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蜂窩織炎

cellulitis
最終更新日:2026-5-27

突然、足や腕の皮膚が赤く腫れ上がり、熱感や強い痛みを感じていませんか?それは「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」かもしれません。黄色ブドウ球菌や溶連菌などの細菌が、小さな傷口から皮膚の深部に侵入して起こる感染症です。悪化すると高熱や血圧低下、壊死性筋膜炎などの重篤な合併症を引き起こす危険性もあります。本記事では、皮膚科専門医が蜂窩織炎の初期症状、原因、似た病気との見分け方、抗生物質による治療期間から予防法まで徹底解説します。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは?皮膚の奥深くで起こる細菌感染症
蜂窩織炎の初期症状から重症化のサインまで
蜂窩織炎の主な原因菌と感染ルート(侵入経路)
蜂窩織炎と似ている病気は?間違えやすい皮膚疾患との鑑別診断
蜂窩織炎の適切な治療方法・期間と受診の目安
日常生活でできる蜂窩織炎の効果的な予防方法
よくある質問

蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは?皮膚の奥深くで起こる細菌感染症

皮膚の構造(表皮・真皮・皮下組織)と発症のメカニズム

私たちが普段何気なく目にしている皮膚は、表面から順に「表皮(ひょうひ)」「真皮(しんぴ)」「皮下組織(ひかそしき)」という三つの層が重なり合って構成されています。最も外側にある表皮は、外部からの物理的な刺激や異物、そして無数に存在する細菌の侵入をブロックする強固な防壁(バリア機能)としての役割を果たしています。健康な状態の皮膚であれば、表面に細菌が付着していたとしても、このバリア機能によって体内への侵入は阻まれるため、感染症が起こることはありません
しかしながら、日常的なささいなケガや皮膚の乾燥、あるいは他の皮膚疾患などによって、この表皮のバリア機能が損なわれ、目に見えないほどの小さな亀裂や傷ができることがあります。蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、この防御壁のほころびから細菌が体内に侵入し、皮膚の深い部分である「真皮」から、さらにその下にある脂肪を多く含む「皮下組織」にまで到達して増殖することで発症する重篤な細菌感染症です。皮下組織は血管やリンパ管が豊富で、かつ組織が柔らかいため、細菌にとって非常に増殖しやすく、周囲へと急速に広がりやすい環境となっています。このように、単なる皮膚表面の肌荒れにとどまらず、深部組織で強い炎症が引き起こされる一連の感染プロセスが、蜂窩織炎の根本的なメカニズムです

蜂窩織炎が発症しやすい好発部位(足のすね・ふくらはぎなど)

蜂窩織炎は、理論上は細菌が侵入する傷さえあれば、頭の先から足の指まで、全身のあらゆる部位の皮膚に発症する可能性を秘めています。しかし、実際の臨床現場で最も頻繁に遭遇するのは、足のすねやふくらはぎ、足の甲といった下肢(足全体)に発症するケースです。足に蜂窩織炎が起こりやすい背景には、いくつかの明確な理由が存在します。
まず第一に、足は常に重力の影響を受けているため、血液やリンパ液の循環が滞りやすく、むくみ(浮腫)が生じやすい部位です。血流やリンパ液の巡りが悪くなると、局所の免疫細胞が十分に機能しにくくなり、細菌が侵入した際に撃退する力が弱まってしまいます。第二に、足の指の間や足の裏は白癬(水虫)に感染しやすく、水虫によって皮膚がふやけたり皮がむけたりすることで、細菌の絶好の侵入口が作られてしまうからです。足以外では、ガーデニングや農作業などで傷を負いやすい腕や手、あるいは虫歯や副鼻腔炎などの別の感染症が波及することによって顔面に発症するケースも見受けられます。どの部位に発症する場合でも、皮膚のバリア機能が低下している箇所が起点になるという共通点があります。

蜂窩織炎の初期症状から重症化のサインまで

局所に現れる4つの典型症状(赤み・腫れ・熱感・強い痛み)

蜂窩織炎が発症すると、感染が起きている局所の皮膚には非常に特徴的な4つのサインが同時に現れます。第一の症状は、患部の皮膚に広がる境界がぼやけた「発赤(赤み)」です。どこからが健康な皮膚で、どこからが炎症を起こしている皮膚なのか、はっきりとした線を引くことが難しいような広がり方をします。第二の症状は、皮膚がパンパンに張ったような強い「腫れ」です。細菌の増殖に対して体の免疫システムが激しく反応し、血管から水分や白血球などの成分が周囲の組織に大量に漏れ出すことで生じます。
第三の症状として、患部を手のひらでそっと触れると、周囲の正常な皮膚に比べて明らかに「熱を持っている(熱感)」ことが確認できます。そして第四の症状が、何もしなくてもズキズキと疼くような痛みや、指で軽く押した際に生じる強い「圧痛(あっつう)」です。初期の段階では、「ひどい虫刺されだろう」と自己判断してしまいがちですが、これら4つの症状が揃い、なおかつ数日のうちに赤みの範囲が急激に拡大していくようであれば、蜂窩織炎を強く疑う必要があります。

注意すべき全身症状(発熱・悪寒・頭痛・頻脈・血圧低下・錯乱)

局所の皮膚組織における細菌の増殖を抑えきれず、感染がさらに進行すると、細菌そのものや細菌が産生する毒素、あるいは体内で作られた強力な炎症性物質が血流に乗って全身を巡り始めます。この状態に陥ると、皮膚の局所的な症状にとどまらず、全身に重篤な症状が現れるようになります。具体的には、一部の患者さんにおいて38度を超えるような高熱や、体がガタガタと震えるほどの強い悪寒(寒気)が生じます。これらは、体が全身全霊で感染症と戦い始めた証拠です。
さらに症状が悪化した場合、患者さんによっては締め付けられるような頭痛や、心臓の鼓動が異常に速くなる頻脈(ひんみゃく)がみられることがあります。最も警戒すべき危険なサインは、血圧の著しい低下や、意識がもうろうとして周囲の状況が理解できなくなる錯乱(さくらん)といった症状です。これらの症状は、蜂窩織炎の患者さんの大半に見られる軽症の経過を逸脱し、細菌の感染が全身に広がる敗血症という命に関わる極めて重症な感染症に進行していることを意味します。全身症状が一つでも現れた場合には、決して様子を見ることなく、直ちに救急外来などを受診しなければなりません。

リンパ節の腫れと赤い筋(リンパ節炎・リンパ管炎)の併発

皮下組織に侵入した細菌は、その場に留まるだけでなく、組織の内部に張り巡らされているリンパ管という細い管のネットワークを通じて周囲へと勢力を拡大しようとします。細菌がリンパ管の内部に侵入して炎症を引き起こすと、患部から体の中心に向かって、皮膚の表面に沿って赤い筋のような線が走ることがあります。この状態は「リンパ管炎」と呼ばれ、感染が広範に波及しつつある視覚的なサインとなります
細菌がさらにリンパ管をさかのぼっていくと、リンパ液の関所であり、免疫細胞が集まる基地であるリンパ節に到達します。この際、細菌の増殖を防ごうとリンパ節が激しく反応するため、感染部位に近いリンパ節が大きく腫れ上がります。例えば、足に蜂窩織炎を発症した場合は足の付け根(そけい部)のリンパ節が、腕に発症した場合は脇の下(腋窩)のリンパ節が腫脹します。これを「リンパ節炎」と呼び、腫れた部位を指で押すと強い痛み(圧痛)を伴うようになります。リンパ管炎やリンパ節炎を伴うケースは、局所の防衛線が突破されつつある状況を示しており、強力な治療が必要です。

蜂窩織炎の主な原因菌と感染ルート(侵入経路)

原因となる代表的な細菌(化膿レンサ球菌・黄色ブドウ球菌・MRSA)

蜂窩織炎を引き起こす最も一般的な原因菌は、「レンサ球菌(Streptococcus)」と「ブドウ球菌(Staphylococcus)」という2種類の細菌グループに大別されます。これらは決して特殊な環境にしか存在しない細菌ではなく、普段から私たちの健康な皮膚の表面や鼻の粘膜、喉などに定着して共生している「常在菌」と呼ばれるものです
レンサ球菌、特に化膿レンサ球菌(溶連菌)による蜂窩織炎には恐ろしい特徴があります。この細菌は、人間の組織が感染の広がりを局所に封じ込めようとする防御機能を妨害し、組織の壁を溶かす特殊な酵素を作り出す能力を持っています。そのため、レンサ球菌が原因の場合、皮膚の中で非常に急速に赤みや腫れが広がっていくという特徴を示します
一方、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によって引き起こされる蜂窩織炎は、皮膚がむき出しになった開いた傷口や、皮膚の深い部分に膿が溜まった空洞(皮膚膿瘍)の周囲から発生しやすいという傾向があります。さらに現代の医療現場で大きな脅威となっているのが、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」と呼ばれる特殊なブドウ球菌が原因菌となるケースです。MRSAは、一般的な感染症治療で用いられる多くの抗菌薬に対して耐性を獲得しており、通常の薬が効きにくいという非常に厄介な性質を持っています。

細菌の侵入口となる身近なきっかけ(虫刺され・水虫・小さな傷)

これらの常在菌は、健康な皮膚の上ではおとなしくしていますが、皮膚のバリア機能が破綻すると牙を剥きます。蜂窩織炎を発症するためには、細菌が体内に侵入するための明確な「入り口」が必要となります。私たちの日常生活の中には、この入り口を作ってしまう無数のリスクが潜んでいます。
非常に多く見られるのが、蚊やブユ、ダニなどによる虫刺されをきっかけとするケースです。虫に刺されて強いかゆみを感じ、無意識のうちに爪で激しく掻きむしってしまうことで皮膚が物理的に破壊され、手指や爪の間に付着していた細菌が傷口の奥深くに押し込まれて感染を引き起こします。とびひ(伝染性膿痂疹)やヘルペスなどの他の皮膚感染症トラブルから波及することもあります
また、足の蜂窩織炎の原因として圧倒的に多いのが白癬(水虫)です。足の指の間などに水虫ができると、皮膚がジクジクとふやけたり、乾燥して皮がむけたりして、目には見えにくい微小な亀裂が生じます。靴を履いて高温多湿となる足の環境は細菌の繁殖に最適であり、そこから容易に皮下組織へと細菌が侵入します。その他にも、転倒による擦り傷、紙で切ったような浅い切り傷、極度の乾燥によるあかぎれなど、皮膚の完全性が損なわれるあらゆる損傷が蜂窩織炎の入り口となり得ます

感染リスクを高める基礎疾患・要因(糖尿病・高齢・免疫力低下)

皮膚に傷ができ、そこに細菌が侵入したとしても、すべての人が蜂窩織炎を発症するわけではありません。発症の有無や重症化のリスクは、その人が本来持っている「免疫力」や「全身の健康状態」に大きく左右されます。
最も警戒を要するのが、糖尿病を患っている患者さんです。糖尿病により慢性的に高血糖の状態が続くと、白血球などの免疫細胞の動きが鈍くなり、体内に侵入した細菌を捕食して殺菌する能力が著しく低下します。加えて、糖尿病特有の末梢神経障害によって足先の感覚が鈍くなっているため、靴擦れや小さな傷ができても痛みを感じず、発見が遅れて感染が重症化するケースが後を絶ちません
また、高齢者もリスクが高いグループに属します。加齢に伴い、皮膚の水分保持能力や皮脂の分泌量が減少し、乾燥してバリア機能が脆弱になるだけでなく、全身の免疫機能自体も低下します。そのため、若い頃であれば自身の免疫で容易に排除できていたような、通常では感染を起こしにくい弱い種類の細菌であっても、高齢者では蜂窩織炎の十分な原因となってしまいます。さらに、乳がんや子宮がんの手術後に生じるリンパ浮腫を抱えている方や、ステロイド薬、免疫抑制剤を長期間服用している方も、局所の免疫力が著しく低下しているため、蜂窩織炎を何度も繰り返しやすいハイリスク群として厳重な注意が必要です。

蜂窩織炎と似ている病気は?間違えやすい皮膚疾患との鑑別診断

皮膚が赤く腫れ、痛みを伴う病気は蜂窩織炎だけではありません。適切な治療を迅速に開始するためには、他の似たような症状を引き起こす疾患と正確に見分ける(鑑別診断)ことが極めて重要です。以下の表は、皮膚科領域で鑑別が必要となる代表的な疾患の特徴を整理したものです。
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丹毒(たんどく)との決定的な違いと見分け方

蜂窩織炎と最も症状が酷似しており、臨床現場でしばしば鑑別の対象となるのが「丹毒(たんどく)」という細菌感染症です。丹毒の原因として最も多いのは、蜂窩織炎の原因菌の一つでもあるレンサ球菌です。しかし、この二つの病気は細菌が感染して炎症を起こしている「皮膚の深さ」が異なります。蜂窩織炎が真皮の深い部分から皮下組織という深い層で起こるのに対し、丹毒は表皮のすぐ下にある真皮の浅い層や、皮膚表面に近い浅いリンパ管にとどまって起こります。
この感染深度の違いが、見た目の症状に決定的な差を生み出します。蜂窩織炎の場合、赤みの境界がグラデーションのようにぼんやりとしていて、どこからが病気の部分かわかりにくいのが特徴です。対して丹毒は、赤く腫れている部分と健康な皮膚との境界線が、まるで地図の輪郭のようにくっきりと明瞭に分かれており、その縁が少し堤防のように盛り上がっているという特徴を持っています。また、丹毒の赤みはより鮮やかで、皮膚の表面がオレンジの皮のように細かくデコボコして見えることもあります。どちらも急な発熱を伴い、抗菌薬による治療が必要ですが、皮膚科専門医はこの微妙な所見の違いを注意深く観察して診断を下します。

うっ滞性皮膚炎や接触皮膚炎(かぶれ)などの非感染性疾患

細菌感染を全く伴わないものの、足が赤く腫れる病気との鑑別も非常に重要です。高齢者の下肢に非常に多く見られる「うっ滞性皮膚炎」は、足の静脈の弁が壊れるなどして血液が心臓に戻りにくくなり、血液中の成分が血管の外の皮膚組織に漏れ出して慢性的な炎症を引き起こす病気です。蜂窩織炎が突然、片方の足に激しい痛みを伴って発症するのに対し、うっ滞性皮膚炎は両足に同時並行でゆっくりと時間をかけて症状が現れます。また、痛みよりも強いかゆみを伴い、漏れ出した赤血球が壊れることで皮膚が茶褐色に変色する(色素沈着)のが特徴です。熱感や発熱を伴うことはありません。
また、湿布薬を貼った後や植物に触れた後に生じる「接触皮膚炎(いわゆる、かぶれ)」も、局所の赤みや腫れを引き起こします。かぶれの場合は、原因となった物質が触れた部分に限定して症状が現れるため、湿布の形に四角く赤くなっていたり、草がこすれた線状に赤くなっていたりします。蜂窩織炎のような痛みではなく、猛烈なかゆみが前面に出ること、また小さな水ぶくれ(水疱)が多発しやすいことが見分け方のポイントとなります。

痛風や深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)との違い

皮膚疾患以外の内科的・血管外科的な病気でも、足が急激に赤く腫れ上がるものがあります。「痛風」は、体内で処理しきれなくなった尿酸が結晶化し、関節の中で激しい炎症を引き起こす病気です。特に足の親指の付け根の関節に発症しやすく、局所の熱感や赤み、さらには全身の発熱を伴うこともあるため蜂窩織炎と間違われることがあります。しかし、痛風はあくまで「関節」を中心に炎症が起こるため、関節から離れたすねやふくらはぎの皮膚全体に赤みが広がることはありません。
もう一つ、命に関わる可能性があるため絶対に見逃してはならないのが「深部静脈血栓症」です。エコノミークラス症候群とも呼ばれるこの病気は、足の筋肉の奥深くを通る太い静脈の中に血栓(血の塊)ができ、血流が完全に塞がれてしまう状態です。足全体が急激にパンパンに腫れ上がり、歩くのも困難なほどの痛みを伴いますが、蜂窩織炎の特徴である鮮やかな皮膚の赤みや、触ったときの強い熱感は比較的乏しい傾向があります。血栓が血流に乗って肺に飛ぶと致命的な肺塞栓症を引き起こすため、疑わしい場合は一刻も早く超音波検査で血管内部を確認する必要があります。

蜂窩織炎の適切な治療方法・期間と受診の目安

診断のための各種検査(培養検査・画像検査:エコー・CT・MRI等)

蜂窩織炎の診断は、基本的には医師が患者さんの皮膚の症状を直接観察し、痛みの程度や全身の症状を問診する視診と触診によって下されます。しかし、より正確で効果的な治療を行うために、いくつかの重要な臨床検査が並行して実施されます。
まず行われるのが、原因菌を特定するための「細菌培養検査」です。皮膚の表面に傷や膿、あるいは浸出液がある場合には、滅菌された綿棒で患部を拭って検体を採取し、検査室で細菌を培養します。この検査によって原因となっている細菌の正確な種類(レンサ球菌なのか、黄色ブドウ球菌なのか、あるいはMRSAなのか)を特定し、その細菌に対してどの抗菌薬が最もよく効くか(薬剤感受性)を調べることができます。これにより、手探りの治療から、的確に狙いを定めた治療へと移行することが可能になります。
さらに、炎症が非常に強い場合や、後述する重篤な合併症が疑われる場合には、皮膚の奥底の状態を探るための「画像検査」が追加で行われます。具体的には、骨への影響を見るためのX線(レントゲン)検査、皮下組織への膿の貯留や血流を確認する超音波(エコー)検査、そして組織の壊死や炎症の立体的な広がりを詳細に把握するためのCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断)などが用いられます。これらの最新の画像診断機器を駆使することで、表面からは見えない危険な状態を早期に発見し、適切な治療方針を決定します。

抗菌薬(抗生物質)による内服・点滴治療と完治までの期間

蜂窩織炎の治療において最も根幹となるのは、細菌の増殖を抑え込み、死滅させるための「抗菌薬(抗生物質)」の投与です。蜂窩織炎は皮膚の深部における感染症であるため、市販の塗り薬を表面に塗布するだけでは有効成分が患部に到達せず、全く効果がありません。必ず医療機関で処方された医療用の抗菌薬を体内に取り込む必要があります。
初診時には、前述の培養検査の結果が出るまでに数日を要するため、レンサ球菌や黄色ブドウ球菌に対して広く効果を発揮するペニシリン系やセフェム系などの抗菌薬を用いた「経験的治療」が即座に開始されます。症状が比較的軽度で、食事が喉を通り水分も十分に摂取できている患者さんであれば、飲み薬(内服薬)の抗菌薬が処方され、自宅で患部を高く保ちながら安静に過ごす通院治療となります
完治までの治療期間の目安としては、一般的な軽症から中等症のケースであれば、適切な抗菌薬を服用し続けることで通常1週間から2週間程度で劇的な改善が見込まれます。しかしながら、発熱などの全身症状が強く点滴治療が必要な場合や、糖尿病などの持病を抱えていて体の抵抗力が低下している方の場合は、組織の修復と細菌の完全な排除に時間がかかり、治療期間が2週間以上に長期化することも珍しくありません。最も注意すべき点は、赤みや痛みが引いてきたからといって、患者さんの自己判断で抗菌薬の服用を途中でやめてしまうことです。生き残っていた細菌が再び爆発的に増殖して再発したり、薬に耐性を持つ強力な菌を生み出したりする原因となるため、処方された薬は医師の指示通り最後まで必ず飲み切ることが鉄則です。

放置が招く恐ろしい合併症(膿瘍・骨髄炎・壊死性筋膜炎)

蜂窩織炎を「ただの虫刺されが悪化しただけ」と軽視して放置したり、適切な治療を受けるのが遅れたりすると、感染のコントロールが失われ、想像を超える恐ろしい合併症を引き起こす可能性があります
局所的な合併症としてまず挙げられるのが「膿瘍(のうよう)」の形成です。細菌と白血球が戦った残骸である膿(うみ)が皮膚の深い部分に大量に溜まり、空洞を作ってしまいます。ここまで進行すると、いくら抗菌薬を投与しても血流が届かないため効果が薄く、局所麻酔下で皮膚をメスで切開し、内部の膿を外に掻き出す「切開排膿」という外科的な処置が必要になります。
さらに細菌が皮下組織を突き破って深部へと侵攻すると、骨にまで感染が及ぶ「骨髄炎(こつずいえん)」を引き起こすことがあります。骨髄炎は非常に難治性であり、数ヶ月に及ぶ長期間の抗菌薬の点滴投与や、感染した骨そのものを削り取る大がかりな手術を余儀なくされる深刻な状態です。
そして、最も警戒すべき致死的な合併症が「壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)」です。これは、いわゆる「人食いバクテリア」などと報道されることもある病態で、細菌が筋肉を包んでいる筋膜という組織に沿って、数時間単位という猛烈なスピードで進行し、周囲の組織を次々と腐らせて(壊死させて)いきます。想像を絶する激痛を伴い、急速に血圧が低下してショック状態に陥ります。救命のためには、腐死した組織を広範囲にわたって緊急に切除する手術が不可欠であり、一命を取り留めても手足の切断を余儀なくされることがある極めて危険な合併症です。

何科を受診すべきか?早期受診の重要性について

蜂窩織炎が疑われる症状が現れた場合、まずは専門知識を持つ「皮膚科」を受診することが最も確実で適切な選択です。皮膚科専門医は、前述した丹毒やうっ滞性皮膚炎、接触皮膚炎といった数多くの似たような皮膚疾患を正確に見分ける鑑別診断のトレーニングを積んでおり、不要な検査を省いて最短ルートで正しい診断を下すことができます。また、蜂窩織炎の治療実績が豊富な皮膚科クリニックでは、重症化の兆候をいち早く察知し、必要に応じて名古屋大学医学部付属病院などの高度な医療を提供する大学病院や総合病院へと速やかに連携・紹介する体制が整えられています
虫刺されや小さなケガの周囲が赤く腫れ上がり、市販薬を塗っても一向に改善しないばかりか、次第に範囲が広がって熱を持ち、強い痛みを伴うようになってきた場合は、もはや家庭でのケアの限界を超えています。感染症が背景に潜んでいる可能性が極めて高いため、症状が全身に広がる前に、躊躇することなく早めに医療機関を受診してください。初期の段階で適切な抗菌薬による介入ができれば、入院や手術といった事態を避け、スムーズな回復が期待できます。

日常生活でできる蜂窩織炎の効果的な予防方法

蜂窩織炎は、細菌が侵入する「入り口」を塞ぎ、個人の持つ免疫力を正常に保つことで、発症や再発のリスクを劇的に下げることができる病気です。日常生活の中で実践すべき具体的な予防策について解説します。

皮膚のバリア機能を維持する正しいスキンケアと清潔保持

皮膚の最も重要な役割であるバリア機能を高く保つことが、すべての感染予防の第一歩です。毎日の入浴時には、硬いナイロンタオルやスポンジで皮膚をゴシゴシと力任せに擦り洗いすることは避けてください。過度な摩擦は、皮膚の表面に目に見えない無数の細かい傷(マイクロトラウマ)を作り出し、そこが細菌の格好の侵入口となってしまいます。たっぷりと泡立てた石鹸の泡を使い、手のひらで撫でるように優しく汚れを洗い流すだけで、皮膚の清潔は十分に保たれます。
また、加齢や季節の変わり目などによる皮膚の乾燥は、バリア機能の著しい低下を招きます。乾燥した皮膚は柔軟性を失い、ひび割れやあかぎれを起こしやすくなります。入浴後や手洗いの後には、皮膚の水分が蒸発する前に保湿クリームやローションをたっぷりと塗布し、角質層に水分と油分を補給してしなやかな状態を維持する習慣を身につけましょう。

基礎疾患のコントロール(水虫の完治・糖尿病の血糖管理)

蜂窩織炎の誘因として圧倒的に多い足の白癬(水虫)は、決して放置してはならない疾患です。水虫によって足の指の間がジクジクしたり皮がむけたりしている状態は、「常に細菌の侵入口が開いたままになっている」のと同じです。市販薬で一時的にかゆみを抑えるだけでなく、皮膚科を受診して顕微鏡検査で確定診断を受け、医師の処方する適切な抗真菌薬(塗り薬や飲み薬)を使用して完全に治し切ることが強く推奨されます。自覚症状が消えても、皮膚の奥に潜む白癬菌を根絶するまで数ヶ月間は根気よく薬を塗り続けることが再発防止の鍵です。
また、糖尿病を患っている方は、日々の厳密な血糖コントロールが蜂窩織炎予防に直結します。血糖値が安定すれば、免疫細胞の働きが正常に保たれ、感染に対する抵抗力が回復します。さらに、糖尿病特有の神経障害によって足の感覚が鈍くなっていることに備え、毎日入浴時や就寝前に、明るい場所でご自身の足の裏や指の間に傷、たこ、魚の目、異常な赤みが生じていないかを目視でチェックする「フットケア」の習慣をつけることが非常に有効です。下肢のむくみがある方は、医師の指導のもとで医療用の弾性ストッキングを着用したり、就寝時に足をクッションに乗せて高くして休むことで、血流とリンパの流れを改善させましょう。

ケガや虫刺されが生じた際の正しい初期対応と応急処置

日常生活の中で、小さなすり傷や切り傷、虫刺されを完全に避けることは不可能です。しかし、トラブルが起きた直後の正しい初期対応によって、蜂窩織炎への進行を未然に防ぐことができます。
ケガをして傷ができた場合は、傷口から出血していても慌てず、まずは大量の流水(きれいな水道水)で傷口に付着した泥や砂、目に見えない細菌を徹底的に洗い流すことが最優先です。消毒液をかけるよりも、物理的に異物を洗い流すことの方が感染予防においてはるかに重要です。十分に洗浄した後は、清潔なガーゼや絆創膏で傷口を保護し、周囲が赤く腫れてこないか数日間注意深く観察します。
虫に刺された場合には、どれほど強いかゆみがあっても、絶対に爪で力強く掻きむしってはいけません。掻くという行為は皮膚のバリアを破壊し、自らの手指に付着している細菌を皮下組織に擦り込む行為に他なりません。早めに抗ヒスタミン剤やステロイド成分が含まれた虫刺され用の外用薬を塗布してかゆみを鎮め、無意識に掻いてしまうことを防ぐために上から絆創膏や専用のパッチを貼って患部を物理的に保護するなどの対策が効果的です。

よくある質問

Q
蜂窩織炎は人から人へうつる(感染する)病気ですか?

A
蜂窩織炎は、患者さんご自身の皮膚の奥深い部分(真皮や皮下組織)で細菌が増殖して炎症を起こしている病態です。皮膚の表面に細菌が大量に露出してばらまかれているわけではないため、日常生活における通常の接触(患者さんの肌に触れる、同じ部屋で過ごす、同じお風呂やタオルを使用するなど)によって、蜂窩織炎という病気そのものが直接人から人へうつる(感染する)ことは基本的にはありません。ご家族が蜂窩織炎に罹患された場合でも、神経質に隔離などを心配する必要はありません。ただし、患者さんの患部に処置などで直接触れた後は、ご自身の手に付着した細菌を洗い流すため、石鹸を用いた手洗いや手指消毒を行うといった一般的な衛生管理は推奨されます。
 

Q
市販の塗り薬や痛み止めで治すことは可能ですか?

A
結論から申し上げますと、蜂窩織炎をドラッグストアなどで購入できる市販薬で完治させることは不可能です 。この病気は皮膚の表面でのトラブルではなく、皮下組織という深い部分で細菌が活発に増殖している状態です。市販のかゆみ止めや抗生物質入りの軟膏を皮膚の表面にどれだけ厚く塗っても、有効成分が分厚い皮膚の壁を越えて深部の感染層まで十分な濃度で到達することはありません。また、市販の解熱鎮痛剤を飲んで痛みや熱を一時的にごまかしている間に、水面下で細菌の増殖が止まらず、取り返しのつかない重症化を招く恐れがあります。根本的な解決には、医師の処方による医療用の抗菌薬(内服薬や点滴)が絶対に必要ですので、疑わしい症状があれば自己判断を避け、速やかに医療機関を受診してください。
 

Q
治療中はお風呂に入ったり、運動したりしても良いですか?

A
治療中の入浴に関しては、患部の皮膚を清潔に保つことが感染のコントロールにおいて重要であるため、シャワーで優しく汗や汚れを洗い流すことは全く問題ありません。しかし、湯船に長時間肩まで浸かることは控えてください。全身が温まり血流が良くなりすぎると、炎症を起こしている患部の血管も過剰に拡張し、ズキズキとした強い痛みや腫れ、熱感が悪化する原因となります。症状が強く出ている急性期は、短時間のシャワー浴で済ませるのが無難です。
運動についても厳禁です。ジョギングや筋力トレーニングなどの激しい運動は全身の血流と心拍数を増加させ、炎症を悪化させるだけでなく、血流に乗って細菌が全身へ広がるリスクを高めてしまいます。特に足に蜂窩織炎を発症している場合は、歩行や長時間の立ち仕事自体が患部に多大な物理的負担をかけます。治療期間中は可能な限り安静を心がけ、座って過ごす際や就寝時には、患部の下にクッションや丸めた毛布などを敷いて、心臓よりも高い位置に挙上しておく(高く上げておく)ことで、重力による血液やリンパ液のうっ滞を防ぎ、腫れや痛みを効果的に軽減させることができます。
 

Q
一度治っても、また再発を繰り返すことはありますか?

A
蜂窩織炎は、適切な抗菌薬治療によって一度は完治したように見えても、非常に再発を繰り返しやすいという厄介な特徴を持った病気です。その最大の理由は、細菌が侵入する「入り口(水虫や乾燥によるひび割れなど)」がそのまま放置されていたり、発症を助長する「体の根本的な状態(足の強いむくみ、糖尿病による免疫力低下など)」が改善されていなかったりするからです。
特に、乳がんや婦人科系がんの手術によるリンパ節郭清後に生じた重度のリンパ浮腫を抱えている方や、難治性の水虫を放置している方は、同じ側の足や腕に何度も蜂窩織炎を再発し、そのたびに入院を繰り返すケースが少なくありません。再発のループを断ち切るためには、単に急性の炎症を薬で抑え込むだけでなく、水虫の徹底的な治療、日々の入念な保湿スキンケアによる皮膚バリアの再構築、そして基礎疾患の厳格なコントロールといった、根本的な予防策を日常生活の中に組み込み、継続していくことが何よりも重要となります。
蜂窩織炎は、決して珍しい病気ではありませんが、初期対応を誤ると深刻な事態を招く恐れのある重要な感染症です。ご自身の皮膚のわずかな変化を見逃さず、少しでも異常を感じた際には、迷わず皮膚科専門医にご相談ください。早期の受診と適切な治療が、あなたの健康な皮膚と体を守る最善の選択となります。
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年 うらた皮膚科