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血管肉腫

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最終更新日:2026-5-13

血管肉腫は、皮膚の血管やリンパ管から発生する非常に悪性度の高いまれながん(悪性腫瘍)です。初期症状はただの「内出血」や「青あざ」のように見え、痛みもないため発見が遅れることが少なくありません。本記事では皮膚科専門医の監修のもと、血管肉腫の初期症状と一般的なあざとの見分け方、発症の原因、生存率や再発リスク、そしてパクリタキセル、放射線治療、最新の免疫療法などの治療法について患者さん向けにわかりやすく解説します。

 血管肉腫とは?皮膚専門医が教える希少がんの基礎知識
 見逃してはいけない血管肉腫の症状:初期症状から進行後のサインまで
 血管肉腫の原因と発症リスクを高める主な要因
血管肉腫との鑑別診断は?他の皮膚疾患との見分け方と確定検査
血管肉腫の治療:進行度に応じた最適な治療の選択肢
血管肉腫の予防方法と治療後の再発を防ぐための経過観察
血管肉腫の当院の役割
よくある質問

血管肉腫とは?皮膚専門医が教える希少がんの基礎知識

血管肉腫(けっかんにくしゅ)の定義と皮膚における特徴

人間の全身には、心臓から送り出された血液を全身に運ぶ「血管」や、老廃物や免疫細胞を運ぶ「リンパ管」が網の目のように張り巡らされています 。血管肉腫とは、これらの血管やリンパ管の内側の壁を覆っている「血管内皮細胞」という細胞が、何らかの原因で突然変異を起こし、悪性腫瘍(がん)へと変化してしまった病気のことです 。
がんと聞くと、胃がんや肺がんのように内臓にできるものを想像される方が多いかもしれませんが、血管肉腫は主に皮膚や皮下の軟部組織に発生するという特徴があります 。ただし、血管は全身のあらゆる場所に存在するため、まれに肝臓、心臓、脾臓などの内臓器官から発生するケースも報告されています 。
血管肉腫は非常にまれな病気であり、日本のデータなどから推定される罹患率は人口100万人あたりわずか約2.5人程度とされています 。このように患者数が極めて少ないことから、医学的には「希少がん」に分類されています 。希少がんは一般的ながんに比べて研究データが少なく、専門的な診断・治療の経験を持つ医療機関が限られているため、疑わしい症状がある場合は、早期に皮膚悪性腫瘍に精通した皮膚科専門医やがん専門病院を受診することが非常に重要となります。

原発性と二次性の違い:血管肉腫の2つの分類

血管肉腫は、その発症の背景や原因によって、大きく「原発性血管肉腫(pAS)」と「二次性血管肉腫(sAS)」の2つのタイプに分類されます。これらは同じ血管肉腫であっても、発症しやすい年齢層や部位、そして治療後の見通し(予後)が異なります 。

原発性血管肉腫(pAS)

明確な原因や過去の治療歴などの引き金がない状態で、突然発生するタイプの血管肉腫です。男女を問わず発症しますが、特に高齢者の「頭部(頭皮)」や「顔面」に発生しやすいという顕著な特徴を持っています 。初期段階では単なるシミや加齢性の紫斑(あざ)と誤解されやすいため、医療機関への受診が遅れ、発見された時には病変が広範囲に及んでいることが少なくありません。

二次性血管肉腫(sAS)

過去に受けた他の病気の治療が原因となり、長い年月を経てから二次的に発生するタイプの血管肉腫です。主に、乳がんなどの治療で行われた「放射線治療」の照射部位(胸壁など)や、手術でリンパ節を切除した後に腕や脚に長期間続く「リンパ浮腫」の部位から発生します 。スウェーデンで行われた大規模な研究データによると、二次性血管肉腫と診断された患者さんの実に92.6%が女性であり、これは乳がんや婦人科がんの治療歴が深く関与していることを示しています 。

血管肉腫の生存率と予後に関する最新の医療データ

血管肉腫は、皮膚に発生する悪性腫瘍(皮膚がん)の中でも特に進行が速く、悪性度が非常に高いことで知られています。血管由来のがんであるため、腫瘍細胞が血液やリンパ液の流れに乗って全身に散らばりやすく、治療後も再発や転移を繰り返す傾向が強いのが特徴です 。
スウェーデンのサールグレンスカ大学病院において、2000年から2020年までの21年間にわたり血管肉腫の治療を受けた64例の患者さん(平均年齢67歳)を対象とした後ろ向き観察研究(BMC Cancer誌、2025年発表)では、この病気の厳しい現実が浮き彫りになっています 。

血管肉腫の分類 評価項目 統計データ(結果)
全体(64例) 平均年齢 67歳(18~96歳)
  手術を受けた割合 84%(54例)
  補助治療(化学療法・放射線)を受けた割合 63%(34例)
原発性血管肉腫(37例) 初回手術後の局所再発率 65.4%
  5年全生存率 10.2%
二次性血管肉腫(27例) 初回手術後の局所再発率 63.0%
  5年全生存率 43.5%

この研究では、手術や補助化学療法、放射線療法などの治療を尽くしたにもかかわらず、初回手術後の局所再発率が60%以上と極めて高いことが示されました 。また、治療から5年後に生存している割合(5年全生存率)は、二次性血管肉腫で43.5%であるのに対し、原発性血管肉腫ではわずか10.2%と著しく低い結果となっています 。研究終了時点で生存していたのは全体の23%(15例)のみであり、約6割の患者さんが血管肉腫そのものが原因で命を落とされています 。
原発性の予後が特に厳しい理由として、顔面や頭部という解剖学的に複雑な部位に発生するため、十分な安全域を保って大きく切除(広範切除)することが困難であり、がん細胞が残存しやすいことが挙げられます。これらのデータは、患者さんにとっては非常に辛い現実かもしれませんが、だからこそ「少しでも早く異常に気づき、専門医による適切な集学的治療(手術・放射線・抗がん剤の組み合わせ)を速やかに開始する」ことが何よりも重要であることを示しています。

見逃してはいけない血管肉腫の症状:初期症状から進行後のサインまで

初期症状は「ただのあざ」や「内出血」に似ている

血管肉腫の最も恐ろしい特徴の一つは、発症初期の段階ではがん特有の「しこり」や「痛み」を伴わず、見た目がごくありふれた皮膚のトラブルに酷似している点です 。
皮膚に発生した血管肉腫は、初めは平坦な赤み(紅斑)や、赤紫色から暗赤色の「青あざ(紫斑)」のように見えます 。どこかに頭をぶつけた際にできる内出血や、単なる打撲の痕と見分けがつきにくいため、多くの患者さんは「そのうち治るだろう」と軽く考えて放置してしまいます 。
しかし、一般的な内出血やあざであれば、数日から数週間のうちに免疫細胞が内出血を吸収し、色が黄色っぽく変化して自然に消退していきます。一方、血管肉腫はがん細胞が増殖し続けているため、時間が経過しても決してあざが消えることはありません。それどころか、時間とともに色調がさらに濃くなったり、あざのような病変の範囲が周囲の皮膚に向かってジワジワと拡大していくのが特徴です 。
「顔や頭に、ぶつけた記憶もないのにあざができ、1ヶ月以上経っても消えない、あるいは広がっている」という場合は、決して放置せず、直ちに皮膚科専門医の診察を受けるべき重要なサインとなります。

病状の進行に伴うしこり(腫瘤)と出血・潰瘍化

初期の平坦なあざのような状態から病状が進行すると、皮膚の表面や内部に明らかな立体的な変化が現れ始めます。
がん細胞が皮膚の奥深くへと増殖していくにつれて、病変部が盛り上がり、内部に硬さを感じる「しこり(腫瘤)」が触れるようになります 。このしこりは、単に大きくなるだけでなく、周囲の正常な組織(脂肪、筋肉、神経など)に根を張るように浸潤しながら、急速に増大するケースが報告されています 。
さらに症状が進行すると、腫瘍の表面の皮膚が栄養不足に陥ってただれ、「潰瘍(かいよう)」というえぐれた状態を形成します 。血管肉腫は文字通り「血管の細胞からできた腫瘍」であり、腫瘍の内部には異常な血管が豊富に存在しています 。そのため、少し髪をとかすブラシが当たったり、洗顔時に触れたりといったごく軽微な刺激だけで、病変部から容易に出血を起こしてしまいます 。
この出血は厄介であり、少量の血が滲む程度で済むこともあれば、止血機能を持たない脆いがん組織の血管が破綻しているため、ガーゼで押さえてもなかなか血が止まらない重度なケースに発展することもあります 。毎日のように出血が続くと、貧血を引き起こしたり、ガーゼ交換の煩わしさから日常生活に多大な支障をきたすことになります 。 また、初期には無症状であっても、腫瘍が進行して周囲の知覚神経を圧迫・破壊するようになると、持続的な鈍い痛みや、ズキズキとした鋭い痛みを感じるようになります 。

全身への転移(肺・骨など)と局所再発の強い傾向

血管肉腫は、がん細胞そのものの増殖スピードが速いだけでなく、「転移」と「再発」を起こしやすいという極めて厄介な性質を持っています 。

局所再発(同じ場所周辺での再発)

がん細胞が周囲の組織へ染み込むように広がる力(浸潤性)が非常に強いため、手術で目に見える腫瘍を取り除いたり、強力な放射線治療を行った後であっても、元の腫瘍があった場所のすぐ近くに再びがんが現れる「局所再発」が高い確率で起こります 。先述のデータでも示された通り、60%以上の患者さんが局所再発を経験します 。

遠隔転移(離れた臓器への広がり)

血管内皮細胞のがんであるため、がん細胞が血液の流れ(血流)に乗って、比較的早い段階で全身の様々な臓器に運ばれてしまいます 。 最も転移が多い部位は「肺」です 。肺に転移すると、少し動いただけで息苦しい(呼吸苦)、慢性的な咳が出る、胸に水が溜まる(胸水)といった症状が現れます 。 次いで多いのが「骨」への転移であり、進行すると強烈な骨の痛みを感じたり、わずかな衝撃で骨折(病的骨折)を起こすリスクが高まります 。 その他にも、首や脇の下の「リンパ節」が腫れてしこりとして自覚されたり、進行例では「肝臓」や「脳」へ転移して、肝機能障害や麻痺などの神経症状を引き起こすこともあります 。

このように、発見時にはすでに目に見えないレベルでがん細胞が全身に散らばっている可能性(微小転移)が高いため、局所の治療(手術・放射線)だけでなく、全身に効く抗がん剤治療を組み合わせることが必須となります。

血管肉腫の原因と発症リスクを高める主な要因

血管肉腫の発症原因は、まだ完全に解明されていない部分も多いですが、医学的な研究によりいくつかの強力な発症リスク要因が特定されています。前述の通り、原因が特定されているものを「二次性」、明確な原因がわからないものを「原発性」として分けて考えます 。

二次性血管肉腫の原因:過去の放射線治療やリンパ浮腫

二次性血管肉腫の発症には、過去の医療行為に伴う身体への影響が深く関わっています 。

放射線治療の影響

乳がんや子宮頸がんなどの治療において、がん細胞を死滅させるために放射線治療が行われることがあります。放射線はがん細胞のDNAを破壊しますが、同時に周囲の正常な細胞のDNAにもわずかなダメージを与えます 。人間の身体にはDNAを修復する機能がありますが、稀に修復エラーが蓄積し、照射から数年〜十数年という長い潜伏期間を経て、放射線を浴びた胸壁や腹部などの皮膚・皮下組織から血管肉腫が発生することがあります 。これは放射線の晩期合併症の一つとして知られています。

慢性的なリンパ浮腫(スチュワート・トレベス症候群)

乳がんの手術で脇の下のリンパ節(腋窩リンパ節)を切除したり、婦人科がんの手術で骨盤内のリンパ節を切除したりすると、リンパ液の流れが滞り、腕や脚がパンパンにむくむ「リンパ浮腫」が生じることがあります 。このリンパ浮腫を長期間(一般的には10年以上)放置していると、むくんでいる部位の組織で局所的な免疫力の低下や慢性的な炎症が持続し、それが刺激となってリンパ管の内皮細胞ががん化することがあります 。これを医学用語で「スチュワート・トレベス(Stewart-Treves)症候群」と呼びます。

原発性血管肉腫の原因:高齢者の頭部・顔面への発症メカニズム

一方、過去の放射線治療歴やリンパ浮腫などのリスク要因が全くないにもかかわらず発生する原発性血管肉腫は、平均年齢が67歳前後と高齢者に多く、発生部位が頭皮や顔面に集中しています 。
この明確なメカニズムは完全には証明されていませんが、皮膚科学の観点からは「長年にわたる紫外線の蓄積ダメージ(光老化)」と「加齢に伴う血管内皮細胞の老化・遺伝子変異の蓄積」が複雑に絡み合って発症していると考えられています。 長期間、太陽の光(紫外線)を直接浴び続ける頭皮や顔面は、衣服で隠れている部位に比べて細胞のDNAが傷つく機会が圧倒的に多くなります。細胞の老化によって修復機能が衰えた高齢者において、そのダメージが限界を超えた時に、血管内皮細胞の異常増殖のスイッチが入ってしまうのではないかと推測されています。

血管肉腫との鑑別診断は?他の皮膚疾患との見分け方と確定検査

血管腫や血管奇形など、鑑別が必要な良性疾患一覧

皮膚に赤色や紫色のあざ、あるいはしこりができたからといって、すぐに血管肉腫(がん)であると決まったわけではありません 。実は、血管肉腫と見た目が非常に似ている「良性」の皮膚疾患や、悪性度の低い病変が多数存在します。皮膚科医は、これらと血管肉腫を正確に見分ける(鑑別診断する)ことを最初に行います 。

 鑑別診断が必要な主な疾患(国際分類などに基づく)  疾患の特徴と概要
 海綿状血管腫  拡張した静脈のような太い血管が集まってできる良性の腫瘍です。押すと凹むような柔らかい青紫色のしこりとして皮膚や皮下に見られます 。
 静脈性血管腫  静脈の異常な拡張・形成異常によって生じる良性の病変で、小児期から存在することが多いです 。
 筋肉内血管腫  筋肉の内部(深部)に発生する血管腫で、皮膚の表面からは単なる腫れや痛みとして感じられ、見た目の色の変化が乏しい場合があります 。
滑膜血管腫 関節を包む滑膜という組織に発生するまれな良性血管腫です 。
カポジ肉腫様血管内皮細胞腫 局所への浸潤性(広がる性質)を持つ、良性と悪性の中間(境界型)に位置する腫瘍で、主に小児に多く見られます 。
老人性血管腫(ルビースポット) 加齢に伴って体幹や顔面に生じる数ミリの鮮やかな赤いポツポツ。完全に良性です。
カポジ肉腫 ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)の感染に関連して生じる血管由来の悪性腫瘍で、血管肉腫とは異なる病態です。

これらの良性疾患や他の悪性腫瘍と鑑別するために、医療機関では段階的に高度な検査を実施します。

皮膚科で行う確定診断:ダーモスコピーと病理組織検査(皮膚生検)

ダーモスコピー検査(視診の延長) 皮膚科専門医はまず、「ダーモスコピー」と呼ばれる特殊な拡大鏡を皮膚に当てて観察します。これにより、皮膚の表面だけでなく、表皮のすぐ下にある毛細血管の配列や色素の分布パターンを詳細に確認することができ、良性の血管腫なのか、悪性が疑われる不規則な血管増生があるのかをある程度見分けることができます。
病理組織検査(皮膚生検) 血管肉腫が強く疑われる場合、診断を100%確定させるために不可欠なのが「皮膚生検(ひふせいけん)」と呼ばれる病理組織検査です 。 これは、局所麻酔の注射をした上で、疑わしいあざやしこりの一部をメスや専用の器具で数ミリ〜数センチほど切り取って採取する小手術です 。採取された皮膚組織をホルマリンで固定し、極薄の切片にして染色した後、病理医という専門の医師が顕微鏡で細胞の顔つきを細かく観察します。 採取された組織の中に、無秩序に増殖する異常な血管内皮細胞が確認されれば、「血管肉腫」という確定診断が下されます 。また、細胞の性質が分かりにくい難しいケースでは、「免疫染色」と呼ばれる特殊な染色液を用いて、がん細胞が持つ特有のタンパク質を光らせて特定する高度な検査が追加されることもあります 。

全身の転移や広がりを調べるための高度な画像検査(CT・MRI・PET)

病理検査で血管肉腫の診断が確定した場合、あるいは診断と並行して、がんが身体のどこまで広がっているか(病期・ステージ)を正確に把握するための「画像検査」が行われます 。

 画像検査の種類  検査の目的と患者さんが知っておくべき特徴
 造影CT検査  X線を使って身体の断面を撮影します。造影剤という薬を点滴しながら撮影することで、腫瘍の大きさや位置、そして最も転移しやすい「肺」や「肝臓」「リンパ節」への転移の有無を鮮明に確認します 。手術を行う前の切除範囲の計画を立てる際にも不可欠です 。
 MRI検査(磁気共鳴画像)  強力な磁場と電波を利用して撮影します。放射線被ばくはありません。筋肉、神経、脂肪などの「軟部組織」の描出に非常に優れています。頭部や顔面の腫瘍が、骨や脳へどのくらいの深さまで達しているか(深達度)をミリ単位で把握するために用いられます 。
 PET-CT検査(ポジトロン断層撮影)  がん細胞が正常な細胞に比べて大量のブドウ糖を消費するという性質を利用した検査です。微量の放射線を帯びたブドウ糖に似た薬剤を注射し、それが全身のどこに集まっているかを撮影します。従来のCTでは見つけにくい微小な遠隔転移や、治療後の再発を早期に発見するために絶大な威力を発揮します 。

これらの画像検査は、初回の診断時だけでなく、抗がん剤治療の効果がどれくらい出ているかを確認する効果判定や、治療終了後の再発の有無を監視する経過観察の際にも、定期的に繰り返し行われます 。

血管肉腫の治療:進行度に応じた最適な治療の選択肢

血管肉腫は進行が速く、全身へ広がりやすい性質を持つため、単一の治療法だけで完治を目指すことは困難です 。そのため、がんを取り除く「手術」、がん細胞を焼き切る「放射線」、全身のがん細胞を攻撃する「抗がん剤」などを組み合わせる『集学的治療(しゅうがくてきちりょう)』が標準的なアプローチとなります 。

手術療法と広範囲への放射線治療(トモセラピーなど)

手術による広範切除 画像検査で遠隔転移(肺や骨への転移)がなく、腫瘍が局所に留まっていると判断された場合、最初の最も重要な治療の選択肢は「手術」です。 ただし、血管肉腫は肉眼で見えるあざやしこりの範囲よりも、はるかに広い範囲の皮膚の下にがん細胞が染み込むように浸潤しています。そのため、正常に見える皮膚を含めて、腫瘍の境界から数センチメートルという非常に大きな余裕(マージン)を持って切り取る「広範切除」を行わなければなりません 。大きく皮膚を切り取るため、傷口をそのまま縫い合わせることはできず、太ももや腹部など自分の体の他の部位から皮膚を移植する「植皮術(しょくひじゅつ)」や「皮弁形成術」という形成外科的な再建手術が同時に行われることが一般的です。
放射線治療 顔面や頭部など、大きく切り取ると眼や脳などの重要器官に影響が及ぶ部位では、十分な安全域を取って手術することができません 。また、手術で取りきれたように見えても、微小ながん細胞が残っている可能性が極めて高いです。そのため、手術の前後、あるいは病変が広すぎて手術が不可能な場合に「放射線治療」が行われます 。
血管肉腫に対する放射線治療は、目に見える病変よりもはるかに広い範囲に対して、高線量の照射を行うのが特徴です 。一般的には総線量70Gy(グレイ)という非常に強い線量が設定され、1回あたり2Gyの照射を週5回(平日毎日)、合計35回、期間にして約7〜8週間かけて根気よく実施します 。 顔面などの複雑な部位に対しては、正常な脳や眼の水晶体へのダメージ(白内障や視力障害のリスク)を避けるために、「トモセラピー」などの先進的な強度変調放射線治療(IMRT)装置が用いられることがあります 。これにより、病巣の複雑な形状に合わせて、ピンポイントかつ精密に高線量の放射線を集中させることが可能となります 。

パクリタキセルを用いた化学療法(抗がん剤治療)の効果

血管肉腫は、目に見えないレベルでがん細胞が全身の血流に乗っているリスクが高いため、手術や放射線といった「局所の治療」に加えて、全身の隅々まで効果を及ぼす「薬物療法(抗がん剤治療)」が治療の大きな柱となります 。
現在、血管肉腫の化学療法において世界中で最も中心的な役割を担っているのが、「パクリタキセル(タキサン系抗がん薬)」という薬剤です 。パクリタキセルは、がん細胞が分裂・増殖するプロセスを強力に阻害する働きがあります。
投与スケジュールと副作用の管理 パクリタキセルの一般的な投与スケジュールは、「週1回の点滴を3週連続で行い、その後の1週間を休薬する(3週投与・1週休み)」というサイクルを繰り返す手法が基本となります 。 抗がん剤と聞くと激しい副作用を想像されるかもしれませんが、この週1回投与のスケジュールは、高齢者や肝機能に不安がある患者さんの状態に合わせて「2週連続投与・1週休み」などに柔軟に調整することが可能です 。 特に、パクリタキセルと放射線を同時に行う「化学放射線療法」は、放射線の効果を抗がん剤が増強する相乗効果が期待できます 。ある日本の研究では、パクリタキセルの用量を適切に抑えて目標となる放射線量(70Gy以上)を完遂できれば、より強い副作用を持つドセタキセルという別の抗がん剤と同等の治療効果を安全に得られることが報告されており、高齢の患者さんが多い血管肉腫において適した治療法と考えられています 。
パクリタキセルによる主な副作用としては、脱毛、末梢神経障害(手足のしびれ)、白血球減少による感染症への抵抗力低下などが挙げられます。医師や薬剤師と連携し、これらの副作用を和らげる支持療法を行いながら治療を継続することが重要です。
また、パクリタキセルの効果が不十分な場合や再発時の二次治療として、「エリブリン」という抗がん剤や、腫瘍に栄養を送る血管の新生を阻害する「パゾパニブ」といった薬剤が選択されることもあります 。ただし、これらは軟部肉腫全体に対するデータに基づいており、血管肉腫に特化した有効性については現在もデータの蓄積が進められている段階です 。

最新の治療選択肢:免疫チェックポイント阻害薬と6種複合免疫療法

従来の抗がん剤や放射線治療の限界を打ち破るための新たな治療の選択肢として、近年、患者さん自身の「免疫の力」を利用する治療法が大きな期待を集めています 。

免疫チェックポイント阻害薬の研究進展

がん細胞は、人間の免疫細胞(T細胞)に「自分を攻撃しないでくれ」というブレーキをかけるシグナルを送ることで、免疫からの攻撃を逃れています。このブレーキを解除し、免疫細胞が再びがん細胞を強力に攻撃できるようにする新薬が「免疫チェックポイント阻害薬」です 。 2025年現在、血管肉腫と同じ超希少がんである「胞巣状軟部肉腫」において、切除不能な症例に対して免疫チェックポイント阻害薬「アテゾリズマブ」の有効性と安全性が確認され、薬事承認を得るという画期的なニュースが発表されました 。 血管肉腫においても、免疫療法が新たな治療機会となることが期待されており、ランダム化試験を含む複数の臨床試験が世界中で実施されています 。どのような患者さんにこの免疫療法が効きやすいか(バイオマーカーの特定)などの課題はありますが、今後の標準治療を大きく変える可能性を秘めています 。 さらに、患者さんのがん組織の遺伝子変異を網羅的に調べる「がん遺伝子パネル検査」を用いて、一人ひとりの腫瘍に最適な分子標的薬を探す「個別化治療」も導入され始めています 。

6種複合免疫療法

標準治療と並行して行うことができる先進的な選択肢として「6種複合免疫療法」も注目されています 。これは、患者さん自身の血液を数十cc採取し、その中の免疫細胞を体外の無菌施設で培養・活性化させ、再び体内に戻すという治療です 。 キラーT細胞やNK細胞など、役割の異なる6種類の免疫細胞を同時に増殖させることで、「がん細胞の認識」「攻撃」「排除」という多面的な攻撃を仕掛けます 。患者さん自身の細胞を使うため、抗がん剤のような激しい副作用がほとんどなく、外来通院での点滴のみ(入院不要)で治療できるため、生活の質(QOL)を高く保てるのが最大の特徴です 。 手術で取りきれなかった微小ながん細胞を標的とするため、局所再発や遠隔転移の予防効果が期待されており、副作用で強い抗がん剤治療を継続できない患者さんにとっても前向きな選択肢となっています 。

血管肉腫の予防方法と治療後の再発を防ぐための経過観察

血管肉腫を100%確実に防ぐ「一次予防」の方法は確立されていませんが、リスクを下げるための心がけと、万が一発症・再発した際に命を守るための「早期発見(二次予防)」が極めて重要です 。

日常生活でできる予防的ケア:紫外線対策とリンパ浮腫の管理

原発性血管肉腫の主な発生部位である頭部や顔面は、常に紫外線に曝されている部位です。細胞の遺伝子ダメージの蓄積を防ぐためにも、高齢になってからも帽子を被る、日傘をさす、日焼け止めを塗るといった基本的な紫外線対策を日常的に行うことが推奨されます。
また、二次性血管肉腫のリスクである「リンパ浮腫」を抱えている患者さんの場合は、浮腫を放置しないことが最大の予防策となります 。乳がんや婦人科がんの手術後に腕や脚にむくみを感じたら、早めに専門外来を受診してください。弾性スリーブや弾性ストッキングを用いた圧迫療法や、専門的なリンパドレナージ(マッサージ)によってリンパ液の滞りを改善し、患部を清潔に保って蜂窩織炎などの細菌感染を防ぐことが、長期的には細胞のがん化リスクを低減することに繋がります 。

治療後の再発・転移を早期発見するための定期的な画像検査

血管肉腫は一度治療が成功してがんが見えなくなったとしても、非常に高い確率で再発や転移を起こします 。そのため、「治療が終わったら通院も終わり」ではなく、治療後も5年以上という長期にわたる厳重な経過観察(モニタリング)が不可欠です 。
再発を早期に発見できれば、放射線の追加照射や抗がん剤の変更など、次の治療の選択肢を広げることができます。そのため、数ヶ月に1回のペースで定期的なCT検査やMRI、PET-CT検査を必ず受診するようにしてください 。また、医師の指示に基づき、再発リスクを抑えるためにパクリタキセル等の抗がん剤投与を維持療法として継続することが提案される場合もあります 。自己判断で治療や通院を中断すると再発リスクが高まる恐れがあるため、主治医としっかりコミュニケーションを取りながら治療計画を完遂することが大切です。

治療後のデリケートな皮膚を守るスキンケアの重要性

手術や広範囲の放射線治療を受けた後の皮膚は、皮脂の分泌機能が低下し、バリア機能が著しく弱まっている非常にデリケートな状態です。 特に放射線治療の終盤から終了後にかけては、照射された部位の皮膚に強い赤み、ひりつき、皮むけといった「放射線皮膚炎」が生じます 。この状態からの回復には数週間から数ヶ月を要することがあります 。
この期間は、刺激の強い石鹸の使用を避け、たっぷりの泡で優しく洗うようにしてください。また、医師から処方された保湿剤(ヘパリン類似物質など)やステロイド外用薬を指示通りに塗り、乾燥と炎症を防ぐ徹底したスキンケアが重要です 。皮膚のバリア機能が低下している部位は細菌感染を起こしやすいため、傷を作らないように爪を短く切るなどの配慮も求められます。

血管肉腫の当院の役割

血管肉腫は、手術などの高度な集学的治療が必須となるがんですが、放っておくとどこまでも病変が増大して周囲に広がり、治療の範囲が大きく拡大してしまいます 。
多くは頭部や顔面のあざ、あるいは皮下のしこりとして生じますが、初期には痛みがあるわけでもないため、進行してから発見されることが少なくありません。
「治りにくい頭や顔の青あざ、皮下のしこり」には十分な注意が必要です。
少しでも気になる症状があれば、まずは当院にご相談ください。

街のかかりつけ医として、
皮膚がんを啓蒙し、早期発見に努めています。
血管肉腫の治療はクリニックでは出来るものは限られてしまいます。
基本的には、基幹病院にご紹介させていただきます。

よくある質問

Q
血管肉腫の疑いがある場合、何科を受診すればよいですか?

A
皮膚の表面に消えないあざやしこり、不自然な内出血の痕を見つけた場合は、まずは必ず「皮膚科」を受診してください 。 ただし、血管肉腫は日本全国でも非常に患者数が少ない超希少がんであるため、一般的な街のクリニックでは血管腫や他の皮膚病と見分けがつかず、診断が遅れてしまうリスクがあります。そのため、できれば日本皮膚科学会が認定する「皮膚科専門医」が在籍しているクリニックや、がん診療連携拠点病院、大学病院などの皮膚悪性腫瘍に精通した総合病院の皮膚科を受診することを強くお勧めします。紹介状を持参して専門施設を受診することが、早期診断への最短ルートとなります。
 

Q
痛みのないあざでも、病院(皮膚科)に行くべき目安はありますか?

A

はい、血管肉腫の初期段階では「痛みや痒みを全く伴わない」ことがほとんどです 。そのため、「痛くないから大したことはないだろう」と放置してしまうことが発見の遅れに繋がります。以下のような症状に1つでも当てはまる場合は、悪性の病変である可能性が疑われるため、速やかに皮膚科を受診する目安としてください。
  • ぶつけたりした記憶が全くないのに、顔や頭皮に内出血のような青紫色・暗赤色のあざができた。
  • あざが数週間〜1ヶ月以上経過しても消えず、むしろ色が濃くなったり、面積が周囲に広がっている 。
  • あざの中に、ポッコリとした硬いしこり(腫瘤)を触れるようになった 。
  • あざの部分の皮膚がただれ、タオルで軽く拭いたりしただけで容易に出血し、血が止まりにくい 。
  • 過去に乳がん等の放射線治療を受けた胸の周辺や、リンパ浮腫のある腕や脚に、新たな赤い斑点やしこりが現れた 。

これらは血管肉腫が進行しつつある警告サインです。ためらわずに専門医に相談することが、ご自身の命を守る第一歩となります 。
 

Q
血管肉腫は遺伝するがん(悪性腫瘍)なのでしょうか?

A
血管肉腫そのものが親から子へ直接的に遺伝するという明確な医学的証拠(エビデンス)は、現在のところ確認されていません。 原発性血管肉腫の発症には紫外線や加齢に伴う遺伝子レベルの変異が関わっており、二次性血管肉腫には放射線治療やリンパ浮腫といった環境要因・後天的な要因が強く関与しています 。これらは生まれつきの遺伝的要因よりも、生活環境や過去の病歴が引き金となる「後天性の要因」によって細胞ががん化するものです。そのため、ご家族に血管肉腫の患者さんがいるからといって、過度に遺伝を心配する必要はありません。ただし、日頃からご自身の皮膚の状態に関心を持ち、異常があればすぐに皮膚科を受診する習慣をつけておくことは非常に大切です。
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長