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マダニ咬傷

TICK BITE
最終更新日:2026-5-26

マダニ咬傷(マダニ刺され)は、無理に自分で引き抜くと病原体が逆流し、SFTSや日本紅斑熱などの重篤な感染症を引き起こす恐れがあります。本記事では、皮膚科専門医の監修のもと、マダニに刺される原因や初期症状、他の虫刺されとの鑑別診断、皮膚科での専用器具を用いた安全な除去処置(皮膚切除術)の手順について詳しく解説します。ディートやイカリジンを用いた正しい予防法も紹介。刺された場合の正しい対処法がわかります。

マダニ咬傷(マダニ刺され)とは?知っておくべき基本情報
マダニに刺されたらどうなる?マダニ咬傷の症状と感染症リスク
なぜ刺されるの?マダニ咬傷の主な原因と潜む場所
これってマダニ?他の虫刺されとの鑑別診断は
自分で取ってはいけない!マダニ咬傷の皮膚科での正しい治療
マダニから身を守る!今日からできるマダニ咬傷の予防方法
よくある質問

マダニ咬傷(マダニ刺され)とは?知っておくべき基本情報

マダニ咬傷(まだにこうしょう)とは、野外の草むらなどに生息する大型のダニである「マダニ」に皮膚を刺され、長時間にわたって吸血されることで生じる皮膚のトラブルや全身疾患の総称です。マダニは、私たちの身近に潜む一般的なダニとは生態や人体への影響が根本的に異なり、刺された際の対処を誤ると命に関わることもあるため、正しい知識を持っておくことが非常に重要です。

マダニの生態と特異な吸血メカニズム

マダニは、家庭内の布団やカーペットに生息しアレルギーの原因となる微小なチリダニやヒョウヒダニとは全く別の生き物です。肉眼ではっきりと確認できる大きさがあり、吸血前の状態でも約3〜8ミリメートル程度の大きさを持つ節足動物です 。主に森林の境界や草むら、藪などの自然環境に生息しており、野生動物や人間が近づいてくるのをじっと待ち伏せしています。
マダニの最大の特徴は、その非常に特異な吸血の仕組みにあります。マダニは人間の皮膚に到達すると、皮膚の柔らかい場所を探し出し、鋭いノコギリ状の口器(顎体部)を皮膚の奥深くへと突き刺します 。そして、吸血を安定させるために自らの唾液腺から「セメント物質」と呼ばれる接着剤のような成分を分泌します 。このセメント物質が皮膚組織の中で硬く固まることにより、マダニは人間の皮膚に強固に固定されます 。この状態になると、ちょっとやそっとの摩擦や手で払う程度の力では決して外れることはなく、数日から長いものでは数週間にわたって皮膚に寄生し、継続的に吸血を行うことが可能になります 。

一般的な家ダニや蚊による虫刺されとの違い

マダニによる被害を正しく理解するためには、私たちがよく経験する一般的な虫刺されとの違いを知っておく必要があります。
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表からわかるように、マダニ咬傷は虫体が物理的に「刺さったまま」の状態で長期間留まるという決定的な違いがあります 。また、マダニは吸血を開始する際、自らの唾液に局所麻酔のような作用を持つ物質を含ませて人間の皮膚に注入します 。そのため、鋭い口器を刺し込まれているにもかかわらず、刺された瞬間の痛みや、吸血中のかゆみを感じることが極めて少なく、被害に遭ったこと自体に長期間気づかないケースが大半を占めています 。

吸血によるサイズの変化と発見のきっかけ

満腹になるまで人間の血を吸い続けたマダニは、元の大きさの数倍から十数倍にも膨れ上がります 。吸血が進むにつれて体が風船のようにパンパンになり、最終的には小豆や大豆ほどの大きさになることも珍しくありません。
多くの方は、入浴中に体を洗っている時や着替えの際に、太もも、わきの下、頭皮、下腹部などの皮膚に見慣れない「大きな黒いイボ」や「血豆のようなしこり」ができているのを目視で発見したり、手で触れて違和感を覚えたりして、初めてマダニに咬まれていることに気づきます 。このような状態でマダニを発見した場合、焦って手で払いのけようとしたり、ピンセットで引き抜こうとしたりするのは大変危険な行為となります。

マダニに刺されたらどうなる?マダニ咬傷の症状と感染症リスク

マダニに刺されたことによる症状は、刺された部分の皮膚だけに留まらず、マダニが体内に保有しているウイルスや細菌が人間の体内に侵入することで、全身性の重篤な感染症を引き起こすリスクが潜んでいます。ここでは、局所的な症状から、命に関わる重大な疾患までを詳しく解説します。

刺された直後の局所的な症状と「肉芽腫」の形成

前述の通り、マダニに刺された直後は自覚症状がほとんどありません 。しかし、皮膚に食い込んでいるマダニを無理に引き抜こうとしたり、衣類の摩擦などでマダニの胴体部分だけがちぎれてしまったりすると、「口器遺残(こうきいざん)」という厄介な状態に陥ります 。
マダニの口器やセメント物質が皮膚の中に残存してしまうと、人間の体はそれを異物と認識し、排除しようとして激しい免疫反応(炎症反応)を起こします 。その結果、刺された部位が赤く大きく腫れ上がり、強い痛みやしこりを伴う「肉芽腫(にくげしゅ)」と呼ばれる硬いしこりが形成されます 。この肉芽腫は非常に治りにくく、放置すると数ヶ月から長い場合には数年にわたって皮膚に残り続けることがあります 。慢性的な炎症が続く場合、最終的には皮膚科で外科的に切開・切除して異物を取り出さなければならないケースも多く見られます。

命に関わる「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の恐怖

マダニ咬傷において最も警戒しなければならないのが、マダニが媒介する重篤な感染症です。中でも近年、西日本を中心に日本国内で報告数が増加傾向にあり、極めて致死率が高いことで知られているのが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」です 。
SFTSは、SFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染するウイルス性の感染症です。マダニに刺されてから通常2週間〜3週間という潜伏期間を経て発症します 。初期症状としては、突然の38度以上の発熱、全身の強い倦怠感、食欲低下、吐き気、嘔吐、下痢といった深刻な消化器症状が引き起こされます 。
重症化すると、血液中の血小板や白血球が著しく減少し、意識障害や多臓器不全を引き起こして命を落とす危険性があります 。例えば、2026年の愛知県の感染症発生動向調査においても、SFTS患者の報告例(豊田市などでの発生)が確認されており、全国どこでも発生しうる決して稀ではない疾患であることが裏付けられています 。現在、SFTSに対する有効な特効薬や治療用のワクチンは確立されておらず、対症療法が中心となるため、いかにマダニに刺されないように予防するかが最大の課題となります 。

日本紅斑熱やライム病などその他の媒介感染症

マダニはSFTS以外にも、様々な細菌性の感染症を媒介することが確認されています。

  • 日本紅斑熱(にほんこうはんねつ): 日本紅斑熱リケッチアという病原体を保有するマダニに刺されることで感染します。数日から1週間程度の潜伏期間の後、突然の高熱や頭痛、悪寒とともに、全身の皮膚に赤い発疹(紅斑)が広がるという臨床的な特徴があります 。また、マダニに刺された部位には、中心が黒くなったかさぶた(黒痂:こっか)が形成されることが多く、診断の重要な手がかりとなります。2026年には愛知県豊川市などでも報告されており、身近な感染症の一つです 。
  • ライム病: ボレリア菌という細菌を保有するマダニによって媒介されます。感染の初期症状として、マダニに咬まれた部分を中心に、赤みが徐々に外側に向かってリング状に広がっていく「遊走性紅斑(ゆうそうせいこうはん)」と呼ばれる特徴的な皮疹が現れます 。放置すると病原体が全身の臓器に広がり、関節炎や神経症状、心機能障害などを引き起こす恐れがあるため、早期の抗菌薬治療が必要です。

受診後の経過観察と潜伏期間中の体調管理

皮膚科でマダニを無事に除去できたとしても、それで全てが終わったわけではありません 。マダニが皮膚に食い込んで吸血していた期間に、すでに病原体が体内に侵入してしまっている可能性があるからです。
そのため、マダニに咬まれてから2週間から3週間は、発熱や体調不良、発疹の出現などの体調変化に対して細心の注意を払い、敏感に観察する必要があります 。もし潜伏期間中に少しでも異変を感じた場合は、決して自己判断で放置せず、「いつ、どこでマダニに刺されたか」「皮膚科で除去処置を受けた事実」を医師に必ず伝えた上で、速やかに医療機関を受診して適切な検査と治療を受けることが重要です 。

なぜ刺されるの?マダニ咬傷の主な原因と潜む場所

マダニによる被害を未然に防ぐためには、マダニがどのような環境に潜んでおり、どのような経路で人間の皮膚に到達するのかという「原因と生態」を正確に把握しておくことが不可欠です。

アウトドアや農作業時における遭遇リスクと待ち伏せ行動

マダニは自ら遠くへ飛んだり、ノミのように高く跳ねたりすることはありません。彼らの主な生息地帯は、自然が豊かな森林の境界部分、草むら、藪(やぶ)、河川敷などです 。
マダニは「クエスティング(Questing)」と呼ばれる特有の待ち伏せ行動をとります。これは、葉の裏や草の先端に身を潜め、前脚を高く掲げた状態でじっと待機し、動物や人間が通りかかる際に発する体温、二酸化炭素、振動、匂いなどを感知して付着する機会をうかがう行動です 。
春から秋にかけてはマダニの活動が最も活発になる時期であり、この時期にハイキング、キャンプ、登山などのアウトドアレジャーに出かけたり、草刈りや山林での農作業を行ったりする際は、マダニとの遭遇リスクが飛躍的に高まります 。人間が草むらに足を踏み入れ、衣類や皮膚が草木に触れたその一瞬の隙に、マダニは素早く衣服に乗り移ります。そして、衣服の隙間から這い上がり、わきの下、内股、頭皮など、血管が集中していて柔らかい皮膚を探し出して吸血を開始するのです 。

身近な環境(手入れされていない庭や公園)の危険性

マダニの被害は、深い山奥や大自然の中だけで発生するわけではありません。近年では、都市部や住宅街の周辺であってもマダニの被害が報告されています。
特に、アライグマ、ハクビシン、シカ、イノシシなどの野生動物が出没する地域では、これらの動物に寄生して運ばれてきたマダニが住宅街に落ち、そこで繁殖するため、マダニとの遭遇率が上がります 。また、住宅の敷地内や近所の公園であっても、草刈りなどの手入れがされておらず雑草が生い茂った環境は、マダニが潜み繁殖するための絶好の温床となります 。庭の手入れをしている最中に刺されるケースも少なくないため、身近な環境であっても油断は禁物です。

犬や猫などペットを介した人間への二次被害

さらに注意が必要な原因として、犬や猫などのペットを介した人間への二次被害が挙げられます 。
犬は毎日の散歩の際、背の低い草むらに顔を突っ込んで匂いを嗅いだり、茂みの中を歩き回ったりする習性があります。そのため、人間に比べて圧倒的にマダニが付着しやすい環境に身を置いています 。ペットの被毛にマダニが付着したまま室内へと持ち込まれ、その後、マダニがペットから離れてカーペットやソファに落ち、最終的に飼い主である人間に移動して咬みつくというケースが多発しています 。ペットへのマダニ対策を怠ることは、飼い主自身の感染症リスクを直接的に高める原因となります。

これってマダニ?他の虫刺されとの鑑別診断は

皮膚に見慣れない黒い点や血豆のようなしこりを発見した際、それが本当にマダニによるものなのか、あるいは別の虫刺されや皮膚疾患なのかを正確に見極めることは、その後の治療方針を決定する上で極めて重要です。皮膚科では、専門的な知識と機器を用いて的確な鑑別診断を行います。

ダーモスコピーを用いた皮膚科特有の精密な診断

マダニ咬傷の診断において、皮膚科専門医が頻繁に用いる強力な診断ツールが「ダーモスコピー」という医療用の拡大鏡検査です 。ダーモスコピーは、特殊な光(偏光など)を当てながら皮膚の表面からごく浅い部分までの構造を数十倍に拡大して観察できる機器です。
肉眼では単なる「血のかたまり」や「黒いイボ」にしか見えない場合でも、ダーモスコピーを用いて観察することで、皮膚にしっかりと食い込んでいるマダニの脚の関節、胴体の特有の模様、あるいは呼吸器などの微細な構造をはっきりと確認することができます 。 さらに、すでに患者様自身でマダニを引き抜いてしまって持参されなかった場合でも、皮膚の奥にマダニの口器の残骸が残っていないかをダーモスコピーで精密に確認し、口器遺残の有無を正確に診断することが可能です 。万が一、マダニの残骸が確認された場合は、肉芽腫などの後遺症を防ぐための追加の切除処置が速やかに計画されます。

蚊やブユ、毛虫皮膚炎など他の虫刺されとの見分け方

マダニ咬傷は、以下のような他の一般的な虫刺されと慎重に見分ける必要があります。

  • 蚊・ブユ・ノミなど: 一般的な虫刺されは、刺された直後から強いかゆみと発赤が生じ、通常は数日から1週間程度で自然に軽快に向かいます。一方、マダニ咬傷は初期には無症状であることが多く、マダニの虫体そのものが皮膚に長期間固着している点が決定的な違いです 。
  • 毛虫皮膚炎(毒蛾など): 庭の手入れ時などに毛虫の毒針毛に触れることで発症し、赤い小さなブツブツ(丘疹)が広範囲に多数現れ、激しいかゆみを伴います。マダニ咬傷のような単発の黒い固着物とは外見が大きく異なります。

粉瘤や悪性腫瘍(皮膚がん)など他の皮膚疾患との鑑別

虫刺され以外にも、黒いしこりを作る皮膚疾患との鑑別が必要です。

  • 化膿性炎(おでき)や粉瘤(ふんりゅう): 細菌感染によるおできや、皮膚の老廃物が袋状に溜まる粉瘤も、黒い点やしこりを形成することがあります。しかし、これらは数日かけて徐々に大きくなりながら痛みを伴うのに対し、マダニ咬傷は「昨日までは無かったのに、突然皮膚に黒いイボが出現した」ように感じられるのが特徴です。
  • 悪性黒色腫(メラノーマなどの皮膚がん): 稀なケースではありますが、吸血して黒くパンパンに膨らんだマダニが、悪性黒色腫などの皮膚がんに誤認されることもあります 。これもダーモスコピーによる観察で、色素ネットワークの有無や節足動物特有の構造を確認することで、皮膚科専門医であれば容易に鑑別が可能です 。

自分で取ってはいけない!マダニ咬傷の皮膚科での正しい治療

マダニに咬まれているのを発見した際、多くの方が直感的に「気持ち悪いからすぐに引き抜かなければ」と考え、手で払いのけたり、家庭にある毛抜きやピンセットで取り除こうと試みたりします。しかし、皮膚科の観点からは、この自己判断による除去行動こそが、感染症リスクを決定的に高める最も危険な行為とされています 。原則として、マダニに刺された場合の第一選択の受診先は皮膚科です 。

自分で引き抜くのが絶対にNGな理由(体液の逆流と口器遺残)

自分でマダニを取ってはいけない医学的な理由は、大きく分けて以下の2つが存在します。

  1. 病原体を含んだ体液の逆流(ポンピング現象) 吸血中のマダニのお腹には、人間の血やマダニ自身の体液がパンパンに詰まっています 。この状態で、指先や一般的なピンセットでマダニの胴体をつまんで圧迫すると、スポイトをギュッと押し潰すのと同じ原理が働きます。その結果、マダニの消化管内に存在するSFTSウイルスや日本紅斑熱リケッチアなどの危険な病原体が、口器を通じて人間の血管内へと一気に逆流してしまいます 。本来であれば感染を免れていたかもしれない状況を、自らの手で病原体を「注射」してしまうことで、最悪の結果へと導いてしまうリスクがあります 。
  2. 口器遺残(頭部がちぎれて皮膚に残る現象) マダニは強力なセメント物質で皮膚と一体化しているため、力任せに引っ張ると、必ずと言っていいほど胴体と頭部の間でちぎれます 。皮膚の奥に取り残された口器は、異物として激しい炎症を引き起こし、後日メスで大きく切開して取り出さなければならないほどの深刻な肉芽腫(痛みを伴う硬いしこり)を形成する原因となります 。

なお、インターネット上で散見される「ワセリンやアルコールをたっぷり塗って窒息させる」「お酢をかける」といった民間療法は、医学的な効果が実証されておらず、処置を遅らせるだけの危険な行為です 。

局所麻酔を用いた安全な皮膚切除術の手順と流れ

マダニの安全な除去は、医療機関において適切な器具を用いて行われるべき「小手術」に位置づけられます 。皮膚科では、マダニの体を一切圧迫せず、かつ口器を完全に除去するために、「皮膚切除術」という確実な治療アプローチが標準的に行われます 。
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皮膚切除術を選択する医学的なメリット

この皮膚切除術を行う最大のメリットは、「マダニを物理的に潰すことがないため、体液の逆流(ポンピング)による感染症リスクを最小限に抑えられること」です 。また、「口器を体内に残すことなく、完全に、かつ確実に体から切り離すことができる」ため、後遺症である肉芽腫の発生を確実に防ぐことができます 。皮膚科で適切に切除した場合、小さな傷跡は残りますが、時間の経過とともに白く目立たなくなっていきます 。

万が一自分で取ってしまった場合や自然に取れた場合の対処法

万が一、この記事を読む前に慌てて自分で引き抜いてしまった場合や、衣類に擦れて自然にポロリと落ちてしまった場合でも、決してそのまま放置してはいけません。
肉眼ではきれいに抜けたように見えても、皮膚の奥に微小な口器の残骸が残っている可能性が高く、細菌による二次感染(化膿)や慢性的な炎症を引き起こすため、速やかに皮膚科を受診してください 。 また、取れてしまったマダニの虫体がある場合は、絶対に捨てないでください。セロハンテープに貼り付けたり、小さなプラスチック容器(薬の空きケースなど)や密封できる袋に入れたりして、医療機関を受診する際に必ず持参してください 。持参されたマダニを医師が顕微鏡等で観察し、口器が欠損しているか(皮膚に残っているか)を判断する重要な手がかりとなるほか、マダニの種別を特定することで、どの種類の媒介感染症(SFTSなのか日本紅斑熱なのか等)のリスクを警戒すべきかを絞り込むための非常に重要な試料となります 。

マダニから身を守る!今日からできるマダニ咬傷の予防方法

致死率の高いSFTSをはじめとするマダニ媒介感染症に対しては、特効薬が存在しないケースも多いため、「そもそもマダニに咬まれないようにする」という予防策が、私たちができる唯一にして最大の防御策となります 。日常的な心がけと、野外活動時の正しい準備によって、マダニの被害リスクを劇的に下げることが可能です。

肌の露出を極限まで減らす服装選びのコツ

野外の草むらや山林での農作業、ハイキングなど、マダニの生息域に立ち入る際の基本は「物理的な防御」です。長袖・長ズボンを着用し、肌の露出を極限まで減らすことが大前提となります 。
しかし、ただ長袖を着るだけでは不十分です。マダニは衣服のわずかな隙間から侵入します。

  • 裾の処理: ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れ込み、シャツの裾はズボンの中に入れることで、下から這い上がってくる経路を完全に遮断します 。
  • 首・頭の保護: 首元にはタオルを巻き、頭にはつばの広い帽子を着用して、上から落下してくるマダニから身を守ります。
  • 明るい色の服: マダニは黒や茶色をしているため、白や淡い色の服を着ることで、付着したマダニを目視で発見しやすくなります。

ディートとイカリジン:忌避剤(虫よけ剤)の効果的な使い方

服装による防御に加えて、マダニの付着を防ぐために極めて有効なのが、市販されている虫よけ剤(忌避剤)の活用です。マダニに対して厚生労働省から有効性と安全性が認められた成分を含む製品を選ぶ必要があります。現在、日本国内で主流となっている有効成分には「ディート(DEET)」と「イカリジン(Icaridin)」の2種類があります 。
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お子様連れのキャンプや、汗をかきやすく頻繁に塗り直しが必要な夏のシーズンでは、年齢や回数制限がなく、衣類の上からもスプレーできる「イカリジン」配合の製品が特に推奨されています 。虫よけ剤の効果を最大限に引き出すためには、肌の露出部にムラなくしっかりと塗り伸ばし、汗で流れることを考慮してこまめに塗り直すことが重要です 。

帰宅後の服の処理とシャワーでの全身チェック習慣

どんなに厳重に服装を整えて虫よけ剤を使用しても、マダニが衣服の表面に付着して家の中まで運ばれてしまうリスクはゼロではありません。そのため、帰宅後の行動習慣を徹底することが重要です 。

  • 入室前の払い落としと着替え: 帰宅時は家の中に入る前に、玄関先や屋外で上着などの衣類をしっかりと叩き、付着しているマダニを払い落とします。着用していた服はすぐに洗濯機に入れ、可能であれば熱でマダニを死滅させるために乾燥機にかけることが推奨されます 。
  • すぐのシャワーと入念な全身チェック: 帰宅後はそのままリビング等でくつろがず、速やかに浴室へ直行しシャワーを浴びます。この時、まだ皮膚に噛み付く前に体表を這っているだけのマダニであれば、シャワーの水流で洗い流せる可能性があります 。シャワーの際は、わきの下、内股、足の指の間、へそ、頭皮や髪の生え際、耳の裏など、皮膚が柔らかく目立たない場所にマダニが付着していないか、鏡を使いながら入念に全身をチェックする「全身チェック習慣」をつけてください 。

ペット(犬・猫)に対するマダニ予防対策

ペットを飼育されているご家庭では、家族への二次被害を防ぐための対策が必須です 。 散歩の際には、マダニが潜みやすい背の低い草むらや藪にペットを過度に立ち入らせないよう、リードを短く持って行動をコントロールすることが重要です 。
また、獣医師が処方する動物用のマダニ駆除薬(背中に垂らすスポットオンタイプや、おやつ感覚で食べさせる内服薬など)を毎月定期的に投与し、ペットの体にマダニが寄生・生存できない環境を整えることが最も効果的です。散歩から帰った後は、目の細かいクシなどを使って被毛をブラッシングし、マダニが付着していないか入念にチェックを行ってください。 なお、ペットショップ等で市販されている「ペット用のマダニ除去器具」もありますが、これらは医療器具ではないため、人間に対して使用することは推奨されず自己責任となります。人間の皮膚に刺さった場合は、必ず皮膚科を受診して切除処置を受けるようにしてください 。

よくある質問

Q
マダニに刺されたら何科を受診すればよいですか?

A
原則として「皮膚科」が第一選択の受診先となります。 マダニの除去には、局所麻酔を用いた安全な切除や、特殊な医療器具(トレパンやメス)を用いた外科的な小手術が必要となります 。皮膚科では、口器を体内に残すことなく完全に除去する技術と設備が整っています。また、切除後の傷口の縫合やケア、さらにはSFTSや日本紅斑熱などの感染症に伴う初期の皮膚症状(発疹や紅斑など)の評価についても、皮膚科専門医が的確に対応することが可能です 。夜間や休日などで皮膚科が受診できず、高熱などの著しい体調不良がある場合に限り、救急外来や内科の受診を検討してください。
 

Q
 刺されてからどのくらいの期間、体調に気をつける必要がありますか?

A
マダニ除去後、おおよそ2週間から3週間は細心の注意が必要です。 皮膚科でマダニを無事に除去できたとしても、マダニが皮膚に食い込んで吸血していた期間に、すでにSFTSウイルスなどの病原体が体内に侵入してしまっている可能性があります 。SFTSなどの重大な感染症の潜伏期間は通常1〜2週間、長いものでは3週間程度とされています 。したがって、マダニに咬まれてから2〜3週間の間は、発熱、強い倦怠感、吐き気や下痢などの消化器症状、予期せぬ発疹などの体調変化がないか、経過観察を徹底してください 。万が一、この潜伏期間中に異変を感じた場合は、「いつ、どこでマダニに刺されたか」という事実を医師に必ず伝えた上で、速やかに医療機関を受診してください 。
 

Q
ワセリンやアルコールでマダニが取れるというのは本当ですか?

A
医学的な効果は実証されておらず、大変危険ですので絶対に避けてください。 インターネット上の情報などで、「マダニの周辺にワセリンをたっぷりと塗って窒息させる」「アルコールを塗って酔わせる」「お線香の火を近づけて自発的に離れさせる」といった民間療法が紹介されていることがあります。しかし、マダニは呼吸の頻度が極めて少なく、長時間の窒息にも耐えうる体の構造を持っているため、これらの方法で即座に離れることはありません 。むしろ、マダニを過度に刺激することで、危機を感じたマダニがさらに奥深くへ潜り込もうとしたり、大量の唾液や病原体を含んだ体液を人間の体内に逆流させて注入したりするリスクを高める結果となります 。自己流の対処で時間を浪費するのではなく、触らずにそのままの状態で、一刻も早く皮膚科を受診して外科的切除を受けることが、唯一の正解であり最も安全な治療法です 。
 
 
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年 うらた皮膚科