丹毒とは?皮膚の浅いところで起こる急激な細菌感染症の基礎知識
皮膚のバリアが破れて真皮に起こる炎症の仕組み
丹毒(たんどく)は、皮膚に細菌が感染することで急激に赤みや腫れが生じる急性皮膚感染症の一種です。人間の皮膚は外側から順に「表皮」「真皮」「皮下組織」という層構造で成り立っていますが、丹毒はこのうち比較的浅い部分にある「真皮(特に真皮浅層)」に感染が限局して強い炎症が起こるのが大きな特徴です。炎症が皮膚の浅い部分でとどまるため、赤くなっている部分と正常な皮膚との境界線が非常にくっきりと鮮明に見えるという特徴があります。
丹毒が好発する部位と皮膚の解剖学的な関係
丹毒は全身のどこにでも発症する可能性がありますが、特に「顔」や「耳」、あるいは片側の「足(下腿)」や「腕」に好発する傾向があります。なかでも顔面や耳の周辺に赤い腫れが出る場合は、まず丹毒が疑われます。 耳の周辺(耳介)は真皮が非常に薄く、その下にある皮下脂肪組織がほとんど存在しないという解剖学的な特徴を持っています。この構造上の理由から、脂肪組織の感染症である蜂窩織炎は耳には起こりえず、浅い真皮の感染症である丹毒が特異的に発生しやすい部位となっています。
見逃すと危険な丹毒の症状と急激な変化
皮膚に現れる急激な赤み・腫れ・痛み・熱感
丹毒を発症すると、皮膚の一部が急激に真っ赤に腫れ上がり、患部を触ると明らかな熱っぽさ(熱感)を感じるようになります 。また、患部の中央は皮膚が厚ぼったく硬くなり、ろうのような独特の光沢(蠟様光沢)を帯びることがあります 。患部を指で軽く押すと強い痛み(圧痛)が生じ、何もしなくてもズキズキとした激しい痛みを伴うことが多いため、日常生活に支障をきたすことも少なくありません 。
突然の高熱や悪寒など全身に及ぶ強い症状
皮膚の赤みや腫れといった局所的な症状に加えて、丹毒では突然の「高熱」や「全身症状」が強く現れることが特徴です 。これは浅い真皮層に張り巡らされた毛細血管やリンパ管を通じて、細菌の成分や炎症を引き起こす物質が急激に全身を巡るために起こります 。
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丹毒を引き起こす原因菌と細菌が侵入するルート
丹毒の主な原因となる細菌(溶連菌など)の特徴
丹毒の主な起炎菌(病気の原因となる細菌)は、「A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)」と呼ばれる細菌です 。この溶連菌は子供ののどの風邪(溶連菌感染症)の原因として有名ですが、大人の皮膚に感染することでも強い炎症を引き起こします 。場合によっては、健康な皮膚や毛穴に普段から存在している「黄色ブドウ球菌」などの他の細菌が原因となることもあります 。これらの細菌が、何らかのきっかけで皮膚のバリアをすり抜けて真皮に入り込むことで丹毒が発症します 。
日常生活に潜む皮膚の小さな傷やバリア機能の低下
健康で潤いのある皮膚は強固なバリア機能を備えているため、細菌が簡単に侵入することはありません 。しかし、日常生活の中で生じる「目に見えないほどの小さな傷」や「バリア機能の低下」が細菌の侵入口(エントリーポータル)となってしまいます 。足の丹毒においては、足の指の間にできた水虫(足白癬)による皮むけや亀裂、かかとのカサカサした乾燥によるひび割れ、虫刺されの掻き壊し、爪切り時の深爪などが主な侵入経路となります 。
丹毒との鑑別診断が重要となる皮膚の病気
境界の鮮明さや深さが違う「蜂窩織炎」との確実な見分け方
丹毒と最も見分けるのが難しく、医療現場でも混同されやすい病気が「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」です 。どちらも皮膚の細菌感染症で、赤みや腫れ、熱感、痛みなどの共通した症状を持ちますが、感染が起きている皮膚の「深さ」に明確な違いがあります 。
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顔や耳周辺に赤みが生じた場合、耳介(耳たぶや耳全体の軟骨部分)まで赤く腫れているかどうかが重要な識別点となります 。耳介には皮下脂肪組織がないため、ここに炎症が及んでいる場合は「蜂窩織炎」ではなく、浅い真皮の炎症である「丹毒」であると診断することができます(これを「Milian's ear sign」と呼びます) 。
とびひ(伝染性膿痂疹)や接触皮膚炎など他の炎症性疾患との違い
丹毒に似た赤みや腫れを起こす病気は他にも多く存在するため、これらとの的確な識別が治療方針を決定する上で欠かせません
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早期回復をめざす丹毒の治療方法と必要な治療期間
原因菌を効果的に退治する抗生剤(ペニシリン系・セフェム系)の治療
丹毒は細菌による感染症ですので、治療の柱となるのは細菌の増殖を抑えて退治する「抗生剤(抗菌薬)」の投与です 。しかし、高熱が続いて衰弱している場合、赤みや腫れが顔全体や広範囲に急速に広がっている場合、あるいは高齢の方や糖尿病などの持病をお持ちの方の場合は、点滴でより強力かつ迅速に全身に抗生剤を届ける必要があり、入院加療が推奨されるケースもあります 。
症状改善から完治までの治療期間の目安と薬を飲み切るべき理由
丹毒の治療期間は症状の程度(重症度)や患者さんの体力、持病の有無によって個人差がありますが、一般的な目安は次の通りです 。
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ここで最もお伝えしたい重要な点は、「症状が良くなったと感じても、自己判断で絶対に抗生剤の服用を途中でやめない」ということです 。抗生剤を飲み始めて数日経つと、急激な熱が下がり、赤みや痛みが和らいできます 。しかし、この段階では真皮の奥にまだ細菌が生き残っています 。途中で薬をやめてしまうと、細菌が再び増殖して容易に再発するばかりか、抗生剤に対して抵抗力を持った厄介な「耐性菌」を生み出してしまうリスクが極めて高くなります 。また、溶連菌感染の後に稀に起こる「急性糸球体腎炎」などの合併症を予防するためにも、医師の指示通り通常10日間〜2週間程度はしっかりと薬を最後まで飲み切る必要があります 。
再発を繰り返さないための効果的な丹毒の予防方法
皮膚のうるおいを守る毎日の保湿ケアと清潔習慣
丹毒は一度治っても、皮膚のバリア機能が低下していると同じ場所に何度も発症してしまう「習慣性丹毒」と呼ばれる再発に悩まされる方がいらっしゃいます 。これを防ぐためには、日頃から皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を良好に保つ「保湿ケア」を毎日の習慣にすることが基本です 。また、爪を短く清潔に整えておくことで、皮膚を不意に傷つけてしまうトラブルを物理的に防ぐことも有効な対策となります 。
侵入経路を断つ水虫(足白癬)治療と慢性的なむくみ(リンパ浮腫)対策
足の丹毒や蜂窩織炎の再発予防において、最重要となるのが「足の水虫(足白癬)」の完全な治療です 。水虫による指の間のふやけや小さな亀裂は、細菌にとって「格好の入り口」となります 。かゆみが治まったからと放置せず、皮膚科専門医の指導のもとで水虫をしっかりと根治させ、足を常に清潔で乾燥した健康な状態に保つことが最大の再発防止策です 。むくみが持続すると局所の皮膚が脆弱になり、細菌への抵抗力が下がってしまいます 。弾性ストッキングの着用や適度な歩行、寝る際に足を少し高くして休むことなどを取り入れ、むくみを日常的に管理することが重要です 。
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よくある質問
丹毒は他人にうつる(感染する)病気ですか?家族への感染対策は?
しかし、原因菌である「溶連菌(A群β溶血性連鎖球菌)」自体は、非常に感染力の強い細菌です
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こまめな正しい手洗いとうがいを家族全員で徹底する
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洗面所やお風呂場などでのタオルの共有を避ける
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咳やくしゃみが出る場合はマスクを着用し、咳エチケットを守る
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患部から出た滲出液や傷口に、ご家族が直接手で触れないように保護する
治療中の入浴やお風呂(シャワー)の入り方、仕事や運動などの過ごし方について
体を温めて全身の血流が過剰に増えると、炎症が周囲へ一気に広がり、皮膚の腫れやズキズキとした痛みが大幅に悪化する恐れがあります 。その際、患部は擦らずにたっぷりの石鹸の泡で包み込むようにして優しく洗い流し、清潔なタオルを優しく押し当てるようにして水分を拭き取ってください 。
また、治療期間中の「安静」は治癒を早めるために非常に重要です 。赤みが強い部分には、冷たい濡れタオルや保冷剤(直接肌に当てず、必ず清潔なタオルで包んで)を優しく当てて軽く冷やすと、局所の痛みや熱感をスムーズに和らげることができます 。足の病変であれば、椅子に足を乗せたり、寝る際にクッションを足元に置いて「心臓より高い位置(挙上)」に保つことで、足のむくみやうっ血が軽減され、治癒のスピードを格段に高めることができます 。十分な水分を補給し、普段よりも睡眠時間を多く確保して体をしっかり休めることを意識しましょう 。
監修医師: うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格: 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴:
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年 うらた皮膚科