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汗孔角化症

POROKERATOSIS
最終更新日:2026-05-29

汗孔角化症(かんこうかくかしょう)は手足等にリング状の皮疹ができる難治性皮膚疾患です。本記事では遺伝や紫外線などの原因、有棘細胞癌への悪性化リスク、生検による鑑別診断を詳しく解説。サリチル酸やビタミンD3外用、凍結療法などの標準治療から、ビタミンAによる最新ケアや紫外線対策まで、患者様が知るべき情報を専門医の視点で網羅しました。

汗孔角化症とは?異常角化を引き起こす皮膚疾患の基礎知識
見逃してはいけない汗孔角化症の症状と悪性化のリスク
汗孔角化症が発症する原因と異常クローンの発生メカニズム
他の皮膚疾患と見分けるための汗孔角化症の鑑別診断
汗孔角化症に対する最新の治療法とスキンケアアプローチ
日常生活の中で実践すべき汗孔角化症の予防方法
よくある質問

汗孔角化症とは?異常角化を引き起こす皮膚疾患の基礎知識

汗孔角化症(かんこうかくかしょう)は、皮膚の最表層である角質層が局所的に異常な増殖と分化を遂げ、特異な形態を持つ皮疹を形成する、比較的稀な遺伝性の角化性皮膚疾患です 。病気の進行は極めて緩やかであり、一度発症して形成された皮疹は数年から数十年といった長期にわたって皮膚上に存在し続けるため、自然に消退して痊癒(完治)することは非常に困難とされています 。本疾患を正しく理解し、適切な管理を行っていくためには、まず皮膚の構造と本疾患がもたらす細胞レベルでの異常について深く知ることが重要です。

汗孔角化症の医学的な定義と疾患の全体像

人間の皮膚は、常に基底層と呼ばれる深い部分で新しい細胞(表皮細胞)が生み出され、それが徐々に表面へと押し上げられながら形を変え、最終的には核を失った死んだ細胞の層(角質層)となって垢として剥がれ落ちます。この一連のターンオーバーの過程を「角化」と呼びます。汗孔角化症においては、この角化のプロセスに重大なエラーが生じています。具体的には、表皮細胞の一部が突然変異などを起こして「異常なクローン細胞」となり、それが局所的に増殖することによって引き起こされます
臨床的な外見としては、病変の境界部分(辺縁)がまるで堤防のように隆起し、その枠に囲まれた中心部分の皮膚が軽度に萎縮して薄くペラペラになるという、非常に特徴的な局面を形成します 。この特異な形状は他の一般的な湿疹や皮膚炎とは明確に一線を画すものであり、皮膚科学領域において独自の疾患群として位置づけられています。

「汗の穴」を意味する病名と実際の病態との乖離

この疾患を理解する上で多くの患者様が最初に抱く疑問は、「汗孔角化症という病名は、汗をかくことや汗の出口の異常と関係があるのか」という点です。結論から申し上げますと、「汗孔(汗腺の開口部)」という言葉が病名に含まれているものの、実際の病変は必ずしも汗の穴の位置に一致して発症するわけではありません
この名称は、19世紀末に本疾患が初めて医学的に報告された際、初期の観察において病変がエクリン汗腺の開口部に関連して発生しているように見えたことに由来しています。当時の歴史的な背景から名付けられた名称が現在まで定着しているに過ぎず、現代の皮膚病理学的な見地からは、本質的に「汗腺の病気」ではなく「表皮細胞(角化細胞)の異常増殖と不全角化の病気」であることが証明されています 。したがって、汗をかきやすい体質であることや、多汗症などが直接的な原因になるわけではないという点を正しく認識しておく必要があります。

臨床現場における疫学的特徴(好発年齢と性別)

汗孔角化症が発症する年齢や性別には、一定の疫学的な傾向が存在します。一般的には、幼少期から青年期にかけての若い年代で最初の皮疹が出現することが多いとされています 。しかしながら、すべての人において若年発症するわけではなく、成人になってから、あるいは中高年になってから突然新たな病変が発症する遅発性のケースも決して珍しくありません
性別における発症頻度を比較すると、統計的に男性(特に男児や青年男子)に多く見られるという明らかな傾向があります 。この男女差の明確な理由は完全には解明されていませんが、後述する遺伝的素因に加えて、男性のほうが生涯にわたって無防備に紫外線を浴びる機会が多いことや、物理的な作業による皮膚への摩擦・刺激を受けやすいといった環境的要因の違いが影響している可能性が示唆されています。

見逃してはいけない汗孔角化症の症状と悪性化のリスク

汗孔角化症の皮疹は視覚的に非常に特徴的である一方で、かゆみや痛みといった患者様自身が苦痛に感じる「自覚症状」が乏しいという側面を持ちます。そのため、衣服に隠れる部位に発症した場合には長期にわたって見過ごされてしまうことが多々あります。ここでは、皮疹の具体的な形態から、最も警戒すべき皮膚がんへの進行リスクまでを詳細に解説します。

皮疹の形態的特徴:リング状の辺縁隆起と中心部の萎縮

皮膚に現れる症状の最大の特徴は、楕円形や円形をした「ぶつぶつ(丘疹・局面)」の形成です 。初期段階ではごく小さな褐色の突起として始まりますが、異常な角化を引き起こす細胞が増殖を続けることで、徐々に周囲に向かって遠心性に拡大していきます 。この病変部は不規則な形をしており、表面に触れると過剰な角質によってガサガサとした粗造な感触を伴います 。時には皮膚の細胞が強く隆起し、円柱状の硬い突起を形成することによって、ぶつぶつとした目立つ肌理(きめ)の乱れを引き起こします
さらに診断の決め手となる視覚的サインとして、この病変の「中心(真ん中の部分)がへこんでいる(陥凹・萎縮している)」という点が挙げられます 。異常なクローン細胞が外側へ外側へと広がりながら堤防のような黒褐色の隆起(辺縁隆起)を形成する一方で、病変の中心に取り残された皮膚は長期間の炎症やターンオーバーの異常の結果として薄く萎縮してしまいます。このため、全体としてリング状(環状)や火山口のような外観を呈することになります 。顔や腕、足など人目に触れやすい露出部に発病した場合には、この黒褐色で特異な形状の隆起が非常に目立ってしまい、患者様の整容的な悩みや心理的なストレスの大きな原因となります

全身における好発部位と生殖器への特異な発症例

皮疹は全身のあらゆる部位の皮膚に現れる可能性がありますが、特に外部からの環境刺激や紫外線を浴びやすい部位である手、足、首、背中などに好発します 。最初は単発(一つだけ)の病変として現れたものであっても、時間の経過とともに多発し、互いの病変が癒合(融合)することによって、地図状の広範囲な病変へと拡大していくこともあります
痛みやかゆみが無いため、背中など自身の視界に入りにくい部位に発症している場合は、家族に指摘されるまで本人が全く気づかない(自覚症状がない)というケースが頻繁に見られます 。一方で、極めて稀なケースとして、生殖器領域の皮膚や粘膜に発症する「生殖器汗孔角化症(Genital Porokeratosis: GP)」という特殊な病態も存在します 。これは、全身に多発する泛発型(はんぱつがた)汗孔角化症の病変の一部として生殖器が巻き込まれる場合と、生殖器という極めて限局した領域のみに単独で発症する場合があります 。医学的な稀少性は非常に高く、世界的な皮膚科学の文献においても生殖器限局型の報告はわずか29例程度に留まるとされており、専門医であっても遭遇することが少ない希少な症例です

ボーエン病や有棘細胞癌(皮膚がん)への進行リスク

汗孔角化症において、医学的に最も警戒し、厳重な経過観察を要する最大の理由が、慢性化した病変からの「悪性化(がん化)」のリスクです。汗孔角化症の病変そのものは原則として良性の異常増殖ですが、数十年という極めて長い期間にわたって異常なターンオーバーを繰り返している萎縮した皮膚組織は、細胞のDNA修復能力が低下しており、がん化の温床となりやすい状態にあります
特に高齢の患者様において、長期間存在して萎縮しきった皮膚の一部から、「ボーエン病」と呼ばれる表皮内がん(皮膚の最も浅い層に留まっている初期の皮膚がん)や、「有棘細胞癌(ゆうきょくさいぼうがん:扁平上皮癌)」という浸潤性の本格的な皮膚がんが発生する確率が報告されています 。有棘細胞癌は、放置して進行すると真皮や皮下組織へ深く浸潤し、最終的には所属リンパ節や他の臓器へ転移する可能性が高く、患者の命にかかわる重大な悪性腫瘍です
そのため、「たかが皮膚のガサガサしたぶつぶつである」「痛みやかゆみがないから生活に支障はない」と自己判断して放置することは非常に危険です。長年変化がなかった皮疹のサイズが急激に大きくなった、表面から出血を伴うようになった、硬いしこりや潰瘍(えぐれ)が形成された、といった変化が現れた場合は、悪性転化の強力なサインである可能性があります。このような変化を認めた際には、一刻も早く皮膚科専門医による精査を受ける必要があります。

汗孔角化症が発症する原因と異常クローンの発生メカニズム

なぜ正常な皮膚の細胞が、突如としてリング状の異常な増殖を始めるのでしょうか。汗孔角化症の発症メカニズムは完全には解明されていませんが、現在の医学研究によれば、生まれ持った「遺伝的な要因」と、生後の生活環境の中で蓄積される「環境的な要因(外部刺激)」が複雑に絡み合い、互いに作用し合うことで発症に至ると考えられています。

常染色体優性遺伝と表皮細胞における不全角化の関与

発症の根幹にあるのは、表皮細胞(角化細胞)の遺伝子レベルでの異常です。正常な角化プロセスでは、細胞は表面に到達する過程で核を消失させ、堅固なバリアとして機能する完全な角質となります。しかし、汗孔角化症の患者様の皮膚では、異常な角化を引き起こすようにプログラムされた表皮細胞の「異常クローン」が発生し、そのクローンが周囲に拡大していきます 。この異常クローンから作られた細胞は、正常に分化を完了することができず、細胞の核が残ったままの未熟な状態で角質層を形成してしまいます。この現象を病理学的に「不全角化(ふぜんかくか)」と呼び、これが皮膚表面のザラつきや隆起の直接的な原因となります
このような異常クローンが発生しやすい背景として、一部の病型において明確な遺伝的要因が確認されています。遺伝形式としては「常染色体優性遺伝」をとることが多く、特に男児によく遺伝的発症が見られます 。この現象は、遺伝学における「浸透率の不完全さ(遺伝子を持っていても、必ずしもすべての人に症状が現れるわけではない)」を示唆しています。つまり、原因となる遺伝子変異を持って生まれたとしても、それ単独では病気として発現せず、次に述べる環境的な引き金(トリガー)が加わって初めて、異常クローンの暴走が顕在化すると考えられているのです。

紫外線(日光)や物理的刺激など環境的トリガーの役割

遺伝的な素因を抱えた皮膚において、発症の直接的な引き金となる最も強力な環境的要因が「日光(紫外線)」と「皮膚への物理的な刺激(摩擦や微小な外傷)」です
太陽光に含まれる紫外線(UVAおよびUVB)は、皮膚の細胞に浸透してDNAに直接的なダメージを与えます。正常な皮膚であれば修復酵素がこのダメージを回復させますが、汗孔角化症の素因を持つ皮膚ではこの修復プロセスがうまく機能せず、異常クローンの増殖スイッチがオンになってしまいます。「播種状浅在性光線過敏性汗孔角化症(DSAP)」と呼ばれる特定の病型が存在することからも分かるように、紫外線を日常的に浴びやすい顔、首、手足の甲といった露出部に病変が多発・集中するのはこのためです
また、物理的な刺激も重要な要因です。きつい衣服による慢性的な摩擦、ナイロンタオルによる過度な摩擦、あるいは小さな傷など、皮膚に物理的なダメージが加わると、皮膚はそれを治癒させるために細胞分裂を活発化させます。この「細胞を増殖させて傷を治そうとするプロセス」の途中で、遺伝的なエラーを持つ異常クローンが優先的に増殖してしまい、結果としてその部位に汗孔角化症の皮疹が形成されてしまいます。これを皮膚科学では「ケブネル現象」に似た反応として捉えており、一度発症した病変が慢性化しやすく治りにくい根本的な理由となっています

他の皮膚疾患と見分けるための汗孔角化症の鑑別診断

汗孔角化症が形成するリング状の紅斑やガサガサした隆起は、他の様々な一般的な皮膚疾患、あるいは悪性腫瘍と非常によく似た外観を呈することがあります。そのため、視覚的な見た目だけで自己判断したり、安易に市販のステロイド剤などを塗布したりすることは推奨されません。正確な鑑別診断を下すことが、正しい治療方針を決定するための第一歩となります。

確定診断における皮膚生検と病理組織学的検査の重要性

皮膚科領域において、医師はまず視診(見た目の確認)と触診によって症状から汗孔角化症を疑います。しかし、臨床所見のみで診断を確定させることは危険を伴うため、最終的な確定診断を下すためには「皮膚生検」による病理組織学的診断(病理診断)が不可欠となります

乾癬、白癬、日光角化症など類似疾患との鑑別ポイント

鑑別診断において特に注意深く除外しなければならない代表的な疾患群との違いを、以下の表にまとめます。これらを正確に見極めることは、不適切な治療を避けるために極めて重要です。

  疾患の特徴と汗孔角化症との鑑別ポイント 病理・検査所見の違い
白癬(水虫・たむし) 真菌(カビ)の感染症です。リング状の紅斑や落屑(皮むけ)を伴い、見た目が非常に似ていますが、強いかゆみを伴うことが多いです。 表面の角質を削り取り顕微鏡で観察する真菌検査において、白癬菌の菌糸が検出されることで容易に鑑別可能です。汗孔角化症ではカビは検出されません。
尋常性乾癬(かんせん) 免疫異常によって銀白色のフケのような厚い角質が付着し、紅斑が全身に出現します。 乾癬では病変全体に均一な不全角化が見られますが、汗孔角化症のような辺縁のみの特異な「角質柱」は形成しません。
日光角化症 紫外線の蓄積によって引き起こされる前がん病変です。顔や手の甲にザラザラとした赤い皮疹ができます。 汗孔角化症と同様に悪性化のリスクがありますが、特徴的な「辺縁の堤防状隆起」や「中心の明らかな陥凹」が臨床的に見られない点で異なります。
ボーエン病・有棘細胞癌 初期の表皮内がん、および浸潤性の皮膚がんです 。 汗孔角化症の病変内にこれらの悪性細胞が混在している可能性があるため、病変が急激に隆起したり潰瘍化したりした場合は、これらがん細胞の有無を病理診断で直接確認することが最も重要です。

汗孔角化症に対する最新の治療法とスキンケアアプローチ

汗孔角化症は、遺伝子レベルの細胞異常が背景にある慢性かつ難治性の疾患であり、劇的に完治させる(原因遺伝子を書き換える)ような単一の特効薬は現在のところ存在しません 。そのため、治療の最大の目的は、「完治」ではなく「症状のコントロール(皮疹の平坦化と見た目の改善)」および「将来的な悪性化(がん化)の予防・早期発見」に置かれます。現在、医療機関で提供されている主な治療アプローチは多岐にわたり、病変の範囲や進行度合いに応じて組み合わせて用いられます。

角質溶解剤および活性型ビタミンD3軟膏を用いた外用療法

最も一般的で、身体への負担が少なく(非侵襲的で)、長期間の継続管理に適しているのが、外用薬(塗り薬)を用いた治療法です。
一つ目の柱が、サリチル酸ワセリンや尿素軟膏などの「角質溶解剤」を用いた外用療法です 。これらの外用剤は、様々な角化症の治療において広く標準的に使われている基本薬です 。異常に分厚く硬く積み重なった角質層の細胞間結合(デスモソーム)を化学的に緩め、柔らかくして溶かす作用を持っています 。1日に数回、患部に継続的に塗布することで、ガサガサとした表面の粗造感を滑らかにし、目立つ隆起を少しでも平坦に近づける効果が期待されます 。本来は乾癬の治療などに用いられる薬剤ですが、ビタミンD3には表皮細胞の異常な増殖を抑制し、未熟な細胞を正常な細胞へと分化(成熟)させるよう促す強力な作用があります。このメカニズムが汗孔角化症の不全角化の是正にも有効であると考えられており、角質溶解剤と併用、あるいは単独で処方されることがあります

液体窒素による凍結療法とCO2レーザー・外科的切除

外用薬だけでは十分な平坦化が得られない場合や、少数の限局した病変を確実に除去したい場合には、物理的なエネルギーを用いて異常な細胞組織を破壊・除去する外科的・物理的治療が検討されます

  • 液体窒素を用いた凍結療法: マイナス196度の超低温の液体窒素を含ませた綿棒や専用のスプレーを用い、患部の組織を急激に凍結させます 。これにより異常な表皮細胞内に氷の結晶が生じて細胞膜が破壊され、壊死した組織が後日カサブタとなって脱落するのを待ちます。簡便で多くの皮膚科クリニックで実施可能ですが、処置時に強い痛みを伴うことや、治療後に炎症後色素沈着(シミのような跡)が長期間残る可能性がある点に留意が必要です。

  • CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)による病変部の切除・剥削: 水分に反応して組織を気化させる特性を持つCO2レーザーを使用し、異常な隆起部を顕微鏡下や拡大鏡下でピンポイントに削り取る(剥削・焼灼)精密な治療法です 。液体窒素に比べて周囲の正常な皮膚組織への不要な熱ダメージを抑えつつ、物理的に異常クローンを削り取ることができます。

  • その他の外科的アプローチ: 病変が小さく悪性化が疑われる場合には、メスによる全切除縫合が行われることもあります。また、電気メスによる電気焼灼や、専用の器具を用いて皮膚の表面を削る皮膚剥削術なども、症状や部位に応じて適宜選択される有効な手段です

エトレチナート内服とビタミンAスキンケアによる細胞機能の正常化

症状が全身に及ぶ広範囲な泛発型である場合や、外用療法や凍結療法に抵抗性を示す極めて難治なケースに対しては、ビタミンAの誘導体を用いた内服療法や、高機能なスキンケアシステムを用いたアプローチが検討されます。
医療機関で処方される強力な全身療法として、「エトレチナート(合成ビタミンA誘導体)」の内服があります 。エトレチナートは、血液を介して全身の皮膚に到達し、表皮細胞の分化を強制的に正常化させ、異常な角化プロセスを根本から抑制する極めて強力な効果を発揮します。しかしながら、催奇形性(胎児の奇形を引き起こすリスク)という極めて重大な副作用を有しており、内服中および内服終了後も一定期間(女性は2年、男性は半年程度)は厳格な避妊が義務付けられます。そのため、専門医による慎重な適応判断と厳重な定期検査に基づく管理が不可欠となります。
一方、近年ではこうしたビタミンAの持つ「ターンオーバーの正常化作用」を、副作用のリスクを抑えつつ、より安全に日常的に取り入れるアプローチとして、医療機関専売の化粧品や特定のスキンケアシステム(エンビロンシステムなど)を用いたビタミンAケアの有効性が臨床現場で注目を集めています 。この毎日のAケアによって、第一に皮膚のターンオーバーが緩やかに促進され、異常な角質が滞留して厚くなるのを防ぐ効果が期待できます 。第二に、パルミチン酸レチノール自体が皮膚内に蓄積することで、紫外線(UVA・UVB)のエネルギーを吸収・散乱させる「天然の紫外線防御フィルター(内因性のサンスクリーン)」として機能し、発症や悪化の最大のトリガーとなる紫外線ダメージから細胞のDNAを保護する相乗効果を発揮します

日常生活の中で実践すべき汗孔角化症の予防方法

汗孔角化症は遺伝的な細胞の異常が根本的な背景にあるため、体質そのものを変えて発症を100%未然に防ぐことは困難です。しかし、後天的な環境要因(トリガー)を日常生活から徹底的に排除することで、新たな皮疹の発症を遅らせたり、既存の病変が悪化して広範囲へ拡大するのを防ぎ、さらには将来的な皮膚がんへの悪性化リスクを最小限に抑え込むことは十分に可能です。

光線過敏と紫外線ダメージを防ぐための徹底したUVケア

前述の通り、紫外線(日光)は表皮細胞のDNAに直接的なダメージを与え、異常クローンの発生と増殖を促す最大の環境的悪化要因です 。特に播種状浅在性光線過敏性汗孔角化症などの病型では、日光曝露が直接の発症トリガーとなります。したがって、年間を通じた徹底的な紫外線対策(UVケア)が、最も重要かつ自身でコントロール可能な最大の予防法となります。
日常の対策として、外出時には季節や天候(曇りの日や冬場を含む)を問わず、露出する部位である顔、首の周り、手の甲、腕、足などに、適切なSPF(UVB防御)およびPA(UVA防御)値を持つ日焼け止め(サンスクリーン剤)を隙間なく塗布することを習慣化してください。汗をかいたり摩擦で落ちたりするため、2~3時間おきにこまめに塗り直すことが効果を持続させる鍵です。
さらに、サンスクリーン剤の塗布だけに頼らず、物理的な遮光アイテムを併用することが推奨されます。つばの広い帽子(全周に7cm以上のつばがあるものが望ましい)、UVカット加工が施された長袖の衣類、アームカバー、日傘、サングラスなどを積極的に活用し、皮膚に直接強い直射日光が当たるのを物理的にブロックするよう心がけてください。

物理的摩擦の回避と皮膚バリア機能を保つ保湿管理

紫外線と並んで発症の引き金となり得るのが、皮膚に対する「物理的な刺激や慢性的な摩擦」です 。皮膚に物理的なダメージが加わると、それを修復する過程で異常な細胞が優先して増殖してしまうため、肌に負担をかけない優しい生活習慣を徹底する必要があります
入浴時に体を洗う際は、硬いナイロンタオルやボディブラシ、目の粗いスポンジなどで肌をゴシゴシと強く擦る行為は厳禁です。刺激の少ない洗浄料を十分に泡立て、たっぷりの泡のクッションを利用して手のひらで優しく撫でるように洗い、皮膚への物理的な摩擦を最小限に抑止してください。
また、衣類の選択も重要です。肌に直接触れる下着やシャツ、ズボンなどは、縫い目やタグが強く擦れないもの、サイズにゆとりがあり締め付けの少ないものを選びます。素材に関しても、化学繊維による摩擦を避け、吸湿性や通気性に優れた綿(コットン)やシルクなどの柔らかく肌当たりの良い天然素材を選ぶことが推奨されます。
加えて、乾燥した皮膚は外部からの物理的刺激に対する本来のバリア機能が著しく低下しています。入浴後や洗顔後は、肌の水分が蒸発する前に速やかに保湿剤(ワセリン、ヘパリン類似物質、または前述のビタミンA配合クリームなど)を全身にたっぷりと塗布し、皮膚を乾燥から保護して健やかで潤いのある状態を維持することが、トラブルを防ぐための重要な基盤となります。

よくある質問

A
いいえ、絶対にうつりません。
汗孔角化症の皮疹は、白癬(水虫)やウイルス性イボなどのように、真菌(カビ)、細菌、ウイルスなどの病原微生物が皮膚に感染して引き起こされる病気ではありません。患者様ご自身の細胞が持つ遺伝的な素因や、表皮細胞の突然変異(異常な角化を引き起こすクローン細胞の増殖)が原因で内発的に生じる疾患です 。
したがって、皮疹の患部に直接触れたり、プールや公衆浴場、家庭のお風呂を共有したり、同じタオルや衣服を使用したりすることを通じて、ご家族や他人に病気が「感染」することは医学的にあり得ません。周囲の方も過度に警戒や心配をする必要はなく、通常の日常生活を共にして全く問題ありません。
 
A
現在の最新の医学的知見をもってしても、一度発症した汗孔角化症を「完全に元通りの正常な肌に戻し、二度と再発しないようにする(完治させる)」ことは非常に困難な難治性疾患です。 汗孔角化症は非常に病程が緩慢であり、一度形成された皮疹は自然に消えることなく、長期にわたって皮膚に存在し続けます 。角質溶解剤の外用、液体窒素を用いた凍結療法、レーザー治療など、前述したように様々な治療法が存在します 。しかし、これらは目立つ角質を柔らかくしたり、異常な細胞を一時的・局所的に破壊して取り除いたりすることで症状をコントロールする「対症療法」の側面が強く、病気の根本的な原因である「遺伝的な素因」や「皮膚全体に潜む異常クローン」の存在そのものを遺伝子レベルで消し去る治療法ではありません。 そのため、治療の最大の目標は「魔法のように完治させること」ではなく、「これ以上症状の範囲を広げないこと」「厚い角質をコントロールして見た目のストレス(QOLの低下)を軽減すること」、そして何よりも「悪性化のサインを未然に防ぎ、早期に発見すること」に置かれます。特効薬がない難治な病気であるからこそ、焦らず、主治医と信頼関係を築きながら、外用薬やビタミンAケアなどの継続的な治療と日常の紫外線対策を組み合わせて、長期的な視点で肌と向き合っていく姿勢が大切です 。   
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長