有棘細胞がん(ゆうきょくさいぼうがん)とはどのような病気なのか
有棘細胞がんは、皮膚の表面を構成する細胞ががん化することによって発症する、代表的な皮膚がんの一つです。一般的に皮膚がんと呼ばれる疾患にはいくつかの種類が存在しますが、有棘細胞がんはその中でも発生頻度が高く、適切な初期対応がその後の経過を大きく左右する重要な疾患として位置づけられています。
皮膚の基本構造とがん細胞が発生するメカニズム
人間の皮膚は、外側から内側に向かって「表皮」「真皮」「皮下組織」という3つの層で構成されています。最も外側に位置する表皮の主要な細胞である「扁平上皮細胞(角化細胞)」ががん化したものが有棘細胞がんです。表皮の大部分を占めている有棘層(ゆうきょくそう)を構成する細胞が、何らかのダメージを受けて遺伝子に異常をきたし、無秩序に増殖を始めるようになった状態を指します。がん化の過程は突然起こるわけではなく、長期間にわたる細胞へのダメージの蓄積が背景にあることが医学的な研究によって明らかにされています。
悪性度の高さと進行・転移のリスクについての理解
有棘細胞がんは、皮膚がんの中で悪性黒色腫(メラノーマ)に次いで悪性度が高いがんとされています。基底細胞がんが局所にとどまって組織を破壊する傾向が強いのに対し、有棘細胞がんは進行すると真皮や皮下組織などの深い部分へと浸潤していきます。さらに病状が進行した場合には、がん細胞がリンパ管や血管に乗って全身に広がり、所属リンパ節や肺、肝臓などの他の臓器へと遠隔転移を引き起こす可能性があります。そのため、表皮内にとどまっている早期の段階で発見し、完全に切除することが、転移を防ぎ生命を守るための最大の鍵となります。
他の代表的な皮膚がん(基底細胞がん・悪性黒色腫)との位置づけの違い
皮膚がん領域において、有棘細胞がんを正しく理解するためには、他の代表的な皮膚がんとの違いを把握することが有益です。日本人に最も発生頻度が高いのは基底細胞がんであり、悪性度は低く転移を起こすことは非常に稀です。一方で、極めて悪性度が高く、早期から全身転移を起こしやすいのが悪性黒色腫(メラノーマ)です。有棘細胞がんは、これらの中間の悪性度を持つとされており、初期段階では命に関わる危険性は低いものの、放置して進行させると致命的になり得るという、慎重な対応が求められる疾患群に位置づけられています。
見逃してはいけない有棘細胞がんの初期症状と進行期のサイン
有棘細胞がんの治療において最も重要なのは早期発見ですが、その初期症状は一般的な湿疹やシミ、虫刺されの痕などと非常に似ており、患者様自身が悪性疾患であると気づきにくいという厄介な特徴を持っています。サイト滞在時間を確保しながらじっくりと読んでいただきたい、重要な症状の変化について解説します。
初期症状の特徴:痛みを伴わない赤いシミや繰り返すかさぶた
有棘細胞がんの初期段階において、最も警戒すべきサインは「なかなか治らない皮膚の変化」です。典型的には、皮膚が赤くなり、表面に鱗屑(うろこ状のくず)とかさぶたが生じます。例えば、頬に赤やピンク色のシミのようなものができ、そこにかさぶたが形成されては剥がれ、また同じ場所に繰り返しかさぶたができるというご相談が寄せられるケースが頻繁にあります。このような病変が複数現れることも珍しくありません。
この時期の非常に特徴的な点として、強い痛みやかゆみといった自覚症状が特段認められないことが挙げられます。多くの場合、「ただの肌荒れだろう」と軽視されがちですが、同じ場所に赤みやザラザラとした角化が続く症状は、皮膚がんの極めて重要な初期サインと判断されます。
進行期に見られるしこり(腫瘤)と潰瘍・出血の発生
初期の赤いシミやかさぶたを放置し、がん細胞が表皮の奥深くへと浸潤し始めると、症状はより明確な形となって現れます。紅色からピンク色をした肉芽様(柔らかい粒状の組織)の状態がみられ、皮膚の表面から盛り上がって結節(しこり)のようになります。また、表面がいぼのようになることもあります。
さらに進行すると、がんの部分が開口部のある潰瘍になり、下の組織へと広がっていきます。がん組織は非常に脆く血管が豊富に作られているため、衣服が少し擦れただけでも簡単に出血するようになります。また、潰瘍部分から滲出液が絶えず染み出し、細菌の二次感染を引き起こしやすくなります。この段階になると、不快な悪臭を放つようになるほか、感染や神経への浸潤に伴う痛みを感じるようになります。このような状態はすでに病状が進行していることを示しており、一刻も早い専門医の介入が必要です。
発症しやすい部位(好発部位)である露光部の特徴
有棘細胞がんは皮膚であればどこにでも発生する可能性がありますが、圧倒的に多く見られるのは、日常的に日光(紫外線)にさらされやすい「露光部(ろこうぶ)」です。顔や首など主に頭頸部に好発しますが、四肢にできることもあります。これらの部位は、衣服で覆われていないため、年間を通じて長時間の紫外線ダメージを受け続けています。
一方で、ほとんど日光を浴びることがない口の中の粘膜などに発生する可能性もあります。発生部位によって背景にある原因が異なるという特徴を持っています。
以下の表は、有棘細胞がんの進行度合いに応じた症状の一般的な変化をまとめたものです。
| 鑑別すべき疾患名 | 疾患の性質 | 主な特徴と有棘細胞癌との鑑別ポイント | |
| 脂漏性角化症 | 良性腫瘍(加齢によるイボ) | 茶色から黒色で、皮膚の表面にペタッと張り付いたような境界が明瞭な盛り上がりを示します。有棘細胞癌のような激しい潰瘍や出血は通常見られません。 | |
| 基底細胞癌 | 悪性腫瘍(皮膚がん) | 黒や黒褐色で、表面に真珠のような光沢を持つ盛り上がりを形成します。初期はほくろに似ており、有棘細胞癌の赤いカサカサとした病変とは見た目が異なります。 | |
| ボーエン病 | 悪性腫瘍(表皮内がん) | 紫外線が当たらない体幹などにも発生し、境界がくっきりとした赤褐色のカサカサした斑点となります。有棘細胞癌の初期状態と組織学的に類似しています。 | |
| 尋常性疣贅 | 良性腫瘍(ウイルス性のイボ) | 手足に多く、表面がザラザラしています。HPV感染が原因ですが、通常は悪性化しません。しかし難治性の場合は生検が必要です。 | |
なぜ発症するのか?有棘細胞がんの根本的な原因とリスク要因
有棘細胞がんは、単一の原因で突然発症するものではなく、数十年にわたる様々なダメージの蓄積が引き金となって発症します。ここでは、患者様が理解を深めやすいよう、その根本的な原因とリスク要因について詳細に解説します。
長年にわたる紫外線(とくにUV-B)ダメージの蓄積
有棘細胞がんの発症原因として最も影響が大きいのが「紫外線」です。長時間日光に当たる機会が多かった人は特に要注意です。太陽光に含まれる紫外線の中でも、波長の短いUV-Bは、皮膚の表皮細胞のDNAに直接的な損傷を与えます。
長年にわたって紫外線を無防備に浴び続けると、細胞の修復システムが追いつかなくなります。皮膚に日光を浴びる量が多い人ほど、有棘細胞がんの発生リスクは高くなります。紫外線の影響は蓄積されるため、若い頃からの日焼けのダメージが、高齢になってから皮膚がんとして表面化することが一般的です。
やけどの痕(瘢痕)や慢性的な皮膚の炎症からの二次的発生
紫外線に次いで重要な原因となるのが、皮膚に対する慢性的な物理的・化学的刺激や炎症です。正常な皮膚にも発生しますが、損傷した皮膚により多く発生する傾向があります。
代表的な例として、熱傷(やけど)や重度の外傷瘢痕(傷あと)が挙げられます。やけどが治癒した後も、その部位は細胞が不安定な状態にあり、有棘細胞がんの原因になることがあります。また、眼や鼻、肺などの粘膜や、性器の慢性的なびらんからも発生リスクが高まることが知られています。
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染や免疫機能の低下
一部の有棘細胞がんの発症には、ウイルス感染が関与していることが判明しています。とくに、陰部や肛門の周辺などに発生する有棘細胞がんにおいては、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が引き金となっているケースが確認されています。
さらに、患者様自身の免疫機能の状態も極めて重要な要素です。臓器移植を受けて免疫抑制剤を長期間服用している方などは、健康な方に比べて有棘細胞がんの発症リスクが大きく跳ね上がることが知られています。
似た病気との違いは?有棘細胞がんとの鑑別診断と精密検査
皮膚に赤いシミやかさぶた、あるいはしこりが見つかった場合、それが直ちに有棘細胞がんであると断定できるわけではありません。皮膚科領域には、有棘細胞がんと非常に似た症状を示す良性の疾患や前がん病変が数多く存在します。そのため、専門医による正確な「鑑別診断」が極めて重要となります。
前がん病変「日光角化症」との違いと悪性化のリスク
日光に当たることが原因のがんの場合、まず「日光角化症」と呼ばれる早期がん(前がん病変)が先に発生することが多いです。日光角化症は、長年の紫外線ダメージによって表皮の細胞に異常が生じている状態です。
この日光角化症が、やがて有棘細胞がんへと進展することもよくあります。40代以降の患者様の「頬の赤ピンク色のシミや繰り返すかさぶた」といったご相談の多くは、この段階である可能性があります。日光角化症の段階なのか、有棘細胞がんに進行しているのかを正確に診断し、治療を介入することが予防医学の観点から非常に重要です。
良性のイボ(脂漏性角化症)やその他の皮膚がんとの見分け方
日光角化症の他にも、有棘細胞がんと見分けるべき疾患が存在します。以下の表に、代表的な疾患とその特徴、および有棘細胞がんとの違いを整理します。
| 鑑別すべき疾患名 | 疾患の性質 | 主な特徴と有棘細胞癌との鑑別ポイント | |
| 脂漏性角化症 | 良性腫瘍(加齢によるイボ) | 茶色から黒色で、皮膚の表面にペタッと張り付いたような境界が明瞭な盛り上がりを示します。有棘細胞癌のような激しい潰瘍や出血は通常見られません。 | |
| 基底細胞癌 | 悪性腫瘍(皮膚がん) | 黒や黒褐色で、表面に真珠のような光沢を持つ盛り上がりを形成します。初期はほくろに似ており、有棘細胞癌の赤いカサカサとした病変とは見た目が異なります。 | |
| ボーエン病 | 悪性腫瘍(表皮内がん) | 紫外線が当たらない体幹などにも発生し、境界がくっきりとした赤褐色のカサカサした斑点となります。有棘細胞癌の初期状態と組織学的に類似しています。 | |
| 尋常性疣贅 | 良性腫瘍(ウイルス性のイボ) | 手足に多く、表面がザラザラしています。HPV感染が原因ですが、通常は悪性化しません。しかし難治性の場合は生検が必要です。 | |
確定診断のために不可欠な皮膚生検(病理組織検査)のプロセス
有棘細胞がんが疑われる場合、外観が似ている病気と区別して診断を確定するために「生検」を行います。
生検では、皮膚から少量の組織を採取し、顕微鏡で調べます。この病理組織検査の結果に基づいて初めて、「経過観察でよいのか、それとも手術などの治療が必要か」という判断が確定し、患者様ごとに最適な治療プランを提案することが可能になります。疑わしい病変に対しては積極的に生検を行うことが推奨されています。
転移の有無を調べるための高度な画像診断(超音波・CT・MRIなど)
生検によって有棘細胞がんの診断がついた場合、がんがどの程度進行しているかを評価する必要があります。有棘細胞がんは、まれに初診時からリンパ節転移を生じていることがあります。
そのため、超音波検査を実施してリンパ節転移がないかを調べます。さらに、肺や肝臓など他の臓器への遠隔転移の有無を診断するために、CTやMRI、PET検査などの高度な画像検査を行うこともあります。これにより、病気のステージを正確に把握することができます。
進行度(ステージ)に合わせた有棘細胞がんの最新の治療法
有棘細胞がんの治療方針は、がんの深さ、病変の広がり、転移の有無(ステージ)、そして患者様の健康状態を総合的に評価した上で決定されます。早期の段階で十分に切除された小さな腫瘍では、予後は極めて良好です。
早期発見時の第一選択となる外科的切除(手術)と再建術
有棘細胞がんに対する第一選択となる治療は、手術による切除です。がん細胞を取り残して再発することを防ぐために、肉眼で確認できる病巣からその周りの正常な部分を1cm弱含めて摘出します。がんが転移する前であれば、病巣を完全に取り除くことで、理論上は根治したということになります。
手術が困難な場合や再発予防に用いられる放射線治療によるアプローチ
何らかの理由で外科的切除が最適な選択とならない場合や、転移が1箇所または数箇所のみの場合には、放射線療法による治療が行われます。また、手術の後に再発を防ぐための補助療法として放射線療法を行うこともあります。
日光角化症の段階における外用薬治療
生検の結果、有棘細胞がんの手前である「日光角化症」の診断がつけば、専用のクリーム(イミキモドクリームなど)を塗って治療することが可能です。このクリームで治らない場合や、すでにがん化している場合は切除術が必要になります。
転移が認められた場合の薬物療法(免疫チェックポイント阻害薬など)
がんが広く進行しており手術を受けられない場合や、ほかの部位に広がっている場合には、「PD-1阻害薬」と呼ばれる薬剤(セミプリマブやペムブロリズマブなど)を使用することがあります。これらは患者様自身の免疫力を活性化させてがんを攻撃する最新の治療薬であり、進行した有棘細胞がんの患者様に対する重要な選択肢となっています。
日常生活で実践できる有棘細胞がんの予防方法とセルフケア
有棘細胞がんは、原因が明確である部分が大きいため、日常生活の中での予防意識と対策によって発症リスクを大幅に低下させることが可能な疾患です。
正しい日焼け止めの選び方と紫外線対策(UVケア)の徹底
有棘細胞がんの最大の原因である紫外線ダメージから皮膚を守ることが、最も有効な予防策です。外出時には日焼け止めをこまめに塗布し、つばの広い帽子を被る、日傘を使用する、長袖の衣服を着用するなど、物理的に紫外線を遮断する工夫が皮膚がんの予防に繋がります。
治りきらない傷や皮膚の異変への注意
熱傷(やけど)や外傷がなかなか治らないときは、必ず医療機関で治療を受けてください。傷が治ったように見えて、いつまでも治りきらない状態のところから有棘細胞がんが発生することもあります。
早期受診のタイミングと皮膚科専門医への相談の目安
皮膚がんは、発見が早ければ早いほど、治療の負担が軽く完治の確率が高まります。有棘細胞がんが疑われる場合や、気になる症状がある場合は、まず皮膚科を受診しましょう。皮膚科では医師が皮膚の状態を診察し、必要に応じて生検を行い、診断を確定します。痛みや痒みがないからといって放置することは非常に危険です。
よくある質問
痛みやかゆみが全くない赤いシミでも、皮膚がんの可能性はありますか?
頬にできたかさぶたが何度も剥がれては再発しますが、検査は必要ですか?
経過観察のまま様子を見てもよいのでしょうか、それともすぐに治療が必要ですか?
紫外線を多く浴びる生活環境の中で、今からできる予防策は何ですか?
監修医師: うらた皮膚科 院長 浦田透
保有資格: 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
経歴:
平成23年 中京病院 研修医
平成25年 中京病院 皮膚科
平成26年 名古屋大学医学部附属病院 皮膚科
平成27年 国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科
平成28年 名古屋大学医学部附属病院 医員
平成30年 名古屋大学医学部附属病院 病院助教
平成31年 名古屋大学医学部附属病院 助教
令和3年 うらた皮膚科