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壊死性筋膜炎

Necrotizing fasciitis
最終更新日:2026-5-27

壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)は、手足の急速な腫れや激痛を伴い、数時間単位で悪化する非常に危険な感染症です。糖尿病や肝臓病がある方は特に注意が必要です。本記事では、皮膚科専門医が初期症状から、蜂窩織炎との違い、劇症型溶血性レンサ球菌などの原因菌、診断基準、手術や抗菌薬による治療法、予防策までを網羅的にわかりやすく解説します。異常を感じた際の適切な対応方法も紹介しています。

壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)とは?命に関わる危険な軟部組織感染症
見逃してはいけない壊死性筋膜炎の初期症状と進行のサイン
壊死性筋膜炎を引き起こす主な原因と代表的な病原菌
壊死性筋膜炎と蜂窩織炎(ほうかしきえん)の違い・鑑別診断
壊死性筋膜炎に対する迅速な治療方法と入院での全身管理
日常生活で実践できる壊死性筋膜炎の予防方法
よくある質問

壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)とは?命に関わる危険な軟部組織感染症

壊死性筋膜炎は、手足の急激な腫れと激しい痛みを伴い、数時間という極めて短い単位で全身状態が悪化していく非常に重篤な皮膚の感染症です 。メディアなどで「人食いバクテリア」として報道される病気の多くは、この壊死性筋膜炎の一種を指しています。発症する頻度はそれほど高くありませんが、一度発症すると短時間で取り返しのつかない状態に陥ってしまうため、何よりも早期に診断し、直ちに治療を開始することが大切な病気です

急速に進行する皮膚と筋膜の壊死のメカニズム

人間の皮膚の奥深くには、皮下脂肪や筋肉を包み込んでいる「筋膜(きんまく)」と呼ばれる薄い膜の組織が存在します。壊死性筋膜炎は、傷口などから侵入した細菌がこの筋膜に沿って急速に広がり、周囲の組織を腐らせてしまう(壊死させる)感染症です 。細菌が爆発的に増殖しながら強力な毒素を出すため、炎症は皮膚の表面だけでなく深い部分で広がり、周囲の血管を詰まらせて組織への酸素や栄養を遮断してしまいます。これにより、組織の壊死が連鎖的に引き起こされます。

発症しやすいハイリスクな方の特徴(糖尿病・肝疾患など)

健康で体力がある方が突然発症するケースもありますが、多くの場合、免疫力が低下している方や特定の基礎疾患(持病)をお持ちの方に起こりやすいという特徴があります。

リスク要因 具体的な状態や背景 理由や注意点
代謝性疾患 糖尿病 血糖値が高い状態が続くと、白血球の働きが低下し、細菌に対する抵抗力が弱まるためです。
肝臓疾患 肝硬変、慢性肝炎、アルコール性肝障害、自己免疫性肝炎など 肝機能が低下していると、特定の細菌(ビブリオ・バルニフィカスなど)が血中で異常増殖しやすくなります。
免疫力の低下 ステロイド薬や免疫抑制剤を内服されている方 薬の副作用によって自己免疫が抑えられており、感染症全般にかかりやすく、重症化しやすくなります。
皮膚のバリア破綻 最近手術を受けた方、怪我(深い刺し傷など)や火傷をした方 健康な皮膚で守られていない部分から、直接深い組織へ細菌が侵入しやすくなるためです。

見逃してはいけない壊死性筋膜炎の初期症状と進行のサイン

壊死性筋膜炎の恐ろしさは、初期症状が現れてから重篤な状態になるまでのスピードが異常に速いことです。初期のサインを絶対に見逃さないことが重要です。

初期症状:局所の見た目以上の激しい痛みと手足のむくみ

最も注意すべき初期症状は、皮膚の見た目の変化(少し赤いなど)に不釣り合いなほどの「激しい痛み」と、手足の急速な「むくみ(腫れ)」です 。単なる虫刺されや軽い靴擦れだと思っていても、夜も眠れないほど異常な痛みを感じたり、押したときに非常に強い痛み(圧痛)を感じたりする場合は、壊死性筋膜炎の初期段階である可能性があります

進行時の症状:皮膚の変色(暗赤色・紫斑・黒色化)と水ぶくれ

時間が少し経過すると、皮膚に赤い斑点が現れ、その赤みは次第に暗赤色から紫色(紫斑)、そして黒色(チアノーゼや壊死)へと不気味に変色していきます 。また、出血を伴う痛々しい水ぶくれ(水疱)ができることもあります 。血流が途絶えるため、患部を触ると通常とは異なる冷たさ(冷感)を感じるようになるのも特徴の一つです

重篤な全身症状:高熱・頻脈・ショック状態への移行

局所の症状が進行するのと同時に、全身にも細菌が出す毒素が回り始めます。高熱が出たり、気分が極度に不快になったりします 。さらに進行すると、脈が異常に速くなり(頻脈)、顔面が蒼白になり、血圧が急激に下がる「ショック状態」に陥ります 。この段階になると、意識がもうろうとするなど、命に関わる極めて危険な状態となります

壊死性筋膜炎を引き起こす主な原因と代表的な病原菌

壊死性筋膜炎は、一つの決まった細菌だけが原因で起こるわけではありません。様々な種類の細菌が、単独あるいは複数組み合わさって(混合感染)発症します。

原因菌の名称 主な感染経路や特徴 重症化の傾向とリスク
A群レンサ球菌 小さな傷口や飛沫などから感染。健康な若年者でも発症することがあります。 「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」と呼ばれ、非常に攻撃性が高く、急激に皮下脂肪や筋肉を壊死させます。
ビブリオ・バルニフィカス 夏場に近海物の魚介類を生で食べたり、傷口が海水に触れたりすることで感染します。 肝硬変や糖尿病などの持病がある方に感染しやすく、急激に多臓器不全を引き起こすため致死率が非常に高いです。
クロストリジウム属 土の中などにいる細菌(嫌気性菌)で、外傷や深い刺し傷から深く入り込んで感染します。 筋肉の中でガスを発生させること(ガス壊疽)があり、強力な毒素を出して急激なショック状態や腎不全を引き起こします。

壊死性筋膜炎と蜂窩織炎(ほうかしきえん)の違い・鑑別診断

皮膚が赤く腫れる一般的な病気として「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」がありますが、壊死性筋膜炎とは危険度が全く異なります。この二つを見分けることが、救命において非常に重要です。

見分け方のポイント(痛みの強さ・皮膚の色・境界の明瞭さ)

蜂窩織炎は皮膚の浅い部分の感染症であり、抗生物質を飲んで安静にしていれば治ることが多い病気です。蜂窩織炎は赤みの境界がはっきりしないことが多いですが、壊死性筋膜炎にはそれを明確に区別すべき危険なサインがあります

  • 痛みの質と強さ: 蜂窩織炎も痛みますが、壊死性筋膜炎は「局所の見た目以上に痛みが極めて強い」のが特徴です

  • 皮膚の色の変化: 蜂窩織炎は鮮やかな赤色ですが、壊死性筋膜炎は暗赤色や紫色、黒色に変わっていきます

  • 全身状態の悪化: 壊死性筋膜炎は、局所の腫れだけでなく、全身状態が著しく悪化(ショック症状など)する点が特徴です

医療機関で行われる専門的な検査と血液データによる評価

医療機関では、血液検査や画像検査を迅速に行います。壊死性筋膜炎の患者さんの血液検査では、白血球の異常な増加や、筋肉の破壊を示すCK、肝機能を示すLDH、炎症反応を示すCRPといった数値が、ほとんどの症例で極端な増加を示します(ただし、ごく初期には正常範囲にとどまることもあります)

壊死性筋膜炎に対する迅速な治療方法と入院での全身管理

壊死性筋膜炎が強く疑われた場合、分単位での時間との勝負になります。直ちに高度な医療機器と手術室を備えた救急医療機関での治療が必要です。

外科的治療(デブリドマン・広範な壊死組織の除去)の絶対的な重要性

この病気に対して最も確実で、唯一とも言える病巣の拡大を阻止する方法は「早期の外科的デブリドマン」です 。これは、全身麻酔をかけて患部を大きく切開し、細菌に感染して死んでしまった組織(壊死組織)を徹底的に切り取って除去する手術です 。これを迅速かつ広範囲に行えるかどうかが、命を救えるかどうかの分岐点となります

薬物治療(ペニシリンなど複数種の抗菌薬投与)とその他の特殊療法

手術と並行して、原因となっている細菌を叩くために、ペニシリンやクリンダマイシン、アンピシリン、バンコマイシンといった強力な抗菌薬(抗生物質)を点滴で大量に投与します 。また、毒素によるショック状態や腎臓の機能低下(腎不全)に対する全身管理として、集中治療室(ICU)での治療が行われます。場合によっては、免疫の働きを助ける「γグロブリン大量投与」や、組織への酸素供給を高める「高圧酸素療法」、NO療法などが試みられることもあります

やむを得ず早期の四肢切断が必要になる理由と救命への決断

感染の進行があまりにも急速な場合や、壊死組織を取り除いても毒素の全身への広がりが止められない場合、全身状態を維持して命を救うために、やむを得ず腕や脚を切断(四肢切断)しなければならないケースがあります 。これは患者さんにとってもご家族にとっても非常に辛い決断ですが、命を落とすことを防ぐための苦渋かつ最終的な手段として選択されます。

日常生活で実践できる壊死性筋膜炎の予防方法

非常に恐ろしい病気ですが、日常生活における基本的な注意と対策でリスクを大幅に下げることができます。

傷口の適切な洗浄・消毒と清潔の保持

細菌は皮膚の小さな傷から侵入します。手指を清潔に保つ手洗いや、咳エチケットといった基本的な感染防止対策が有効です 。また、怪我をした際や、虫刺され、靴擦れ、料理中の切り傷といった日常的な小さな傷であっても決して放置せず、すぐに流水でしっかりと洗い流し、清潔な絆創膏などで保護する適切な処置を行うことが最も大切です

基礎疾患(糖尿病・肝臓疾患・免疫低下)の適切なコントロール

糖尿病や肝硬変などの肝疾患がある方は、細菌に対する抵抗力が低下しがちです。かかりつけの医師の指導のもと、お薬をしっかり飲み、日頃から血糖値や肝機能の数値を適切にコントロールしておくことが、最大の予防策となります。

魚介類の生食や海水浴時の具体的な注意点

慢性的な肝臓の病気がある方や、免疫力が低下している方は、夏場に生の魚介類(刺身や生牡蠣など)を食べることをできる限り避けることが推奨されます 。また、体に傷がある状態では、海に入ったり、海辺の泥や海水に傷口が触れたりしないように厳重に注意してください

≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長