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隆起性皮膚線維肉腫

Dermatofibrosarcoma protuberans
最終更新日:2026-5-13

初期段階では無痛のアザやしこりのように見えますが、放置すると深く進行する「中間悪性腫瘍」の性質を持ちます。本記事では、皮膚科専門医の監修のもと、DFSPの初期症状や発生原因(遺伝子異常)、良性腫瘍との鑑別診断、再発を防ぐための広範切除手術、分子標的薬による最新治療、そして術後ケアまでをわかりやすく徹底解説します。

 隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の基本情報と疾患の特徴
 見逃しやすい隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の初期症状と進行プロセス
 なぜできる?隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の発生原因とメカニズム
隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)と似た病気との鑑別診断・検査方法
隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の標準治療と最新の治療選択肢
隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の予防方法と術後の経過観察
隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の当院の役割
よくある質問

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の基本情報と疾患の特徴

皮膚の表面に現れるしこりや変色には様々な種類がありますが、その中でも「隆起性皮膚線維肉腫(りゅうきせいひふせんいにくしゅ、英: Dermatofibrosarcoma Protuberans、略称: DFSP)」は、一般的な皮膚疾患とは異なる特異な性質を持つ稀少な病気です。ここでは、DFSPがどのような疾患であるのか、その基本的な定義や疫学的な特徴について詳しく解説いたします。

皮膚の深部組織から発生する「中間悪性腫瘍」の定義

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)は、皮膚を構成する層のうち、表面の「表皮」ではなく、より深い位置にある「真皮層」や「皮下組織」から発生する軟部組織の腫瘍です 。皮膚の深部で発生するため、病気の初期段階では皮膚表面の劇的な変化に気づきにくいという特徴があります。

皮膚の構造(表皮・真皮・皮下組織)と腫瘍の発生部位

人間の皮膚は、外側から順に「表皮(ひょうひ)」「真皮(しんぴ)」「皮下組織(ひかそしき)」という3つの層で構成されています。表皮は外部からの刺激を守るバリアの役割を果たし、真皮はコラーゲンなどを豊富に含み皮膚の弾力を保ちます。DFSPは、この真皮層やその下にある皮下組織に存在する「線維芽細胞(せんいがさいぼう)」に類似した細胞が異常に増殖することで発生します 。腫瘍の根源が深い層にあるため、表面だけを浅く削り取っても根本的な解決にはなりません。

良性腫瘍・悪性腫瘍(がん)との決定的な違い

DFSPは、医学的な分類において「良性と悪性の中間的な性質を持つ腫瘍(中間悪性腫瘍)」として位置づけられています 。一般的な良性腫瘍は、周囲の組織を押しのけるようにゆっくりと大きくなり、他の部位へ転移することはありません。一方、悪性腫瘍(いわゆる、がん)は、周囲の組織を破壊しながら入り込み(浸潤)、血液やリンパ液に乗って肺や肝臓などの遠隔臓器へ転移して命を脅かします。 DFSPは、遠隔臓器への転移率は極めて低いものの、腫瘍が発生した局所において、周囲の正常な皮膚、脂肪、筋膜、筋肉などに向かって、まるで木の根を張るように深く広く入り込んでいく「強い局所浸潤性」を持っています 。そのため、不完全な治療では同じ場所で再発を繰り返しやすいという厄介な側面を持っています。

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の疫学的なデータ

DFSPは日常的な診療で頻繁に遭遇する病気ではありません。そのため、正しい診断と治療方針の決定には、専門的な知識と豊富な経験を持つ皮膚科専門医の介入が不可欠となります。

稀少な疾患であることの年間発症率

疫学的な統計データによると、DFSPの年間の発症率は「100万人あたりおよそ4.2人程度」と推計されています 。これは一般的な皮膚がん(基底細胞がんや有棘細胞がんなど)と比較しても極めて低い数値であり、いわゆる「希少がん・希少腫瘍」のカテゴリーに含まれます。患者様自身にとっても、身近に同じ病気を経験した人が見つかりにくく、インターネット上でも正確な情報が得られにくいという不安を抱えやすい疾患です。

発症しやすい年齢層(好発年齢)と好発部位の特徴

DFSPは、主に働き盛りである「30歳代から50歳代」の成人に多く発症する傾向(好発)があります 。しかしながら、この年齢層に限定されるわけではなく、若年層や高齢者、場合によっては小児の皮膚に生じることも医学的に報告されています 。 発生しやすい身体の部位としては、胸、腹、背中などの「体幹部」が最も多く見受けられますが、腕や脚といった「四肢」、首や顔などの「頭頚部」、さらには「陰部」に至るまで、全身のあらゆる部位の皮膚に発生する可能性があります 。

 DFSPの疫学・基本情報  詳細データ・特徴
腫瘍の悪性度分類 中間悪性腫瘍(局所浸潤性が高く、転移は稀)
腫瘍の発生源 真皮層および皮下組織(皮膚の深部軟部組織)
年間発症率の目安 100万人あたり約4.2人(希少腫瘍)
好発する年齢層 30代~50代(小児の発症例も存在する)
好発する身体部位 体幹部が最多。四肢、頭頚部、陰部など全身に発生し得る

見逃しやすい隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の初期症状と進行プロセス

DFSPの発見が遅れてしまう最大の理由は、その症状の現れ方にあります。腫瘍の成長スピードは非常にゆっくりであり、数ヶ月から数年、長い場合には十数年という長い単位の時間をかけて、少しずつ変化していきます。ここでは、患者様が気づきやすい症状の変化を段階的に解説します。

初期段階のサイン:痛みのないしこりやアザのような変色

初期段階のDFSPは、患者様に強い警戒心を抱かせるような激しい症状を引き起こしません。そのため、「いつの間にかできていた」「昔からあるただのシミやアザだと思っていた」と放置されてしまうケースが多々あります。

一般的な虫刺されやニキビと誤認されやすい理由

ごく初期の段階では、皮膚の色が周囲とわずかに変わったり(褐色、赤褐色、青紫色など)、皮膚の表面がわずかに硬く盛り上がったりする程度から始まります 。表面は比較的滑らかで、かゆみを伴わない虫刺されの跡や、少し硬いニキビ、あるいは打ち身による内出血のアザのようにも見えます。 しかし、一般的な打ち身によるアザ(出血斑)であれば、数週間が経過すれば体内に吸収されて自然に色が薄くなり消失します 。数ヶ月経過しても色が消えることがなく、むしろ皮膚の奥に硬い芯のような「しこり」として触れる場合、それは単なるアザではなく腫瘍性の病変である可能性が疑われます。

初期段階における自覚症状の欠如

この初期段階において、最も厄介な特徴は「痛みや不快感がほとんどない」ということです 。多くの患者様は、患部を押しても痛くなく、日常生活に支障がないため、医療機関への受診を後回しにしてしまいます。しかし、痛みがないからといって病気が進行していないわけではなく、皮膚の深部では細胞の異常増殖が静かに続いています。

進行に伴う皮膚表面の隆起と腫瘍の増大

初期の平坦、あるいはわずかな盛り上がりであった病変は、年単位の時間をかけてゆっくりと増大していきます。真皮層や皮下組織で増殖した腫瘍細胞の塊が大きくなると、物理的に皮膚の表面を押し上げるようになります。

隆起した形状の形成と外見の変化

腫瘍がさらに大きくなると、病名である「隆起性(Protuberans)」の由来が示す通り、はっきりとしたドーム状や結節状の「隆起した形状」を呈するようになります 。複数の硬いしこりが寄り集まったような、いびつな形になることもあります。表面の皮膚は腫瘍に引き伸ばされて薄くなり、光沢を帯びたり、軽微な摩擦で傷がついて出血しやすくなったりすることがあります。

腫瘍が深部に進行した際に現れる圧痛や痛み

さらに病状が進行し、腫瘍のサイズが大きくなるにつれて、これまで無症状であった患部に変化が現れ始めます。腫瘍が皮膚の下方向(皮下脂肪、筋膜、筋肉など)へ深く入り込むように進行していく過程で、周囲の組織や神経を圧迫するようになります。

痛みが生じるメカニズムと専門医受診の緊急性

腫瘍が周囲の組織へ深く進行すると、患部を指で押した際などに「圧痛(あっつう)」を感じるようになったり、何もしなくてもズキズキとした痛みや違和感を覚えるようになったりします 。初期段階ではほとんど不快感を感じなかった患者様が、痛みを感じるようになったということは、腫瘍がより深い組織や神経周辺にまで浸潤を拡大しているサインと捉えることができます 。この段階に至っている場合は、速やかに皮膚科の専門医を受診し、適切な検査を受けることが強く推奨されます。

なぜできる?隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の発生原因とメカニズム

患者様から外来診察で多く寄せられる疑問の一つに「なぜ自分にこのような珍しい腫瘍ができてしまったのか」という原因に関するものがあります。がんなどの病気は、喫煙や食生活、ストレスといった生活習慣の乱れが原因となることもありますが、DFSPに関してはそのような一般的な要因とは異なるメカニズムが関係しています。

細胞内で起こる染色体の転座と遺伝子異常

DFSPの正確で直接的な原因のすべてが解明されているわけではありませんが、腫瘍が発生するミクロの世界(細胞レベル)でのメカニズムは、近年の分子生物学の進歩により明確になっています 。その根本的な原因は、細胞内にある「染色体の後天的な変化」です。

17番染色体と22番染色体の異常な結合

人間の細胞の核内には、遺伝情報が刻まれた染色体が存在します。DFSPの腫瘍細胞を調べると、多くのケースで「17番染色体」と「22番染色体」の一部が本来の位置からちぎれ、互いに入れ替わって結合してしまう「転座(てんざ)」という異常な現象が起きています 。この転座というコピーミスにより、本来は別々の場所にあるべき遺伝子同士がくっついてしまい、「COL1A1-PDGFB(コルワンエーワン・ピーディージーエフビー)」という新しい異常な「融合遺伝子」が作り出されてしまいます 。

COL1A1-PDGFB融合遺伝子がもたらす細胞増殖の暴走

この融合遺伝子が、腫瘍の成長において非常に重要な役割を果たします 。「COL1A1」は、皮膚の弾力を保つコラーゲンを作るために日常的にスイッチが入っている(活性化している)遺伝子です。一方、「PDGFB」は細胞の増殖を促す成長因子(タンパク質)を作る遺伝子です。 これらが結合してしまうと、コラーゲンを作るためのスイッチがオンになり続ける仕組みを利用して、細胞を増殖させる成長因子(PDGFB)が大量かつ無秩序に産生され続ける状態に陥ります。その結果、成長因子からのシグナルを受け取り続けた皮膚の細胞が、コントロールを失って無限に増殖し、腫瘍(肉腫)を形成してしまうのです。

遺伝的要因や生活習慣との関連性について

「遺伝子の異常」という言葉を聞くと、患者様は「親から遺伝した病気ではないか」「自分の子供にも遺伝してしまうのではないか」と強い不安を抱かれることが少なくありません。

親から子への遺伝(先天性)の有無

ここで非常に重要な事実として、DFSPの原因となる上記の染色体の変化(転座)は、生まれつき両親から受け継いだ異常(先天性のもの)ではありません 。あくまで、患者様の人生のある時点で、皮膚の局所の細胞内でのみ偶然に発生した「後天的な変化」です 。したがって、この病気がご家族や子供へ遺伝することを心配する必要はありません。

外部要因や生活習慣との関連に関する医学的見解

また、DFSPは特定のグループで発症率が高い傾向がみられるという報告もあるものの、年齢や背景に関係なく誰にでも発症する可能性があります 。どのような外部要因(例えば過去の強い日焼けによる紫外線ダメージや、外傷など)が、この染色体の転座を引き起こす引き金となっているのかについては、明確な証拠は特定されていません 。複数の不確定な要因が複雑に絡み合って関与していると考えられています 。

 DFSPの原因に関する分析  詳細なメカニズムと事実
発生の根本原因 腫瘍細胞内における染色体の後天的な異常(転座)
異常の具体的内容 17番染色体と22番染色体の一部が入れ替わる現象
形成される融合遺伝子 COL1A1-PDGFB融合遺伝子
細胞増殖のメカニズム 成長因子(PDGFB)の過剰産生による細胞の無秩序な増殖
家族への遺伝性 生まれつき(先天性)ではなく、家族への遺伝はない

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)と似た病気との鑑別診断・検査方法

皮膚にしこりや隆起が生じる疾患は多岐にわたります。DFSPの診断において最も重要かつ困難なプロセスが、他の良性疾患との「鑑別診断(複数の似た症状の病気の中から、真の病気を特定すること)」です。

皮膚線維腫やケロイド、一般的なアザとの見分け方

DFSPと見た目や触った感触が似ている疾患として、以下のようなものが挙げられます。これらを視診(見た目の観察)や触診(触った感触の確認)、さらにはダーモスコピー(特殊な拡大鏡を用いた観察)だけで完全に区別することは、熟練した皮膚科専門医であっても困難なケースがあります。

良性の皮膚線維腫(Dermatofibroma)との違い

「皮膚線維腫」は、虫刺されや小さな傷などをきっかけに生じることが多い良性の硬いしこりです。DFSPと同様に真皮内で線維芽細胞が増殖しますが、サイズは数ミリから1センチ程度にとどまることが多く、DFSPのように年単位で継続して巨大化することは稀です。また、しこりの両脇を指でつまむと中心が凹む「ディンプルサイン」が見られることが特徴です。

外傷歴を伴うケロイドとの相違点

「ケロイド」は、手術の傷跡や深い傷などが治る過程で、コラーゲンが過剰に産生されて赤く盛り上がる状態です 。過去にその部位に外傷を負った病歴があることが多く、元の傷の範囲を超えて周囲の正常な皮膚へ向かってカニの足のように広がっていく特徴があります。もし、過去に一切ケガをした記憶がない部位に突然硬いしこりが生じた場合は、ケロイドではなくDFSPなどの腫瘍性疾患を強く疑う必要があります。

確定診断に不可欠な「皮膚生検」の重要性

外見の観察や問診だけでは、細胞の悪性度や腫瘍の正確な種類(良性か悪性か、または中間悪性か)を確定することはできません。そのため、DFSPが疑われる病変に対しては、確定診断を下すための唯一かつ必須の検査として「皮膚生検(ひふせいけん)」が行われます 。

局所麻酔下で行われる組織採取の流れ

皮膚生検は、外来の処置室などで局所麻酔(注射の麻酔)を施した上で行われます。しこりの一部(または全体)をメスや「トレパン」と呼ばれる専用の筒状の器具を用いて数ミリから数センチほど切り取ります 。採取した組織片は病理検査室へ送られ、専門の病理医が顕微鏡を用いて細胞の形や配列を詳しく調べます 。 さらに、「免疫組織化学染色」という特殊な染色技術を用いて、細胞の表面にある特有のタンパク質(DFSPの場合はCD34というマーカーが陽性になることが多い)を調べることで、他の似た皮膚腫瘍との違いを明確に確認し、DFSPであるという最終的な確定診断を下します 。

腫瘍の深さや広がりを調べる画像検査(MRI・CT)

皮膚生検によってDFSPという確定診断がついた後は、直ちに手術の計画を立てるために、腫瘍の進行度(ステージング)を評価する必要があります。皮膚の表面に見えている腫瘍の盛り上がりは「氷山の一角」に過ぎないことが多く、皮膚の下でどれだけ深く、広く浸潤しているかを正確に把握しなければなりません。

手術前の計画立案における画像診断の役割

そのため、必要に応じてMRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)といった画像検査が実施されます 。 特にMRI検査は、筋肉や脂肪などの軟部組織のコントラストを鮮明に描き出すことに優れており、腫瘍の根が筋膜や筋肉層、あるいは重要な血管や神経にどの程度入り込んでいるかを立体的に評価するのに非常に有用です 。CT検査は、DFSPでは稀ではありますが、肺やリンパ節などへの遠隔転移の有無を確認する目的で行われることがあります 。これらの画像データをもとに、どこまで組織を切除すべきかという綿密な手術計画が立てられます。

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の標準治療と最新の治療選択肢

DFSPの治療方針は、腫瘍のサイズ、発生した部位(顔面か体幹かなど)、深部への浸潤の程度、そして過去に同じ場所で再発を繰り返しているか(再発歴)などの様々な要因を総合的に評価して決定されます 。

再発を防ぐための第一選択「外科的切除(広範切除)」

現在、DFSPに対する最も確実であり、標準的な治療法(第一選択)とされているのは、外科的手術による腫瘍の完全な切除です 。

正常組織を含めた十分なマージン確保の必要性

前述の通り、DFSPは「局所浸潤性」が極めて強い腫瘍です。肉眼で見えるしこりの境界線のギリギリで切除を行ってしまうと、高確率で目に見えない微小な腫瘍細胞が体内に残存してしまい、数年後に元の場所で再び腫瘍が成長する「局所再発」を引き起こします。 この局所再発を徹底的に防ぐため、手術では腫瘍本体だけでなく、その周囲にある「正常に見える皮膚や組織」も含めて、十分な余裕(マージン)を持って大きく、かつ深く取り除く「広範切除(こうはんせつじょ)」を行うことが強く推奨されています 。具体的には、腫瘍の縁から周囲に数センチメートル、深さ方向にも筋膜層などを含めて一塊として切除します。

欠損部を補う再建手術(植皮術・皮弁作成術)

マージンを取って広範囲の皮膚や組織を切除するため、手術後の傷口をそのまま縫い合わせることができない(縫縮不能な)ケースが多く発生します。その場合、傷口を閉じて形態と機能を回復させるために、形成外科的な「再建手術」が同時に行われます。 代表的な再建方法として、患者様の自身の他の部位(太ももや腹部など)から健康な皮膚を採取して移植する「植皮術(しょくひじゅつ)」や、血流を保ったまま隣接する皮膚や筋肉を移動させて欠損部を覆う「皮弁作成術(ひべんさくせいじゅつ)」などがあります。

手術が困難な場合に検討される「放射線治療」

腫瘍が発生した部位が、顔面や頸部など重要な神経や血管が集中している場所であったり、関節の近くであったりする場合、十分なマージンを確保した広範切除が物理的、あるいは機能温存の観点から困難なことがあります。

術後補助療法としての放射線照射の目的

このような手術単独での完全切除が難しいケースや、手術後の病理検査の結果、切除した組織の断端ギリギリまで腫瘍細胞が達しており、微小な細胞の取り残しが強く疑われるケースに対しては、再発予防を目的として「放射線治療」が検討されることがあります 。高エネルギーのX線を患部に照射することで、残存している可能性のある微小な腫瘍細胞のDNAにダメージを与え、その増殖を抑え込みます。

進行例や切除不能例に対する薬物療法(分子標的薬)

DFSPは通常、従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)があまり効きにくい腫瘍とされていますが、遠隔臓器に転移してしまった進行例や、手術や放射線治療では対処できないほど広範に再発した切除不能例に対しては、薬物療法が選択されます。

原因分子を狙い撃ちにするイマチニブの効果と役割

確立された標準的な化学療法はありませんが、近年では特定の分子の働きを阻害する「分子標的薬(ぶんしたーげっとやく)」という新しいタイプの薬剤が治療の選択肢として重要な位置を占めています 。 特に「イマチニブ(Imatinib)」という内服薬が、DFSPに対して使用されることがあります 。イマチニブは、DFSPの発生原因の項で解説した「COL1A1-PDGFB融合遺伝子」によって異常に産生される成長因子の受容体の働きをピンポイントで阻害します 。腫瘍細胞が増殖するための「増えろ」というシグナル伝達を根本から遮断することで、腫瘍の縮小や進行の停止をもたらす画期的な効果が期待されています。

 治療法の種類  目的と適応となるケース
 広範切除手術 【第一選択】腫瘍から十分なマージンを確保し、正常組織を含めて切除。局所再発の防止が最大の目的 。
 再建手術(植皮・皮弁) 広範切除によって生じた組織の大きな欠損部を覆い、外見と機能を回復させる。
放射線治療 手術で十分なマージンが確保できない場合や、術後に細胞の取り残しが疑われる際の補助的な治療として検討 。
薬物療法(イマチニブ等) 転移例や切除不能な再発例に対し、腫瘍の増殖シグナルを阻害するために使用 。

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の予防方法と術後の経過観察

病気を未然に防ぐことができればそれに越したことはありませんが、DFSPに関しては、発症の根本的なメカニズムが「細胞内での偶然の後天的な遺伝子異常」であるため、食事や運動などの生活習慣の改善によって確実に発症を予防する方法は、現時点では確立されていません 。
### 確実な予防法がない疾患に対する早期発見のアプローチ
年齢や人種、性別に関係なく、誰にでも発症する可能性があるという事実を踏まえると 、患者様自身ができる最善の対策は「早期発見と早期治療」に尽きます。腫瘍がまだ小さく、深部の筋膜などに浸潤していない初期段階で発見できれば、手術での切除範囲も最小限で済み、術後の機能障害や傷跡の負担も大幅に軽減されます。

日常的な皮膚のセルフチェックのポイント

そのためには、日常的な「皮膚のセルフチェック」を習慣づけることが非常に有効です。入浴時や着替えの際に、全身の皮膚に以下のような変化がないかを確認してください。

  • 以前はなかった、痛みのない硬いしこりができている。
  • 虫刺されやアザだと思っていた色が、数ヶ月経っても消えない。
  • 元々あったしこりが、最近になって徐々に大きくなってきた。
  • しこりの表面が赤紫色に変化し、いびつに盛り上がってきた。

これらの変化に気づいた場合は、単なるイボや加齢のせいだと自己判断せず、速やかに皮膚科の専門医を受診することが重要です。

手術後のケア、抜糸までの期間、そして長期的な通院

無事に手術を終えた後の経過やアフターケアについても、患者様にとっては大きな関心事です。手術の規模によって異なりますが、一般的なクリニックや病院での手術の流れと術後ケアは以下のようになります。

術後1~2週間での抜糸と病理結果の説明

初診日に診察と皮膚生検などの診断を行い、後日設定された手術日に手術を実施します 。手術後は、創部(傷口)を清潔に保つためのガーゼ交換や軟膏処置の指導を受けます。 術後、皮膚がくっつくまでの約1週間から2週間程度の期間を空けて再診し、縫い合わせていた糸を取り除く「抜糸(ばっし)」が行われます 。また、手術で切除した腫瘍全体は詳細な病理検査に回されます。この検査には時間がかかるため、抜糸と同日、あるいは抜糸からさらに数週間後の受診日に、顕微鏡検査による最終的な結果(完全に切除できていたか、悪性度に変化はないか等)と、今後の予測される経過についての詳しい説明を受けます 。そのため、診断から手術、抜糸、結果説明を含め、通院回数は最低でも複数回(2回以上)必要となります 。

局所再発をモニタリングするための定期検診の重要性

抜糸が終わり、傷口が塞がったからといってDFSPの治療が完全に終了するわけではありません。DFSPは局所再発のリスクを持つ腫瘍であるため、傷が完治した後も、長期間にわたり定期的に通院し、再発がないかをモニタリングする「フォローアップ」が不可欠です。 一般的には、術後数年間は半年から1年ごとに通院し、患部の視診や触診、必要に応じて超音波(エコー)やMRI検査を行い、見えない再発の兆候がないかを皮膚科専門医が継続して確認していきます。

隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の当院の役割

手術が必須のがんですが、放っておくとどこまでも増大していき手術治療範囲が拡大してしまいます。
多くは皮下のしこりとして生じ、痛みがあるわけでもないため進行してから発見されることが少なくありません。
「躯幹の治りにくい皮下のしこり」には注意が必要です。
当院にご相談ください。

街のかかりつけ医として、
皮膚がんを啓蒙し、早期発見に努めています。
隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)の治療はクリニックでは出来るものは限られてしまいます。
基本的には、基幹病院にご紹介させていただきます。

よくある質問

Q
隆起性皮膚線維肉腫は、他の臓器へ転移しやすいのでしょうか?

A
DFSPは「中間悪性腫瘍」に分類されており、肺や肝臓、脳といった遠隔臓器や、リンパ節に転移することは「非常に稀」です 。転移の確率は全症例の数パーセント以下とされています。しかし、周囲の組織へ木の根のように広がっていく「局所浸潤性」が強いため、不十分な手術を行うと元の場所に再発(局所再発)を繰り返します。再発を繰り返すうちに、より悪性度の高いがん細胞(線維肉腫成分)に変化し、転移のリスクが高まるケースも報告されているため、初回の広範切除手術による確実な治療が極めて重要です。
 

Q
大人の病気と聞きましたが、子供が発症する可能性はありますか?

A
はい、可能性はあります。
DFSPの好発年齢(発症しやすい年齢層)は30歳代から50歳代の成人ですが、その年齢層にのみ限定された病気ではありません 。稀ではありますが、小児期に発症したケースも明確に報告されています 。お子様の皮膚に、いつまでも消えない硬いしこりや、徐々に成長するアザのような変色を見つけた場合は、一般的な虫刺されと決めつけず、DFSPを含めた腫瘍性疾患を念頭に置いた専門医による慎重な診察をお勧めします。
 

Q
手術の痛みや、術後の傷跡が目立たないか心配です。

A
手術そのものは、全身麻酔(または範囲が小さい場合は局所麻酔)をしっかりと効かせた状態で行うため、手術中に痛みを感じることはありません。術後は麻酔が切れると痛みを伴うことがありますが、処方される痛み止め(鎮痛剤)を服用することで十分にコントロール可能な範囲です。 傷跡に関しては、DFSPの治療において「再発を防ぐために十分なマージンをとって大きく切除すること」が最優先されます。そのため、通常の良性腫瘍の手術よりも傷跡は大きくなる傾向があります。しかし、欠損部に対しては形成外科的な技術(皮弁や植皮)を用いて、可能な限り機能的かつ外見的(整容的)にも自然な仕上がりになるよう、最善の再建手術が行われますので、術前に担当医とよくご相談ください。
隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)は、稀少でありながらも専門的なアプローチを要する疾患です。皮膚のしこりや異常に対しては、自己診断を避け、豊富な知識と経験を持つ皮膚科専門医による適切な診察と皮膚生検を受けることが、確実な診断とご自身の安心につながります。気になる症状がある場合は、一人で悩まずに、まずは専門の医療機関へご相談ください。
≪監修者プロフィール≫
監修医師うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年4月 うらた皮膚科 副院長
令和3年11月 うらた皮膚科 院長