善には、レーザー治療などの医療機関での治療が必須となります 。
 

Q
治療は痛いですか?

A
「輪ゴムでパチンと弾かれるような感覚」と表現されることが多いです 。痛みの感じ方には個人差がありますが、Vビームなどの最新のレーザー機器には、照射と同時に皮膚を冷却する機能が搭載されており、痛みを大幅に和らげる工夫がされています 。痛みに非常に弱い方には、事前に麻酔クリームを塗布する選択肢もありますので、診察時に医師にご相談ください 。
 

Q
レーザー治療は保険適用になりますか?

A
はい、医師の診察により「毛細血管拡張症」や「単純性血管腫」といった診断がつけば、Vビームによるレーザー治療は健康保険の適用対象 となります 。ただし、ステロイドの長期使用による副作用など、原因が明らかな二次性のものや、美容目的と判断された場合は自費診療(保険適用外)となります 。 重要な点として、保険診療で治療を受ける場合、治療の間隔を3ヶ月以上あける というルールがあります 。一方、自費診療では1ヶ月に1回など、より短い間隔で治療を進められるため、早く効果を実感したい場合は自費診療を選択する方もいます。費用を抑えたいか、治療期間を短縮したいかによって選択が変わります。
 

Q
治療は何回くらい必要ですか?

A
症状の重さや範囲、治療への反応によって個人差がありますが、一般的には3回から5回程度 の治療で多くの方が改善を実感されます 。1回の治療で効果が見られる場合もありますが、複数回の治療を重ねることで、より満足度の高い結果が得られます 。
 

Q
治療後に再発することはありますか?

A
はい、再発の可能性はあります 。
レーザー治療は、現在見えている拡張した血管を破壊するものであり、毛細血管拡張症になりやすい体質そのものを変えるわけではありません 。治療後も紫外線対策や生活習慣の改善を怠ると、新たな血管が拡張して再び目立ってくることがあります 。そのため、治療後も継続的なセルフケアが非常に重要になります。