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マラセチア毛包炎

Malassezia folliculitis
最終更新日:2026-03-25

背中や胸に繰り返しできる、ニキビ治療薬が効かないブツブツに悩んでいませんか。
それは、一般的なニキビではなく「マラセチア毛包炎」かもしれません
この皮膚疾患は、ニキビと見た目が似ているため自己判断が難しく、不適切なケアを続けて症状を悪化させてしまうケースが少なくありません。
この記事では、皮膚科専門医の監修のもと、マラセチア毛包炎の根本的な原因から、効果的な治療法、そして再発を防ぐための長期的な管理方法まで、患者さんが知っておくべき情報を網羅的に解説します。

目次
マラセチア毛包炎とは
マラセチア毛包炎の症状
マラセチア毛包炎(背中カビ)の根本的な原因
専門医による鑑別診断:マラセチア毛包炎と他の皮膚疾患の見分け方
マラセチア毛包炎の治療方法
マラセチア毛包炎の予防・セルフケア
よくある質問

マラセチア毛包炎とは

マラセチア毛包炎とは

「背中ニキビ」がなかなか治らないと皮膚科を受診された患者様の多くが、診断結果を聞いて驚かれます。なぜなら、そのブツブツの正体は細菌ではなく「カビ」の一種である真菌だからです。まずは、マラセチア毛包炎という疾患の基本的な概念と、一般的なニキビとの決定的な違いについて解説します。

真菌(カビ)が引き起こす厄介な皮膚トラブルの正体

マラセチア毛包炎(Malassezia folliculitis)とは、皮膚の毛穴(毛包)の内部で「マラセチア」という真菌(カビの仲間)が異常に増殖し、強い炎症を引き起こす皮膚疾患です 。かつては夏場に多発することから「夏季ざ瘡(かきざそう)」という名称でも呼ばれていました 。
ここで重要なのは、一般的なニキビ(尋常性ざ瘡)とマラセチア毛包炎では、原因となる菌の種類が根本的に異なるという点です。ニキビの原因となるのは「アクネ菌」という細菌(バクテリア)です 。一方、マラセチア毛包炎は「マラセチア」という真菌(カビ)が原因です 。細菌と真菌は、生物学的な構造や増殖のメカニズムが全く異なります。そのため、細菌を退治するための抗生物質や一般的なニキビ治療薬を使用しても、真菌であるマラセチアには全く効果がありません 。これが、自己流のニキビケアを続けても症状が改善しない最大の理由なのです。

皮膚常在菌のバランスとマラセチア菌のメカニズム

「カビが原因」と聞くと、お風呂場や梅雨時のカビを連想し、「どこか不潔な場所から感染してしまったのではないか」と不安になる方もいらっしゃいますが、その心配は無用です。マラセチア菌は、私たち人間の皮膚表面に日常的に存在している「皮膚常在菌」の一つだからです 。
健康な状態の皮膚においては、マラセチア菌はごくわずかな量しか存在しておらず、他の常在菌(アクネ菌や表皮ブドウ球菌など)とバランスを取りながら共生しています 。むしろ、皮膚を外部の刺激から守るバリア機能の一部として、一定の有益な役割すら果たしています。しかし、この絶妙なマイクロバイオーム(微生物叢)のバランスが崩れたとき、問題が発生します。
マラセチア菌は皮脂腺から分泌される皮脂を主な栄養源としており、皮脂を分解する過程で遊離脂肪酸という物質を産生します 。何らかの原因で皮膚環境がマラセチア菌にとって都合の良い状態(高温多湿や過剰な皮脂など)になると、彼らは一気に増殖を始めます。異常増殖したマラセチア菌が毛穴の奥深くに入り込み、大量の遊離脂肪酸を放出することで、毛穴の組織が強い刺激を受け、赤く腫れ上がるような炎症を引き起こすのです 。つまり、マラセチア毛包炎は外部からの「感染症」というよりも、自分自身の肌環境の「バランスの乱れ」によって引き起こされる自己免疫的なトラブルに近いと言えます。

環境的要因

マラセチア菌は高温多湿の環境を非常に好みます 。そのため、汗をかきやすい夏場に症状が悪化したり、発症したりするケースが多く見られます 。スポーツなどで汗をかいた後、そのままにしておくことや、通気性の悪い衣類を着用することも増殖を促す原因となります。

身体的・医学的要因

妊娠や糖尿病といった身体的な変化や、皮脂の分泌を増やすホルモンバランスの乱れも発症に関与します 。また、免疫反応を抑制する作用のあるステロイド外用薬や内服薬の使用は、皮膚の防御機能を低下させ、マラセチア菌の増殖を許す顕著な誘因となることがあります

生活習慣的要因

ストレス、睡眠不足、糖質や脂質の多い食事といった生活習慣も、ホルモンバランスや皮脂の分泌に影響を与え、間接的にマラセチア菌が増えやすい環境を作り出す一因となり得ます

放置は危険!マラセチア毛包炎の症状と進行段階

マラセチア毛包炎は、初期段階では単なる肌荒れのように見えるため、放置してしまいがちです。しかし、適切な対処を行わないまま進行すると、激しいかゆみや痛みを伴うだけでなく、治った後にも深い爪痕を残すことになります。ここでは、症状の具体的な特徴と、進行のプロセスについて解説します。

かゆみと見た目の特徴:2〜3mmの均一なブツブツ

ご自身の背中にある発疹がマラセチア毛包炎かどうかを見極める上で、最も特徴的なサインが「見た目の均一性」と「強いかゆみ」です。
一般的なニキビは、毛穴が詰まる(コメドができる)ことから始まり、白ニキビ、赤ニキビ、そして膿を持った黄ニキビへと段階的に進行します。そのため、同じ背中であっても、直径数ミリの小さなものから2センチ近くある大きく腫れたものまで、大きさがバラバラに混在しているのが特徴です 。
対照的に、マラセチア毛包炎による発疹は、直径2〜3ミリ程度の比較的小さく、大きさが非常に均一な赤いブツブツが広範囲にわたって多発します 。また、ニキビ特有の「毛穴の詰まり(芯のようなもの)」が見られないのも大きな特徴です 。
さらに、自覚症状として決定的な違いとなるのが「かゆみ」です。ニキビの場合は、触れると痛いことはあっても、強いかゆみを感じることはあまりありません 。しかし、マラセチア毛包炎は多くの場合、持続的で強いかゆみを伴います 。特に汗をかいた後や、体が温まった入浴後などにこのかゆみが急激に増す傾向があります。まれに、かゆみだけでなくチクチクとした痛みや刺激感を感じる患者様もいらっしゃいます 。

初期症状から重症化までのプロセス

マラセチア毛包炎は、皮膚環境の悪化に伴って徐々に進行していきます。進行度に応じた症状の変化は以下のようになります。

   主な症状と皮膚の状態  日常生活への影響とリスク
 軽度  背中や胸元に直径2〜3mmの均一な赤い発疹が散在し始める。軽いかゆみを感じる程度。  まだ自覚が少なく、「汗疹(あせも)」や一時的な肌荒れと勘違いしやすい段階。
 中等度  ブツブツの数が明らかに増加し、範囲が広がる。かゆみが強くなり、皮膚の乾燥や、逆に過剰に脂っぽくなる感覚(皮脂分泌の異常)を伴う。  かゆみによって無意識に掻いてしまい、皮膚のバリア機能がさらに低下する悪循環に陥る。
 重度 広範囲に発疹が密集して拡大し、強い腫れや化膿を伴うようになる。激しいかゆみや痛みが生じる。  掻きむしった傷口から黄色ブドウ球菌などの細菌が入り込み、二次感染を引き起こす危険性が高い。

重度化による後遺症(色素沈着やクレーター)のリスク

マラセチア毛包炎の恐ろしい点は、症状が治まりにくく、再発を繰り返すことで肌に深刻なダメージを蓄積させてしまうことです 。特に重症化して強い炎症が長期間続くと、菌自体が死滅した後でも以下のような厄介な「跡(後遺症)」が残る可能性が高くなります。
まずは「色素沈着」です。皮膚は強い炎症という攻撃から身を守るために、メラニン色素を大量に生成します。このメラニンが真皮層にまで落ち窪んで蓄積すると、黒ずみや茶色いシミとして長期間残ってしまいます 。 さらに深刻なのが「萎縮性瘢痕(クレーター)」や「ケロイド化」です。炎症が毛穴の奥深く、皮膚の土台である真皮層の組織まで破壊してしまうと、皮膚が薄く凹んでしまったり(クレーター)、逆に修復過程でコラーゲンが過剰に作られて赤く盛り上がったまま広がってしまったり(ケロイド)します 。このような状態になると、一般的な保険診療の塗り薬だけでは元の綺麗な肌に戻すことが非常に困難になり、美容皮膚科での高額なレーザー治療などが必要となってしまいます 。だからこそ、跡を残さないための早期発見・早期治療が極めて重要なのです。

なぜ発症する?マラセチア毛包炎(背中カビ)の根本的な原因

「なぜ自分の背中にだけカビが繁殖してしまうのだろうか」と悩む方も多いでしょう。マラセチア菌は誰の肌にもいる常在菌ですが、それが異常増殖して「背中カビ」と呼ばれる状態になるには、明確な理由があります。日々の何気ない生活習慣や環境要因が、知らず知らずのうちに菌にとっての「パラダイス」を作り出しているのです。

高温多湿な環境と大量の汗による影響

マラセチア菌をはじめとする真菌(カビ)が最も好む環境、それは「高温多湿」です 。日本の気候では、梅雨時から夏、そして残暑の厳しい初秋にかけて発症率が急激に跳ね上がります 。
日常生活において、スポーツによる激しい運動後や、屋外での長時間の作業、あるいは満員電車での通勤などで大量の汗をかく機会は多くあります。この汗をかいた状態をそのまま放置してしまうことが、最大の引き金となります 。衣服の内側で汗が蒸発できずに滞留すると、皮膚表面の温度と湿度が急上昇し、まるで熱帯雨林のような環境が形成されます。さらに、汗に含まれる皮脂はマラセチア菌の格好の栄養源となります 。適度な温度、高い湿度、そして豊富な栄養分。この3つの条件が揃うことで、マラセチア菌は爆発的な勢いで増殖を始めるのです。

通気性の悪い衣服や寝具が作り出す悪環境

汗をかきやすい季節だけでなく、冬場であってもマラセチア毛包炎を発症する方は少なくありません。その原因の多くは、私たちが身につけている「衣服」や「寝具」にあります。
近年、保温性や吸湿発熱性を高めた機能性インナー(化学繊維で作られた肌着)が広く普及しています。これらは冬の寒さを凌ぐには非常に便利ですが、暖房の効いた室内や満員電車などで汗をかいた際、天然素材に比べて湿気を外に逃がす通気性に劣る場合があります。体に密着する化学繊維のインナーの中で汗が蒸れると、冬場であっても皮膚表面は極端な高温多湿状態となり、「背中カビ」が増殖する原因となります 。
また、人間は睡眠中にコップ一杯分の汗をかくと言われています。通気性や吸湿性の悪いポリエステル製のパジャマやシーツを使用していると、背中とマットレスの間に熱と湿気がこもり、就寝中の長時間にわたってマラセチア菌を培養しているような状態になってしまいます 。

ボディソープ選びと過度な摩擦がもたらすバリア機能低下

背中のブツブツが気になり始めると、多くの方は「毛穴に汚れが詰まっているからだ」「もっと清潔にしなければ」と考え、スキンケアの強度を上げてしまいます。しかし、この良かれと思った行動が、逆に症状を悪化させる致命的な原因になることが多々あります 。
特に問題となるのが、洗浄力の強すぎるボディソープの使用と、ナイロンタオルなどを使った過度な摩擦(ゴシゴシ洗い)です 。市販のボディソープの中には、強い爽快感や脱脂力を売りにしているものがありますが、これらは皮膚にとって本来必要な「皮脂膜」や「細胞間脂質(セラミドなど)」まで根こそぎ洗い流してしまいます 。必要な潤いを失った皮膚は極度の乾燥状態に陥り、外部からの刺激を防ぐ「バリア機能」が著しく低下します 。
バリア機能が壊れると、皮膚は危機を感じて失われた脂分を補おうとし、皮脂腺から通常よりもさらに過剰な皮脂を分泌し始めます。この過剰な皮脂がマラセチア菌の新たなエサとなり、さらに増殖を加速させるという悪循環(リバウンド現象)を引き起こすのです 。過度な洗浄や対策が、結果的にニキビや毛包炎を悪化させてしまう典型的なパターンと言えます 。

ステロイド剤の使用による免疫低下と菌の増殖

特定の医薬品の使用が原因でマラセチア毛包炎を発症するケースも存在します。これを「ステロイド誘発性マラセチア毛包炎」と呼びます 。
アトピー性皮膚炎やその他の強い湿疹の治療のために、ステロイド外用薬(塗り薬)を広範囲かつ長期間にわたって使用していると、その部位の局所的な免疫機能が抑制されます 。ステロイドの強力な抗炎症作用によって湿疹は治まるものの、同時に皮膚が本来持っている真菌などの微生物に対する防御能力まで弱まってしまうのです。その結果、常在菌であるマラセチア菌が免疫システムの監視をすり抜け、容易に異常増殖できる環境が整ってしまいます 。また、ステロイドの使用は皮膚の常在菌叢(菌のバランス)を変化させ、炎症反応の現れ方を修飾するため、発疹が一般的な形とは異なって見えることもあり、診断を難しくする要因ともなっています 。他にも、糖尿病などの基礎疾患や、極度の疲労、栄養不良、妊娠によるホルモンバランスの変化なども、全身の免疫力を低下させ、発症のリスクを高めると言われています 。

専門医による鑑別診断:マラセチア毛包炎と他の皮膚疾患の見分け方

ここまで解説してきたように、マラセチア毛包炎は一般的なニキビとは根本的に異なる疾患です。しかし、患者様自身が鏡を見てこれらを見分けることは非常に困難です。誤った自己判断は治療を遅らせるだけでなく、症状をこじらせる原因となります。

セルフチェックの限界と皮膚科受診の重要性

インターネット上には様々な情報が溢れており、「背中のブツブツ=ニキビ」という思い込みから、市販のニキビ用スプレーや高価なニキビケア化粧品を何ヶ月も使い続けてしまう方が後を絶ちません 。確かに、以下のようなセルフチェックで大まかな傾向を推測することは可能です 。

ニキビの可能性が高い方

顔(おでこや頬)にもできやすい、大きさがバラバラ、生理前に悪化しやすい、脂性肌である。

マラセチア毛包炎の可能性が高い方

背中や胸に集中している、2〜3mmの均一なブツブツがある、強いかゆみがある、汗をかきやすい・高温多湿な環境にいることが多い。

しかし、これらはあくまで目安に過ぎません。実際の臨床現場では、ニキビとマラセチア毛包炎が同時に併発しているケースも珍しくありません。正確な確定診断を下し、最短で症状を改善するためには、日本皮膚科学会認定の専門医などが在籍する皮膚科や美容皮膚科を受診し、医学的な検査と診察を受けることが絶対条件となります 。専門医は視診だけでなく、必要に応じて皮膚の表面を軽く削り取って顕微鏡で観察する「直接鏡検(真菌検査)」を行い、実際にマラセチア菌がいるかどうかを確認した上で、的確な診断を下します。

一般的なニキビ(尋常性ざ瘡)との詳細な比較

皮膚科医が診断を下す際、あるいは治療方針を決定する上で、代表的な皮膚疾患との違いを明確に区別します。マラセチア毛包炎と、最も間違われやすい「ニキビ(尋常性ざ瘡)」、そして細菌による「細菌性毛嚢炎」の違いをわかりやすく表にまとめました。

   マラセチア毛包炎(背中カビ)  ニキビ(尋常性ざ瘡) 細菌性毛嚢炎(細菌性毛包炎)
主な原因となる菌  マラセチア菌(真菌・カビの一種)  アクネ菌(細菌の一種) 黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌など(細菌)
できやすい場所(好発部位)  背中、胸、肩、二の腕、首の後ろなど、毛がある場所全般。  顔(おでこ、頬、顎)、背中の上部、胸の中心など、特に皮脂腺が発達している場所。 髭剃りやムダ毛処理後の顎や脚、摩擦を受けやすいお尻など。
見た目の特徴  2〜3mmの赤みを帯びた細かい均一なブツブツが広範囲に多発する。毛穴の詰まり(コメド)はない。  毛穴の詰まり(コメド)が原因で始まり、白ニキビから赤ニキビ、化膿した大きなニキビまで大きさが不揃い。 毛穴に沿って赤く盛り上がり、中心に膿が見えることが多い。コメドはない。
自覚症状(かゆみ・痛み) かゆみを伴うことが非常に多い。 炎症が強いと痛みを感じるが、かゆみは少ない。 触るとチクチクとした軽い痛み(圧痛)があることが多い。

ニキビ治療薬(抗生物質など)が効かない理由と弊害

上の表からも明らかなように、マラセチア毛包炎に対して、ニキビ用の薬を使用しても効果がありません。例えば、皮膚科でニキビ治療によく処方される「ベピオ(過酸化ベンゾイル)」や「ディフェリンゲル(アダパレン)」は、毛穴の詰まり(コメド)を改善する薬ですが、マラセチア毛包炎にはコメドが存在しないため的外れな治療となります 。
さらに問題なのは、「ダラシン」や「アクアチム」といった抗菌薬(抗生物質の塗り薬)を使用したケースです 。抗生物質は細菌(アクネ菌やブドウ球菌)を殺菌する力はありますが、真菌(カビ)には全く効きません 。背中にマラセチア毛包炎ができている状態で抗生物質を漫然と塗り続けると、皮膚上の細菌だけが死滅してしまい、マラセチア菌のライバルがいなくなります。その結果、マラセチア菌がさらに我が物顔で異常増殖しやすい環境(菌交代現象)を作り出してしまう危険性があるのです。自己判断での間違った薬の使用は、状況を悪化させる行為に他なりません。

根本から改善へ導くマラセチア毛包炎の治療方法

正確な鑑別診断によってマラセチア毛包炎であることが確定すれば、いよいよ原因菌に直接アプローチする根本的な治療が開始されます。皮膚科における標準的な治療は、抗真菌薬(カビの増殖を抑え、殺菌する薬)を用いた薬物療法が主体となります 。

薬物療法の主役:抗真菌薬(外用薬と内服薬)の使い分け

患者様の症状の重症度や、発疹が広がっている範囲に応じて、医師は「外用薬(塗り薬)」と「内服薬(飲み薬)」を適切に使い分けます 。

軽度〜中等度の基本治療

抗真菌外用薬(塗り薬) 治療の基本ラインとなるのは、抗真菌薬の塗り薬です 。代表的なものとして、ケトコナゾール(製品名:ニゾラールなど)といったイミダゾール系の抗真菌薬が広く処方されます 。これらの薬は、1日に1回から2回、患部とその周辺に薄く広く塗布します 。 ここで患者様が陥りやすい罠があります。抗真菌薬を塗り始めて数日から1週間ほど経過すると、かゆみが治まり、赤みも引いてきて、一見するとすっかり治ったように見えます。しかし、毛穴の奥深くにはまだマラセチア菌が潜伏している可能性が高いのです。この段階で「治った」と自己判断して薬をやめてしまうと、すぐに菌が息を吹き返し、再発を繰り返すことになります 。外用薬による治療期間の目安は、一般的に1か月から2か月程度と長丁場になります 。医師から指示された期間は、症状が見えなくなっても根気よく塗り続けることが完治への絶対条件です。

難治例や広範囲の場合

抗真菌内服薬(飲み薬) 「塗り薬だけでは症状がなかなか治まらないとき」「何度も再発を繰り返すとき」「背中から胸にかけて発疹が非常に広範囲に及んでいるとき」や、炎症がひどい重症例などには、内服薬(飲み薬)が処方されます 。 内服薬としては、イトラコナゾール(製品名:イトリゾールなど)などの抗真菌薬が用いられます 。飲み薬は、血液に乗って体の内側から毛包の奥深くまで有効成分を届けることができるため、塗り薬が浸透しにくい深部のマラセチア菌に対しても強力な効果を発揮します。ただし、内服薬は肝機能への負担や、他の薬との飲み合わせ(相互作用)に注意が必要な場合があるため、必ず医師の厳密な管理と定期的な診察のもとで服用する必要があります。

皮膚科での治療費用の目安と通院の重要性

皮膚科などの医療機関で保険診療を受けた場合、どの程度の費用がかかるのか不安に思う方もいらっしゃるでしょう。以下は、一般的な保険適用(3割負担)の場合の標準的な費用の目安です 。

  診療項目  自己負担額の目安(3割負担の場合)
 初診料  約900円
 再診料  約400円
 処方料  約200円

※上記に加え、検査を行った場合は検査費用、薬局での調剤基本料や実際の薬剤費(塗り薬や飲み薬の代金)が別途かかります。
高価な市販のニキビケア化粧品を何種類も試したり、効果のない市販薬を長期間買い続けたりするトータルのコストを考えれば、初めから専門医の正確な診断のもとで、数百円から数千円程度の保険治療薬を処方してもらう方が、経済的にも治療効果の面でも圧倒的に合理的です。

治癒後のアフターケアとニキビ跡(色素沈着)の治療

抗真菌薬の治療によってマラセチア菌が減少し、新しいブツブツができなくなった後も、肌には長きにわたる炎症の「跡」が残っている場合があります 。
赤みが長引いている場合は、患部の血管が拡張したままになっている状態です 。茶色いシミのような色素沈着は、炎症によって過剰に生成されたメラニンが蓄積した状態です 。これらは皮膚のターンオーバー(細胞の生まれ変わり)を正常に保つことで、数ヶ月から半年ほどの時間をかけて徐々に薄くなっていきます。日焼けを避け、丁寧な保湿を心がけることが大切です。
しかし、色素沈着が非常に目立つ場合や、真皮層が破壊されて皮膚が凹んでしまった「クレーター(萎縮性瘢痕)」が生じてしまった場合は、自然治癒を待つのは困難です 。このようなニキビ跡・毛包炎跡に対しては、自由診療(保険適用外)による美容皮膚科的なアプローチが有効です。色素沈着にはケミカルピーリングや光治療(ジェネシスなど)、イオン導入などが用いられ、クレーターに対してはダーマペンやフラクショナルレーザーを用いて皮膚の再生能力を強制的に高める治療が行われます 。跡を残さないためにも、やはり早めの皮膚科受診が肝要なのです。

繰り返さないためのマラセチア毛包炎の予防方法とセルフケア

マラセチア毛包炎の治療において最も厄介な事実は、原因菌であるマラセチアが「常在菌」であるという点に尽きます 。薬で一時的に菌の数を減らして症状を抑え込んでも、菌を完全にゼロにすることは不可能であり、またゼロにする必要もありません。問題は、治療後に再び菌にとって居心地の良い環境を作ってしまえば、何度でも容易に再発を繰り返してしまうということです 。
再発を繰り返すと症状が慢性化し、色素沈着やクレーターといった深刻な跡が残るリスクが格段に高まります 。したがって、完治を目指すためには、薬物療法と並行して、日々の生活習慣における徹底した「予防セルフケア」の取り組みが不可欠です。ここでは、皮膚が本来持っている回復力を妨げず、健やかな皮膚環境を維持するための具体的な方法を解説します 。

汗と蒸れを放置しない!日常生活での速やかな対応

予防の第一選択は、マラセチア菌が最も好む「高温多湿」な環境を徹底的に排除することです 。

汗をかいたら「即」リセット

スポーツ後や、夏の外出から帰宅した後は、できるだけ早くシャワーを浴びて、皮膚表面の汗と余分な皮脂を洗い流してください 。

シャワーを浴びられない時の工夫

外出先などですぐに入浴できない場合は、清潔なタオルや、刺激の少ない(アルコールフリーなどの)汗拭きシートを用いて、こまめに汗を優しく拭き取ることが重要です 。

着替えの徹底

汗を吸った服をそのまま着続けることは絶対に避けましょう。通気性の良い清潔な衣類にこまめに着替えるだけでも、背中の湿度が下がり、菌の増殖スピードは劇的に抑えられます 。

肌を育てる正しい入浴法とボディソープの選び方

毎日の入浴習慣を見直すことは、皮膚のバリア機能を守る上で非常に重要です 。

摩擦ゼロの「泡洗い」を実践する

硬いナイロンタオルやボディブラシで背中をゴシゴシと力強く擦る行為は、今日からやめましょう。摩擦は角質層を傷つけ、微小な傷から炎症を引き起こす原因となります 。洗顔をするときと同じように、洗面器や泡立てネットを使ってボディソープをしっかりと泡立て、手のひらと豊かな泡のクッションだけを使って、全身を包み込むように優しく撫で洗いしてください 。

ボディソープの成分にこだわる

洗浄力が強すぎる製品は、皮脂を奪いすぎて乾燥を招き、結果としてバリア機能の低下と皮脂の過剰分泌(リバウンド)を引き起こします 。強い香りやメントールなどの爽快感を重視した製品よりも、洗い上がりがつっぱりにくく、肌への負担が少ない「弱酸性」や「アミノ酸系」の洗浄成分を使用したマイルドなボディソープを選ぶようにしましょう 。

洗う順番も重要

シャンプーやトリートメントのすすぎ液が背中に残ると、成分が毛穴を塞いだり刺激となったりします。入浴の際は、「髪を洗い、しっかりとすすぎ終わってから、最後に体を洗う」という順序を守ることで、背中を清潔な状態に保つことができます。

衣類や寝具の素材を見直し、背中の通気性を確保する

直接肌に触れるものには、徹底的にこだわりましょう。背中の微小な空間(マイクロクライメイト)の通気性を確保することが、背中カビの繁殖を防ぎます。

天然素材を味方につける

日常的に着用するインナー(肌着)は、吸湿性と速乾性に優れた「綿(コットン)」や「麻(リネン)」、「シルク」といった天然素材を選ぶのが理想的です 。これらは汗をかいても適切に水分を放出し、衣服内の蒸れを防いでくれます。

寝具の衛生管理と通気性

人生の3分の1を過ごす布団の中は、マラセチア菌にとっての温床になりやすい場所です。ポリエステルなどの化学繊維のパジャマは避け、綿製の通気性の良いものを選びましょう。また、シーツやパジャマはこまめに洗濯し、しっかりと天日干しや乾燥機にかけて湿気を飛ばし、清潔な状態を維持することが不可欠です。

食生活と睡眠からアプローチする内側からの皮膚免疫ケア

皮膚は内臓の鏡とも言われます。体の内側からのアプローチで全身の免疫力を高め、ターンオーバーを正常化させることも、遠回りなようで確実な予防法です 。

皮脂コントロールのための食生活

マラセチア菌のエサとなる皮脂の過剰な分泌を抑えるために、脂質の多い食事(ジャンクフード、揚げ物、スナック菓子など)や糖分の摂りすぎには注意が必要です。代わりに、皮脂の分泌をコントロールし皮膚の健康を保つビタミンB群(レバー、卵、納豆、カツオなど)や、抗酸化作用のあるビタミンCを積極的に食卓に取り入れましょう。低栄養状態も菌の増殖の一因となるため、バランスの良い食事が基本です 。

睡眠とストレス管理

慢性的な睡眠不足や過度な精神的ストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱し、皮脂の過剰分泌を引き起こします。また、ストレスは免疫機能を直接的に低下させます。1日7時間程度の質の高い睡眠を確保し、リラックスできる時間を持つことが、肌のバリア機能を正常に保つ最強のスキンケアとなります。

よくある質問

Q
マラセチア毛包炎(背中カビ)は、家族や他人にうつる病気ですか?

A
基本的に他人にうつる(感染する)病気ではありません。 「カビ」と聞くと、水虫(白癬菌)のようにお風呂のマットなどを介して家族に感染してしまうのではないかと心配される方が多いですが、その心配は不要です。マラセチア菌は、健康な人であっても誰の肌にも日常的に存在している「常在菌」だからです 。タオルを共有したり、同じ温泉に入ったりして菌が移動したとしても、相手の皮膚環境が「高温多湿」「皮脂過多」「免疫力低下」といったマラセチア菌が好む悪条件でなければ、異常増殖して発症することはありません。過度な消毒や隔離などは必要ありませんが、ご自身の予防のためにも清潔なタオルを使用することは推奨されます。
 

Q
毎日お風呂に入って清潔にしているのに、なぜ治らないのでしょうか?

A
「洗いすぎ」が原因で、逆に悪化させている可能性があります。 多くの方が陥る罠が「清潔にしようとするあまり、洗いすぎてしまうこと」です 。洗浄力の強いボディソープで一日に何度も洗ったり、ナイロンタオルでゴシゴシ擦ったりすると、皮膚を守るために必要な皮脂や水分まで奪われてしまいます。すると皮膚のバリア機能が壊れ、肌は乾燥を補おうとさらに多くの皮脂を分泌します 。この過剰な皮脂がマラセチア菌の格好の栄養となり、さらにカビを増殖させるという悪循環に陥っている可能性が高いです。優しい「泡洗い」と、マイルドなボディソープへの変更をおすすめします 。
 

Q
夏が終われば、マラセチア毛包炎は自然に治りますか?

A
確かにマラセチア毛包炎は高温多湿な夏に悪化しやすい傾向があります(夏季ざ瘡) 。しかし、一度毛穴の奥で異常増殖して強い炎症を起こした菌は、気温が下がったからといって自然に消滅するわけではありません。さらに、冬場であっても、暖房の効いた室内での発汗や、通気性の悪い発熱・保温インナー(化学繊維の肌着)を着込んで重ね着をすることで、衣服内が極度に蒸れて高温多湿状態となり、「背中 カビ」を悪化させてしまうケースが頻発しています 。季節を問わず、皮膚科での適切な治療が必要です。
 

Q
市販の「ニキビ薬」や「水虫薬(抗真菌薬)」で自分で治せますか?

A
自己判断での市販薬の使用は推奨できません。皮膚科を受診してください。 。むしろ肌への刺激となり悪化させるリスクがあります 。では、同じ真菌の薬である市販の水虫薬(抗白癬菌薬)を塗れば良いのかというと、それも危険です。水虫薬は足の分厚い皮膚に合わせて成分濃度や基剤(薬のベースとなる成分)が調整されており、背中や胸の薄くデリケートな皮膚に塗ると、強いかぶれ(接触性皮膚炎)を起こす恐れがあります。遠回りに見えても、皮膚科専門医の診察を受け、症状に合った適切な処方薬(ニゾラール等の外用薬など)を使用することが、最も安全で確実な完治への近道です
 

Q
治療の薬(塗り薬)は、いつまで塗り続ければいいですか?かゆみが引いたらやめてもいいですか?

A
かゆみや赤みが引いても、医師に指示された期間(通常1〜2ヶ月)は塗り続けてください。 。完全に菌の増殖を抑え込むためには、外用薬の場合、一般的に1ヶ月から2ヶ月程度の継続した塗布が必要です 。必ず主治医の指示に従い、根気よく治療を完了させてください。
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長