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丹毒

erysipelas
最終更新日:2026-5-27

急に顔や耳、足の皮膚が赤く腫れて高熱が出る「丹毒(たんどく)」について、皮膚科専門医の監修のもと分かりやすく解説します。本記事では、丹毒の原因となる細菌や初期症状、似た感染症である「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」との違い、抗生剤治療に必要な期間、治療中の正しいお風呂の入り方や日常生活の注意点を網羅しています。繰り返す再発を防ぐためのスキンケアや水虫・むくみ対策も詳しく紹介します。

丹毒とは?皮膚の浅いところで起こる急激な細菌感染症の基礎知識
見逃すと危険な丹毒の症状と急激な変化
丹毒を引き起こす原因菌と細菌が侵入するルート
丹毒との鑑別診断が重要となる皮膚の病気
早期回復をめざす丹毒の治療方法と必要な治療期間
再発を繰り返さないための効果的な丹毒の予防方法
よくある質問

丹毒とは?皮膚の浅いところで起こる急激な細菌感染症の基礎知識

皮膚のバリアが破れて真皮に起こる炎症の仕組み

丹毒(たんどく)は、皮膚に細菌が感染することで急激に赤みや腫れが生じる急性皮膚感染症の一種です。人間の皮膚は外側から順に「表皮」「真皮」「皮下組織」という層構造で成り立っていますが、丹毒はこのうち比較的浅い部分にある「真皮(特に真皮浅層)」に感染が限局して強い炎症が起こるのが大きな特徴です。炎症が皮膚の浅い部分でとどまるため、赤くなっている部分と正常な皮膚との境界線が非常にくっきりと鮮明に見えるという特徴があります

丹毒が好発する部位と皮膚の解剖学的な関係

丹毒は全身のどこにでも発症する可能性がありますが、特に「顔」や「耳」、あるいは片側の「足(下腿)」や「腕」に好発する傾向があります。なかでも顔面や耳の周辺に赤い腫れが出る場合は、まず丹毒が疑われます。 耳の周辺(耳介)は真皮が非常に薄く、その下にある皮下脂肪組織がほとんど存在しないという解剖学的な特徴を持っています。この構造上の理由から、脂肪組織の感染症である蜂窩織炎は耳には起こりえず、浅い真皮の感染症である丹毒が特異的に発生しやすい部位となっています

見逃すと危険な丹毒の症状と急激な変化

皮膚に現れる急激な赤み・腫れ・痛み・熱感

丹毒を発症すると、皮膚の一部が急激に真っ赤に腫れ上がり、患部を触ると明らかな熱っぽさ(熱感)を感じるようになります 。また、患部の中央は皮膚が厚ぼったく硬くなり、ろうのような独特の光沢(蠟様光沢)を帯びることがあります 。患部を指で軽く押すと強い痛み(圧痛)が生じ、何もしなくてもズキズキとした激しい痛みを伴うことが多いため、日常生活に支障をきたすことも少なくありません

突然の高熱や悪寒など全身に及ぶ強い症状

皮膚の赤みや腫れといった局所的な症状に加えて、丹毒では突然の「高熱」や「全身症状」が強く現れることが特徴です 。これは浅い真皮層に張り巡らされた毛細血管やリンパ管を通じて、細菌の成分や炎症を引き起こす物質が急激に全身を巡るために起こります

発生段階 主な現れ方と特徴 関連する部位・特徴
初期(前駆期) 突然の38℃以上の高熱、悪寒(震え)、全身の倦怠感や頭痛が先行することがあります 。 全身症状
急性期(皮膚症状の発現) 皮膚の一部が急激に赤く腫れ上がり、触ると熱感や強い痛み(ズキズキする痛み)が生じます 。境界が非常にはっきりしています 。 顔(特に耳周り)、足、腕など
極期(ピーク時) 赤い腫れが数時間単位で急速に拡大し、患部の中央が硬く盛り上がったり、ろうのようなツヤ(光沢)を帯びたりします 。  顔面、下肢など

丹毒を引き起こす原因菌と細菌が侵入するルート

丹毒の主な原因となる細菌(溶連菌など)の特徴

丹毒の主な起炎菌(病気の原因となる細菌)は、「A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)」と呼ばれる細菌です 。この溶連菌は子供ののどの風邪(溶連菌感染症)の原因として有名ですが、大人の皮膚に感染することでも強い炎症を引き起こします 。場合によっては、健康な皮膚や毛穴に普段から存在している「黄色ブドウ球菌」などの他の細菌が原因となることもあります 。これらの細菌が、何らかのきっかけで皮膚のバリアをすり抜けて真皮に入り込むことで丹毒が発症します

日常生活に潜む皮膚の小さな傷やバリア機能の低下

健康で潤いのある皮膚は強固なバリア機能を備えているため、細菌が簡単に侵入することはありません 。しかし、日常生活の中で生じる「目に見えないほどの小さな傷」や「バリア機能の低下」が細菌の侵入口(エントリーポータル)となってしまいます 。足の丹毒においては、足の指の間にできた水虫(足白癬)による皮むけや亀裂、かかとのカサカサした乾燥によるひび割れ、虫刺されの掻き壊し、爪切り時の深爪などが主な侵入経路となります

丹毒との鑑別診断が重要となる皮膚の病気

境界の鮮明さや深さが違う「蜂窩織炎」との確実な見分け方

丹毒と最も見分けるのが難しく、医療現場でも混同されやすい病気が「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」です 。どちらも皮膚の細菌感染症で、赤みや腫れ、熱感、痛みなどの共通した症状を持ちますが、感染が起きている皮膚の「深さ」に明確な違いがあります

発生段階 丹毒(たんどく) 蜂窩織炎(ほうかしきえん)
感染が起こる深さ 皮膚の浅い「真皮」(真皮浅層) 皮膚の深い「真皮深層から皮下脂肪組織」
赤みの境界線 くっきりと鮮明(境界明瞭) ぼやけていて不鮮明(境界不明瞭)
現れやすい部位 主に「顔」や「耳(耳介)」 主に片側の「足(下肢)」や「腕」
主な原因菌 A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌) 黄色ブドウ球菌(ときに溶連菌)
特徴的なサイン 耳たぶまで赤く腫れる(Milian's ear sign) 腫れが広く熱感があり、蜂の巣状に広がる
全身症状の特徴 突然の高熱や悪寒が強く出やすい 微熱にとどまることもあり、経過は比較的緩やか

顔や耳周辺に赤みが生じた場合、耳介(耳たぶや耳全体の軟骨部分)まで赤く腫れているかどうかが重要な識別点となります 。耳介には皮下脂肪組織がないため、ここに炎症が及んでいる場合は「蜂窩織炎」ではなく、浅い真皮の炎症である「丹毒」であると診断することができます(これを「Milian's ear sign」と呼びます)

とびひ(伝染性膿痂疹)や接触皮膚炎など他の炎症性疾患との違い

丹毒に似た赤みや腫れを起こす病気は他にも多く存在するため、これらとの的確な識別が治療方針を決定する上で欠かせません

   丹毒との主な違い・識別ポイント
 とびひ(伝染性膿痂疹)  主に子供に多く、皮膚の最も浅い「表皮」の感染です。水疱(水ぶくれ)や膿、かさぶたが特徴的で、高熱や深い皮膚の腫れは稀です。
接触皮膚炎(かぶれ)  アレルギーや刺激物質への接触で起こり、強い「かゆみ」が主症状です。急激な高熱や強い痛み、盛り上がるような腫れを伴うことはありません。
 スウィート症候群  好中球浸潤を伴う炎症性疾患で、好発部位や皮疹の現れ方が異なります。抗生剤への反応が丹毒とは異なります。
 硬化性脂肪織炎  主に下肢の脂肪組織に起こる慢性の炎症で、丹毒のような急激な高熱や真皮浅層の鮮明な赤みとは経過が異なります 。
 丹毒様癌  乳がんなどの手術後にリンパの流れが滞った部位に生じる、がんの皮膚転移の一種です。抗生剤を使用しても改善しないことで識別されます。

早期回復をめざす丹毒の治療方法と必要な治療期間

原因菌を効果的に退治する抗生剤(ペニシリン系・セフェム系)の治療

丹毒は細菌による感染症ですので、治療の柱となるのは細菌の増殖を抑えて退治する「抗生剤(抗菌薬)」の投与です 。しかし、高熱が続いて衰弱している場合、赤みや腫れが顔全体や広範囲に急速に広がっている場合、あるいは高齢の方や糖尿病などの持病をお持ちの方の場合は、点滴でより強力かつ迅速に全身に抗生剤を届ける必要があり、入院加療が推奨されるケースもあります

症状改善から完治までの治療期間の目安と薬を飲み切るべき理由

丹毒の治療期間は症状の程度(重症度)や患者さんの体力、持病の有無によって個人差がありますが、一般的な目安は次の通りです

   主な症状 治療方法 治療期間の目安
 軽症  赤みや腫れの範囲が狭く、高熱や強い全身のだるさがない状態。  自宅での抗生剤(内服薬)の服用。 1〜2週間程度
 中等症  赤みや腫れが急速に広がり、38℃以上の高熱や強い痛みがある状態。  医療機関での抗生剤点滴治療、または入院治療の検討。 2〜3週間程度
 重症・合併症あり  基礎疾患(糖尿病など)があり、全身の衰弱や敗血症のリスクが懸念される状態。  迅速な入院による持続的な抗生剤点滴治療、全身管理。 3週間以上(個別判断)

ここで最もお伝えしたい重要な点は、「症状が良くなったと感じても、自己判断で絶対に抗生剤の服用を途中でやめない」ということです 。抗生剤を飲み始めて数日経つと、急激な熱が下がり、赤みや痛みが和らいできます 。しかし、この段階では真皮の奥にまだ細菌が生き残っています 。途中で薬をやめてしまうと、細菌が再び増殖して容易に再発するばかりか、抗生剤に対して抵抗力を持った厄介な「耐性菌」を生み出してしまうリスクが極めて高くなります 。また、溶連菌感染の後に稀に起こる「急性糸球体腎炎」などの合併症を予防するためにも、医師の指示通り通常10日間〜2週間程度はしっかりと薬を最後まで飲み切る必要があります

再発を繰り返さないための効果的な丹毒の予防方法

皮膚のうるおいを守る毎日の保湿ケアと清潔習慣

丹毒は一度治っても、皮膚のバリア機能が低下していると同じ場所に何度も発症してしまう「習慣性丹毒」と呼ばれる再発に悩まされる方がいらっしゃいます 。これを防ぐためには、日頃から皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を良好に保つ「保湿ケア」を毎日の習慣にすることが基本です 。また、爪を短く清潔に整えておくことで、皮膚を不意に傷つけてしまうトラブルを物理的に防ぐことも有効な対策となります

侵入経路を断つ水虫(足白癬)治療と慢性的なむくみ(リンパ浮腫)対策

足の丹毒や蜂窩織炎の再発予防において、最重要となるのが「足の水虫(足白癬)」の完全な治療です 。水虫による指の間のふやけや小さな亀裂は、細菌にとって「格好の入り口」となります 。かゆみが治まったからと放置せず、皮膚科専門医の指導のもとで水虫をしっかりと根治させ、足を常に清潔で乾燥した健康な状態に保つことが最大の再発防止策です 。むくみが持続すると局所の皮膚が脆弱になり、細菌への抵抗力が下がってしまいます 。弾性ストッキングの着用や適度な歩行、寝る際に足を少し高くして休むことなどを取り入れ、むくみを日常的に管理することが重要です

予防のアプローチ  具体的なケア内容とポイント 期待できる効果
徹底した保湿ケア 入浴後、皮膚が乾燥する前に保湿剤(ワセリン等)を塗布します 。 皮膚のバリア機能を高め、ひび割れや小さな傷を防ぎます 。
足の清潔と水虫治療 毎日石鹸を泡立てて優しく足を洗い、水虫があればかゆみがなくても皮膚科で治療します 。 細菌の最大の侵入経路となる足指の亀裂やむけを治します 。
慢性的なむくみ対策 弾性ストッキングの着用やマッサージ、足を高くして休むことを意識します 。 むくみを管理して皮膚の脆弱化を防ぎ、細菌の繁殖を予防します 。
耳・鼻のセルフケア制限 耳かきや鼻いじりを控え、爪を短く整えて皮膚を傷つけないようにします 。 顔の丹毒の発症トリガーとなる微小な傷を予防します 。
免疫力の維持と生活改善 十分な睡眠(普段より1時間多め)、バランスの良い食事、過度な疲労の回避 。 体全体の免疫機能を高め、細菌の感染や定着を防ぎます 。

よくある質問

Q
丹毒は他人にうつる(感染する)病気ですか?家族への感染対策は?

A
結論からお伝えしますと、「丹毒の赤い腫れや症状」そのものが他の人に直接うつる(空気感染や通常の接触で感染する)わけではありません 。丹毒は、本人の皮膚にある傷口から細菌が入り込むことで起きる個人の感染症だからです 。したがって、健康な皮膚をお持ちのご家族が患者さんと軽く触れ合っただけで同じように皮膚が赤く腫れ上がる心配はまずありません
しかし、原因菌である「溶連菌(A群β溶血性連鎖球菌)」自体は、非常に感染力の強い細菌です
  • こまめな正しい手洗いとうがいを家族全員で徹底する

  • 洗面所やお風呂場などでのタオルの共有を避ける

  • 咳やくしゃみが出る場合はマスクを着用し、咳エチケットを守る

  • 患部から出た滲出液や傷口に、ご家族が直接手で触れないように保護する

 

Q
治療中の入浴やお風呂(シャワー)の入り方、仕事や運動などの過ごし方について

A
治療中の入浴とお風呂の入り方には特に配慮が必要です。 皮膚が赤く腫れ、熱を持っている急性期(治療の初期など)には、湯船に長くつかる通常の入浴は避けてください 。
体を温めて全身の血流が過剰に増えると、炎症が周囲へ一気に広がり、皮膚の腫れやズキズキとした痛みが大幅に悪化する恐れがあります 。その際、患部は擦らずにたっぷりの石鹸の泡で包み込むようにして優しく洗い流し、清潔なタオルを優しく押し当てるようにして水分を拭き取ってください    
また、治療期間中の「安静」は治癒を早めるために非常に重要です 。赤みが強い部分には、冷たい濡れタオルや保冷剤(直接肌に当てず、必ず清潔なタオルで包んで)を優しく当てて軽く冷やすと、局所の痛みや熱感をスムーズに和らげることができます 。足の病変であれば、椅子に足を乗せたり、寝る際にクッションを足元に置いて「心臓より高い位置(挙上)」に保つことで、足のむくみやうっ血が軽減され、治癒のスピードを格段に高めることができます 。十分な水分を補給し、普段よりも睡眠時間を多く確保して体をしっかり休めることを意識しましょう    
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長